映像クリエイター×フォトグラファー クロストーク
AUXOUT × 中野晴代
VLOGCAM ZV-E1が描き出す
シネマティックな映像美
日常をテーマにシネマティックな作品をつくり続けているフォトグラファー/ビデオグラファーのAUXOUTさんと、テーブルフォトを得意とするフォトグラファーの中野晴代さんの対談をお届け。映像とスチール、それぞれのプロフェッショナルが、動画作品で独自の視点や価値観を表現。手にしたカメラはVLOGCAM初となるフルサイズカメラ「VLOGCAM ZV-E1」(以下、ZV-E1)。多彩な機能を駆使して創り上げた映像作品を披露し、互いに自身の世界観を語り合います。それぞれの作品から得られたインスピレーションやZV-E1の使用感などを語っていただきました。
AUXOUT / フォトグラファー、ビデオグラファー アメリカのFull Sail大学で音響技術を学び、音楽業界からデジタルエージェンシー、金融業界を経て現在はフリーの写真家・映像作家へ転向。YouTubeの登録者数は25万人、SNS総フォロワー数は40万人を超え、大手カメラメーカーや国内外グローバルブランドとタイアップを行う。オリジナルのLUTは160カ国以上でダウンロードされるなど国内外の映像クリエイターからも注目を集めている。 https://www.youtube.com/AUXOUT https://twitter.com/auxout_jp/ https://www.instagram.com/auxout.jp/
AUXOUT氏の動画作品
動画の内容テキストはこちら中野晴代 / フォトグラファー 静岡県在住。会社員をしながらフォトグラファーとしても活躍中。旅の記録や美味しいもの、テーブルフォトをメインに撮影している。2019年6月に共著「インスタグラム商品写真の撮り方ガイド」、2020年5月に共著「憧れのインスタグラマー20名に学ぶ 美しい写真術」出版。 https://www.instagram.com/haruyonakano/ https://twitter.com/haruyonakano
中野晴代氏の動画作品
動画の内容テキストはこちら動画撮影でも写真と同様に構図が重要。
カメラワークは考えずに見せ方に工夫を
――お二人は今回が初対面になりますか?
中野さん(以下、敬称略):実際にお話するのは初めてです。以前、ソニーさんのワークショップにAUXOUTが登壇していたのを拝見したことがありまして、ずっと「すごい方だな〜」と思っていました。 AUXOUTさん(以下、敬称略):僕も中野さんの写真は拝見していて、とても画力のある作品だと感じていました。見ているだけでインスパイアされて自分もテーブルフォトをやってみたくなり、そのための機材を大量に買ってしまいました(笑)。実はテーブルフォトは苦手なのですが、家に飾る写真をかっこよく撮りたいと思っていまして。レゴが好きなのでレゴの写真を撮って飾ったりしているので、テーブルフォトを勉強してこういったものを上手に撮りたいんですよね。 中野:私は逆に人物を撮るのが苦手です。AUXOUTさんは人物を主体に作品を撮っているので、今回の対談はとても楽しみにしていました。実は動画撮影にも苦手意識があったのですが、動画は避けられない時代になってきているので「そろそろ始めないとまずいな」と思い、今は手探り状態で撮り始めているところです。 AUXOUT:動画に苦手意識を持ってしまう一番のハードルは何ですか? 中野:カメラワークだったり、シーンの繋げ方だったり、という部分が得意ではないみたいで。だからAUXOUTさんの作品を拝見すると「どうしたらこういうアイデアが出てくるんだろう」と思ってしまいます。自分が撮る動画作品はほぼ定点なので、今の段階では少し動きを出すくらいが限界で……。 AUXOUT:正直、カメラワークなんて無くても撮れますよ。今回、僕がZV-E1で撮影した動画作品もほぼカメラワークはありません。映像をやっているとカメラワークについつい逃げがちなんですが、でも静止画の人たちはむしろ構図力に振り切って作品に力を与えている。当然映像においても構図やアングルはとても大事ですから、そこがしっかりしていれば映像は固定でも十分なのかなって最近おもっています。なので今回の作品では家の中を構図やアングルの工夫でいかに面白く見せられるかという事に僕もチャレンジしています。掃除のシーンはローアングルで、風呂場のシーンは極端なハイアングルで撮影して緩急をつけたり、冷蔵庫や洗濯機の中にカメラを仕込んだりと、いろいろなことを試してみました。
中野:確かに今回の作品はそんなに派手な動きがありませんでしたが、それでもこんなに素敵な作品が撮れることに驚きました。普通に映画を観ているみたいで、私、涙が出そうになりましたから。
――なかでもアングルや構図にこだわったシーンはありますか?
