望遠ズーム?それともマクロ?どちらにもなる新レンズ「FE 70-200mm F4 Macro G OSS II」
花写真家 並木隆さんにそのメリットを聞く
写真家 並木隆 氏
ズーム全域F4の望遠ズームレンズにして、最大撮影倍率2分の1を実現した「FE 70-200mm F4 Macro G OSS II」。様々な使い勝手が考えられるこのレンズについて、花マクロ専門の写真家に印象を聞いてみました。 話をうかがったのは、花写真家の並木隆さん。発売前からいちはやく活用していたという並木さんは、このレンズにどのような感想を持ったのでしょうか。
並木隆/写真家 高校在学中より写真家・丸林正則氏に師事。現在はフリーランスで年間を通して花や自然をモチーフに各種雑誌誌面で作品を発表する傍ら、数多くの写真教室で200名にもおよぶ生徒へ指導を行なっている。公益社団法人 日本写真家協会、公益社団法人 日本写真協会、日本自然科学写真協会会員。
花の撮影で使うレンズ、実は……
――並木さんの場合、花の撮影でどんなレンズを使用しているのでしょうか。 14mmや24mmの寄れる広角レンズ、135mmまたは200mmの望遠レンズ、あとは余裕があれば90mmのマクロレンズです。この3本がメインになります。
――意外にもマクロレンズは少ないのですね。 いまは単焦点レンズ、例えば「FE 135mm F1.8 GM」を使うことが多いのですが、かつては70-200mm F2.8の望遠ズームレンズに1.4倍のテレコンバーターをつけて、300mm近い焦点距離のレンズとして使用していました。
――望遠ズームレンズを使うシチュエーションとは? 被写体に寄って大きく写すというより、背景や手前のぼけを大きくするのが主なケースです。正直いって、望遠ズームレンズに最大撮影倍率の高さは求めていなかったですね。
――マクロといえば三脚を使って撮影するイメージがありますが、並木さんの場合は三脚と手持ち、どちらの撮影が多いですか? 圧倒的に手持ち撮影が多くなりましたね。手持ち撮影の方がアングルの自由度が高いためです。ただし手持ち撮影だと(前後のブレで)ピントを外す確率が高まるので、三脚の必要性はもちろん理解しています。それぞれ一長一短ですね。
――フォーカスはやはりマニュアルでしょうか。 マニュアルフォーカスの方が楽ですね。オートフォーカスも便利で精度も上がってきていますが、合わなかったとき、合わせ直す手間がどうしても生じます。それを考えると、マニュアルフォーカスで撮ってしまうことがほとんどです。あとは数mm単位の微妙な前後のフォーカス調整が必要なので、マニュアルフォーカスにして、手持ちで体を前後させて合わせています。
望遠ズームレンズなのにハーフマクロ撮影が可能
――このレンズのスペックを聞いて、どのように感じられましたか? やはり、レンズ単体で1/2倍まで撮影できるのが大きいと思いました。これまでも新製品で「最短撮影距離が少し短くなった」という程度の変化は体験してきたのですが、最大撮影倍率を意識させるような望遠ズームレンズはいままでなかったですから。
作品を鑑賞
――ではFE 70-200mm F4 Macro G OSS IIで撮影した作品を観ていきましょう
■作品@
――かなり小さな花に見えますが、実際にはどれくらいの大きさだったのですか?
