α9 II、α7S III、そしてα1で追い続けた「野生の躍動と瞬間の姿」
野生動物写真家 野口純一 氏
野生動物写真家の野口純一氏がCP+2021にてお話しいただいた内容や、発表作品をαUniverse記事用に再構成。
最新のフルサイズミラーレス一眼「α1」を中心に、このセミナーのために撮り下ろした作品を紹介しながら、野鳥撮影について語ります。
野口 純一/野生動物写真家 1968年埼玉県出身 北海道在住 2輪・4輪エンジニアの経験を経て、自然の中で暮らしたいと2000年北海道に移住する。独学で写真を学び、道内に生息する野生動物を撮影し写真家として活動を始める。以後「自然の中で力強く生きる生命」を求め世界各地で撮影を続けている。 (JPS)日本写真家協会会員 (SSP)日本自然科学写真協会会員 http://www.junsetsusha.com
個性の異なるカメラが揃うαシリーズは
「野生の命」を伝える大切なツール
みなさん、こんにちは。写真家の野口純一です。このセミナーでは「αで捉える野生の躍動と瞬間の姿」と題して、私がαシリーズで実際に撮影してきた北海道の野生動物の作品をご覧いただきながら、動物たちの話やαの撮影機能の話、αの「撮る力」などについてお話ししていきたいと思います。
最初にご覧いただくのはエゾフクロウの幼鳥の写真です。季節は春から夏へと移り変わるころ。巣立ちをしたエゾフクロウの子どもはすくすくと育ちながら一生懸命に飛ぶ練習をして、自由に飛べるようになるにつれて森の奥へと移動していきます。
上の作品を撮影した「α9 II」は、優れたAF性能と最高約20コマ/秒連写、そして解像力と高感度性能のバランスの良さからも野生動物の撮影におすすめなカメラです。そのため私は前モデルの「α9」からメインカメラとしてずっと使い続けています。
そして深い森の奥でもうひとつの出会いがありました。上の作品は巣立ったばかりのオオコノハズクの幼鳥です。「α9 II」は動画撮影も可能ですので、この写真を撮ったアングルのまま、モードダイヤルを回してすぐに動画撮影もしてみました。
私は動画撮影の経験が浅く、動画に特化した特別な知識や技術は持っていません。しかし、写真を撮るカメラ設定のままモードダイヤルを回して録画ボタンを押すだけで、野生動物の姿を簡単に動画でも撮ることができました。 そして、季節は進み秋になりました。昨年の秋に登場したのが、高感度撮影に優れ、動画機能も充実した「α7S III」です。とても気になるカメラだったので、発売日に購入してそのまま原野に持ち出して撮影しました。そのときに撮ったのが、このエゾヒグマの写真です。
とても暗い谷間で、エゾヒグマが激しく身を震わせて水滴を弾き飛ばしているシーンです。水滴の一滴一滴を写し止めるために1/1600秒という速いシャッタースピードに設定しました。暗い環境でシャッタースピードを速くするためには、感度を上げるのが正攻法です。この写真はISO8000で撮っていますが、高感度特有のザラザラしたノイズ感や解像感の低下はほとんど見られません。ご覧のように非常に解像感があり滑らかで、高感度で撮影したことを感じさせない素晴らしい画質で撮影することができました。「α7S III」は、暗い環境でシャッタースピードを稼ぎたいときに活躍してくれるカメラです。 「α7S III」のもうひとつの魅力が動画撮影機能の充実ぶりです。私は4Kの解像度を保ったままスローモーションの動画が撮れるところにもひかれていたので、このエゾヒグマをスローモーション動画でも撮ってみました。
同じようなシーンを撮影しても、写真と動画では表現がまったく異なることを感じていただけると思います。写真でも動画でも、αは「野生の命」を伝えることに適した素晴らしいツールだな、と改めて感じました。 動画で撮影したシーンは、若いヒグマが大きな鮭を捕まえているところです。あまりにもうれしくて、捕まえた鮭を川に放して捕まえる、また放して捕まえる、という行為を何回も繰り返して、「捕まえる喜び」をかみしめているように見えました。こうした若いヒグマの戯れの中にも野生の世界の弱肉強食を垣間見ることができます。 スローで激しく動く動物を撮影するとピントを合わせ続けることが難しいと思うかもしれませんが、動画撮影中もリアルタイムトラッキングでカメラが自動的に被写体を追いかけ、ピントを合わせ続けてくれるので、簡単に美しい映像を撮ることができます。
