海鳥が見ている風景に迫れ!
αで地球の真実を記録する
自然写真家の寺沢孝毅氏がCP+2022にてお話しいただいた内容や、発表作品をα Universe記事用に再構成。今回は野鳥だけでなく、海の中の生き物たちもαで撮影。各地で記録した静止画・動画を織り交ぜながら、役に立ったカメラの機能などを語ります。
寺沢 孝毅/自然写真家 北海道士別市生まれ。22歳の時に移住した天売島に住み続け、絶滅危惧種のウミガラスやケイマフリの調査、保護活動を続ける。天売島を小さな地球と見立てて人や自然の営みを撮り続けるほか、極地から熱帯までの海洋環境や海鳥など野生生物をテーマに取材し、地球の素顔を伝える。 画像と音を使った講演活動、「Photo & Sound Live」を全国展開中。 近著に、「BIRD ISLAND TEURI」(TEIRRA images)、「ギアナ高地 謎の山 テプイ」(福音館書店)があるなど著書多数。 NHK の自然番組「ワイルドライフ」「ダーウィンが来た!」などで4K映像撮影を手がけるなど動画撮影にも取り組む。 https://terra-images.jp
海鳥の保護や海洋生物の観察にも注力。 天売島で見つめてきた「人と海鳥の共生」
こんにちは、寺沢孝毅です。今回は「海鳥が見ている風景に迫れ!αで地球の真実を記録する」をテーマに話を進めていきたいと思います。まずは僕が住んでいる天売島をご紹介しましょう。天売島は北海道の日本海側に浮かぶ周囲12km、人口250人の小さな島です。ここには春から夏、繁殖のために8種類、100万羽もの海鳥が訪れます。僕はこの島に住んで今年4月で40周年を迎え、この間に島を小さな地球に見立てて「人と海鳥の共生」を見つめてきました。 これは天売島に移住してすぐに撮影したウミガラス、通称オロロンチョウの写真です。
当時はまだポジフィルムでした。この場所にウミガラスが100羽くらいいたのですが、翌年すっかり姿を消しました。このショッキングな出来事をきっかけに海鳥の保護や海洋生物の観察に取り組むようになりました。それから40年が過ぎ、時代はデジタルに変わっていきます。これはα9で撮ったウミガラスの写真です。
この鳥は40年の間に随分数を減らしました。1963年に8000羽いたものが、2002年は13羽まで激減して絶滅に瀕していたのです。そこでデコイと呼ばれる模型やスピーカーから流す鳴き声などで保護対策を続け、今ではこんな風に群れで飛ぶ写真が撮れるほど増加傾向になっています。
ここで少し話題を変えて、この1年を振り返ろうと思います。1年前はちょうど「α1」が発売されたタイミングでした。僕は随分長い間α1を使ってきたと感じるほど、ずっと使い続けています。 「α1」の優れた点を3つピックアップすると、1つは秒間30コマ、ブラックアウトフリーの高速連写。2つ目は喰らいついたら離さないAF。これは本当に驚くばかりで、私はほとんどの撮影でAF-Cという動く被写体でもピントを合わせ続けてくれるモードを使っています。3つ目は有効約5010万画素の高画素。これは撮った後のトリミングに、非常に有効です。
それより半年前には「α7S III」が発売されました。僕にとって、静止画だけでなく動画でも多用するカメラです。一番の魅力は、暗所でも非常にクリアな画像が得られること。そして、15+ストップの広いダイナミックレンジ。白飛びや黒潰れしそうな状況でもデータがしっかり残っています。さらに4K画質で秒間120フレームの動画撮影ができる。これはスローで表現する時にとても役立ちます。その他にも小型軽量でレンズが豊富、バッテリーや充電器の使い回しができるということで、僕のように頻繁に旅に出るカメラマンには荷物が少なく済むのも魅力です。
2台のカメラと初めて迎える海鳥シーズン。 新しい表現への挑戦が始まる
この2台のカメラを手にして初めて迎える天売島の海鳥のシーズンが、昨年の春でした。どんな新しい表現ができるのか楽しみに迎えたシーズン、その結果を報告したいと思います。
上は「α7S V」で撮った写真ですが、ISO16000に設定しています。ウトウという海鳥で、昼間は海に浮かんでいて、日没後に100万羽の群れで断崖の斜面にある巣穴に戻ってきます。僕が驚いたのはシャッタースピードです。これまではこの時間の暗さで1/500秒で撮れたためしがありません。このシャッタースピードであれば背景の遠い鳥が止まった状態で撮影ができ、これは非常に驚きでした。 こちらは満月が昇り、海面に月光の道ができた時に撮った1枚です。ウトウがシルエットで浮かび上がるような構図で撮影しました。
「FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS」を使って手持ちで撮影しましたが、ISO16000でもシャッタースピードは0.6秒。しかし、「α7S III」にはボディ内に5.5段分の手ブレ補正がついているので、1/100秒で撮っているのと同じような感覚で撮影ができるのです。本当に暗所に強いということを証明した1枚だと思います。 そして3月、ケイマフリという海鳥が天売島にやってきました。今度は「α1」に持ち替えてケイマフリの群れを狙います。
