瞬間の情景
〜αシリーズとEマウントレンズで星景の世界に飛び込もう〜
写真家 北山輝泰 氏
写真家の北山輝泰氏がCP+2022にてお話しいただいた内容や、発表作品をα Universe記事用に再構成。作品を紹介しながら、これから星景写真に挑戦してみたい人に向けて、被写体の選びかたやおすすめのレンズなどをご紹介します。
北山 輝泰/写真家 1986年東京生まれ、日本大学芸術学部写真学科を卒業。天体望遠鏡メーカービクセンで、営業マンとして7年勤務したのち、星景写真家として独立する。山梨県富士山麓を主なフィールドに星景写真を撮影しつつ、オーロラや日食などの様々な天文現象撮影を行うため、海外遠征も積極的に行なっている。現在は、天文雑誌「星ナビ」ライターや、アストロアーツ天文講習会の講師、ソニー αアカデミーの銀座校、大阪校、オンライン校の講師などを務める傍ら、自身でも「NIGHT PHOTO TOURS」を主宰し、星景写真ワークショップの企画・運営などを行なっている。 https://kitayamateruyasu.com/
星空とともに自然風景を写し取る星景写真。 天文現象にも注目しながら被写体を選ぼう
こんにちは、写真家の北山と申します。今日は「瞬間の情景」をテーマにお話しします。星景写真は、三脚の上にカメラを置いてシャッタースピードが長い長時間露光で撮ることが多い被写体なので、「瞬間」という言葉はあまり当てはまらない、と思う人も多いでしょう。でも私は、実は星景写真というのは瞬間が大切だと思っているので、作品をご紹介しながらそんな話をしていこうかなと思います。
上は星景写真の代表例です。星景写真とは、星空と一緒に風景を写したもの。星空にはいろいろなものが見えますが、一番わかりやすいのが星座ではないかと思います。北半球では88星座のうちの70以上が見られるので、星景の「星空」の部分は好きな星座をチョイスして撮影するのがおすすめです。 星景写真の場合、上の富士山のように自然風景とともに撮ることが多いです。私は富士山のすぐ近くに住んでいるので、毎日富士山を眺めていろいろな瞬間を見てきました。こういった山岳の風景はとても相性がいいと思います。 この写真は今年の1月4日に撮影しました。この日は天文現象があったんですよ。今はなくなってしまった「しぶんぎ座」という星座から流れる流星群を見ることができる日だったのです。その流星群を撮ろうと撮影に向かったのですが、残念ながら流星群を写すことはできませんでした。カシオペア座やアンドロメダ銀河などは写っていますが、狙っていた「瞬間」を写すことはできなかったのです。
自分の得意なフィールドを見つけて 通い詰めて撮るのが星景写真の醍醐味
ここからは星景写真の醍醐味についてお話ししていきたいと思います。下の作品は1月6日の夜中、山中湖村を望む高台から冬の星座が西の空に沈んでいく様子を撮影したものですが、「オリオン座」が写っていますね。砂時計の形をした有名な星座が、富士山のちょうど真上に来ています。
この星座は都心でも見られるので、ご存知のかたも多いと思います。実はオリオン座以外にも冬の星座がたくさん写り込んでいて、明るい星をつないでいくと「冬のダイヤモンド」と呼ばれるものも写っています。 星景写真の醍醐味、というところで、もう1枚写真をお見せします。これは先ほど撮った場所から10mぐらい横にずれて撮ったものです。
