特集:CP+で届けたかった思い
「α7R IVと旅する未知なる世界 〜サウジアラビア編」
写真家 佐藤健寿 氏
残念ながら中止になってしまったカメラと写真映像のワールドプレミアショー「CP+ 2020」。ここでは、ソニーブースのスペシャルセミナーで講師のみなさんが伝えたかった思いとともに、セミナーのために撮り下ろした珠玉の作品群をご紹介します。今回は、これまでに120ヵ国以上を巡り、世界各地の不思議な光景を撮りつづけている写真家・佐藤健寿さんが登場。α7R IVを持って訪れたサウジアラビアへの旅について語ります。
佐藤 健寿/写真家
世界各地のユニークな風習や建築、人物を撮影。写真集『奇界遺産』『奇界遺産2』(エクスナレッジ)は異例のベストセラーに。テレビ・ラジオ・雑誌への出演歴多数。
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〜Special Message〜
佐藤氏がスペシャルセミナーで伝えたかった思いとは
訪れたのは中東にある未踏の国。
知られざる真の姿をα7R IVで捉える
「CP+2020」のセミナーでは、今年1月にサウジアラビアで撮影してきた作品を紹介する予定でした。昨年はα7R IIIを持って中央アジアに行ったので、今回はさらに西のアラビア半島に位置する中東アジアで作品を撮ってこようと思ったのです。 サウジアラビアは少し前まで「世界で一番訪れるのが難しい国」と言われていました。基本的にイスラム教徒しか入れない国ですし、個人旅行は一切受け付けていませんでしたからね。しかし、2019年末にサウジアラビアが諸外国に向けてビザを解放することを突然発表。それならまだ見ぬこの国の「人々の営み」を写真に残してみたい。そう考えて目的地を決めました。 ここからは、僕が旅で巡った順に作品を紹介していきたいと思います。サウジアラビアに着いて最初に撮ったのが下の作品です。
これは首都リヤドに次ぐ大都市、アラビア海に面したジッダという街にあるモスクです。空の青と建物の白のコントラストはまさにサウジアラビアを象徴した色合いだな、と思いシャッターを切りました。 今回、旅に持って行ったカメラはα7R IVです。正直、最初は有効約6100画素も必要なのだろうか、と思っていました。α7R IIIでも十分に成熟していましたし、画素数不足を感じたこともなかったので半信半疑の状態だったのです。サウジアラビアの旅で初めて本格的に使ってみたのですが、パソコンに取り込んで画像を確認して驚きました。昨年のCP+では「α7R IIIは中判カメラと同等の画質」と話したのですが、α7R IVではそれが確信に変わった感じ。中判カメラで撮ったかのようなディテールのシャープさに、いよいよ辿り着いた感じがしました。やはり解像度は高いに超したことはないのです。しかも階調性も上がっていますから、とても不思議な感覚でしたね。この小さいボディからこれだけ素晴らしい画が出てきて、すごいカメラだな、頼もしいな、と思いました。
上の作品はジッダにある旧市街で撮影しました。発展が進むサウジアラビアの中でも昔の風景が残っているエリアです。600年ほど前に建てられた古い建造物が多いため、窓のつけかたなど、つくりが特徴的なのもおもしろいところ。迷路のような場所なので、歩いてスナップを撮るだけでも楽しめます。 こういったスナップメインの場所では、僕はストラップを使わずにカメラを手に持ったまま撮影を進めます。α7R IVはグリップがより手になじむようになったので、スナップスタイルでも疲れ知らず。特に望遠系の大きいレンズをつけた時のバランスがとても良くなりましたね。さらにスナップではαの携帯性やリアルタイム瞳AFも頼もしいところです。
上の作品は夜の旧市街です。チャイなどが飲めるお茶屋さんの店頭にはソファが置いてあって、おしゃべりの場になっています。夜遅くなってもみんなダラダラと話していて、知り合いが通ると挨拶して会話をかわして、という感じ。報道などの影響で中東の人は何となく怖いイメージがありましたが、実はとてもおしゃべり好きでフレンドリーです。困っていると親切に教えてくれたりして、僕にとっては好印象でした。
こちらも夜の旧市街。ISO800で撮影していますが、α7R IVは高感度性能も非常にいいですね。画素数が上がっているにも関わらず、α7R IIIと変わらないほど安定している印象です。解像感や階調性は中判カメラに匹敵し、さらに高感度まで強いとなると怖いものなしですね。 この写真は両サイドがシャドーで潰れていましたが、現像する時に1.5段ほど明るくするとしっかりディテールが出てきました。このようなシーンでは、カメラの地力が問われます。極端に明るいものと暗いもの、さらに中間のトーンがあって、窓枠の青などのじんわりとした色彩もある。そうすると、たいていどこかが破綻するものですが、α7R IVはすべてをシャープに表現し、かつ高感度でも問題なく撮れるので非常に重宝しました。