圧巻の解像力と豊かな階調で
野生動物をより印象的に魅せる「α1」
季節はさらに進んで冬になり、日本を代表する野鳥のひとつであるタンチョウを撮りに出かけました。朝、ねぐらを飛び立ったタンチョウたちは餌を求めて移動を始めます。その餌場には、お互いの愛を確かめるかのように求愛のダンスを踊るカップルもいましたので撮影してみました。
一瞬を捉えているのに隅々までシャープで解像感のある素晴らしい画質ですよね。この写真は、今話題になっているαのフラッグシップ機「α1」で撮影したものです。タンチョウの撮影で「α1」の性能に手応えを感じた私は、そのまま北海道東の端、根室海峡へ進みました。根室海峡では広い湾が全面結氷して一面の氷原になります。下の写真はこの広大な風景の中にエゾジカがたたずむ光景ですが、「α1」は有効約5010万画素の高解像で一頭一頭の枝角の先まで鮮明に写してくれます。
さらに、動物対応の瞳AFとリアルタイムトラッキングも搭載されているので、動いている動物を撮るときも安心です。このようにオスジカ同士が喧嘩して激しく動き回るようなシーンでも、しっかりと瞳を捉えて、毛の一本一本まで解像したとてもシャープな画を描いてくれます。
この解像力を生かして、次はオオワシとオジロワシの群れを撮影してみました。これだけ小さく配置してもワシ一羽一羽をしっかり解像しています。さらに、雪の質感や濃い霧に覆われた白い空間のグラデーションまで豊かな階調で表現し、その場の空気感まで伝えることができました。
鳥対応のリアルタイム瞳AFと
最高30コマ/秒の高速連写。
この組み合わせで最高の一枚が撮れる
そしていよいよ本格的なウミワシのシーズンがやってきました。私は「α1」の撮影能力を探ることも踏まえてウミワシの撮影にのぞみました。「動体を捉える能力」としてポイントとなる機能がいくつかありますが、その重要なポイントのひとつがαシリーズに初めて搭載された「鳥対応のリアルタイム瞳AF」です。 実際にこの機能を使ってみると、画面に野鳥が入った瞬間に鳥の目を認識。目の部分に緑色の四角い枠が表示されてピントを合わせてくれます。急に飛び立ってしまっても、カメラで追い続ければ飛んでいる最中までワシの目を捉え続けてくれました。この機能を使えば誰でも飛んでいる鳥の目にピントが合った写真が撮れる。そんな可能性を持った、素晴らしい新機能です。 そして、動体を捉えるもうひとつのポイントとなるのが最高30コマ/秒の高速連写。ワシが飛び立つシーンを撮影するのであれば「かっこいい瞬間を撮りたい」、「羽ばたきの一番いい瞬間を撮りたい」と思うものです。そんなときに力強い味方になってくれるのが、この高速連写です。
1秒間に30枚、有効約5010万画素のフルサイズでAF、AEともに追随するカメラは今までありませんでしたからね。これだけ高速連写ができれば、いろいろな翼の形の中から自分が一番いいと思う一枚を選ぶだけ。ピントもタイミングも気にせず、すべてカメラ任せで最高の瞬間を撮ることができます。 鳥対応のリアルタイム瞳AF、進化したリアルタイムトラッキング、そして最高30コマ/秒の高速連写。これらを組み合わせることによって、どんなシーンでも思うままに野鳥を撮影することができます。今や、写真を撮るためのテクニックは必要ありません。すべてを「α1」に任せて、撮影者は自分の撮りたい瞬間にシャッターを押すだけです。
いろいろ撮影してきましたが、「α1」の実力の限界はまだ見えてきません。例えば下の写真。これはどの個体よりも速いスピードで私のすぐ近くを駆け抜けていったワシを撮ったものです。実はこの一枚、私の理想とはちょっとズレがありました。あまりにも速く、あまりにも近くを駆け抜けていったので、超望遠レンズを構えた私がこのオオワシの動きについていけなかったのです。
そのため、少しフレーミングが甘くなってしまいました。しかし、こんな撮影者の限界を超えたような瞬間でも「α1」はオオワシの瞳をしっかり捉えている。撮影者の限界をはるかに超えていても、「α1」にはまだ余裕があるわけです。この画を液晶モニターで確認したとき、「いったいこのカメラはどこまで撮れるんだ」と思いました。
優れた機能による力技で難題をクリア。
挑戦して感じた「α1」の新たな可能性