山の稜線を見ていただくとわかりますが、アングルは非常に似ていますよね。でも全体の雰囲気や星の数が違います。撮っている時間帯も、先ほどの写真は夜中ですが、これは日没後すぐに撮影しました。一等星や惑星がぽつりぽつりと出てくる時間帯、天文業界でいう「航海薄明の時間帯」に撮影しているので星の量も違うわけです。よく見ると夏の大三角形が山中湖の上に鎮座していますし、富士山の左側には木星、裾野には土星も写っています。 実は私が狙っていたのは、この5分、10分くらい前、土星のすぐそばに水星が見える瞬間でした。水星は太陽に近いため、太陽からある程度離れないと見ることができません。この日は水星を撮ることができるタイミングでしたが、太陽が沈んでから5分、10分くらいしかチャンスがありませんでした。水星の撮影ができるチャンスは限られているので楽しみにしていたのですが、昼寝をしすぎるミスを犯してしまい、間に合うか微妙な時間に。大急ぎで撮影に行きましたが、案の定もう水星は沈んでいました。 上の2枚の写真はそれぞれ「冬のダイヤモンド」と「夏の大三角形」が写っていますが、同じ場所で撮っても時間帯や日付が変わればまったく違う雰囲気の写真を撮れるのがわかりますよね。それに月明かりの有り無しが加われば、地上風景の印象も大きく変わります。つまり星景写真の醍醐味は、自分が得意とするフィールドや通いやすいフィールドを見つけて足繁く通い、同じ場所からでもその時にしか撮れない瞬間を撮ることだと思うのです。
人工物と合わせると個性的な作品に。 星空と風景のマッチングを考えて撮影を
――ここまでは風景と組み合わせた星空の作品を紹介してきましたが、星景写真では自然物だけではなく人工物を被写体にしてもOKです。
上の作品は長野県にある美ヶ原高原美術館で撮影しました。観光スポットなどに行くと、よくモニュメントやオブジェなどがありますよね。そういったものも、もれなく星景写真の被写体になるわけです。あまり難しいことは考えず、面白い形の人工物を探して撮影するのもいいと思います。 撮影のポイントとして、「景色と風景のマッチング」というところも意識してもらいたいところです。
上の作品、手前に写っているのは菜の花です。菜の花というと春の花ですが、夜空には夏の「天の川」が写っています。つまり春と夏が1枚の写真に融合されている、というものです。星空は季節をまたぐのが面白いところ。つまり、冬だから冬の星座しか撮れない、というわけではなく、春に冬の星座を撮ることもできれば、春の夜中に秋の星座を撮ることもできます。 「星空は季節をまたぐ」ということを念頭に置きながら撮影場所を決めて、そこにマッチする星空を探して撮れば、面白い写真が撮れるわけです。
初心者には星座や流星群の撮影がおすすめ。 明るい広角レンズがあるときれいに撮れる
星景写真を撮ったことがない初心者であれば、まずはご自身の誕生日の星座と風景を絡めて撮影するのがおすすめです。ただし誕生日に近いからその星座が見えるわけではありません。夜に目当ての星座が見えるのは、基本的には1つ前の季節です。例えば5月生まれの牡牛座の場合は冬、ということですね。 あとは流星群。毎年、流れ星がたくさん見られる時期がありますが、そのタイミングで空を撮影していると流れ星が写り込むことがありますからね。普通に撮ってもつまらない、という人は、ぜひ流星群が見られるタイミングで撮影してみましょう。
上の作品は昨年の8月、ペルセウス座流星群ピーク時の1週間前に撮ったものです。左上にスーッと線のように見えるのが流れ星。1週間前でも1時間に10〜15個くらいは流れています。空が暗い所に行けばかなりの数を見ることができるので、ぜひ撮ってもらいたいと思います。 下の作品は12月に撮影したふたご座流星群です。1年間で流星群が見られない期間は、9月、2月、3月しかなく、それ以外の月は何かしらの流星群を見ることができます。
