「カメラグランプリ2022」贈呈式リポート
2022年5月19日に「カメラグランプリ2022」の各賞が発表され、ソニーの 『FE 50mm F1.2 GM』が1年間に国内で新発売されたレンズの中からもっとも優れた商品が選ばれる「レンズ賞」を受賞しました。6月1日に行われた贈呈式ではソニーの担当者が受賞の喜びと開発秘話を披露。カメラグランプリ実行委員の代表者に受賞理由もお聞きしました。
贈呈式で語られた受賞の喜びと開発秘話
贈呈式では、カメラグランプリ2022実行委員長の永原耕治氏から「レンズ賞」の賞状とトロフィーが手渡されました。受賞の喜びを語ったのは、ソニー株式会社 イメージングプロダクツ&ソリューションズ事業本部 レンズシステム事業部 事業部長 岸政典です。
F1.2ならではの最高の描写を、小型・軽量と高速AFの実現で 多くのお客さまに楽しんでいただきたい
『FE 50mm F1.2 GM』はαシステムで初めてのF1.2のレンズということで、非常に気合を入れて企画開発を進めた商品となります。我々が開発時に目指したのは、F1.2という大口径であっても、お客様にとって普通に使いやすい高性能レンズでした。F1.2という大口径になると重くなり、AFも高い精度で思い通りに動かすのが難しい領域に入ってきますが、我々が今までに開発してきた独自の基礎技術をこのレンズにフルに導入し、F1.2ならではの高い光学性能を実現すると同時に、これまでにないような小型・軽量かつスムーズなAFを実現することができました。特にAFに関しては、実際に使っていただいたお客様から「本当にこのフォーカス玉は動いているのですか?」と言われるほど静粛でスムーズな動作を実現することができ、小型・軽量と合わせて動画、静止画ともにストレスのないF1.2の新しい撮影体験価値を提供できたのではないかなと思っております。
また、「MFの操作性の高さ」が受賞理由に入っていたところも個人的には非常にうれしく思います。AFはもちろん、MFの操作性にもこだわり抜いて開発をしてきましたので、その部分が評価されたことも大きな喜びです。 今回、F1.2のレンズがラインアップに加わったことで、αシステムの新たな映像表現の可能性がさらに広がったと思っています。先日、発表いたしました『FE PZ 16-35mm F4 G』や 『FE 24-70mm F2.8 GM II』も性能を進化させた上で小型・軽量を実現しているところが高く評価されていますので、「性能や操作性を進化させた上での小型・軽量化の実現」というところは今後も飽くなきチャレンジを続け、お客様の期待を超えるような商品を市場に出し続けていきたいと思います。
なかなか満足のいく答えが出なかった 小型・軽量化とスムーズなフォーカス駆動
贈呈式後に『FE 50mm F1.2 GM』の開発秘話を披露したのは、ソニー株式会社 イメージングプロダクツ&ソリューションズ事業本部 商品技術センター コア技術第1部門 部門長 宮井博邦。もっとも苦労したのは光学設計とフォーカス駆動だったと語ります。
我々にとって初めてのF1.2のレンズでしたが、Eマウントレンズ60本目という節目のレンズでもあるため、これまで歩んできた道と向き合いながら開発を進めてきました。今までも大切にしてきた小型・軽量、軽快なスピード、そして心地よいフィーリングと、このレンズに期待される高い解像性能や感性に響くぼけの描写を成立させることは大きなチャレンジでした。
