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特集:CP+で届けたかった思い
「余計なことを考えずに、その瞬間だけに集中する〜α7Rシリーズで切り取った世界の光」

Travel Photographer KYON.J 氏

α Universe editorial team

残念ながら中止になってしまったカメラと写真映像のワールドプレミアショー「CP+2020」。ここでは、ソニーブースのスペシャルセミナーで講師のみなさんが伝えたかった思いとともに、セミナーのための撮り下ろした珠玉の作品群をご紹介します。今回は、α7Rシリーズを使って世界の絶景を撮りつづけているトラベルフォトグラファーのKYON.J氏が登場。カメラの進化とともに自身の撮影スタイルも変化してきたこと、そして、撮影時に頼りになるカメラの機能について語ります。

KYON.J/Travel Photographer 中国広東省生まれ。2008年に来日。 映画「LIFE!」に心打たれ、インドア派からアウトドア派に。
2015年に北海道の雪原で出会った、光り輝く自然の美しさに魅了され、その感動を人に伝えたいと風景写真を撮り始める。
まだ見たことのない世界を求めるうちに次第に世界へとレンズを向けるようになり、2016年は"Beauty of China”、2017年からは”Exploring the World"をテーマに、働きながら大自然の光が織りなす美しい一瞬を追いかけ続けている。
個展・全国巡回展「Amazing Moments」(2017年) 、「Grace of Light」(2019年) をソニーイメージングギャラリー等で開催。
写真集「GRACE OF LIGHT」出版(日経ナショナル ジオグラフィック社, 2018年)
目の見えない子供たちに光を届ける寄付プロジェクト「Save the Sight, Share the Light」に取り組んでいる。 https://www.kyonj.com/

三脚もフィルターも不要でカメラ任せ。
α7Rシリーズはそれだけ頼りになる

残念ながら中止になってしまった「CP+2020」のセミナーでは、「α7Rシリーズは、初心者でも決してハードルの高いカメラではない」ということを伝えたいと思っていました。私自身、セミナーやトークショーでも「α7Rシリーズは初心者には難しいですよね?」と聞かれたり、カメラの設定についての質問も多く寄せられます。でも私はカメラをどんな設定にしたのか覚えておらず、「気にしていない」というのが正直なところ。設定値にこだわらず、半分以上はカメラに任せて、もっと柔軟に“撮ること”を楽しみたいと思っているからです。 そういう意味で個人的には、「三脚を立ててその場でじっと最高の瞬間を待つ」という撮りかたも、あまり自由はないかなと感じています。いつもと違う写真を撮るためにも、もっとカメラのことを信じて、被写体のどこに自分が惹かれるのか、心の動きにだけ集中することが大切だと考えています。実際、私の写真の9割以上は手持ちでの撮影です。

α7R II,FE 12-24mm F4 G 24mm,F9,1/125秒,ISO100(2017年10月撮影)

上の作品も手持ちで撮ったものです。観光バスで訪れた場所だったので「10分後には出発します」と言われていました。でも、どうしてもこのシーンを撮りたくて、手持ちで絶好のアングルを探し、一緒に行った父に体を支えてもらいながら、かなり厳しい体勢での撮影に成功。光と闇が半々の世界で、この後にゆっくりと夜に変わっていく最後の光を捉えることができたので『光の余韻』というタイトルを付けました。これは手持ちでなければ撮ることができなかった1枚と言えますね。 私は、α7Rシリーズを使うようになってから、三脚などのアイテムをなるべく使わずに撮影に臨むようになりました。それでも満足度の高い作品が撮れるとわかったからです。 実は私が撮影に出かける場所は、雪山以外すべて観光地です。ですからそもそも三脚を立てるのが難しく、自分も自由度を奪われてしまうので三脚を常に持ち歩くことがなくなりました。さらに、レンズフィルターも一切使いません。風景写真ではレンズフィルターを使う人が多いと思いますが、私は不器用なのでレンズフィルターを付けた時の計算、例えば「4段ストップだから6倍のシャッタースピードにしなきゃ」と、考えることに頭を使いたくないのです。その時間がもったいないと思うのです。それよりも自分の直感とカメラの性能を信じて、まずはパッと何枚か撮ったほうが絶対にいい写真が撮れると個人的には感じます。 それでも、カメラを初めたころはセオリー通りに三脚を使っていました。下の作品はこのシーンを撮るために9日間も粘りましたが、三脚を立てて目の前の景色しか見ていなかったことを覚えています。

α7R II,FE 24-70mm F2.8 GM 39mm,F11,1/40秒,ISO50(2016年12月撮影)