12月のふたご座流星群は年間で一番流星が多く見られ、1時間に100個くらい流れます。瞬きしている間にもバンバン流れるくらいなので、ふたご座流星群をきっかけに星景写真を始めるのもおすすめです。 上の作品は「FE 14mm F1.8 GM」で撮影していますが、星景写真では圧倒的に広角レンズが有利です。実はこのレンズ、私にとっては待望のレンズでした。広角であればあるほど画角が広くなり、空の広範囲を撮ることができますからね。流星群の場合はどこに流れるかわからないので、捕捉する確率が上がるのも利点です。 さらにF1.8という開放値がとても重要。明るければ明るいほどシャッタースピードが短く済むので、星をきれいな点像で捉えることができます。そのため開放F値も当然明るいほうがいい。しかも最高峰の「G Master」は圧倒的な解像力を持っているので、周辺までしっかりと点像で撮ることができます。このレンズは「私のために、やっと作ってくれた」と思い、発売と同時に迷わず購入しました。 星景写真をこれから始めるかたも、明るい広角レンズを1、2本持っていると、よりいい作品を撮ることができますよ。
上の作品も「FE 14mm F1.8 GM」で撮っています。八ヶ岳の稜線とともに星空を写していて、左の端に立派な流れ星が写っていますよね。本当は八ヶ岳の稜線に突き刺さるように落ちてくるのが理想でしたが、思い通りにはいきませんでした。でも、ひたすらシャッターを切り続けるのは宝探しのようなワクワク感があって楽しいので、ぜひ皆さんもワクワク感を味わいながら撮影していただきたいと思います。
優れた単焦点レンズが豊富なαが魅せる 焦点距離の違いによるさまざまな表現
次は「FE 14mm F1.8 GM」を使って、少し意外な作品も撮れる、という話をしていきたいと思います。下の作品は秋の花、コスモスです。広角レンズで風景を広く撮影するとあらゆるものが小さく写ってしまうため、テーマを伝えにくくなることが多くあります。
広角レンズを使う時のポイントは、できるだけグッと被写体に近寄ることです。この作品もコスモスにレンズがぶつかるくらい近づいて撮っているんですよ。そうすることでコスモスの存在をクローズアップすることができますし、広角なので背景もある程度広く撮ることができます。 実は背景の星も適当に置いているわけではありません。左側の明るくぼけているのが木星で、コスモスの左上にあるのが土星と、背景の星空も意識しながら構図を決めています。このように星をぼかして撮るテクニックは結構活用します。星にピントを合わせるのがセオリーですが、あえてぼかすことでテーマが際立つこともありますからね。 次は「FE 35mm F1.8」で撮った作品です。背景の夜空にオリオン座がぼけて写っていて、手のひらに乗せたレンズボールの中にもオリオン座が写り込んでいるのがわかりますでしょうか。
まるでレンズボールの中に星座を閉じ込めているようですよね。この時のレンズボールのように自分で被写体を用意して、ひと工夫して撮るのも面白いと思います。 「FE 35mm F1.8」は標準域の単焦点レンズですが、ポートレート撮影でも使いやすいですし、値段もお手頃、かつ軽量コンパクトなので持ち運びにも便利な1本。単焦点レンズデビューには最適なので持っている人も多いと思いますが、星景写真でも活躍してくれます。 例えばこんなシーン。昨年の9月20日、月と金星が接近するタイミングで撮影しました。
月の下にいるのが金星です。薄明の空に沈んでいく2つの天体ですが、このマジックアワーの時間帯は15分ほどしかありません。その間、月の影の部分「地球照」が見える時間帯もごくわずか。その瞬間を狙って撮影しました。 月や明るい惑星を撮る時、35mmという画角は非常に収まりがいいです。先ほどの14mmよりも少しクローズアップしているので月の存在感を強調できますし、まわりの風景まで確実に撮れる画角なのでとても使いやすいと思います。 そしてもう1本、好きなレンズが「FE 85mm F1.8」です。こちらも軽量コンパクトなレンズですね。85mmと画角は狭くなりますが、より一層、月を大きく撮ることができます。
