写真家 安彦嘉浩 氏からみたα7 IV
写真家 安彦嘉浩 氏
歴史の終わりよりも、新しい歴史の始まりに魅力を感じるという安彦氏。フルサイズミラーレス一眼という当時の新時代に希望を持ちαを手にし、いまでもαを相棒に、見てくださった方の心がプラスに動かすことを目指し活動しているという。 今回の記事では、そんな安彦氏がα7 IVで撮影した作品とともに、作品作りにおける想いをインタビュー形式でご紹介いたします。
安彦嘉浩/写真家 1989年生まれ、山形県出身。2016年に北海道千歳市へ移住。初ドライブで訪れた支笏湖で目の前に飛び込んできた雄大な景色に心打たれ写真の世界にのめり込んでいった。北海道の風景と野生動物を美しい光とともに表現することを心がけて撮影している。書籍、企業広告、各種メディアに作品提供中。東京カメラ部10選2019選出。
――今回の撮影のテーマ、各作品の撮影状況をお聞かせください。
夏場から初冬にかけて、北海道大雪山系の山々(十勝岳連峰が多め)の風景と動物をテーマに撮影してきました。2年ほど前から山で撮影することに楽しさを感じています。登山×撮影を始めたのは、友人の動物写真家から「山の野生動物は良いぞ」と強く勧められたからでした。数時間の登山の先に待っていたのは、既視感のない美しい環境に暮らすナキウサギやシマリスやキタキツネ。壮大な景色で生活する彼らの虜になるのに時間は必要ありませんでした。一方で、北海道の山の風景そのものにはあまり魅力を感じていませんでした。ところが、登山用品店に陳列されていた市根井孝悦氏の写真集「大雪山―神々の遊ぶ庭」を何の気なしに手に取り目を通すと、ダイナミックかつ繊細でもどこか優しく、大切な人を撮るかの様に表現された北海道大雪山系の作品の数々に雷に打たれたような衝撃を受けました。液晶画面を通して得られる情報だけで魅力があまりない、なんて決めつけていた自分の不勉強さが恥ずかしくなりました。そんなこともあり、今では山岳での風景・野生動物、両方の撮影に熱中しています。
三段山、上ホロカメットク山、上富良野岳に囲まれる谷間にある安政火口で撮影しました。噴気活動で発生したガスが西日に照らされて紅色に染まっています。活火山ならではの景色ではないでしょうか。自分の目で見ていた鮮やかな色味を再現してくれました。
最寄りと言われる登山口から6時間以上歩いて到達できるヒサゴ沼です。キャンプ地にも指定されており、ここでテントを設営して一夜を明かしました。その体験だけでも最上無二と思いきや、夜明けの景色も最上無二でした。すこし寄りで撮りたい状況でしたが、FE 16-35mm F2.8 GMを装着していました。家に帰ってからトリミングすれば良いかとも思いましたが、APS-C S35(Super35mm)モードで撮影を試みました。現場で完成形に近い状態で撮影ができました。帰宅後にRAW現像で少々トリミングをして調整していますが、それでもまだ4Kに匹敵する画素数が残っています。スタンダードモデルクラスの中でも画素数が大きいことが生きた一枚です。
強烈な逆光という状況下で、高い階調表現や忠実な色再現性能などの画質進化を感じることのできる一枚だと思います。あの日、夕日の時間帯に間に合うように急登の斜面を滝汗流しながら登った記憶までも、なんだか美しい思い出として残っています。 十勝岳連峰の秋の訪れは早く、9月下旬には山の中腹で紅葉が見ごろになります。右奥から強烈に注がれる夕刻の光で、色鮮やかさが一段と増しました。画面全体に映る木々のきめ細かな描写力、解像性能をモニター越しに確認すると、より一層風景撮影が楽しくなります。
上富良野岳登山の道中で撮影しました。ちょうど初雪が降った時期で、山肌が雪に覆われている部分と岩が剥き出しの部分が分かれており、季節の境目を感じさせます。雲間から射した一瞬の光で撮影し、奇岩八つ手岩をかっこよく表現しました。描写力豊かなEVFを確認しながら撮影することで、光が美しいタイミングを簡単に確認できました。
淡くピンク色に染まる十勝岳。日の入り間際の撮影です。アーベントロートと呼ばれる現象で、夕焼けが真っ白い山肌に反射しています。62mmの焦点距離で、SS1/25で手持ち撮影しています。α7 IVは最大5.5段分の手ブレ補正が効くため、地球に届く太陽光が僅かになってくる時間帯でも圧倒的な安心感があります。
日本では北海道にしか生息しないナキウサギです。大雪山系の山々を中心に生息しています。紅葉の中で食事中です。冬眠をしないナキウサギは長い冬を生き抜くために秋のうちに貯食するので、特に活動が活発になります。忙しなく一日中働いている姿を見ると、がんばれ!と応援したくなります。リアルタイム瞳AFで瞳にピントが合う写真を量産できるようになり、歩留まりが向上しました。またバッテリー性能が向上しているため、連写を多用する野生動物の撮影でも、スペアのバッテリーを1個持っていけば1日の撮影をこなすことができます。少しでも軽量化したい登山の場面で重宝します。
