"フォトグラファーの気持ちに寄り添う"レンズとボディ… 魚住誠一さんが語る「FE 50mm F1.4 GM」×「α7R V」の高い完成度
写真家 魚住誠一 氏
「ポートレートでαといえばこの人!」の、魚住誠一さんに話を聞きました
ソニーのミラーレスカメラを早くから使いこなす魚住誠一さんが、最近力説しているのが「FE 50mm F1.4 GM」の使いやすさと画質。特に「α7R V」との組み合わせが素晴らしいとのことです。その魅力を魚住さんにじっくり聞いてみました(聞き手:武石修)
魚住 誠一/写真家 愛知県生まれ。名古屋学院大学商学部卒。 バンドマンとカメラマンの二足の草鞋を履く。主にポートレートを中心に雑誌、web、広告、写真展で作品を発表。 月刊カメラマン表紙を6年担当。 合同展であるポートレート専科を主催。 現在、新しい写真表現を模索中。 オーディオオタク。
ミラーレスに将来の可能性を見いだす
――αを使い始めたきっかけを教えてください。
10年ほど前に世の中にミラーレスカメラが出てきて、新しい時代の幕開けになると感じました。多くのカメラメーカーが日本にある中で、ソニーがイニシアチブを握って動けば、全部が追いかけるだろうという予感を多くの人が持っていたと思います。
ただ、その段階で一眼レフカメラをフルセットで使っていた人がミラーレスに移行するのは難しかった。レンズも揃っていませんでしたし、初期のミラーレスカメラはAFスピードが遅く、タイムラグも気になりました。でも、大口径レンズの絞り開放でもピントがしっかり合うので、ゆっくり撮る分には「これはいいな」と思って使い始めました。
それこそ初代「α7」から使っています。最初は馴染めませんでしたね(笑)。それまで15年、デジタル一眼レフカメラは目を閉じても操作できるレベルでした。ソニーに変えてからは、体が付いて来なくて大変でしたね。”自分がカメラにあわせて撮る”ことを1年くらいはしていました。
すると今度は一眼レフカメラに戻れなくなりました(笑)ミラーレスカメラの可能性を信じて撮る方が面白いと感じたんです。年齢的にも機材を総入れ替えするなら今しかないと思い、ミラーレスカメラしか使わないと決めたんです。それ以来、すべてのα7シリーズとα1、α9シリーズも使ってきました。
カメラマンに寄り添う「AIプロセッシングユニット」
――今お使いのαは何ですか?
「α7R V」です。「AIプロセッシングユニット」が入ったという触れ込みでしたが、説明書を読んでもよくわからない。「流行っているからAIという言葉を入れたんだろう」くらいに思って使い始めました(笑)
ところが、スチルも動画も「今ここにピントが欲しい」というところに即座にピントが来てくれるんですね。以前は「そっちの瞳じゃないのに……」ということもあったのですが、僕の中で90%以上はカメラにお任せで良くなったんです。
――α7R Vは「AIプロセッシングユニット」で被写体検出精度が上がりましたね。
おかげで、いままでピント合わせに使っていた能力をほかに使えるようになった。特に、撮影中にフレームの外を見られるようになり、周辺の人がどうなっているかや、自転車が来たから避けようとか、あるいはモデルのメイクの具合とか……重要なことに注意を向けられるようになったのは大きいですね。
カメラマンが大事にしているマインドに寄り添ってくれるのが「AIプロセッシングユニット」だという気がします。それをソニーが真っ先にやった。まさに「パンドラの箱を開けたな」という気持ちです。画素数や連写など数字で語るスペックではなくて、撮る人の気持ちをめちゃくちゃ考えたなと思ったんです。
フォトグラファーが被写体に感じた気持ちをこのカメラも同じ思いでサポートしてくれるイメージです。この点は、今までフォトグラファーとカメラは仲が悪かった。「俺がこう思っているのに、なんでそう撮っちまった?」と(笑)。今回「AIプロセッシングユニット」が付いたことで、「おまえ、実は良いやつじゃん」という気持ちになりましたね。
50mmは撮る人の個性が出る
――レンズの焦点距離をどのように考えていますか?