直径1cmちょっとくらいですね。花の真上から撮っています。右下の花は背が高く、前ぼけに利用しました。真上から撮ると地面の茶色が写りがちなので、できるだけ下草が生えていて、背景ぼけがグリーンになるような場所で撮っています。花の白さを際立たせるためですね。
――望遠ズームレンズの近距離撮影という先入観で鑑賞したのですが、シャープに解像していてびっくりしました。 おそらく1/2倍での性能を考慮して設計されているのでしょう。望遠ズームレンズですが、マクロレンズのような解像力を感じるレンズです。どのレンズも寄れば寄るほど収差が目立つものですが、このレンズは絞り開放で被写体に近寄ってもシャープなままです。
――ぼけもなだらかできれいに感じます。 そうですね。例えば「FE 90mm F2.8 Macro G OSS」のようなマクロレンズと比べると違ってくるのでしょうが、望遠ズームレンズの近接撮影でこれだけぼけが美しく、しかも絞り開放でシャープ。ものすごく優秀なレンズだと思います。
■作品A
――こちらもかわいらしい花の作品です。ピンクの色合いもきれいですね。
逆光で撮っています。手前にかかっているピンクは別の花を前ぼけにしたものです。色を作ったり、邪魔なものを隠したりと、前ぼけは頻繁に使いますね。
――望遠ズームレンズで前ぼけを作るコツを教えてもらえますか? 前ぼけにする被写体をレンズの近くに置くケースがあると思いますが、近すぎるとぼけが薄くなったり、隠そうとしてものが透けて見えたりと、効果がいまひとつになります。200mmの場合、前ぼけにする被写体はレンズ先端から70~80cmくらい離した方が良いですね。
――今回の作品はすべて「α7R V」で撮影されています。「α7R IV」より良くなったと感じられた点はありますか? 色が良く残るようになりました。露出を大きくして明るくしても、色が白っぽくならずしっかり残るので、階調の再現性が広がっていると感じています。例えば空を背景にして+4.0EVまで上げると、たいてい空に色は残らず真っ白になります。ところが「α7R V」だと色が残っている。僕は基本的にJPEGで作品を撮っていて、必要に応じてRAW現像する程度。なので、よりRAW現像しなくてすむようになったのはありがたいですね。
■作品B&C
――こちらの2点はどういう作品でしょうか。
同じ位置からピントの位置を変えて撮り分けてみました。遠景の方はどの望遠ズームレンズでも撮れると思いますが、ほぼ最短撮影距離の近景の方は、これまで私が使ってきたEマウントの望遠ズームレンズで、ここまで大きく撮ることは難しかったです。これを撮ろうと思ったらマクロレンズに換える必要がありましたし、かといって90mmのマクロレンズだとここまでぼけない。そういう意味では、このレンズならではの画といえます。
――マクロレンズと望遠ズームレンズでは、フォーカスリングの回転角が違ってくると思います。そのあたりの操作性はいかがですか? 確かにマクロレンズのような「中のレンズを動かしているような操作感」は得られないかもしれません。でもファインダーをのぞきなら操作していると、ピントの動きをダイレクトに操作できていると感じます。皆さんの感覚の違いにもよるでしょうけど、倍率の高い状態でも比較的ピントを合わせやすい印象です。逆にピントが奥まで行き過ぎたときに、手前側に戻すのが早くて便利ですね。
■作品D&E
――次の2点ですが、同じアジサイを別のアングルや距離で撮影されたとうかがっています。
そうです。少し遠目の位置から撮ったのが作品D、最短撮影距離で撮ったのが作品Eですね。
――作品Dの解像感がすごくでびっくりしました。 望遠ズームレンズということもあり、マクロ域以外でも解像感がしっかりしています。「本当にこれGレンズなの?G Masterなのでは?」という写りの良さですね。
――白トビしてそうでしていない、ギリギリの階調表現もすごいと思いました。 はい、これも「α7R V」の特徴のひとつでしょうね。明暗の差が激しいところでもしっかり色を残してくれます。そういう意味ではボディの性能を生かせるレンズになっているのではと思います。
