高解像の「α7R IV」と高感度の「α7S III」。
強みを生かした撮影で見えた鉄道写真の新たな視点
鉄道写真家 金盛正樹 氏
実物から模型まで「鉄道」と名の付くものは何でも撮影し、その魅力を長年に亘り伝えつづけている鉄道写真家の金盛正樹さん。今回は「α7R IV」と「α7S III」を使い、それぞれの特性を生かして実車と鉄道模型の両方を撮影。撮影で生きたカメラの機能、鉄道に対する今の思いなどを語っていただいた。
金盛正樹 氏/鉄道写真家 1967年兵庫県神戸市生まれ。千葉大学工学部画像工学科卒。中学生のときに友達の誘いで、鉄道を撮り始める。大学卒業後、商業写真プロダクション「ササキスタジオ」に入社。7年間の修行を経て、1996年よりフリーランスとなる。「鉄道と名の付くものは、実物から模型・おもちゃに至るまで何でも撮る!」をモットーとし、現在は鉄道専門誌や一般誌の鉄道企画などに作品を発表するほか、鉄道模型誌や鉄道模型メーカーの撮影も行っている。日本鉄道写真作家協会(JRPS)会員。
実車は「引き算」、模型は「足し算」。
違った面白さがある2つを軸に鉄道写真を撮影
――金盛さんは、主にどのような作品を撮影しているのか教えてください。 1つは鉄道専門誌などから依頼を受けて実物の鉄道を撮ること。もう1つは鉄道模型メーカーや鉄道模型専門誌からの仕事で鉄道模型を撮ること。この2本を軸に撮影を続けていますが、それぞれに違う魅力があり、互いが刺激になっています。 実物はありのままを撮るので「引き算」の要素が強いですが、模型は何もない状態から自分でつくり上げていくので「足し算」になります。例えば、実物を撮る時はいらないものを極力排除したほうがすっきりとしたきれいな写真になりますが、模型の場合は意図的にいらない物を入れてリアリティを追求する、ということがありますからね。そういった正反対の面白さがあるので、どちらも楽しく撮影しています。
――αを使った率直な印象を聞かせてください。 正直なところEVFは少し不安でした。とくに動きがある実車の流し撮りに対応できるのかと心配していましたが、結果的にはまったく問題ありませんでした。むしろEVFの恩恵を受けた場面が多く、便利だと思う気づきが多かったです。暗い場所でも明るく補正して見せてくれるので、とくに「α7S III」を使った夜間の撮影では「今まで見えなかったものが見える」という感覚でフレーミングに迷うこともありませんでした。しかもカメラの設定を反映した仕上がりの画まで見ることができますからね。ホワイトバランスはオートがいいか、太陽光がいいか、悩むシーンがよくありますが、撮る前に仕上がりが見えるのでとてもスピーディーに撮影できました。
ピクセルシフトマルチ撮影をすれば
形式写真としてディテールまで記録できる
――まずは「α7R IV」で撮影した作品を見ながらお話を聞かせてください。下の作品はあまり見たことのない珍しい車両ですね。
これは伊豆箱根鉄道のED31形という、昭和20年代に製造された電気機関車です。車両を移動させたり、別の路線の列車を引き取って牽引したりするのが仕事なので、滅多に見ることができません。貴重な電気機関車ですが、戦後直後につくられた車両なので故障しても部品がないため現役でいられるのはあとわずかでしょう。こういった貴重なものは細かい部分まで表現できる高解像のカメラで撮るべきだと考えています。
「α7R IV」は卓越した解像度があり、さらにピクセルシフトマルチ撮影機能*を使えばより高解像の画像が得られ、被写体の色や質感をリアルに、ディテールを緻密に再現してくれます。上の作品は2点とも同じ手法で撮影していますが、塗料が剥がれて年季を感じる車体や、車輪まわりの機械の精密さなどを驚くほど忠実に再現してくれました。
車両を形式写真として記録し、後世に伝えることが鉄道写真の始まりであり、撮影する意義だと思うので、私はその部分も大切したいと思っています。ですから記録性を重視できるこういった機能があることはとても魅力ですね。
精巧な模型も高解像でリアルに再現。