「α1」の実力があれば、今までは捉えることが難しいと思っていた、あるいは何回チャレンジしても成功率が上がらなかったような難しいシーンも狙って撮れるのではないかと思い、私は自分と「α1」に2つの課題を与えてみました。 1つ目の課題は、オジロワシが風切羽で海面を叩く瞬間を撮影すること。「α1」が出した答えがこれです。
ワシが獲物を狙うために海面に降りてきて足や尾羽が水面に当たることはよくありますが、野鳥が大切な翼で海面を叩くようなことは滅多にありません。それが起こるのは、特別な状況のみです。例えば、自分が狙っている獲物をライバルに取られそうになったとき。「ライバルのほうが先に獲物に到達してしまう」と確信すると、無理な体勢から強引に、ものすごい速さで突っ込んでくることがあります。ライバルに餌を奪われまいと自分の限界を超えた速度が出てしまい、海面と自分の体の空間を見誤って翼で海面を叩いてしまうことがあるのです。いわばミスですから、イレギュラーな瞬間ですね。スピードも速く、ほんの一瞬の出来事ですが「α1」では狙って撮ることができました。 このようなシーンは偶然写ることもありますし、連写を繰り返して膨大な数を撮影すれば撮れることもあるでしょう。しかし今回、この課題を立てた後、ほんのわずかな間に狙って撮れたことにこのカメラの実力を感じました。 2つ目の課題は「撮影者も目で見ることが難しいシーン」です。結果、「α1」の出した答えがこの一枚。
激しく羽ばたく翼の先端部分にある風切羽は、もっとも速く動く部分です。太陽の光が自分の翼で遮られて顔に影ができる。しかし、空気をつかむためにグッと張った風切羽の隙間からわずかな光の帯が差し込み、ワシの目を浮かび上がらせる。そんなシーンを撮りたいと思っていました。 以前、偶然に写したことがあるシーンですが、そのときはピントが少し甘かったので「いつかこんな写真をしっかり撮りたい」とずっと狙っていたのです。しかし、羽ばたく翼の隙間から入る光を捉えるなんて、おそらく人間の目では不可能でしょう。風切羽の動きや開き具合、それと連動して動く光と影までは追い切れませんからね。そんな過酷な課題でも、私の狙い通りの一枚を写してくれた。当然、ワシの瞳にもピタリとピントが合っている。これは本当にカメラに撮ってもらった一枚といえます。 光の帯がちょうど目に当たるかどうかは運もありますが、「α1」はそのわずかな運を最高30コマ/秒の高速連写という力技で手繰り寄せた、ということですね。 自由に飛び回るワシを捉えるためにはワシの動きに合わせることの連続で、撮影時はピント合わせやシャッターのタイミングのことで頭がいっぱいでした。しかし「α1」を使えば、今まで頭の中を占めていた大部分を解き放つことができます。そうすると思考に大きな余裕が生まれる。その余裕の使いかた次第で、表現の可能性が広がるはずです。
αの技術で生まれた撮影時の余裕を
光を捉える意識に使い「創造する撮影」に
私はカメラの技術によって生まれた余裕を、「光」を捉えることに使うように取り組みました。今までは飛んでいる姿をただ追い続けるだけの撮影でしたが、野鳥を写し出す光そのものも見ていきたいと思ったのです。
自分が見せたい部分を見せる光、重要ではない部分をスパッと切り捨てるような露出。それを突き詰めていければ、「自分の中でイメージをつくっていく、創造する撮影」に変わっていきますから。そう変えることができる「α1」の力は、とても大きく感じます。 それは「α7S III」も同様です。下のタンチョウの写真は「α7S III」で撮影したものですが、これも姿をそのまま伝えるのではなく、自分の強いイメージを伝えられるように意識して光を捉えた一枚です。
さらにαが素晴らしいのは、新しい取り組みができるほどの高性能でありながら、ボディサイズは変わらず小さく軽いところ。どこにでも持って出かけられるところにも大きな魅力があると思っています。今回も私はαと一緒にいろいろな場所に出かけましたので、撮影した写真や動画をごちゃごちゃに詰め込んだおもちゃ箱のような短い動画をつくってみました。いろいろな出会いを写していく楽しさを、少しでも感じていただけたらうれしいです。 この動画をご覧いただいて私のセミナーを終わりにしたいと思います。最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
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