――安彦様がαを使いはじめたきっかけを教えてください。
小さい頃から新しい物事が好きな性格でした。歴史の終わりよりは、新しい歴史の始まりに魅力を感じるような斜に構えた見方をしてしまったりします。そんなこともあり、写真にもっと本格的に取り組みたい思った時、フルサイズミラーレス一眼という新時代のカメラに惹かれました。露出やWBなどの設定変更がリアルタイムで反映される電子ファインダーに未来を感じましたし、α7やα7 IIを使用されている写真家の方々の作例を見て、光がほとんど当たっていないはずの部分も綺麗な階調で描写するαの性能に感動し、背中を押されました。当時はバッテリーの耐環境性能やAF性能など重箱のど真ん中をつついただけで見つかるようなアラはありましたが、今は問題点が完全に改善され、αシリーズ独自の強みでストレスフリーで撮影に集中できています。αだから撮れたという作品作りができていますので、αを選択したことは大正解でした。タイムマシンが開発された時には、あの時αを選択した自分をたくさん褒めてやりに行きたいです。
――作品作りにおいて、大事にしているポリシーはなんですか。
見てくださった方の心がプラスに動く作品を目指しています。希望、楽しさ、喜び、癒しなど、出来るだけポジティブな感情を抱いてもらえたらいいなと思っています。多種多様なエンタメコンテンツで溢れかえる現代で、僕の写真を観ることに時間を割いてくれるわけです。少しでもプラスになってほしいです。写真撮影を嗜むことのない方に「いい写真だなあ」とか「いつも楽しみしています」といったフィードバックを頂けるととても嬉しくなり、被写体のことを写真を見る前より好きになってもらえることがやりがいにつながっています。
――作品作りにおいて、機材に求める機能、性能は何ですか。
まずは撮影中の性能ですが、高速・高精度なAFと忠実な描写性能といった、カメラとして真っ先に目がいくところを重視します。αシリーズは、BIONZ XRをはじめ高速処理を実現した画像処理エンジンを搭載しているため、先進のテクノロジーで我々フォトグラファーの撮影を手助けしてくれます。 撮影に至るまでの性能で重視していることもあります。耐環境性能と小型・軽量です。 北海道では四季が豊かで、冬はマイナス30度、夏はプラス30度以上という幅広い温度環境で撮影します。そして、水辺から山岳地帯まで様々な場所にカメラを持ち出します。そのような多種多様な環境でも滞りなく撮影できることは必須条件です。もちろん現行のαシリーズでは、どこでもいつでも撮影ができています。 僕の撮影スタイルとして、車から降りて数歩の距離で撮影するばかりではなく、登山やトレッキングで自分の足で稼いで撮影することがあります。そういう時は、カメラ以外にも持っていくものがたくさんあり、ザック内の容量も限られているため、小型・軽量のコンセプトで展開しているαシリーズとの相性はバツグンです。登山では軽いが正義なのです。
――今回α7 IVをお使いいただきましたが、普段お使いのα1と、今回お使いいただいたα7 IVで共通して良いと感じていただけた点はありましたでしょうか。
AF性能は使ってみると機敏で、ストレスなくピントを合わせにいけましたし、α1同様高性能だと思います。2023年現在のテクノロジーをもってしても人と野生動物は通信することはできないのだから、撮影のチャンスはいつも突然にやってきてしまいます。そして同じ瞬間は二度と訪れません。だからこそ、AFは作品作りでの大きな要素になります。新しいカメラを使うときは真っ先にチェックしたい項目です。連写性能やブラックアウトフリーなどα1にしかない性能はありますが、個人的にはα7 IVも高精度・高速AF機として動体撮影にも自信を思ってお薦めできます。また、操作メニューのレスポンスがα1同様にサクサクになっており、設定変更も軽快に行えるのが気に入っています。スタンダードモデルと称されるα7 IVですが、フラッグシップ機と同様の最新画像処理エンジンBIONZ XRの搭載により、高精度・高速AFや操作性向上などα1で感じている機能的メリットの多くをα7 IVでも引き継がれていると感じました。
――安彦様の思うα7 IVならではの魅力を教えてください。
