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特別企画「俺がこのレンズを推す理由」…カメラグランプリ2022レンズ賞 ソニー FE 50mm F1.2 GM
写真家3名の本音座談会

“コンパクトな鏡筒にF1.2のぼけ”だけではない魅力とは?

デジカメ Watch掲載記事の転載

1年間に発売されたカメラ・レンズ・アクセサリーから、優れた製品に贈られる「カメラグランプリ」。 5月19日に各賞の受賞製品が発表された「カメラグランプリ2022」のうち、レンズ賞はソニー「FE 50mm F1.2 GM」が受賞した。カメラグランプリ実行委員会の発表によると、F1.2の明るさながら小型軽量な鏡筒、AF速度やMF時の操作感について高い評価を得た。 デジカメ Watchでは、レンズ賞にFE 50mm F1.2 GMを選んだ写真家を招聘、座談会を実施し選考理由を聞いた。 参加いただいたのは阿部秀之さん、岡嶋和幸さん、落合憲弘さんの3名。 ――今日はカメラグランプリ2022レンズ賞で、FE 50mm F1.2 GMに票を入れられた3名にお越しいただきました。最初に簡単な自己紹介をお願いします。 阿部秀之さん(以下、阿部):海外でのスナップをよく撮っています。いまコロナ禍で海外には行きづらいのですが、それでも12月にひと月ほどプーケットに、3月にも沖縄にひと月ほど滞在し、そこに馴染んだ状態で撮影していますね。特別なものを撮るというより、ちょっと笑えたり面白いなと思えるものを発見して撮ることが多いです。

阿部秀之さん

岡嶋和幸さん(以下、岡嶋):作品の傾向としては、海辺や水辺の情景を好んで撮ることが多いです。ちょうどコロナ禍の前くらいに、海外での撮影から自分の住んでいる房総半島の海辺を撮るようになりました。デジタルとフィルムを並行して撮っていますが、これからはカラーはデジタル、モノクロはフィルムと決めて撮っていくつもりです。

岡嶋和幸さん

落合憲弘さん(以下、落合):身近なもの、自分の生活圏にあるものを被写体に、特別な場所・時間を作らずに写真に仕立てる、というのを20年くらいやっています。ただ写っているだけでなく、それをどう写真にするかをこだわってやっています。

落合憲弘さん

――αはいつからお使いなのでしょうか。 阿部:ミノルタ時代からαを使っていますが、ソニーになってからはα100からAマウントのαを所有、ミラーレスのαはα7 IIIからですね。 岡嶋:カメラ雑誌の仕事をしているので、新製品が出たら一通り使って作例を撮っています。ソニーαはα100から。ほぼα7R IIIで撮った作品で、2019年に銀座ソニーギャラリーで写真展を実施しました。 落合:2010年のNEX-5に始まり、α77、NEX-7、α6500、α7S、α7R III、α7 III、α7Cなどを使用してきました。今一番使っているのはα7Cです。

三者三様の選考理由

――それでは、FE 50mm F1.2 GMに票を入れられた理由をお願いします。 阿部:特殊なレンズとしてみられていた50mm F1.2レンズ、その50mm F1.2レンズとしてのトータルの出来栄えの良さからです。他の50mm F1.2は、ある程度垣根を越えた上級者じゃないと勧めにくい。一方、FE 50mm F1.2 GMは、ソニーユーザーになら誰にでも勧められるまとまりの良さ。例えば大きさと重さ、使い勝手の良さですね。「余裕あれば買っちゃったら?」と言えるくらい。

FE 50mm F1.2 GMをα9 IIに装着

岡嶋:やはりF1.2にしては軽くコンパクトなところですね。僕は基本的に50mmなど標準域の単焦点レンズしか使わず、出版物や作品プリントの展示が最終目的なのでレンズ性能は妥協できない。そういう理由で50mm F1.2、F1.4クラスのレンズを使っていますが、これまでの製品と比べると、断然コンパクトで軽い。 あと、「開放から使える」という謳い文句がよくありますよね。でもそういうレンズの多くは、F1.2やF1.4から絞ってF2にすると描写はもっとよくなるんですよ。そうするとF1.2やF1.4の開放で撮影した作品は、違う絞りで撮影した作品と並べた時に違和感の原因になる。なので僕はF1.2やF1.4のレンズで撮ったとしても、あまり絞り開放は使いません。でもソニーの FE 50mm F1.2 GMは、F1.2とF2の差が少ない。F1.2で撮った写真もF2で撮った写真も描写が繋がっている。 AFのもたつきのなさや静かな点も評価しています。薄い被写界深度でも躊躇なく撮れる、総合的に使っていて気持ちの良いレンズ、といったところですね。