上の作品は風景というよりも、飛行機のコントレイルをテーマに撮っています。11月8日、この日も月と金星が大接近する稀な日だったので、何か撮れないかとボーッと空を見上げていたら、飛行機が通過していくのが見えて大慌てで準備した結果、思ったより端に写ってしまった、というものです。それでも印象的な作品になったかなと思います。広角では月をこれほど大きく写せないので、中望遠域の単焦点レンズを使うのがおすすめです。 画角が少し狭いので、夜空と景色を一緒に撮るとなると最初は少し使いづらいかもしれません。それでも諦めずに持って行って、月が昇ってくる瞬間、沈みゆく瞬間を風景と絡めて撮る練習をしてください。そうすれば画角のクセが掴めてくるので、とにかく練習あるのみです。
好きな時間帯はマジックアワー。 日没直後と日の出前は印象的な光景が撮れる
僕は海沿いの風景が大好きで、特に好きなのがマジックアワーの時間帯。日の出前、空が少し明るくなり始めても星が見えている夜空は、何ともいえない美しい光景です。
上の作品はそんな瞬間を撮影した1枚です。こういう瞬間は月を絡めて撮ると印象的な作品になりますので、ちょっと早起きしてひらけているところに出かけて、月が出ているタイミングで撮って欲しいと思います。 このほか、日没後に東の空に昇ってくる満月が好きで、この瞬間をいろいろな場所で撮っています。
上の作品は空気が澄んでいて、かつ晴れている日に見られるビーナスベルトを写したものです。ビーナスベルトとは太陽と反対側の空にできるピンクの帯で、夜と昼の狭間のようにブルーからピンクへのグラデーションが見られます。言葉にできないほど美しい光景なので、私は比較的晴れやすい秋冬になると、「この瞬間をどこで撮ろうか」といつも考えています。 ここで、満月の撮り方のポイントについてもお話ししたいと思います。満月は非常に明るいため、普通にシャッターを切ると白く飛んでしまいます。風景も一緒に撮ろうとすると、より一層その白飛びが目立ってくるものです。 そんな時は雲を使うのも、うまく撮る方法のひとつです。雲はNDフィルターのような役目も果たし、月明かりを減光させてクレーターなど月のディティールを写しながら、風景もきれいに撮ることができます。
上の作品は雲の中に月が隠れています。満月に照らされて下の駿河湾が明るく写っていますよね。この瞬間を見た時、何とも言えない感動があり、雲をNDフィルター代わりにして撮影しました。 月はとても身近な天体です。遠出しなくても街中で撮ることができる被写体ですから、月や惑星をテーマにするとたくさん撮影ができて、良い作品が撮れるのではないかと思います。
高感度に強いαと明るいレンズを使えば 暗いシーンでも三脚が不要になる
私がEマウントレンズを愛してやまない理由は、明るいレンズが数多くラインアップされているところです。F値が明るいことでシャッタースピードが速くできるため、今まで撮れなかったような動きのあるものと一緒に星空を撮ることができるようになりました。
上の写真のように人と星空を一緒に撮る場合も、以前は「30秒じっとしていてください」と声をかけていましたが、今は「ちょっと撮らせてください」とすぐに撮影できますからね。皆さん普通に天体観測をしていましたが、ほとんどブレずに撮ることができました。 動きのあるものと組み合わせた星景写真が私の作品にも増えてきていて、飛行機の中から彗星を撮影した下の作品もそのひとつ。翼の先に彗星が写っているのがわかると思います。
もはや三脚すら使わなくてもいいだろう、という発想になってきますよね。特にαはどんどん高感度に強くなっていますので、高感度に強く手ブレ補正がついたαと明るいEマウントレンズを組み合わせれば、もはや三脚は要らなくなる。飛行機や車の中からの撮影や、三脚が置けない場所での星景撮影が、私の今後のライフワークになっていくと確信しています。 今はなかなか海外旅行できませんが、 ぜひ今後は飛行機の中からオーロラの写真を撮ってみるなど、いろいろな作品づくりに挑戦していきたいと思います。本日はありがとうございました。
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