三脚を使うことが決して悪いわけではありませんが、私の場合は自分の目がフレームの形になってしまうのです。そこだけに集中して最高の瞬間を待ちつづけるという感じ。今でもよく粘って撮ったと思う、自分でもお気に入りの作品ですが、同じタイミングで少しフレームを後ろにずらしたりとか、下ろしたりしたら、同じ場所で何パターンか作品を撮れたかもしれないと、今となっては思います。 αは何も考えずとも、EVFでカメラ設定が反映された画を見ることができるのも魅力です。私の場合は光を表現する作品が多いので、白飛びしている部分がわかるゼブラ表示機能と、ピントが合っている部分が色でわかるピーキング機能も活用しています。ちなみにホワイトバランスはほとんどがオートです。撮った画像をモニターで確認した時に自分のイメージと近ければ、あとは撮りつづけるだけ。それだけカメラの性能を信じているので、拡大してピント位置を確認することもありません。 信頼度の高いα7Rシリーズは、直感での撮影を常にサポートしてくれます。三脚がなくてもフィルターがなくても、美しくリアルな風景を再現してくれる高性能カメラです。難しいことを考えることなくイメージ通りの画を簡単に撮ることができるので、ぜひ初心者にも使っていただき、その実力を体感してほしいと思っています。

α7R II,Vario-Tessar T* FE 16-35mm F4 ZA OSS 19mm,F8,1/320秒,ISO160(2017年2月撮影)

カメラを始めて間もなく、三脚を使って撮影したノルウェーの風景は、前景、中景、後景といったレイヤーやピント位置も考えずに感覚で撮っていたというKYON.Jさん。今なら完全に手持ちで撮るシーンだと語る。

ダイナミックレンジが広いので
多彩な「光」をより繊細に表現できる

美しい「光」とともに、私は世界の絶景を撮影することをテーマとしていますが、実は注視しているのは影のほう。影があるからこそ光がきれいに見えるので、写真を撮っている時に気にするのは「影がどこにあるか」ということです。

α7R II,FE 70-200mm F2.8 GM OSS 70mm,F9,1/250秒,ISO50(2018年10月撮影)

上の作品はイタリアで撮影したものですが、これも影を意識して撮影しました。高さが違う2つの山の間から太陽が昇ってきて、低い山のほうには光が差し込んでいる、という状態です。高い山は光が遮断されているため、右は影、左は光になる。この影があるからこそ光が際立つわけです。影を強調するわけではありませんが、影を意識しながら光を探していることは意外と多いように思います。 私のαの歴史はα7から始まり、α7S、α7R II、α7R IIIと買い足してきました。カメラの進化により解像感がアップし、光もより緻密に、きめ細やかに表現できるようになりましたね。特にダイナミックレンジの広さにはいつも助けられています。というのも、私の作品はすべて合成なしの1枚撮りなので、1枚の中で光と影をどちらもバランスよく表現しなくてはいけないから。カメラ任せにしても白飛びや黒潰れなく、明暗をバランス良くキープできるのは広いダイナミックレンジのおかげです。 私の作品の「光の表現」がカメラの進化によって変わってきたかどうか、自分ではよくわかりませんが、個展に来てくださった人には「作品が柔らかくなった」とよく言われます。以前の作品は渋いイメージを抱かれているようですが、カメラの進化によって光を緻密に捉えて柔らかな表現になっているのかもしれません。光を意識して撮影している私にとっては、うれしい褒め言葉です。 さらに言えば、カメラに全部任せられるから自分が思う光の表現ができているように思います。カメラを始めたころはISO感度、F値、シャッタースピードなどベストな設定や数値を選ぶことに終始してしまい、表現を追求する余裕がなかった。でも今はカメラに任せても自分のイメージに近い写真が撮れることがわかっているので、「自分が見ているものを素直に切り取るだけでいいんだ」と気楽に撮影できます。その分、表現力をアップさせる心の余裕ができたのかもしれませんね。

機動性の高い手持ちスタイルを確立。
カメラの進化が自由度の高い撮影を実現

カメラの進化は、今の私の機動性にも大きく貢献してくれています。α7R IIからは5軸ボディ内手ブレ補正が搭載され、三脚が必須ではなくなり、手持ちで撮ることが増えていきました。そして2018年、α7R IIIに変えた時点でグリップも進化して安定感がアップし、手ブレ補正も優秀になり、現在の手持ちスタイルが確立された感じです。今ではシャッタースピード1/30秒までは手持ちで撮っています。続けているうちに手持ち撮影に自信がついて、アングルにとらわれずに撮影できるようになりました。 道具や設定に縛られているころは撮影の自由がきかなくなっている自分に嫌気が差していたのですが、三脚を使わないと良い写真が撮れない、ブレてしまう、という先入観がどこかにありました。でもα7R IIIの登場によってそれが完全に打ち崩された感じですね。ここ数年はハンドストラップしか使わずに、山でもカメラを手に握ったまま登ります。常にスタンバイ状態でいつでも撮れるよう、レンズキャップも外したままで、撮りたいと思った瞬間に電源をオンにして、シャッターを切る。それがとても快感です。 フットワークが軽い手持ちでの撮影に切り替えたことで、一方向の風景にとらわれず、360度の視点を持つことができました。その結果、撮ることができたのが下の2枚の作品です。