落合:今各社から出ているレンズ、もはや悪かろうはずはないんですよ。一眼レフの時代に比べて、各社とも格段の進歩が見られますし。でも50mm F1.2クラスのレンズには、システムの大黒柱としての存在を感じているんですね。αはいままでもシステムが整っていましたが、このレンズでさらに強固になった印象です。 レンズとしての性能や表現力が素晴らしい。αユーザーが新しいカメラボディを買おうかと悩んでいるなら、ボディではなく、このFE 50mm F1.2 GMを買った方がいいのでは? 写真生活に厚みが出るのでは? とも感じました。

魅力はF1.2のぼけだけではない!

――それではFE 50mm F1.2 GMで撮影されたみなさんの作品を見ていきましょう。まずは阿部さんの作品です。

α1,FE 50mm F1.2 GM 50mm,F1.2,1/50秒,ISO3200
撮影:阿部秀之

阿部:このレンズは明るいので、いろんなことができる気がするんですよ。夜のバラを撮影したのですが、ピントが合っているところのシャープさはもちろんですが、F1.2のぼけも悪くない。何が写っているのかわからないぼけではなくて、ちゃんと後ろに何があるかわかるぼけは貴重です。 F1.2でかつコンパクトな筐体ということで、確かに口径食は出ます。が、その中でも「なるべく丸くしよう」という設計思想が見えて好感が持てます。

α1,FE 50mm F1.2 GM 50mm,F1.2,1/50秒,ISO5000
撮影:阿部秀之

阿部:この作品、実は止まって撮っているように見えますけど、動きながら撮ったものです。なので手前の方は結構ブレています。後で見返して「これ停めて撮ったかな?」と思うくらいしっかりピントが合っていました。開放F1.2のレンズをこんなふうに撮るなんて、いままでありませんでしたから(笑)

α1,FE 50mm F1.2 GM 50mm,F2,1/50秒,ISO640
撮影:阿部秀之

阿部:僕がすごく気に行ってるお店で撮らせてもらった貝の盛り合わせ。ぬらぬらした感じがすごいよく出てて……思ってた以上によく質感が出た1枚です。 岡嶋:これはすごく新鮮そうですね(笑) 阿部:この店の照明はミックス光なんです。いろんなカメラでここで撮るのでわかるのですが、ソニーのホワイトバランスは優秀だと思います。 ――こんなふうに被写体に結構近づいて撮れるんですね。 阿部:そう、もっと寄れるんですが、皿を切らない程度の構図にしました。「寄れるのは正義」と誰かが言ってたのですが、実用を考えるとそう思いますね。 ――次は岡嶋さんの作品に移りましょう。

α7R IV,FE 50mm F1.2 GM 50mm,F10,1/2000秒,ISO100
撮影:岡嶋和幸

岡嶋:九十九里の海岸です。朝の5時過ぎくらい。曇っていたのですが、歩いていて雲間に日が出てきたところを撮りました。中央辺りを拡大すると、波の表情がすごく出ていてます。 ――本当にシャープですよね。こういうシーンを焦点距離50mmの画角で撮ることについてはいかがでしょうか。 岡嶋:望遠で撮ると迫力は出ますがもうちょっと情報量が欲しくなる。だから、僕は50mmでこんな感じで撮ることが多いです。

α7R IV,FE 50mm F1.2 GM 50mm,F1.2,1/8000秒,ISO100
撮影:岡嶋和幸

岡嶋:虫に食われたのか、たくさん穴が空いた葉っぱを面白く感じて撮ってみました。開放 F1.2です。 阿部:いい感じの眩しさを感じますね。 岡嶋:そうです、「いい光だな」と思う光が撮れました。こういう逆光で撮るとゴーストやフレアといったアラが出るものですが……それが少ないレンズ。逆光でも絞り開放でガンガン撮れるレンズですね。そうした安心感があると、積極的に逆光でも撮ってみようという気分になります。AFも問題なく合ってくれました。