焦点距離が長くなるほどカメラマンの個性は出しづらくなります。85mmがポートレートレンズと言われる理由はよくわかりますが、例えばそれでバストアップを撮ったとき、違いが明確に出るのかというと難しいですね。背景や光などの違いは個性になるのでしょうが、50mmと85mmなら50mmのほうが違いが出やすいと思います。
50mmレンズの良さというのは、自分の見ている感覚に近いということでしょう。だから、被写体をどう見ているかが写真に現れやすいということです。その人がどう見ているのかを表現するのに50mmは適しています。アングルの少しの違いでも個性が出ますからね。
一方で35mmだといっぱい写ってしまうので、「どこを見せたかったのか」がわかりにくい。「写真は50mmに始まって50mmに終わる」という方がいらっしゃいますが、その通りだと思っています。
――開放F1.4のレンズは必要でしょうか。
F1.4で1/125秒、常用ISO感度域でモデルを撮る光って絶妙に良かったりするんですよ。写真は明るい部分に注目されがちですが、シャドウ部にはわびさびみたいなものがある。そこが撮れているとモデルも「うまく撮ってもらっている!」と感じるんだと思います。明るい写真というのは本当に沢山あるんですが、それに加えて光の少ない場所でシャドウを生かした写真があるとさらに良いんですね。
とにかく軽く、それでいて高画質
――「FE 50mm F1.4 GM」を手にした第一印象はいかがですか?
「FE 50mm F1.4 GM」の前に、先に出た「FE 50mm F1.2 GM」を2年使っていました。F1.2なのに小さくて軽いレンズでしたが、当然「FE 50mm F1.4 GM」はさらに軽い。首から提げたとき、カメラがお辞儀をしなくなったのはとても良いですね。撮るときにカメラが下を向いているのと前を向いているのでは全然違います。ボディとの重量バランスが素晴らしい。
今回「FE 50mm F1.4 GM」が出たので使って見たら、お辞儀しないわAFスピードも速いしで「ああ、気持ちが合うな」と(笑)。何の問題もなく使えています。
――50mmといえば「Planar T* FE 50mm F1.4 ZA」も以前からありますが、違いはいかがでしょうか。
その時代のレンズからすると、同じ50mm F1.4なのにAFが速くなり、描写の性質が全然変わっています。Planarのぼけ味や描写にこだわる人もいらっしゃいますが、僕にとっては「FE 50mm F1.4 GM」の方が描写がきれいで後処理もしやすく感じます。
逆光でもしっかりしたコントラスト
――それでは「FE 50mm F1.4 GM」で撮影した作品を見ながらお話を聞きたいと思います。まずはこちらですね。
今回はほとんど絞り開放で撮っています。顔を斜めから撮るなら両眼にピントを合わせるためにF2~F2.8まで絞るところですが、これはF1.4です。
実は黒目にピントが合うよりも、まつげの付け根くらいにピントが来ると一番シャープに見えるんです。「α7R V」と「FE 50mm F1.4 GM」のすごいところは、僕の思っているまつげのアイラインの中心に合わせようとしてくれることです。これは今までありませんでした。全部ではないですが、7割方そうしてくれるので安心しています。だから画角など、ピント以外の画作りに集中できるわけです。
――次の作品は逆光のシーンです。
ビルの中で光を背にして撮影しています。逆光で撮るメリットは首、肩、顔、腕に光が入るので、モデルがスタイリッシュに見えること。背景の白とびは気にしないようにしていますが、それでもダイナミックレンジの高さは感じられますね。以前だとこうしたシーンではコントラストが弱くなっていたと思います。ほとんどレタッチ無しでこの画が出てくるから驚きです。
――続いてはアップの作品ですね。50mm F1.4とは思えないほど寄っています。
ダイレクトマニュアルフォーカス(DMF)で撮影しています。DMFはAFで合わせた後にマニュアルで微調整する機能です。なかなかここまで寄るのは難しいと思いますが、女性ポートレートの甘い感じを出したかったら、このくらい寄ってもいいと思いますよ。これを見たら、みんな「寄ろうかな」という気になるでしょう(笑)。ここまで近づくとAFの打率は落ちますが、そこはDMFという手がありますから、それでガチピンで撮れます。
階調表現も文句なし
――今度は全身を写した作品です。
背景の抜けを意識して、横位置で全体を見せる構図にしています。点光源のぼけがラグビーボール形になっていますが、そんなに嫌な感じでは無いですね。引いているのでもう少し硬いぼけになるかと思いましたが、本当にきれいにぼけました。
緑の服のモデルを敢えて植物の緑の中に置いています。こういうときオールドレンズだととろける感じになりますが、このレンズはピントの合った部分がバチッと出るコントラストの強さがあります。照明もレフ板も使っていません。地面が明るい色なのでその反射光を利用できる位置にモデルに座ってもらっています。
――階調や色はどうでしょうか?