フローティングモスクが建つ海辺は
市民の生活や文化がわかる憩いの場
次に訪れたのはジッダの中でも「絶対に行きたい」と思い、楽しみにしていた「フローティングモスク」です。
文字通り海に浮かぶように建つモスクで、本当に素晴らしい場所でした。向こうにはジッダの街の高層ビルまで見ることができ、眺めも最高です。近くの海岸沿いは地元の公園のような場所になっていて、多くの人が礼拝前に立ち寄って家族団らんの時間を過ごしていました。ここでは、なかなか見られないサウジアラビアの市民の生活を見ることができて、大いに写欲をかき立てられましたね。結局2日間も通い詰めてしまうほど、夢中になって撮影しました。
これは今回の旅で撮った中でも好きな作品のひとつです。フローティングモスクをどう撮ろうか右往左往している時に見つけた被写体で、夕方、親子が飛行機を見上げているところを撮影しました。母親は足を水に浸して涼んでいるような感じですね。背景のモスクにピントを合わせましたが、シャープネスの出かたや解像感からくる線の細さは、今までのフルサイズフォーマットでは見たことがないぐらいのレベルでα7R IVの実力を見せつけられました。 6000万画素を超えると、しっかりピントが合った時の解像感が素晴らしい。しかもこれが手持ちで撮れるわけですからね。さらに粒子が細かいので、階調性が非常によく出ています。青からほんのりとピンクに染まっていくマジックアワーらしい空の色が白い建物に映っていて、本当に美しい瞬間でした。 モスクの白とエメラルドグリーン、そこにアラビア海らしいほんのりとしたピンクが重なって、サウジアラビアが持つ美しい色を表現できた作品だと思います。 アラビア海は夕日や空が美しいと言われていますが、この美しさがわかっているからこそ、ここにフローティングモスクをつくったのではないかと、勝手に想像してしまいます。コーランが流れているのも神秘的でしたし、アラビア海ならではの自然の色彩にも感動しました。
海沿いでは礼服を着た男性も撮影しました。このように人物を撮影する時はリアルタイム瞳AFが必須です。何も考えずとも自然に瞳にピントを合わせてくれるので、ピントはカメラに任せてフレーミングに集中することができます。 撮影した人をはじめ何人かの男性に話を聞くと、彼らは普通の服も着るし、頭に巻くターバンもつけたり、つけなかったりすると言います。こういったルールは我々が思っているよりも厳格にあるわけではないのかもしれません。今回の旅で未知の国の実情を知ることができたのも、僕の中では大きな収穫でした。
遺跡群のある北部の街・アルウラへ。
王族が主催するフェスティバルも撮影
ここからは、遺跡群があるアルウラという街へ向かいます。サウジアラビア北部にあり、今回の旅では一番行くのが大変だった場所です。行く前にいろいろ調べてみましたが、情報がほとんどなかったので行き当たりばったりで現地へ向かうことにしました。しかし僕が旅に出たのは、王族が主催する「ウィンターフェスティバル」というお祭りの期間中で、そのチケットを持っていないと街に入れないことが判明。僕は現地からメールで「日本からの旅行者です。ぜひ行きたい」と事務局に懇願。本来なら1ヶ月前にチケットを買わなければいけなかったのですが、願いが通じて奇跡的にチケットを取ることができました。 しかし宿泊施設がほとんど埋まってしまっているため1泊2日という条件付き。しかもチケットはかなり高額でしたが、この機を逃すまいと購入を決めました。しかし現地に行ってみると2日とも砂嵐がひどくて、結局、遺跡には行くことができなかったのです。
上の作品は北部に向かう途中、車窓から撮影した1枚です。実際は写真で見る以上の砂嵐だったので、結局撮影できたのは車窓からのみ。ただ、このあたりは奇岩エリアなので魅力的な被写体がたくさんありました。他の国では国立公園になるくらいの奇岩地帯で、面積もかなり広かったですね。電線があるただの通り道になっていますが、日常の中にこんな奇岩がたくさんあると思うとかなりおもしろいですよね。
上はウィンターフェスティバルが行われている会場のひとつを撮影した作品です。会場はとても広く、いくつかの拠点があります。その拠点をバスで移動しながら自由に見ることができるわけです。
これは唯一撮影できた遺跡で、「エレファントロック」と言われる象のような姿をした岩です。美しくライトアップされていてとても幻想的でした。