α7R IV,FE 50mm F1.2 GM 50mm,F1.2,1/3200秒,ISO100
撮影:岡嶋和幸

岡嶋:これは最短撮影距離に近いと思います。AFでピントが合うギリギリまで寄って撮ったものです。このときF1.2とF2で撮り比べていますが、水滴や葉っぱの筋の描写が、F1.2とF2とほとんど違わないんですよ。単純に被写界深度によるぼけ量が違うだけ。絞り開放から使えるレンズだと思います。 ――続いて落合さんの作品です。F1.2だとこれだけぼけるのものなのですね。

α9 II,FE 50mm F1.2 GM 50mm,F1.2,1/18000秒,ISO100
撮影:落合憲弘

落合:はい、開放F1.2で背景をぼかして、さらに周辺光量補正をOFFにしました。周辺光量落ちが好きなので(笑)。依頼仕事でない限り、周辺光量補正はOFFにしています。 何気ない状況を写真らしく仕立てるぼけ、さらに開放F1.2ということで既定路線で落ちる周辺光量。だったらそれを生かしてやろうじゃないか……という狙いです。

作品鑑賞はEIZOの最新カラーマネジメントモニター「CG2700S」で行なった(機材提供:EIZO)

――50mmなのに望遠で撮ったようにも見えますね。 落合:背景のぼけの効果でしょう。背景に何もなければぼけも生まれないのですが、その場にあるものを生かすことで効果を出せます。あと焦点距離50mmの画角はそういう調整がしやすいんですよね。自分が半歩一歩動くことで背景との関係性をがらっと変えられたり。あと、このレンズは非常に繊細な描写をします。 阿部:うん、線が細いですよね。 落合:大きくぼかした時の画面の端も安定しています。昔の大口径レンズのようにグルグルしていない。現代のレンズとしては当たり前なのでしょうが、使っている方としては安心感が大きいです。 阿部:α9 IIで撮影されていますよね? 落合:そうなんです。α9 IIの高速シャッターとこのレンズの組み合わせで、面白い結果を残せたと思います。 阿部:電子シャッターで1/8000秒以上のシャッター速度が使えるようになったことで、 FE 50mm F1.2 GMのような大口径レンズの本当の価値が出てきたのかもしれませんね。

α9 II,FE 50mm F1.2 GM 50mm,F9,1/4000秒,ISO100
撮影:落合憲弘

落合:近所で撮影したのですが、この絵を作るのに5分くらいカメラを構えて固まっていました(笑)。いまミラーレス全般のレスポンスが上がっていますが、こういうシーンでぱっと撮れる、思い通りに撮れるのは、ソニーのAFの進んでいるところだと思います。

α9 II,FE 50mm F1.2 GM 50mm,F1.2,1/100秒,ISO100
撮影:落合憲弘

落合:カメラボディとレンズのコラボレーションで撮れた作品です。この構図のまま帽子にピントを合わせてシャッターを切りました。一眼レフだと構図の中央付近でAFを合わせてからレンズを振る必要があるので、コサイン誤差などで結果的にピントが合わせられないということがままありました。 岡嶋:一眼レフとF1.2だとそういうことは多いですよね。 落合:はい。F1.2レンズの絞り開放を生かせるようになったのはピント精度の良いミラーレスになってから、しかも測距点の配置がほぼ全面に広がってくれた結果として、こういう撮り方ができるようになりました。カメラボディのAF性能なども含めて、トータルでF1.2の性能を引き出せるようになったのがまさに今。露出補正の必要性やその度合いをファインダーで正確に把握しながら撮れるのもそうですね。 岡嶋:玉ぼけの中に縞模様が入ったりしてませんね。 阿部:そう、縞模様が入るのは非球面レンズの面精度がいいから。いまのソニーのレンズ、生産時の面精度はとても良いのでしょう。

