α7R VとG Masterで描く 野鳥の静と動
写真家 山田芳文 氏
2023年2月23日から26日まで開催されたCP+2023。ソニーブースで行われたスペシャルセミナーの内容をα Universe記事用に再構成しました。山田芳文さんがこれまでαで撮影してきた作品とともに、αを手にしたきっかけや野鳥の上手な撮影法について語ります。
山田芳文/写真家 「100種類の鳥よりも、1種類を100回」をモットーに野鳥を撮り続ける。 野鳥の周囲の風景も大きく取り入れた鳥がいる風景写真をライフワークとする。 『SONY α6600 基本&応用撮影ガイド』(技術評論社)、『写真は構図でよくなる!すぐに上達する厳選のテクニック23』(エムディエヌコーポレーション)、『やまがら ちょこちょこ』(文一総合出版)など著書多数。最新刊は『SONY α7 IV 完全活用マニュアル』(技術評論社)。
野鳥の「静」と「動」をいかに捉え、その鳥らしさを表現するか
本日は「α7R VとG Masterで描く野鳥の静と動」というタイトルでお話しします。 最初に写真を2枚お見せします。この写真はオジロビタキという鳥です。一番の特徴は尻尾を上げ下げするところで、背景と距離を置いた位置にカメラの位置を決めて、収まりよく撮っています。でも、1枚目のカットは、僕はOKとは言いにくい。理由は尻尾を上げ下げするオジロビタキらしさが出ていないから。
一方、2枚目の写真ではその「らしさ」が表れています。前の写真との一番の違いはポージング。尻尾を上げた直後にシャッターを切っただけですが、オジロビタキらしさが出ています。とはいえ動きに乏しい。そこで、尻尾の動きをいかに表現するか?
ポイントはシャッタースピード。この写真には動いている感じが表れていますよね。ここでの「静」は瞳。瞳が止まっていることが重要です。「動」は尻尾であり、両翼であり、くちばしの上部ですね。動いている所をブラすことで動感を表現できました。シャッタースピードを見てください。1/125秒です。僕の場合、現場でシャッタースピードを決める際は、まずは丁寧に観察します。ここでは1/125秒で十分ブレると判断し撮影をしています。
α7R Vの高い解像感で、撮影のスタイルが変わった
上で見ていただいた3枚の写真はα1で撮影したものです。以降はすべて、α7R Vで撮ったものをお見せします。 冒頭に、オジロビタキの「らしさ」という話をしましたが、撮り手の「らしさ」もあります。
ここに2枚の写真がありますが、同じ写真です。左がフル画像で、その白枠部分を拡大したのが右。引きで撮るとカメラとレンズの本当のポテンシャルが表れます。トリミングで拡大した画像を見ても、超望遠で撮ったものと区別がつかないでしょう。FE 50mm F1.2 GMで撮っていますが、写りのいいカメラとレンズなら、このような撮り方でも問題ありません。
この写真もオジロビタキですが、少しだけ画角を広げました。 FE 24-70mm F2.8 GM II を39mm域にして撮影しています。前の写真と異なるのはライティングです。曇天のような光が拡散した環境ではねむい写真になりがちなのに、びしっと写りました。高い位置から見下ろし気味に撮っているのは、落ち葉を写すことで季節感を伝えたかったから。こういう撮り方は、本当によく写るカメラでないと難しい。
こちらの写真では、斜面の低い場所からあおるように撮ることで空を多めに取り入れました。FE 50mm F1.2 GMで撮っています。
次の写真はFE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSSを400mm域にしてAPS-C Super 35mmでクロップ、つまり、600mm相当の画角で、バストアップで切り取りました。クロップしているのですがさらに拡大してみたいと思います。
拡大してもよく写っていますね。ここまで写ると図鑑に載っていないこともわかるんです。フォーカスポイントはオジロビタキの目ですが、くちばしの根元の黒い毛が見えます。くちばしの上部の毛は太くて長く、下の毛は細くて短い。α7R Vはここまで写るんです。
続いてオオハクチョウの足のクローズアップ。歩いているところを被写体がブレないギリギリのシャッタースピードで撮った結果、ISO感度が4ケタになっています。ところが、静止後にISO200に下げて撮ったものと比べたら解像感がほぼ変わらなかったんです。本来は、ISO感度を上げればノイズが発生して解像感も落ちるのですが、α7R Vには当てはまらないのかもしれません。
こちらはFE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSSを400mm域で撮影しています。朝の太陽が昇る直前ぐらいの時間帯に逆光気味から撮っています。ラインライトになって、オオハクチョウの輪郭が出ていますよね。400mm域でオオハクチョウを小さく映している。つまりカメラから被写体までの距離が遠い中で撮影をしています。距離が遠いと空気の層が多いぶん、シャープに結像しにくくなります。いい条件とは言いにくいのに、ここまで写りました。