α7R II,FE 24-70mm F2.8 GM 70mm,F9,1/80秒,ISO100(2018年8月撮影)
α7R II,FE 70-200mm F2.8 GM OSS 143mm,F8,1/250秒,ISO80(2018年8月撮影)

2018年8月、インドネシアのブロモ火山を撮りに出かけた時に捉えた2枚です。この時は完全に手持ちモードで、どちらも同じ場所から撮影しています。上の写真の左に見える雲海が、下の写真の右側の雲海に続いているのです。 プロモ火山は有名な撮影スポットなので、写真を撮りに展望台を訪れた人は火山しか目に入っていません。この時も200人ほどが撮影していて、その多くが三脚を立てて朝日に照らされた火山だけを狙っていました。私は最初に火山を撮り、その後すぐに雲海の行く先に注目。高い崖に阻まれた雲海に、昇ってきた太陽の光が差し込んでいて、光と影の美しいコントラストを表現できると思い、シャッターを切りました。みんなは火山を撮り終わって片付けをしている時。周囲を見渡せばこんなに素晴らしい風景があるのにもったいない、と思いましたね。カメラは「自分の目」ですから、三脚に据えていると視野が制限されてしまうことも。いつどの体勢でも撮ることができる手持ちの便利さは、多くの人に体験してもらいたいですね。

α7R III,FE 24-70mm F2.8 GM 43mm,F8,1/250秒,ISO50(2019年3月撮影)

アイスランドで捉えたスノーストーム。セスナで飛び立ってすぐ、後方に見えた風景を振り返りざまに撮影。準備ができていない状態からの撮影だったが、α7R IIIの素早い起動や強力な手ブレ補正に助けられた1枚。

高解像を極めたα7R IV。
一体化するほど心地よいグリップ感に

α7Rシリーズは、解像感の高さが一番の魅力です。特に「G Master」レンズを使った時の描写力は圧巻。以前はツァイスレンズを使っていましたが、ソニーの最高峰「G Master」レンズを使い始めてからはこのシリーズのとりこになってしまいました。下の作品はα7R IIIに「FE 24-70mm F2.8 GM」を装着し、アイスランドでセスナから撮影したものです。

α7R III,FE 24-70mm F2.8 GM 40mm,F8,1/250秒,ISO50(2019年3月撮影)

黒いラインのような道路と川の形、氷が浮いている感じなど、ディテールまでくっきり見えるほどの高解像です。この作品をプリントした時、道の1本1本までしっかり見えていることに感動しました。この時、「高解像のカメラは一瞬の風景を切り取るだけでなく、現地の状況を記録することもできるんだな」と思いましたね。撮影時にあった道も、来年は氷が溶けてなくなっているかもしれません。地球の記録として、時が経つことで変わっていってしまう風景を残すことも、高解像カメラの役割なのではないかとこの画像を見て思いました。 さらにα7R IVでは画素数が有効約6100画素にアップし、より精細な表現が可能になりました。正直、ここまでくると驚異的です。

α7R IV,FE 24-70mm F2.8 GM 24mm,F11,1/200秒,ISO100(2019年12月撮影)

上の作品はα7R IVで撮影した中国の黄山です。左手前にある松に霧氷がついていることまでわかります。

ここで霧氷を見られるのは本当に珍しいこと。夜、一気に冷え込むことで翌朝に見られる現象ですが、この日は松の葉に霧氷が少しだけ残っていました。ちょうど霧氷の部分に光が当たって少し溶け始めている感じですね。そうするとツヤが出て印象的に写るわけです。拡大すると松の葉1本1本まで見える解像感は本当に素晴らしい。 撮影場所は、山頂ではなく山を登っている途中です。黄山はすべて階段で登っていくような整備された観光スポットです。階段でしか上り下りができないので、途中で止まってしまうと行き来を阻んでしまいます。でも太陽が沈み始めるいい時間だったので、なんとか邪魔にならずに撮れる場所はないかと探したところ、大きな岩を見つけました。岩の上でも目の前の小さな木が邪魔だったので、チルト可動式液晶モニターを動かしてハイアングルで撮影した1枚です。 最近では、作品を世に出す前に4K対応のテレビで作品の見えかたをチェックしているのですが、α7R IVの高解像がとてもよくわかります。私はテレビもソニーの「BRAVIA」で揃えていますが、ディテールまでしっかり捉えていることに驚きました。 α7R IVになって、さらにグリップ性が上がったところもよかったですね。α7R IIからα7R IIIになった時もグリップが良くなったと感じましたが、α7R IVでは飛躍的に進化。指にフィットするのでしっかり握ることができ、まるでカメラと一心同体になったような感じです。個人的には、カメラを持っているという感覚がないくらい手とカメラが一体化していますね。カメラを持って撮っているというよりは、カメラが自分の目となり目の前のシーンを切り取る、自分の目で見た景色がカメラに残る、という感覚です。