背景に寒々と写っているのは利尻山です。海から鳥たちが飛び立ち、それを追ってボートを操船しながら撮るわけですが、目の前を横切る瞬間、「α1」のAFがしっかりと動体にピントを合わせ、追随してくれました。本当に「手軽に」といっていいほど下のような写真が簡単に撮れるのです。
もっと鳥をアップに仕上げたい場合は、右側の群れをトリミングしても画像はまったく問題なし。これが有効約5010万画素という高画素の成せる技です。 「α1」では難しい撮影にも挑戦してみました。新緑の季節に天売島に渡ってくる、サンショウクイという動きの素早い小鳥の飛翔を狙ってみたのです。
枯れたシダの枝に止まっていますが、ここから17コマの連写ができました。秒間30コマ撮れるので、時間にして0.5秒。その17コマを動画にしたのでご覧ください。
すぐ終わってしまいましたね。もう1回、1/4の速度で見てみましょう。
今度はよくわかります。こちらは飛び立ってから2コマ目の写真です。
しっかりと目にピントが合って、羽を力強く振り上げた瞬間が写っています。 3コマ目は羽を振り下ろしました。
そして13コマ目です。止まっていたシダがもうぼけています。それほど鳥が前に出てきているのに鳥の瞳にフォーカスを合わせている。
これは本当にα1でなければ撮影は難しいのではないでしょうか。私たち使う側の工夫で、撮る被写体、撮影意図に合わせて、いろいろなものが撮れるのではないかと思います。
個々の生き物とあわせて撮りたいのは 生命と生命の多様な連鎖
自分は常々、今ご覧いただいたような生き物の表情や瞬間だけでなく、生命と生命の多様な連鎖もあわせて記録したいと思っています。例えば、春になると天売島にやってきた海鳥たちが下の写真のように水面に突っ込む様子が見られます。
すると僕は、そこに行って何が起こっているのか知りたいと、思うわけです。でも春先はまだ海が荒れ気味で、自分の小さなボートではそこまで行くことができない。そうしたなか、今年初めてその現象の一部を暴くことができました。オキアミの大群がいて、その下にホッケの魚群もあったのです。
つまり、海の上に鳥、下にはホッケ、そこに挟まれるように動物プランクトンのオキアミが群れていたわけです。どんな風に撮影をしたのか、動画にまとめましたのでご覧いただきたいと思います。
ここからは動画を見ながらお話ししたいと思います。冒頭は天売島のウミネコの繁殖地から沖合を見たシーンです。「α7S III」に「FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS」を装着して撮影しました。ズームレンズは手前から奥まで、寄ったり引いたりできるので動画撮影にはとても便利です。ボートの上から「α7S III」をジンバルに乗せて撮っていますが、非常に軽くて小さいカメラなので長時間撮影しても腕はそれほど疲れませんし、安定した撮影ができます。 水中は防水機能のある小型カメラで撮影。最初のポイントは何もいなかったので、カモメの動きを見ながらボートを移動させて撮影をしています。そして、とうとう水面に動物プランクトンの群れを発見。水中にカメラを入れてみると小エビに似た生き物、オキアミの群れだとわかりました。光の加減によってはとてもきれいですよね。 大きなカモメの群れを見つけてはボートを走らせ、カメラを海に突っ込むということを繰り返すわけですが、そんな時はいつも「自分自身が海に飛び込んで、一眼カメラで撮影してみたい」、と思います。海の中は暗いなどの悪条件が多々あるので、「できればα7S IIIを海中に沈めてみたい」という思いが次第に強くなっていきました。海鳥を追いかけている僕にとって、水中は注目すべき場所です。海鳥は水面を駆け、宙を飛び、海に浮かび、海中に潜っていくわけですから。 そこで僕は「α7S III」の水中ハウジングを探し始めます。そして、とうとう見つけたのがこちらです。
シャッターや背面のボタンが押せるように設計された「α7S III」専用のハウジングに 「FE 28-70mm F3.5-5.6 OSS」を入れるポート、つまりレンズを収納するケースを装着したものです。ワイドレンズもつけたいので、「FE 16-35mm F2.8 GM」が入るドームポートも用意。これで、海の中でも「α7S III」で撮影することができるようになりました。海に入る時は、このような姿になります。
自分の表現には欠かせない水中世界 「α7S III」と海中へいざ潜入
そして、いよいよ「α7S III」で水中撮影をすることになりました。時は11月。北海道は時化が多い時期のため、安定した海を探して向かったのは沖縄です。渡名喜島にあるグルクの崎で撮影してきましたので、そこで撮った動画を皆さんにご覧いただきたいと思います。