AUXOUT:例えば、風呂掃除しているシーンは天井ギリギリの高い位置にカメラを固定して撮影しています。ここからの目線は自分たちの目では絶対に見えないじゃないですか。Vlogの場合は手持ちで歩きながら撮るなど、目線に近いところから撮ることが多いと思いますが、今回はあえてその目線でないところを探して撮影しました。天井ぐらいまで上げて撮れたのは、小さくて軽いZV-E1だからこそですね。
暗いシーンでも理想通りに表現できるのが魅力。
夜まで撮れる暗所性能は最大の武器
――実際に、ZV-E1で撮影してみての印象や感想を聞かせてください。
中野:手に取ったときに「フルサイズなのにこんなに小さいんだ!」と思ったのが第一印象です。私はこんな仕事をしていながら機械には疎いので、直感的に操作できるのもありがたかったです。αに慣れていることもあると思いますが、「このメニューはここにありそう」というのが大体わかって迷うことなく操作できました。 今回は55mmと85mmの単焦点レンズを使ってほぼ開放で撮影しましたが、フルサイズなのでぼけ味がとてもきれいですよね。ピントが合っている部分はシャープに、ぼけは滑らかに見せてくれるのでメリハリのある映像に仕上げることができたと思います。
中野:あとは高感度性能ですね。今回の動画ではすべてのシーンを、ライティングを組まずに自然光で撮影しました。曇りの日で自然光があまり当たらない暗い場所での撮影だったのですが、このような環境だと全体的に黄色かぶりすることが多々あります。でもZV-E1ではそれがまったくなく、被写体の色をそのままキレイに表現できました。
AUXOUT:僕も動画撮影ではこの暗所性能が強力な武器になると思っています。僕の作品では家の中のシーンのほとんどをISO12800で撮影しています。曇りの日の自然光のみで撮影しているのですが、そんな環境下でも12800まで上げてNDフィルターで減光し、明るすぎる部分を調整すればきれいに撮れます。本来ならばビデオライトなどを用意しなければいけないところですが、それも不要で気軽に撮れるのが魅力です。
AUXOUT:映像はスチルと違い、低照度環境がとても苦手でノイズも出てしまいます。暗くても明るくきれいに見せることができるカメラは本当に少ない。でも、暗いところがきれいに撮れるようになれば夜までしっかり撮影できますからね。夜も撮れるとなると、撮れるものも2倍に増えるわけです。それこそ、旅行に行ったら夜の食事など、暗くても綺麗に残したいものはいろいろあるはず。そういったものが手軽に撮れるようになったのはすごいことだと思います。
また、暗いシーンでもAFが的確に合うのもすごいところ。ZV-E1はAIプロセッシングユニットを搭載していて被写体の検知能力も上がっているので、AFに関してはかなり信頼性が高いですし、動画に適したAF性能があるのも強みだと思います。スチールの場合はどれだけ速くピントを的確に合わせることができるかが重要になりますが、動画ではAFのトランジションの具合も大きなポイントです。ZV-E1はフォーカスが移動しても映像らしい滑らかなトランジションで表現できるので、さすがだな、という感じです。
カラーグレーディングという動画制作でのハードルを
一気に下げる「シネマティックVlog設定」
――色味やルックなどの表現についてはいかがですか?
中野:今回は全編「シネマティックVlog設定」で撮影したのですが、Look(ルック)を「S-Cinetone」、Mood(ムード)を「AUTO」に設定したら、思い通りのちょうどいい色味に仕上げることができました。私はカラーグレーディングをかなりするほうですが、今回はほんの少しの調整のみでほぼ触っていない状態です。 テーブルフォトでケーキやパンを撮影すると彩度が上がり過ぎてしまって黄色がパキッと出てしまうことがよくありますが、「シネマティックVlog設定」で撮ると本当に黄色の補正がいらなくて。実は毎回、黄色の補正には手こずっているのですが、今回はそれがまったくなくて編集がとても楽でした。
――AUXOUTさんはシネマティックVlogの第一人者として知られていますが、「シネマティックVlog設定」についてはどのような印象をお持ちですか?