この写真は、1羽を小さく写すことによって、ぽつんとした感じを出したものです。このように背景を広く取る撮り方は、メインの被写体が解像不足になるので、しっかり写るカメラでないと難しい写真です。
シビアな撮影環境でも外さない、高精度なリアルタイム認識AF
ここからはα7R Vのリアルタイム認識AFの話をします。α7R Vを使ってみて一番すごいと思った機能です。
これはアメリカヒドリという鴨のオスです。鴨は地面にへたり込んで反対を向き、羽に首を突っ込んで休むので、瞳を認識できないのでは?という予想でしたが、余裕で認識してピントを合わせてくれました。 そこで、テストのハードルを上げてみます。これはホシハジロという鴨のオスが水浴びをしているところを、フォーカスエリアを広めにしてトラッキングゾーンにしています。水しぶきのほとんどがエリアに入る設定で撮ったのに、水しぶきにピントが持っていかれることはなく、1分ほど断続的に連写している間も、瞳を外すことは一度もありませんでした。
さらに、ハードルを上げていきます。次の写真はキビタキの雌が正面を向き、両眼が見えている状態です。尻尾がほとんど見えていないので、どこに瞳があるかの認識が難しいと思っていたのですが、簡単に認識して焦点が合いました。
こちらはヤマガラが下を向いて水を飲んでいるところで、足が重なり沈んでいます。どこに目があるのか認識できないのでは無いかと思っていたのですが、迷うこともロストすることもなく、余裕で合焦しました。
最もハードルが高かった撮影シーンが、正面を向いで泳ぐオオハクチョウを小さく写した次の写真です。一般的に、首が長い鳥は瞳を認識しにくい傾向が強いのですが、迷うことも、ロストすることも、トラッキングに変わることもありませんでした。α7R Vのリアルタイム認識AFは本当にすごいと思います。
高感度に強いエンジン、強力な手ブレ補正で手持ち撮影の幅が広がる
α7R Vは高画素機なので、高感度でのノイズが気になる方もいると思います。次の写真はシロハラをISO1600で撮ったものですが、いかがでしょうか?
ISO感度をどこまで上げるかは人によってだいぶ違うと思います。僕自身は4ケタにすることに抵抗があって、普段はあげたくありません。テストとしてISO1600で撮ったのですが、問題なし。さらに1段上げて、ISO3200でメジロを撮ってみたのが次の写真です。有効約6000万画素オーバーの高画素機で、ISO3200でこの解像感。僕としては十分です。
そこからさらに1/3段上げてISO4000で撮影しているのがこの写真です。データを見るといかに暗いかわかりますよね。太陽が沈んだ後に、実は手持ちで撮っています。僕はあまり手持ちでシャッター切らないのですが、FE 600mm F4 GM OSSを1/40秒でシャッター手押ししています。手ブレ補正をONにしていますが、α7R Vは手ブレ機能もかなり効きます。
きわめて高い追徴性能と、使いやすく進化したボディデザイン
最後にAFの追従性能のお話を。最初の写真はコハクチョウが飛んでいるところをAF追従のテストの為に撮ったものです。これは空抜けで相応のサイズで撮影という追従がしやすい条件でしたので、全く問題ありませんでした。そこで、ちょっとハードルを上げてみます。
次はFE 70-200mm F2.8 GM OSS IIを200mmで撮影したもの。そんなに小さく感じないかもしれませんが、ファインダーで見ると米粒に近いサイズでの撮影です。それでも追従してピントも外しませんでした。
そこで、もっと攻めてみます。FE 24-70mm F2.8 GM IIを70mmにして撮ってみました。ファインダー上ではコハクチョウがもう点にしか見えません。それでも追従しました。通常は135mmあたりで撮る状況をテストの意味もあって70mmで撮ったのですが、仕上がりは十分。Instagramにアップしてスマートフォンで見ると、どこにコハクチョウがいるのかわからないようなサイズです。それぐらいでもAF追従するということです。
最後の写真は、α7R Vのスペシャルコンテンツのアザーカット。黄色い紅葉をバックに撮ったのですが、このようにピントが背景に持っていかれやすい状況でも問題なし。フォーカスエリア大きめにして、被写体認識をONにして、認識対象を鳥にしてAF-Cで撮る。それだけです。なのに、まったく後ろに持っていかれない。
α7Rシリーズは高解像度モデルのシリーズで、僕はα7R IIIから使っていますが、今回のα7R Vは高解像度モデルのひとつの解答というか、完成形にというか、そんなカメラかなと思っています。
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