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COLORS −鉄道彩美−
鉄道写真家 中井精也 氏 Vol.6
中井氏が“α”で描く美しき色彩の鉄道風景!
デジタルカメラマガジンとの連動企画を
毎月コラム形式でお届けします

α Universe editorial team

みなみなさんこんにちは。鉄道写真家の中井精也です。 今回のテーマカラーはモノクローム、白と黒の世界です。
色の情報が無いモノクロだからこそ見えてくる被写体のディテール、陰影によって生まれる魅力をお伝えできたらなと思います。 さて僕がそんなモノクロの美しき世界を表現したいと思って選んだ場所は東京駅です!
この誰もが知るクラシカルな建物ですが、100年以上の年月を経て歴史が詰まった重厚な駅舎こそ、モノクロの世界にぴったりだと考えたからです。 それから今回、以前からその描写力に惚れ込んでいた単焦点レンズ2本のみで臨みました。
普段、僕はズームレンズを使うことが多いのですが、この2本は別格の写りをするなぁと感じていました。
そのレンズとは「FE 24mm F1.4 GM」と「FE 135mm F1.8 GM」です。 普段、皆さん撮影に出掛ける時にボディとレンズ、どちらを先に決めますか?僕はその時々で、撮りたい被写体に合わせて選んではいますが、たまには「このレンズの描写力を味わいたい!」と、明確な意志を持って、レンズから決めるのもワクワクしますよ! さて早速ですが、今回最初にご覧いただく写真です。

α7S III,FE 24mm F1.4 GM 24mm,F8,1/1250秒,ISO400

唐突ですが、今回の撮影を始めてみて、はたと気づいたことがありました。それは運行時刻が自ずと撮影タイミングとなる鉄道車両をメインにした撮影とは異なり、駅舎メインの撮影では撮影タイミングに際限がないということです! つまり何時が自分にとってベストなタイミングになるのかを自身で見極める必要があるのです。そこで早朝から撮影を開始し日中はもちろん、ライトアップされる夜間、さらには深夜まで、さまざまな時間に撮影を試みました。
そうして最も印象的な光景と出会えたのが、撮影2日目の朝、この1枚目の写真です。東京駅の向こうから朝日が昇り、その朝日を受けた背後に建つビルから照り返された光が、重厚な駅舎に年輪のような陰影を浮かび上がらせた瞬間。ドラマチックな光を得て被写体が輝き出しました。最高の舞台が揃えば、あとは静かにシャッターボタンを押すだけです。モノクロだからこその朝のまだ静寂な駅舎と、光輝く太陽を印象的に表現できたんじゃないかなと思います。 続いて2枚目の写真になります。今度は夜に撮影したものです。

α7R IV,FE 24mm F1.4 GM 24mm,F3.2,1/20秒,ISO1600

建築家の辰野金吾氏の設計による東京駅の赤レンガ駅舎は、1914年(大正3年)に開業をしました。関東大震災や空襲などによる修復作業はありましたが、2012年に復元工事が行われ、現在でもほぼ建築当時の姿を残しています。駅舎の裏は巨大なターミナルが広がり、日々数え切れないほどの列車が行き来してします。 2枚目はその姿を一望するカットです。こちらのカットも1枚目と同じ「FE 24mm F1.4 GM」で撮影しました。ただし手前には丸の内、奥には八重洲のオフィスビル群に囲まれるように建つ東京駅、それらを高解像で精細に捉えたいと思い、ボディはR IVに変えています。まるで新旧の時代の変遷を1枚に閉じ込めたような作品となりました。 3枚目になります。

α7S III,FE 135mm F1.8 GM 135mm,F14,1/25秒,ISO400

この写真はレンズを変えて、もう1本の「FE 135mm F1.8 GM」で撮りました。行き交う列車と駅舎を組み合わせた1枚です。
「FE 24mm F1.4 GM」もそうなのですが、絞り環リングが備わっているので直感的にF値をコントロールすることができます。レンズを支える左手でF値を操作しながら撮影するというスタイルは僕の世代にとっては、少しテンションが上がります。(笑) ピントは駅舎の屋根にある丸窓に合わせつつも、絞りはF14にすることで、駅舎と新幹線の両方をしっかり描写させて、新旧の対比を表現してみました。モノクロで捉えたことで、この新旧がうまく溶け合うような1枚になったと思います。
このレンズの切れ味鋭い描写力が、2つの被写体を克明に表現してくれています。

α7R IV,FE 135mm F1.8 GM 135mm,F4.5,1/3200秒,ISO100

4枚目も同じく「FE 135mm F1.8 GM」によるクローズアップ表現です。駅舎に向かって右側のドームは、お昼近くになるとサイドから光が当たり、それにより生まれる明暗差が駅舎に表情を付けてくれます。このレンガの質感を余すことなく表現したい思い、ボディはR IVに変えてみました。如何でしょう?窓の装飾のひとつひとつが精細に描写されていることで、歴史の重みが滲み出してくるようです。 モノクロームで写真を撮るときのポイントは、ハイライトとシャドーのバランスを考えながら構図を決めることです。
どちらかを意図的に多くするようなスポットとしてハイライト部とシャドー部を各々配置することもできますが、今回の写真のように両者のバランスをちょうど半分ぐらいの感じで配分してあげたら、両者の対比が明確になり、僕的に気持ちの良い写真に仕上げることができました。 5枚目は夜のイルミネーションです。

α7R IV,FE 135mm F1.8 GM 135mm,F2.8,1/40秒,ISO1250

辺りが暗くなると駅前の銀杏並木がライトアップされ、幻想的な夜景へと姿を変え、美しい丸ぼけが駅舎をロマンチックに飾ってくれました。 イルミネーションというと色鮮やかに撮りたくもなりますが、そこを敢えてモノクロームで撮ると、色情報はないのですが、なぜか写真から暖かみを感じるから不思議です。キレイな玉ぼけがモノクロでより強調されることが、そう思わせてくれる理由だと思います。画面の右半分を玉ぼけで、左を駅舎という二分割で画面を構成してみました。 それでは今回最後にご覧いただく写真になります。

α7S III,FE 135mm F1.8 GM 135mm,F5.6,1/5000秒,ISO400

東京駅を行き交う人々をシルエットに、駅舎の重厚感をギュッと閉じ込めてみました。行き交う人のシルエットをポイントにして、正面ではなく少し斜めから狙った1枚です。そのため陰影が強調されて、モノクロならではの表現にすることができたと思います。 昨年は誰も想像することができなかったことが起きてしまいました。まるで世界中から美しく輝かく色が消えてしまったかのような感覚すら覚えた1年でした。ただそのぶん、本当に大切なもの、大事にすべきものが何かを見つけることができた年でもあったように思います。
今年はそんな世界に、ゆっくりと色を足していくような年になればいいなと思います。そんなことを思いながら、今回はモノクロームで東京駅を撮影してきました。 それでは来月もこの場所でお会いしましょう。中井精也でした。

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