「α7R V」とのマッチングがきっとあると思いますが、凄く自然になだらかな階調ですね。カメラがチューニングした画ですが、自然で良いと思います。
WBもオートなのですが、文句の付けようがないですね。肌色がきれいに出ています。同時記録のJPEGですが、現像時の基準にもなるので後の作業もしやすい。
――こちらは壁の前で撮影した作品ですね。
余計な色を足さずに引きの画でシンプルにまとめました。写真は引き算と言いますが、引くのもまた難しいので最初から足さないようにしました。もちろん、顔認識AFが効いています。
こういった構図は35mmから50mmのレンズが作りやすいですね。ちょっと引くと広角レンズで撮影したような画を作れるのも50mmの魅力です。
動きのある人物もピント合わせは楽
――そしてガラスジャーを持っているカットですが、きちんと目にピントが合っています。
まったく影響されず、自動で瞳にピントが合いました。こういうときに心配なくきちんとピントが合ってくれるのがありがたいですね。
うしろは雑居ビルで、居酒屋の看板が出ている状況です。絞り開放で1枚撮ったら全部ぼけてくれました。絞り開放でもこれだけエッジがついた画が出るので、安心して開けられます。
――続いては動きながらのショットです。
連続撮影モードではなく1枚撮影モードにして、短い間隔でシャッターを切っています。目線ありやなしで何度か回ってもらい、良いカットを選びました。絞り開放ですが、動いている被写体でもしっかりピントが来ていますね。後ろ向きの時も後頭部にピントが合っていて、背景に抜けるようなことはありませんでした。
よりぼけの大きな「FE 50mm F1.2 GM」
――50mmのG Masterといえば「FE 50mm F1.2 GM」も人気ですが、使ってこられた魚住さんの評価は?
このレンズは光が柔らかくて弱いところでの空気感の描写が良いんです。この写真もそれを意識して撮りました。
本当にF1.2の空気感ですよね。柔らかさのある描写です。この空気感はF1.4ではたぶん出てこないでしょう。コントラストのゆるさがありますが、そこはモデルのキリッとした表情を持ってくると塩梅が良いんです。それで、「ちょっと強い目でレンズを見て」というリクエストをしています。
――こちらは暗い場所でのものでしょうか。
そうですね。ハイライトに対して、左側がシャドウに落ちることで眼の雰囲気が生きてきますね。かなり暗くて、F1.4のレンズだとここで撮ろうとはあまり考えなかったと思います。光の少ない所でも、このレンズとαがあれば「普段と違ったモデルの表情を撮れる」と考えています。
AIで大幅に打率アップ
スピードも上がったし、ピントの打率も上がってきましたね。自分の欲しいところにピントが合うということは、カメラがカメラマンの気持ちになってアシストしてくれる良い相棒になったということです。
「今欲しい!」と思ったとき、ピントがすでに来ているイメージなんですね。昔は「フレキシブルスポットAF」でフォーカス枠を動かしながらやっていましたが、いまはほとんどいらなくなりました。
そして、被写体が遠くて小さくてもほぼ合うようになりました。以前はピントが合ったように見えても、背景にいってしまったこともよくありました。「ここまで来たら、次の進化はどうなるんだ?」というのが正直なところです。
ポートレート撮影の幅が大きく広がった
――「FE 50mm F1.4 GM」「FE 50mm F1.2 GM」はソニー純正レンズですが、純正ならではの強みを感じられていますか?
安心感はすごくありますね。現場に行ってきちんと動かないのが一番まずいですから。機械である以上、どうしても不具合は出るかもしれない。そこで予備の機材も持ち歩いてはいますが、今まで使っている純正のボディとレンズでトラブルは起きていません。
そしてこのボディだからこそレンズの良さが引き出されているわけですし、このレンズの描写が好きだからこのボディを選ぶというのはありますね。サードパーティレンズを否定することはありませんが、僕が単焦点レンズを使っていることに関して、現状で行くなら「FE 50mm F1.4 GM」と「α7R V」の組み合わせが最高に感じます。
――このレンズを使うようになって作品制作でプラスになった部分はありますか?
前の世代のレンズを使っているときは、写真を撮るという行為に対してカメラ、レンズと格闘していた感じでした。今回それが取り払われたので周りが見えるようになった。これがやはり大きいですね。タレントやスタッフに気を使えます。だから、明らかに作品は良くなったと思います。しかも、これまでよりも短い時間で撮影が終わるようになったのもありがたいところです。疲れにくくなりました。
「FE 50mm F1.4 GM」は、ポートレート撮影の幅を大きく広げてくれるレンズですね。もしズームレンズしか持っていなくて、「単焦点レンズにチャレンジしたいけれど、どれを買って良いかわからない」というなら、まず1本目としてはこれじゃないでしょうか。G Masterなら自分の写真に言い訳できませんし(笑)
モデル:平井紗凪(ルージュブック) ヘアメイク:松岡奈央子 撮影アシスタント:横山英雅 肖像・製品撮影:曽根原昇
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