思い通りの見せ方で演出するのも楽しい
――こちらは模型を撮ったものですよね? 国鉄時代につくられた、九州や東日本エリアでわずかに見られるEF81形電気機関車のHOゲージです。その希少性から、本物が走ると鉄道ファンが押し寄せるほど人気があります。
こういった模型も「α7R IV」ならディテールまで高解像に表現できます。造形をシャープに写し出していますし、ライティングによる光の濃淡も美しいトーンを描いてくれて、とてもかっこいいですよね。通常、模型を撮影する時はレールを敷いてその上に車両を乗せるものですが、今回は車両に視線を向けるためにセオリーは無視。余計な「足し算」をしないことで、車両のディテールにまで目が行く作品に仕上げました。
――鉄道模型は撮影意図によって背景や撮り方が大きく変わるものなのですね。 背景を準備するなど手間はかかりますが、模型ではいろいろなことが自由になります。逆光も順光も自在ですし、青空や夕景もつくることができる。しかもなくなった車両も現役のように演出できるし、実際にはありえない魅力的な車両を組み合わせて撮影することもできますからね。模型の撮影はいろいろなイメージが湧いてきて、とても楽しいですよ。
高精度のAFで走る列車を的確に捉え、
美しいぼけ味を加えて主役を際立たせる
――走っている列車を撮影する時の基本的なAF設定を教えてください。 下の写真のように、こちらに向かってきて列車の顔を追いかける場合AF-C(コンティニュアスAF)、エリアはフレキシブルスポットに設定して連写します。αのAFはとても速く、迷うことがほとんどありません。信頼できるAFがあれば、どのタイミングでも自信を持ってシャッターを切ることができる。私は手持ちで撮ることが多いのでAFの速さと正確さがないとストレスになりますが、αはストレスなくフレーミングに集中することができました。
これは河津駅の近くで撮影した伊豆急行の電車です。ちょうど河津桜が咲いている時季に撮影に出かけたので、桜を前ぼけで入れて撮ってみました。レンズは「FE 70-200mm F2.8 GM」を使用しましたが、フルサイズの高性能センサーと相まって、ぼけ味がとてもきれいですよね。ほんのりと夕陽を浴びている車両に対して桜は日陰に入っていますが、墨っぽくならずにきれいなピンク色が出ています。桜はふんわりとぼけているのに主役の車両はシャープに表現できて、仕上がりには大満足です。
暗闇を走行する車両も思い通りに撮れる。
明暗のトーンも美しく表現する「α7S III」
――ここからは「α7S III」で撮影した作品になりますが、下の作品はどのようなシーンを狙ったのですか?
これは四日市駅から港に向かう「レッドベア」と呼ばれるDF200形ディーゼル機関車牽引の貨物列車で、運河にかかる跳ね橋を渡っているところを撮影した一枚です。日本で唯一残る現役の可動式鉄道橋と重厚な電気機関車を一緒に収められる人気の撮影スポットから撮ったものです。多くの人が昼間に撮影するのですが、「α7S IIIは高感度撮影もできるから夜に行ってみよう」と思ったわけです。 現場は街灯の光が一灯のみでかなり暗いので、高感度に強いカメラがなければ撮影が難しい状況です。こんな時こそ「α7S III」の出番とばかりにISO10000まで上げて撮影しました。ここまで感度を上げても低ノイズでまったく問題ありません。走行速度はゆっくりでしたが、ISO10000まで上げなければシャッタースピードを稼ぐことができず、少しブレて写っていたでしょう。走っている車両をしっかり止めて撮るためにも、高感度は頼もしい味方になってくれます。しかも、コントラストを抑えて階調をしっかり表現してくれたので、想像以上にいい作品になりました。
――下の作品も夜間に高感度で撮った貨物列車ですね。