とくに小型・軽量の実現は苦労したところです。明るいレンズを作るために、できるだけ前側のレンズを大きくして光を多く取り込みたいところですが、そうするとレンズ全体が大きく重くなってしまいます。また、カメラを持った時のフィーリングを大切にしたいという思いがあり、レンズの枚数を減らしながらも解像性能を担保して、色収差などを極限まで減らすレンズレイアウトに取り組みました。なかでも、一番貢献したのが内製のレンズエレメントである超高度非球面XA(extreme aspherical)レンズです。これまで以上にぼけにこだわり、硝材の選定、サブミクロン単位という高い精度での表面の製造管理など、あらゆることを積極的に取り組みました。このXAレンズを3枚も使うことで、すべてを満足するものができたと思っています。 さらに、フォーカス機構についても苦労の連続でした。我々は常に、速く静かに動き正確に止まる、手に伝わる心地よい振動を目指して開発を進めていますが、フォーカス駆動という点では、大きくて重い光学レンズ群でこれらを実現するのは非常にハードルが高かったです。それを解決するために取り組んだのが、フォーカスユニットを2つにしたフローティングフォーカスの採用と、それをダイレクトに動かすリニアモーターの開発です。望遠レンズでも取り組んできた機構でしたが、このレンズでの難易度は想像をはるかに超えるものでした。F1.2では被写体深度が浅いため、多少の誤差がそのまま画質に出てしまう。その誤差が出ないようにこの機構を採用したわけですが、正確に応答させることが難しかったのです。それでも技術連携と高度な制御をもって、軽快なフォーカスを実現することができました。 α1と組み合わせれば、AF/AE追随で秒間30コマの連写ができるF1.2のレンズ、スポーツや動物といった動くものを追い続けられるF1.2のレンズ。こういった新しい領域まで狙って開発しましたが、実際に使ってみるとドキドキと胸が高鳴りました。「本当にこういうことができるんだ」と、開発に携わった自分たちも感激し、これからもまだまだできることがある、という思いになりました。
驚異の小型・軽量化とカメラとのバランスを評価
続いて、カメラグランプリ2022実行委員長の永原耕治氏(雑誌『風景写真』編集長)、カメラ記者クラブ代表幹事の柴田誠氏(雑誌『CAPA』)のお二人に、受賞理由についてお聞きしました。
――『FE 50mm F1.2 GM』はどのような点が評価されてレンズ賞を獲得できたと思いますか?
柴田氏:最高画質のG Masterなのにコンパクト、というところが一番の魅力だと感じています。そして、カメラとのバランスもとても良い。αのボディはどれもスタイルが似ていて大きさも変わらないので、どのカメラに装着しても同じようにハンドリングできるところが「いいな」と思いました。 永原氏:個人的には、50mm F1.2のG Masterというスペックを聞いていたので、見て、持った瞬間に「あれ?」と思いました。想像以上に軽くてコンパクトだといういい意味での「あれ?」で、「これでG Master? しかもF1.2?」と、選考委員もスペックと実物とのギャップに驚いたのではないかと思います。さらに、開放で撮影するとその場の空気感まで捉えている、という印象を持ちました。審査員のコメントにも「雰囲気が写っている」とあったように、シャープなだけでなく少しオールドレンズのような雰囲気もあって、最新鋭なのに雰囲気も乗る、というところもこのレンズの魅力だと思います。
――実際にこのレンズを使っているプロカメラマンからの評判はいかがですか?
永原氏:「開放での描写力やフォーカススピードは一度使うと手放せない。一度使うと虜になる」といった声も聞きました。少しマニアックになりますが、「これだけの高性能レンズなのに特殊低分散ガラスや異常部分分散ガラスなどを使わずに、通常のガラスと非球面レンズだけで仕上げているのが素晴らしい」と光学系の技術力を絶賛した意見もありました。 柴田氏:僕自身もαを使っていて仕事で写真を撮りますが、金属の質感がいいですね。当然、軽量化という流れに沿って採用したものだと思いますが、質感、操作感という部分からも金属にこだわっていることを実感できます。
――ソニー初のF1.2のレンズですが、このレンズの登場をどのように感じましたか?