拠点の1つには、上の作品のような何もない荒野の中のカフェもありました。そこでは多くの人がシーシャと呼ばれる水タバコを吸い、チャイを飲んでいます。彼らは厳格なムスリムなのでお酒は飲まず、お茶やシーシャでくつろぎながら会話を楽しむのです。 ここでは素晴らしい星空を眺めることができました。まるで違う惑星にいるような神秘的な景色に魅せられましたね。すぐに「FE 24mm F1.4 GM」を装着し、三脚を使って撮影しました。フィルターなしの開放で撮っているのにコマフレアもなく、点像がとてもきれいです。 僕の中では、このレンズは「傑作」です。広角なのに標準画角のような安定感があり、歪みや周辺減光もよく抑えられています。このほか、美しいぼけとシャープさを両立するなど、レンズとしての基礎性能が非常に高いところが一番の魅力。しかも小型軽量なので常用レンズとして使えますからね。特にα7R IVとの組み合わせは、旅では最強です。そもそも有効6100万という高画素ですからクロップしても約2600万画素を維持できるので、35mmレンズとしても使えるわけです。 サウジアラビアのように治安もよくわからず、「レンズをたくさん持ち歩いて大丈夫かな」と不安な場所では極力荷物を減らしたいもの。そんな時も、基礎性能が高いカメラとレンズの組み合わせは大いに役立ちます。
これも同じカフェで撮影したもので、α7R IVと「FE 24mm F1.4 GM」の組み合わせの素晴らしさがよく出ている作品です。暗く難しい撮影コンディションの中でも非常にシャープな描写で、暗部の荒れた地面も忠実に写し取っています。 こういう作品を見ると「合成みたい」、「補正しまくった写真みたい」と思う人もいるかもしれませんが、実は撮って出しに近いくらいで、ほぼ補正はしていません。難しい写真ほど補正しすぎると、嘘っぽい変な色が出てくるものです。素でこれだけきれいに撮れるので、基本的な補正のみで済むのもありがたいことです。
アルウラから次の街に向かう途中に立ち寄ったのは、首都リヤド。経由地だったためあまり時間がありませんでしたが、少しだけ街に出て撮影しました。上の作品は1000mを超える超高層の「キングダム・タワー」からの夜景です。砂漠やモスクなどのイメージが強いサウジアラビアも首都はかなり都会的。そのギャップがおもしろいと思い、リヤドの街もぜひ撮りたいと思ったわけです。しかし行ってみたら展望台での三脚は使用禁止。カメラを手すりにグッと押し付け、固定させて撮影しました。 ここでは5.5段分の補正効果がある5軸ボディ内手ブレ補正が頼りになりました。シャッタースピードが1.3秒ですからね。手持ちですが、そう何回もトライせずに思い通りの作品が撮れたのは強力な手ブレ補正のおかげです。中央のビル群の解像感も完璧ですし、ホテルのネオンサインも破綻していない。手前から奥まで非常にシャープに美しく描くことができました。
男性が花の装飾を身につける南部の街。
そのルーツを探りに山岳地帯の村へ
リヤドから南部に向かい、次に訪れたのはイエメン国境付近の街、ジーザーンです。おそらくこの辺りまで来たことがある日本人は数えるほどしかいないのではないでしょうか。ここまで来ると同じ国でも文化がまったく違います。僕は何年か前にイエメンにも行っているのですが、ジーザーンはイエメンの文化が色濃く入ってきている雰囲気です。
ジーザーンの人々は顔立ちも少し違います。イエメンは東アフリカの国、スーダンからも海を渡って来ることができるので、アフリカ系の血が少し入っている。街の人たちを見るとそれがよくわかります。
ここには花売りをしている人がたくさんいました。ひとつ前の作品も上の作品も、花売りの男たちです。ジーザーンでは多くの男性がヨモギの花を装飾として身につけています。女性は基本的に全身を黒で覆うので、つけるのは男性だけ。日常的にアクセサリー感覚でつけているようです。
街の中では若い男の子が花でアクセサリーをつくっている風景を目にしました。なかなか見ることがない、とても不思議な光景ですよね。
そして、完成品がこちら。この花を頭につけたり、車の中に置いたりするそうです。ヨモギは日本でもお馴染みの薬草でいい香りがしますから、芳香剤のように使われているのかもしれませんね。
なぜ男性が花を飾る風習があるのか、僕もいろいろ調べてみたのですが明確なルーツはわかりませんでした。しかし「サウジアラビアの山岳民族が始めた習慣ではないか」という情報を見つけ、さらに「もっと大きい花をつけている人が山岳地帯の村にいる」と現地で聞き、山岳地帯にルーツがあるのではないかと思ったわけです。 どこに行けば大きい花をつけている人に会えるのか聞くと、「ジーザーンから200kmほど離れたファイファという村にいる」とのこと。帰りの飛行機の時間が迫っているし、会える確証もないけれど、思い切って行ってみることにしました。