AUXOUT:今回の作品ではカラーグレーディングをしているので「シネマティックVlog設定」は使っていませんが、LookとMoodの組み合わせによってさまざまな雰囲気に仕上げられるのがいいですよね。映像制作に慣れていない人にとって、カラーグレーディングを含めた編集作業は高いハードルになっていると思います。でも「シネマティックVlog設定」を使えば、簡単に日常を「ちょっといい感じ」に撮ることができる。だから動画を撮る人の裾野が広がる、いい機能だと思います。
――AUXOUTさんのような作品を「シネマティックVlog設定」で再現するなら、どんな設定で撮るのがおすすめですか?
ケースバイケースなので「これ」という感じではありませんが、「S-Cinetone」は自然に見えながらも映画のようなトーンを出すことができるのでおすすめと言えるかもしれません。特に人物を撮るとスキントーンの出方がとてもいい。肌色の調整はカラーグレーディングでも一番大変なところですが、「S-Cinetone」に設定するだけで割と簡単にできるな、という印象です。やはり映画撮影にも使われるカメラ「VENICE」のカラーサイエンスを持ってきているだけあって素晴らしいと思います。
強力な手ブレ補正「ダイナミックアクティブ」を使えば
ジンバル不要で滑らかな動画が撮れる
――そのほかに気になった性能・機能はありましたか?
中野:今回はほとんど三脚に固定して撮影したので使いませんでしたが、手ブレ補正のダイナミックアクティブモードは便利そうだと思いました。私が動画に苦手意識を持っている理由のひとつがジンバルの設定ですからね。毎回ジンバルと格闘してしまって撮影までに時間がかかるので、「ジンバルを使わないで撮れれば」とずっと思っていたんです。旅行でも動画を気軽に撮りたいと思うのですが、今までのカメラではどうしても手ブレが気になってしまって「動画を撮ろう」というテンションにならなくて。でもこの機能があれば、「次の旅行に持って行っちゃおうかな」とポジティブな気持ちになります。 AUXOUT:僕はダイナミックアクティブを使いました。自撮りしているシーンはもちろん、桜のシーンは観光客が多くて三脚を立てられなかったので、ほとんどを手持ちでダイナミックアクティブに設定して撮影しています。
AUXOUT:多少なりとも画面が揺れているシーンはダイナミックアクティブで撮っていますが、手ブレの嫌な感じがなく、滑らかな映像に仕上げることができました。 このカメラはVlog制作で求められる機能がてんこ盛りの一台です。例えばカメラが被写体を認識してクロップする「オートフレーミング」や、構図内の被写体を同じ位置に保つ「フレーミング補正」などはかなり便利ですからね。常にこういったソフトウェアの改良やアップデートがあるソニーさんには、いつも驚かされています。 中野:私もオートフレーミング機能は「すごい!」と思いました。これはまた別の作品撮りの時に試してみたいですね。
感性の趣くままにその場のノリで撮っていく。
事前に構成を固めないのが2人の共通点
――お互いの作品を観ての感想を聞かせてください。
中野:「こういう作品を撮れたらいいな」、というそのまんまですね。先ほどAUXOUTさんが言われていた通りカメラワークも派手ではないので、何となく撮れそうな気がしてしまいますが、たぶん実際は撮れないと思います(笑)。 AUXOUT:撮れますよ(笑)。 中野:でも何ていうか、友達を撮ってみよう、苦手なポートレートにもチャレンジしてみたい、と前向きな気持ちにさせてもらいました。きっとこの作品を見た人は感性を刺激されるのではないでしょうか。本当に映像がきれいですし、アングルや切り取り方も工夫されていて「家の中でここまで撮れるんだ」という驚きもありましたから。洗濯機の中から撮ることにもビックリして、アイデア次第でいくらでもいろんなことができるんだな、と勉強になりました。