柴田氏:ソニーの50mmレンズはF1.8、F1.4、F1.2と揃っていますが、F1.2をこのサイズに収めたことに技術力の高さを感じます。大口径になればなるほど大きく重くなるものですが、バランス的にも使いやすく良くできていると思いますし、このレンズが登場したことで広角や望遠ももっと素晴らしいレンズが出てくるのではないかと期待も膨らみます。 永原氏:選考委員の中には「F1.4が今後の楽しみになりました」という反応がありました。F1.2でこれだけのものが出てきたのだから、F1.4はもっとすごいことになるのではないか、ということですね。このレンズで培った技術力を持ってすれば、他のレンズもどんどん進化するのではないかと期待せずにはいられない、ということでしょう。
卓越した技術力でさらなる進化と動画分野の開拓に期待
――最近のソニーの連続受賞について、どう思いますか?
永原氏:レンズ賞を含めればほぼ毎年のように受賞していますから、正直、獲り過ぎなのではないかと思います(笑)。勢いがありすぎて「ちょっと抑えた方がいいのでは?」と思うくらいです。他のメーカーからのマークは避けられない存在になっていますし、お客さまからも「今年もソニーから何か出るのではないか」と期待されているように感じます。 柴田氏:僕は「カメラでやれることは、これ以上もうないのではないか」と感じていたこともありますが、毎年新しい技術が出てくるところが素晴らしい。レンズの高解像度、コーティングや新しい機能などがどんどん入っていますからね。ミラーレスになって進歩も新たな局面に来ていると思うので、ソニーさんには大いに期待しています。来年もぜひ賞を獲っていただきたいです。
――カメラメーカーとして、またレンズメーカーとして今後のソニーに期待することは?
柴田氏:ソニーといえば、テレビも有名ですよね。映像を出力するものがあり、動画も静止画も撮れるカメラ、ムービーのプロ機材まで開発しているところが他のカメラメーカーとは違うところです。動画の分野が元々進んでいるメーカーですから、もっともっと動画という部分を開拓していって欲しいと思います。 永原氏:最新鋭で、サイズも含めて使いやすい、というのがαの印象です。この方向はユーザーも待ち望んでいると思いますので、今まで通り期待して新製品をお待ちしています。
――今後、カメラはどのような方向に進化していくのか、業界の展望や期待などがあれば教えてください。
柴田氏:カメラの機能という点では、スペック競争ではなく「フィーリング」や「持って使った時の気持ちよさ」といった数値では計れない部分が進化していくと思っています。カメラという機械が人に寄り添うものになっていくというか……。そうならないとカメラは飽きられてしまうと思います。以前はともかく、今はスマホで気軽に写真が撮れるようになり身近なものを撮ることが多くなっていますから、カメラもよりパーソナルなものになっていくのではないでしょうか。 永原氏:私も柴田さんとほぼ同意見です。スマホの使いやすさをカメラに持ってくるような気がします。説明書を読まずに使えて、設定画面に行かなくても感覚的に操作でき、さらに撮影者の思い通りの写真が撮れるものになっていく。例えば、今回受賞されたレンズも最新鋭のAF性能なのに画は温かみを感じる、という新旧レンズのドッキングみたいなところがありますよね。これは撮影者の望みでもあると思うので、「最新鋭の技術に裏打ちされた理想の仕上がり」という方向に行って欲しいな、と思っています。
<カメラグランプリとは> 写真・カメラ雑誌の担当記者の集まりであるカメラ記者クラブが主催し、カメラグランプリ実行委員会の運営のもと1984年から開催されており、組織された選考委員が1年間(毎年4月1日から翌3月31日まで)に日本国内で新発売されたスチルカメラ・レンズ・カメラ機材の中から各賞に値するカメラや撮影機材を選出します。各賞は、最も優れたカメラ1機種を選ぶ「大賞」、交換レンズの中からも最も優れた1本を選ぶ「レンズ賞」、一般ユーザーがWebサイトから投票する「あなたが選ぶベストカメラ賞」、大賞を受賞したカメラを除くすべてのカメラと写真製品・機材を対象に大衆性・話題性・先進性に特に優れた製品を選ぶ「カメラ記者クラブ賞」の4部門があります。
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