グルクの崎は、丘のような場所から一気に水深50mまで落ち込んでいるような場所。その崖のまわりには濃い魚影が見られるわけです。この日はあいにくの曇り空で、水中も暗い状態でした。でも、「α7S III」はISO16000で撮り続け、暗さをまったく感じさせないクリアな画像を残してくれました。藻類のグリーンの色彩、そして色とりどりの魚たちや珊瑚。これらを悪条件の中でも非常に美しく見せてくれます。最後は幸運にも日差しが差し込み、映像が見違えるようにバーっときれいになりました。 沖縄の海では動画だけでなく写真も撮影しました。下の写真はストロボを同調させて撮ったものです。海の青さ、周りのサンゴや魚の色彩もとてもきれいですよね。
下の写真はミノカサゴという魚です。まわりを小魚が渦のように取り巻いています。16mmというワイドレンズならではの風景を表現できた1枚だと思います。
水中世界への最終ミッション 「α7S III」と地球上もっとも酷寒の海へ
「α7S III」が海の中で通用するとわかり、もっとも過酷な環境でも試してみたいと思うようになりました。それは、流氷の海です。地球のどこを探しても流氷の海ほど冷たくて大変な場所はない、ということで計画を立てました。 そして、いよいよ流氷シーズンの到来です。1月の中旬、オホーツク海に流氷が接岸しました。この日はマイナス15度。車中泊していた車内の水がコチンコチンに凍るほど冷え込みました。それでは撮影した映像をご覧いただきましょう。
朝日とともに打ち寄せる波を撮ったシーンは、秒間120フレームの画像を1/4のスピードのスローで表現しています。浜辺の氷や海から立ち上る蒸気の描写も、細部までキレイに表現できていると感じます。動画の途中には「α1」で撮影した静止画も入れ込みました。寒さで手の感覚がなくなり、最終的には痛くなってしまいました。そんな環境でもカメラはしっかりと動作するほどタフです。最近は「鳥の目線で見たらどんな風景が撮れるかな」ということで、ドローン撮影もよく行っています。映像の終盤はドローンで撮影したものです。 こちらは動画に挟んだ静止画です。流氷の海とともに朝日が昇ってくる情景を「α1」で捉えました。1.4倍のテレコンバーターをつけて撮影しています。
下の写真も打ち寄せる波を撮ったものですが、真ん中がいい感じの飛沫になっていますよね。秒間30コマで連写したのでこの前後もしっかり捉えています。飛沫の部分を強調して拡大をしてトリミングすると、また違う味付けの作品ができますね。
カメラとともに流氷の海へダイブ! 氷の下の生き物たちを記録
そして、いよいよ「α7S III」を氷の中に入れる時がやってきました。向かったのは知床半島のウトロです。
完全防備をして、シャーベット状の氷をかき分けるように海の中に入っていきます。海に入った瞬間はあまりの冷たさに頬がビリビリと痺れましたが、海中の風景を目の当たりにするとそんなことは忘れてしまいます。そのうち神経が麻痺して痛さはまったく無くなるわけです。海の中にゴミのような浮遊物がありますが、よく見ると細かく動いています。これは動物プランクトンです。自力で動かない植物プランクトンもあります。海面が氷で覆われているので、海中は本当に暗い。間違いなく「α7S III」向きの海です。氷に付着している汚れのようなものは、アイスアルジーと呼ばれる植物プランクトン。光合成をして春に向かってどんどん増殖していきます。これが最終的に海に放たれて動物プランクトンが大発生、さまざまな生き物の命の拠り所になるのです。 暗い海の中ですが、色とりどりですよね。映像途中では半水面で撮るシーンもありますが、流氷の海ではこういった撮影もおもしろいものです。そして、フウセンクラゲにも出会うことができました。逆光の中でもクラゲにしっかりとフォーカスを合わせることができ、長い時間追い続けてくれましたね。おかげできれいな水中の映像を残すことができました。 およそ40分のダイビングで、そろそろ上がろうかという時に僕の前を行く友人が何かを発見したようです。クリオネですね。「氷の妖精」ともいわれていますが、他の動物を食べる意外と獰猛な動物プランクトンなんですよ。クリオネもスローで動きをわかりやすく表現しました。 流氷の海の中の映像、いかがでしたでしょうか。明るい場所、そして暗い場所と環境はさまざまですが、その中でも「α7S III」は見事に対応してくれました。暗闇の中でも色をしっかりと再現して、非常にクリアな映像を残すことができたと思います。 これで「α1」、「α7S III」共に、さまざまな過酷な海へ出かける準備ができました。 今後はコロナ禍で海外に行くことができずに中断していた、オホーツク海の探検航海や、ペンギンやアホウドリの素晴らしい姿を記録するという亜南極への旅など、海の撮影取材を続けていきたいと考えています。 一方、今年天売島では絶滅危惧種のウミガラスが一つの通過点を迎えようとしています。2002年13羽まで激減したウミガラスが昨年91羽になりました。2022年の今年は100羽を超すのではないかと言われているので、僕にとってはこちらも本当に楽しみです。
今回、水中でも大きな成果を上げた機材を持って撮影に出かけたいと思います。皆さまにはこれからも引き続き注目していただけるとうれしいです。本日は大変ありがとうございました。
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