中野:作品を観ていて気になったのですが、いつも全体の構成などはどのように決めているのですか? AUXOUT:その場のノリで決めることが多いですが、今回は時系列順に撮っていって「このシーンが来たら次はこのシーンかな」とノリだけでなく雰囲気も見ながらつくっていきました。本来なら無駄撮りをしないように、最初に全部構成を決めて絵コンテをつくったりすると思いますが、僕は絵コンテが苦手ですし、おそらく撮っているうちに「これじゃないな」と思って全然違うことをやりたくなったりすると思うのでノリ重視になってしまいますね。 中野:実は私もコンテを描くのが苦手で、ノリで撮っていくタイプ。素敵な作品を撮られている方はみんな絵コンテをつくっていると思っていて、「自分のやり方はよくないのでは?」と思っていましたが肯定された気がして安心しました。 AUXOUT:その辺を自分の裁量でできてしまうのがVlogですよね。これがウェブCMの撮影でタレントさんがいて……となるとなかなか難しいですから。 でも中野さんの作品も僕の中では驚きでした。僕の場合はカット数がめちゃくちゃ多くて、シーンをコロコロ変えることで画を持たせているところがあるので、ここまでテーブルをつくり込んで、それを映像にするという発想が全然なかった。映像の世界観や色味もかっこいいですよね。先ほど「S-Cinetone」とちょっとした調整で、とおっしゃっていましたが、そこにある色で世界観を創り上げているところがすごい。動画をやっている人は「カラグレで何とかすればいい」と思っている人が結構多いんですよ。カラグレは確かに重要ですが、「そこにある色で、どう世界観を作っていくか」というとても大事なことを再認識させてもらいました。
AUXOUT:参考までにお聞きしたいのですが、今回のテーブルセッティングにはどのくらい時間がかかっているんですか? 中野:ああでもない、こうでもないとかなり試行錯誤するので、撮るまでに1時間近くかかっています。テーブルフォトを撮る方はみなさんそうだと思いますが、ミリ単位で調整しながら撮影しているんですよ。スチールは後で合成することもできますが、動画ではそういった誤魔化しができないのですごくシビアになりました。 AUXOUT:そこまでこだわっているからこそ、この半端ない画力になるわけですね。僕の場合はミリ単位どころか余計なものが映っていることにも気が回らないことが多いですから。ここまで緻密にやればこれだけのものが撮れる、ということがよくわかりました。 中野:そう言っていただけるとすごくうれしいです!
動画制作に慣れることが一番の近道。
最初はこだわりを捨て、妥協することも大切
――お二人は動画だからこそ表現できるもの、残せるもの、伝えられるものをどのように考えていますか?
中野:私が撮っているようなテーブルフォトも、少し動いているだけで印象がまったく違うんですよね。静止画だと何となくリアルに見えないというか、動いていることで真実味が出て臨場感も表現できるような気がします。例えば紅茶を淹れているシーンも少し動きを加えるだけで、見ている側もワクワクするというか、想像力が広がる感じがするじゃないですか。
AUXOUT:僕の作品は日常の映像がメインなのでホームビデオ感覚で何回も見直しちゃうんですよね。今後5年、10年と経って見返した時には今とはまた違う感覚になる気がして楽しみです。純粋に「思い出を残す」という行為自体は写真も変わらないですが、映像の場合は人に観てもらう時に、写真よりもエモーショナルな、情緒的共感みたいなものを強く伝えられると思うんです。先ほど、中野さんにも「涙が出そうになった」と言っていただきましたが、観てくれる人はそれぞれの捉え方をしてくれる。それが映像ならではの「残せるもの」であり、「伝えられるもの」なのではないかと思います。
――ZV-E1はどんな人におすすめのカメラだと思いますか?
中野:私と同じように、静止画は撮っているけれど動画に少し苦手意識がある人にこそ触ってほしいカメラですね。手にすっぽり収まるコンパクトさ、ジンバルいらずの優秀な手ブレ補正機構など、動画でもストレスなく撮影できると思います。ですから、これから動画に挑戦したいけれど何となく難しそう、と思っている方にこそ使ってほしいカメラです。 AUXOUT:「とにかくVlogが一番きれいに簡単に撮れるカメラが欲しい」という人におすすめです。暗所、手ブレ、AFに長けていてシネマティックVlog設定まである。僕が数年間かけて撮影技術を磨いて補っていた部分が全て網羅されているんですから(笑)VLOGCAMという名前が「Vlogレベルの動画しか撮れないカメラ」と誤解されるかもしれないんですが、機能面を見ればカジュアルムービーカメラの最高峰的な位置付けなので「映画のようなVlogが撮れるカメラ」と両輪を求めている人にはベストなカメラだと思います。 また、フルサイズのαを使っている人には、サブカメラとしてもおすすめです。仕事では「α7S III」、旅行に持っていくなら「ZV-E1」といった使い分けもできますよ。
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