階調豊かな色表現がαシステムを選ぶ理由。
将来はエベレストでの撮影にも挑戦したい

最後に紹介するのは、昨年の9月にアメリカのヨセミテ国立公園で撮ったハーフドームです。まだ写真を始める前の話になりますが、長年愛用しているパソコンのデスクトップ画面にハーフドームの画像が表示される時期がありました。たくさんのロッククライマーがいて、夜になると次の日も登りつづけるためのテントがぶら下がって点灯する。そんな画像を見て、「いつかは行ってみたい」と思っていた憧れの場所でした。 その思いを叶えるべく、最初に訪れたのが冬のヨセミテです。でも冬場は道が封鎖されていて観光の拠点となるヨセミテ バレーまでしか行くことができず、ハーフドームも遠くからしか見ることができませんでした。迫力を感じられる場所まで近寄れず、悔いが残っていたので、道が封鎖されない秋に再トライ。展望地となっているグレイシャーポイントまで行くことができ、夕日の最後の光を浴びているハーフドームを撮ることができました。この日はハーフドームがピンク色に焼けていて、雲の雰囲気もとてもよかった。まるで夕日が最後の力を振り絞って「もう無理だ、もう終わりだ」とつぶやいているような瞬間でした。

α7R III,FE 24-70mm F2.8 GM 70mm,F8,1/40秒,ISO200(2019年9月撮影)

こういった夕日のシーンではαの色表現が際立ちます。茜色ですが、少しオレンジとマゼンタが混ざったような色。この何とも言えない微妙な階調をうまく読み取り、自分の目で見ている色よりもきれいに写してくれると感じます。私がソニーを使いつづける理由もこの色表現にあります。色味はメーカーやカメラによって出方が異なり、同じ夕日のシーンを撮っても少し緑がかったマゼンタで表現されるカメラもあります。色味は、後で現像して自分好みにすればいいというものではありません。写真を撮る側としては一瞬しか見ることができない風景ですから、切り取った瞬間に自分好みの色味を出してくれるカメラであってほしいのです。それぞれに色の好みはあると思いますが、私はαの色表現が一番好きですね。 私の中ではα7Rシリーズは完熟していて、α7R IVはもう満点に近い状態です。ですが、いつかは最新のα7Rシリーズを持ってエベレストにも登ってみたいと思っています。極寒地でのバッテリー性能は、ロシアのバイカル湖の非常に低い気温の中でも動いてくれたので信頼しています。残念なことに今は海外へ行きづらい状況ではありますが、私はいつもと変わらず行きたい国の情報を集めたり、訪れたいスポットを地図アプリにマッピングしています。この季節にしか見られない現象はないだろうか、知られざる絶景ポイントはないだろうか、そのようなことを考えて、いつか出合う瞬間に思いを馳せています。ヨセミテの時もそうですが、いつか行きたいと思い焦がれていた場所に立てた時は、写真にも自然と気持ちが入るものです。次は、どんな感動をα7Rシリーズで切り取れるだろうか。またみなさんに作品をお見せしたいと思っているので、楽しみにしていてください。

α7R II,FE 24-70mm F2.8 GM 24mm,F9,1/80秒,ISO50(2019年5月撮影)
α7R II,FE 24-70mm F2.8 GM 59mm,F13,1/25秒,ISO50(2019年5月撮影)
α7R II,FE 12-24mm F4 G 12mm,F9,1/100秒,ISO80(2019年5月撮影)
α7R II,FE 70-200mm F2.8 GM OSS + 2X Teleconverter 142mm,F11,1/250秒,ISO160(2018年3月撮影)
α7R II,FE 24-70mm F2.8 GM 55mm,F7.1,1/160秒,ISO50(2017年10月)
α7R III,FE 24-70mm F2.8 GM 24mm,F16,5秒,ISO50(2019年7月撮影)
α7R III,FE 70-200mm F2.8 GM OSS 76mm,F8,1/320秒,ISO320(2019年7月撮影)
α7R IV,FE 24-70mm F2.8 GM 24mm,F9,1/125秒,ISO100(2020年1月撮影)
α7R III,FE 24-70mm F2.8 GM 28mm,F8,1/125秒,ISO125(2019年9月撮影)

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