この記事は、「Dancing in the Starry Night 沼澤茂美 with α7S III」とセットでご覧ください。雑誌では美しい写真作品を、本記事では沼澤茂美氏が撮影した動画作品を紹介しています。
沼澤 茂美/天体写真家 天文宇宙関係のイラスト、天体写真の仕事を中心に、内外の写真雑誌、天文雑誌、書籍の執筆、NHK天文宇宙関連番組の制作・監修、プラネタリウム番組の制作などを手掛ける。パラマウント映画社「スタートレックDeep Space9」の特撮映像素材、ポスター制作を担当した。 取材活動は世界7大陸に及び、最近では2017年「アメリカ皆既日食取材」(NHK)、2016年「インドネシア皆既日食取材」(NHK)、2013年末 NHKスペシャル「アイソン彗星」 カリフォルニア取材では、20日間にわたって砂漠地帯を迷走した。代表的なNHK取材として1989年南米チリの「ラス・カンパナス天文台での長期ロケ」、2003年「南極での皆既日食撮影」などがある。 2010年以降ナショナルジオグラフィックツアーの依頼で「イースター島皆既日食」や「西オーストラリアバーヌルル国立公園」「スピッツベルゲン島皆既日食」などのツアーに同行。 また、世界最大規模の星の祭典「胎内星まつり」の企画運営を37年間継続。昨年は無観客ネット生中継開催を成功させる。村上市天体観測施設「ポーラースター神林」、胎内市胎内自然天文館の建設監修を行なう。2011年新潟市国際コンベンションセンター「朱鷺メッセ」で開催された「にいがた宇宙フェスタ」企画制作を担当する。ライフワークとして赤外写真、モノクロファインプリントの表現を追求している。2004年環境大臣賞受賞。著書多数。
流れ星(流星)は一瞬の輝きだ。明るいものでも輝いている時間は0.4秒〜0.8秒、しかも高速で動くので星を撮影するように光を蓄積して明るく明瞭に記録することが困難だ。星空を撮影中に明るい流れ星がフレーム内に出現しても、画像には何も写っていないのはそのような理由だ。そこで、最も確実に流星を写す方法が動画による撮影だ。超高感度の動画撮影能力に特化したα7S IIIと大口径広角レンズの組み合わせならば、リアルタイムで肉眼ではとらえられないような暗い流星も写し撮ることができるのだ。 今回は2020年12月14日に出現のピークをむかえたふたご座流星群の撮影にトライしてみた。撮影場所の空の条件によって撮影設定は変化するが、実際さまざまなデータ記録方式を試し、今回はFE 24mm F1.4 GMを絞り開放で用い、ISO80000、シャッター速度1/4秒、記録フォーマットはXAVC S 4K 30P 4:2:0 8bit 100Mbpsで撮影した。そして、試験的に8bit記録でのS-Log3記録を試みている。星空は星を除けばかなりフラットな被写体となるが、編集時の微妙な調整などを考えると、たとえ8ビットであってもLog撮影は効果的だと実感した。もちろんLog撮影したデータは、編集時にソニーが公開しているS-Log3のLUTファイルを利用して正常なガンマ値に復元しなければならない。 今回、シャッター速度を1/4秒にしたのは、撮影後に流星のフレームをキャプチャして合成するときに、シャッター速度が長いと合成フレームの数が少なくてすむという利便性からだ。よりリアルな状況を求める場合はシャッター速度を速くする必要があるが、それに合わせて設定感度を上げなければならず、画質が劣化するという逆効果に直面する。経験的には1/8秒〜1/10秒程度でかなりリアルタイムな映像に近くなる。 また流星映像を解析するためのソフトの互換性を考えてあえて8bitで記録したが、真のS-Logの高階調再現のメリットを引き出すのであれば絶対に10bit記録することをお勧めする。手軽に4K 10bitの内部記録が可能になったことで、映像表現の幅は大きく広がった。個人的には静止画のJPEGとRAW程の違いがあると言っても過言ではない。 この撮影では、晴れ間を求めて冬の日本海側から250kmほど移動し、太平洋側に撮影地を求めた。幸い星は見られたものの若干薄雲に覆われたような環境で約2時間の撮影を試みた。記録した映像の中にふたご座流星群の流星は25個ほど確認された。公開した映像は、それらの流星が写っている部分をつなぎ合わせたものだ。画角にはオリオン座と明るい星「おおいぬ座のシリウス」が写っている。ふたご座はフレームから外れた上の方にあるため。その方向から降り注ぐように流れるのがふたご座流星群の流星だ。映像の中には横に流れる流星も写っているが、これらはふたご座流星群の流星ではない。
α7S III,FE 24mm F1.4 GM
今回の撮影で感じたのは、α7S IIIの星空動画撮影の特性の素晴らしさだ。α7Sシリーズは現行のカメラでは最高の超高感度特性を持つことは誰もが認める事実だが、α7S IIIは、高感度特性、ノイズ耐性、動画記録性能などあらゆる点で先代からの各段の進歩がうかがえる。星空の動画撮影は静止画とは比較にならないほどハードルが高い。 私は長年星空の映像撮影に携わってきたが、10年ほど前まではリアルタイムな星空の撮影には放送局が組織を上げて取り組むような特殊で高価なカメラを必要とした。そのため、できるだけ手軽に星空の動画を作ろうということでタイムラプス撮影という手法が生み出されたのだ。しかしタイムラプスはリアルな星空とはほど遠いものだ。今、私達は真にリアルタイムな星空の変化を個人レベルの機材で記録することができる。α7S IIIと大口径G Masterとの組み合わせで創造された新しい表現のフィールドと言えるかも知れない。そこにはどんな感動が待ち受けているのだろうか。大きな期待を抱きながら探索を続けていきたいと思う。
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