これは四日市港にある工場の専用鉄道を走る、セメント運搬の貨物列車です。先頭のディーゼル機関車が上に向かって排気を出していますが、昼間に見るとモヤモヤっと見えるだけ。でも夜は光の加減で蒸気機関車の煙のように見えて「お〜、かっこいい!」と思い、すかさずシャッターを押しました。 「α7S III」はダイナミックレンジが広いので、煙のトーンもしっかり描いてくれます。普通、シャドー側の煙は黒く潰れてしまうところですが、潰れずに美しいグラデーションを見せてくれている。さらに通過時に点灯する赤色灯もいい感じに写り込んで、印象的な作品を撮ることができました。 この時は1.4倍のテレコンバーターレンズを使用しましたが、とてもコンパクトで持ち運びやすいですし、装着してもカメラを持った時のバランスが変わりません。画質への影響もほとんどないので「もう一歩近づきたい」という時には非常に便利ですね。
高感度に強いカメラを使えば
模型もよりリアルな情景を演出できる
――こちらは夜のシーンを模型で再現したものでしょうか。
実車の撮影もしている長野県の飯山線の駅をイメージした模型です。「α7S III」を使えば、照度の少ない状態で模型を撮ってもトーンがしっかり出るのではないかと思い撮ってみました。けっこう厳しい状況で撮影しましたが、とても豊かな階調を見せてくれましたね。中央の街灯はかなり強かったのですが、ゴーストが出ていないところも素晴らしいです。 通常、模型で夜を演出する場合は、もっとガンガンに明るい光を当てて、露出を絞って撮影します。しかし今回はあえて模型に組み込まれているLEDライトのみを点灯し、この写真を撮るための特別なライティングは一切していません。つまり、高感度に強いカメラを使えばライティングの手間がいらないだけでなく、よりリアルな情景を再現することができるということです。 私がつくる模型にはいろいろなフィギュアが登場しますが、本当にバリエーション豊富に揃っているんですよ。どこにどんなフィギュアを置くかで表現の意図も変わってくるので、ドラマが生まれるようなイメージで情景をつくっています。上の作品ではお父さんの帰りを待っているお母さんと子どもをホームに並べたのですが、こうして人物が入ると見る人の想像力もかき立てられますよね。
いつもと違う表現を可能にするαシリーズ。
今後は形式写真も積極的に撮っていきたい
――αを使うことで、撮影の変化はありましたか? カメラもレンズも軽くてコンパクトなので、とにかく移動が楽でした。車での移動も多いですが、最後は車を停めてから山に登ったりすることもあるので、そういった時にもう一押し歩ける。日本の鉄道は時間がとても正確なので、決まった時間に目的の場所を通過するわけですが、「間に合わないかも」と思ってもαなら走れる。「チャンスを逃さない」「撮れ高が増える」という意味でもαの貢献度は、かなり大きいと思います。 今回はいろいろなレンズを使いましたが、中でも気に入ったのが「FE 400mm F2.8 GM OSS」です。超望遠レンズなのに軽くて手持ちでも十分に撮れるので、あらゆるシーンで活躍しました。手ブレ補正もばっちり効きますし、流し撮りもしやすい。これは鉄道写真の撮影にはぜひ欲しい1本です。 ――今後、「α7R IV」や「α7S III」を使って撮ってみたい作品はありますか? 私は寝台特急「サンライズ」を、自宅近くで早朝に撮ることをライフワークにしているので、「α7S III」の高感度を生かした撮影に挑戦してみたいです。今まで流し撮りでしか撮れなかったものを違う手法で撮るなど、いつもとは違う表現ができるような気がするので。「α7R IV」では高解像度を生かした記録性も興味深いところなので、そこを突き詰めていけるといいですね。実は今でもチャンスがあれば4×5の大判カメラを引っ張り出して撮影しているのですが、これだけの解像感を得られればデジタルだけでも十分かも、と期待が膨らみます。 αは「今までにできなかった何かができそう」という可能性を感じるカメラです。今後もその優れた機能を生かして、実物、模型ともに鉄道のかっこいい姿、素晴らしい世界を表現していきたいと思います。
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