αレンズ全般について

――ここからは気分を変えて、αレンズ全般について語っていただきましょう。 阿部:αのミラーレス純正レンズは70本になったと聞きました。驚きましたね。α100の頃はソニーはレンズがないよねと言っていたけど、いつの間にか70本も!(笑)。 岡嶋:僕はカールツァイスに弱いんですよ。コンタックスユーザーでしたから。ハッセルブラッドもローライもカールツァイスレンズ(笑)。でもいまならG Masterで50mm F1.4を作って欲しいですね。50mm F1.2がこれだけ小さいので、F1.4ならもっとコンパクトなレンズができるのでないかな。(カールツァイスの)Planar T* FE 50mm F1.4 ZAもいいんですが、よりボディとマッチングしたサイズ感の50mm F1.4があれば、スナップで使いやすくなるのではと思います。 阿部:レンズが大きくなったのはみんなで重箱の隅を突くようなことを言いすぎたからなのではないですか(笑)。いまのソニーはレンズのコンパクト化を頑張っているので、僕らが思っているフィルム時代の大きさで、50mm F1.4が出てくれるといいですよね。 ところで、G MasterやGレンズについている「絞りリング」、一番使えるのはこの FE 50mm F1.2 GMではないかと思いました。F2.8のレンズより絞りを変える選択肢がたくさんあるし、開放で撮りたいときは、絞りリングを一番左の止まるところまで回すだけで使い勝手がすごくいい。ちなみにソニーはフードの造りもいいよね。

――他社製Eマウントレンズも増えていますが、やはり純正レンズならではのメリットはあるのでしょうか。 阿部:マウント仕様に関する技術的な情報は他社も入手できるのでしょうが、AFの速さと正確さについては純正レンズが一歩進んでいます。サードパーティ製のレンズも使っていますが、ピントは合っているけど合焦時に「ん?」というちょっとした間があったりする。純正にはない便利なレンズもあるし、AFもダメというわけではない。でも、その後に純正レンズを使うと、「やっぱり速いなあ…」と感じます。 落合:ごく当たり前で地味な話なのですが、トラブルや故障などがあったときに対応窓口を一本化できることが、まずはボディ+純正レンズのコンビに備わる最大の魅力だと考えています。モノや態勢の本質は、通常時ではなく異常が発生したときにこそ試されますからね。そんなとき、もっともシンプルかつ迅速にコトを収めるために、純正レンズにこだわるというのもアリかと思います。

落合:ソニーは、ボディの先進性に加えて70本のレンズラインアップという強い後ろ盾も得た。FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSSのような老舗カメラメーカーが後追いするような、使い勝手に優れたレンズをサラッと出してくれたりもしますし、各社の警戒態勢はまだまだ続くんじゃないでしょうか(笑)

デバイス内製による強みと先進性

――αシステムの強みとはなんでしょうか。その強みを生かした次の一手を予想すると? 阿部:イメージセンサーを自分で作っている、それが最大の強みでしょう。落合さんも超高感度に魅力を感じてα7Sを買ったわけだど、そういうα7Sのようなカメラを他のメーカーは簡単には出せないでしょう。 岡嶋:最近は半導体不足でラインアップを減らしていましたけど、本来ソニーは新型が出ても今までの機種を残しますよね。 阿部:うん、僕たちにとっては型落ちだけど、一般の人には十分な性能。それを整理して残しているのは大した戦略だと思います。ユーザーの要望を聞き、すばやく製品化するのもソニーの強み。新製品のFE PZ 16-35mm F4 Gのパワーズームもよくできてました。操作性がとてもいい。

2022年夏の新製品 FE PZ 16-35mm F4 G

岡嶋:ソニーのことだから、デジタルのミラーレスカメラはどんどん良くなっていくでしょう。だからフィルムカメラを作ってくれませんか(一同笑)。あと中判デジタルとか。 阿部:確かにソニーはもはや色々できる地位にあるのかもしれません。一方でαを目標に、他社のミラーレスが高機能化してきています。次はどうなるか……「メカシャッターを外した α1」を見てみたい気がしますね(笑)。 落合:αといえば、ボディだけではなくレンズにしてもアクセサリーにしても、常に新しいものを出してくるイメージ。すでに「動画向け」「静止画向け」といった分け方ではなくなっています。我々ユーザーが「そろそろ性能的には天井に突き当たってるんじゃないの?」なんて思っている中で「次に見せてくれるのは一体何なのか」。この先も期待しないわけにはいきません。

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