静止画から動画まで、幅広く気軽に楽しむことができるところがα7 IVの魅力だと思います。「静止画/動画/S&Q切り換えダイヤル」で撮影モード変更を素早く直感的に行えます。動画モードでもリアルタイム瞳AFが動物に対しても有効なのは嬉しいです。静止画・動画それぞれで独立した設定を持たせることが出来るのも嬉しいです。僕は基本的に使用することはありませんが、バリアングルモニターにより、自撮り撮影も簡単になったのではないでしょうか。使用感でもお伝えした通り、静止画性能でも大幅に向上しているだけでなく、動画撮影についても身近なものにしてくれるので、フォトグラファーの表現の幅を広げてくれる一台だと思います。 僕は、作品には最低でも4Kを満たす画素数が欲しいと思っています。スタンダードモデルながら、約3300万画素の高画素ですので、トリミング耐性に優れていると思います。大胆にトリミングをしても4Kのクオリティは担保できる可能性が高く、高画素であることは非常に助かります。
――α7 IVの瞳AFの精度はいかがでしたでしょうか。
今回掲載するエゾナキウサギの他にも、キタキツネ、エゾシカ、エゾリス、シマリスなどの大小様々な野生動物を撮影しましたが、α1と同等のAFアルゴリズムを搭載していることもあり、被写体が認識されるとすっと瞳を捉えてくれました。AFについては機材に任せて、構図や露出など細かい要素に集中して撮影できるようになっています。
――作品作りにおいて、トリミングは使用されますでしょうか?
トリミングは使用しています。風景撮影では、RAW現像の際の微調整で少しだけトリミングをすることがあります。また、横構図で撮影した写真をインスタグラムなどのSNS投稿用に縦構図でトリミングし直すこともあります。それでも4K以上の画素は残るので、約3300万画素はありがたいです。動物撮影ではトリミングをしないことの方が少ないです。咄嗟のかけがえのない瞬間が目の前で起きたとき、しっかり画面内に写すことが最優先ですし、相手は動物ですし、理想的な距離感で撮影できない時がありますので、RAW現像の際にトリミングをして意図する構図に仕上げています。高画素が当たり前になった時代だからこそ、トリミングを積極的に行うことができています。 構図について言うと、α7 IVはバリアングルモニターなので、縦位置撮影をするときに液晶モニターの確認がしやすくなりました。他の機種で不便に感じていたポイントなので、α7 IVで解決され撮影が快適になりました。
――普段の撮影で使用されているソニーの純正レンズや純正アクセサリーについて、お気に入りのものがありましたらその魅力を教えてください。
・ワイヤレスリモートコマンダー(RMT-P1BT) Bluetooth通信でカメラと無線接続して使用できるリモコンです。有線ではなく、無線というのがポイントです。また赤外線ではないので、360°全方向からのレリーズが可能です。高速レスポンスで軽快に撮影を行うことができます。僕が使用する自然の環境の中では10mほど離れていてもシャッターが切れます。ネックストラップをつけて、いつも首からぶら下げて撮影に臨んでいます。
――AFの精度に関しての感想や、普段お使いのモードを教えてください。
風景と動物の撮影で使い分けるようにしています。風景ではAFの種類をAF-Sにしています。フォーカスエリアをフレキシブルスポットSかMにして、主題となる物にピントを合わせるようにしています。雪が降る中での撮影などAFが迷いやすい状況以外では、MFでのピントの微調整などはすることはありません。基本的にカメラに完全にフォーカスを任せています。 動物の撮影ではAFの種類はAF-Cにしています。フォーカスエリアはトラッキング:スポットMを使うことが多いです。リアルタイム瞳AFを併用します。レンズのフォーカスホールドボタンに押す間登録フォーカスエリアを割り当て、トラッキング:ワイドに切り換わるようにしています。激しい動きをする被写体が目の前に来たときに、咄嗟に対応できるようにしています。フォーカスエリアの枠を見失ってしまうことを防止するために、枠色を赤色にしています。AF性能に関して様々な細かいカスタマイズが用意されているので、使いやすい設定を少しずつ極めていきたいと思っています。
――APS-C S35(Super35mm)モードで撮影されるということですが、仕上がりの印象はいかがですか?
理論的にはRAW現像時にトリミングすることと同じ意味になるとは思いますが、撮影の現場で完成形を確認できるのが魅力だと思います。カスタムボタンに機能を割り当てて通常撮影とAPS-C S35(Super35mm)モード撮影を切り換えられますし、どちらのモードが有効になっているのか液晶モニター上に表示されるところがユーザー想いだと思いました。
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