上の作品が山岳地帯の村、ファイファです。山に家が点在し、段々畑のような農地があるとても不思議な空間。でも家はどれもかなり立派です。サウジアラビアは学費や医療費がかかりませんから、みんなある程度余裕のある暮らしができているのかもしれません。僕自身、山岳地帯の村は各国でたくさん見てきましたが、ここは面積がとても広いですね。家が密集した村はよく見ますが、山全体を覆うように家が点在する場所はあまり見たことがありません。 ここまで来ると、都市部では通じていた英語も話せる人がほとんどいなくなります。かろうじてタクシードライバーが少しだけ話せたので、通訳をしてもらって現地の人とコミュニケーションをとることができた感じです。「ホテル」という単語ですら通じないので、言葉には本当に苦労しました。
上の作品は山岳地帯でキャンプをしていた若者を撮影したものです。α7R IVは表現が難しい中間のトーンがとても豊かですね。この作品は空にガスが出ていて白くなっていますが、こういう写真はシャドーとハイライトのバランスをとるのが非常に難しいもの。しかし中間のトーンが豊かなので、難しいシーンでも微妙なトーンをしっかり表現してくれます。
結局、山岳地帯を巡っても「大きな花をつけた人」は見つからなかったのですが、帰りに立ち寄った街で上の写真の彼を見つけました。ジーザーンで見かけた花と比べると、こちらのほうがさらに大きいですよね。ここは観光客が来るようなエリアではありませんし、僕が来たから特別につけてくれたわけでもありません。普段からこのように頭などにつけているものです。
彼のほかにも大きな花をつけている男性がたくさんいて、ここがルーツに近い場所かもしれない、と思いを馳せました。花の種類はわからずじまいでしたし、日暮れにしか撮影できなかったのは残念でしたが、本当に出会えてよかったです。中東エリアの強い男たちが花をつけている、というギャップが僕にとっては新鮮でした。 街で出会った人を撮影する時は、常にその人のそのままの雰囲気を撮りたい、カメラを意識されたくないと思っています。まだ観光客慣れしていないサウジの実情もあり、今回の旅ではほぼ男性しか撮りませんでしたが、撮影前にコミュニケーションをとってしまうとフレンドリーに笑顔を見せてくれるので観光写真のようになってしまうことがあります。そうならないよう、僕は「Please, No Smile」とお願いすることも多いです。 不自然に馴染もうとするくらいなら、僕はむしろ部外者のままでいい。馴染んでしまうと緊張感がなくなり、凛とした雰囲気が薄れてしまうこともある。お互いに異物感があるほうが感覚が研ぎ澄まされ、それが画に出るような気がします。互いに理解し得ないけれど遭遇してしまった、という感覚を写真で表現したいので、つい「Please, No Smile」と言ってしまいますね。
未知の部分が多いほど好奇心を刺激され
言葉が通じないほど旅は楽しくなる
サウジアラビアには行ったことがなかったですし、周りの旅好きの人も行ったことがある人は皆無だったので、単純に興味がありました。実際に行ってみたら人もよく、景色も素晴らしくて「このような知られていない景色や文化が世界にまだあったのか」と感動しましたね。今回、僕の作品を見て、報道では知ることのできないサウジアラビアの生活や文化に触れ、「おもしろそうな国だな」と思ってもらえるとうれしいです。 僕は英語が通じない国に撮影に出かけることが多いですが、そのほうが楽しいからです。わからないことが多ければ多いほどワクワクしますし、言葉が通じなければ通じないほど楽しいと思ってしまいます。「何があるかわからない」と思うと撮っていて楽しいですし、旅も有意義になるものです。今回、サウジアラビアに出かけたのもそんな理由からでした。インターネットで調べてもさっぱりわからない。だからこそ撮りたいものが撮れないこともありましたが、そういうことも含めておもしろい旅ができたなと思っています。 次に目指す国は、もう決めています。日照時間の関係から撮影できる時期が限られるため、そのタイミングを待っているところです。気兼ねなく海外に出かけられる状況になったら、すぐにでもαを持って旅に出たいですね。
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※期間終了しました
※期間:7/30(木)〜9/9(水)
※期間:8/13(木)〜9/23(水)
※期間:8/27(木)〜10/7(水)
※期間:9/10(木)〜10/21(水)
※期間:9/24(木)〜11/4(水)
※期間:10/8(木)〜11/18(水)
※期間:10/22(木)〜12/2(水)
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