――一転して作品Eの方は、ミニチュアのジオラマを見ているような、別の世界をのぞいているような気になります。 同じレンズでここまで違う表現ができるのです。望遠ズームレンズでありながら、1/2倍のハーフマクロ撮影もできる。これ1本で撮影できる領域が広いということで、使うメリットの大きいレンズだと思います。
■作品F
――こちらもぼけが美しい作品です。背景の玉ぼけがきれいな円になっていますね。
点光源をわざと端に寄せたりして意地悪な撮影をしてみたのですが、思った以上に口径食がなくて驚きました。優秀なぼけだと感じますね。 それに普通のズームレンズだとぼけが中途半端になるところですが、このレンズだと近寄れることでここまで大きく、しかもきれいなぼけが得られる。このレンズでぼけを取り入れた作品をぜひ撮ってほしいですね。
――そのぼけなのですが、全域F2.8の望遠ズームレンズと比べて物足りなかったりしましたか? それは全然なかったです。F4だとあまりぼけないイメージを持たれているかもしれませんが、開放F値だけでなく最短撮影距離も、後ろのぼけの大きさに関わってきます。このレンズはズーム全域F4ですが、最大撮影倍率が1/2倍まであるため、ぼけの大きさに問題ありません。先入観を持たず、このレンズでどんどん寄ってもらいたいですね。
――なるほど、レンズの開放F値は最短撮影距離で相殺できると。最短撮影距離が短いことで、新たにできるようになったことはありますか? 例えば後ろの背景がぼけすぎるようなとき、いままでの望遠ズームレンズなら絞り値で調整していました(同時に感度を上げる必要がある)。しかしこのレンズなら、200mmを100mmにして近づくことで解決できる。そういうことが簡単にできるので、撮影効率が良くなった面はありますね。
■作品G
――これは2倍のテレコンバーター(2X Teleconvertor)をつけて撮影した作品ですね。迫力があります。被写体は何でしょう?
アーティチョークのような大きさのつぼみの一部を上から撮影したものです。2倍のテレコンバーターをつけたことで、本職のマクロレンズと同じように撮影倍率が等倍になっています。マクロ撮影というと、小さなものを大きく写すというイメージを持たれている方も多いと思いますが、大きなものの一部を切り取る方が普段見られない視点となり、面白さが増すと思います。
――テレコンバーターをつけると、一般的には画質が落ちるとされています。このレンズの場合はどうだったのでしょう。 「テレコンバーターをつけると等倍で撮影できる」という機能、正直いうとおまけだと思っていたのですが……つけても解像力の低下はまったく気にならないレベルだったことに驚きました。ぼけもきれいなままです。つけた状態で問題ないよう設計されているのでしょう。テレコンバーターを用意すれば、表現力の幅がさらに広がるレンズといえます。
■作品H
――並木さんにしては珍しく花ではありませんね。かなり小さめのトンボですか?
はい。2倍のテレコンバーターをつけて400mmになるということで、近づけない昆虫を撮ってみました。睡蓮の葉の上にいるイトトンボです。実際の距離は覚えていないのですが、かなり遠くにいましたね。テレコンバーターを一緒に持っていくだけで、近い被写体を大きく撮るだけではなく、こうした遠くの被写体も撮れるのは良いですね。
まとめ
――このレンズ、テレコンバーターのあり/なしで、2本のレンズを使い分けるようなイメージですね。 いえ、ハーフマクロのズームレンズということで、2本どころかもっとたくさんのマクロレンズがある感じですね。例えば70mm、100mm、200mmという、それぞれのマクロレンズが1本になった感覚という方がというのが正しい表現ではないでしょうか。
――なるほど。ということは並木さんにとって、このレンズを使うメリットはありそうですね。 1本で撮影できる作品のバリエーションがすごく増えそうです。いままでなら前後のぼけのために望遠ズームレンズを使っていました。それがそのまま寄れて撮れるので、レンズ交換が必要なくなる。撮影の効率が良くなるのは大きなメリットだと感じます。
――どんな方にこのレンズを勧めたいですか? マクロレンズを買ってみようと考えているけど躊躇している方は、このレンズを望遠ズームレンズとして買ってみてください。そしてハーフマクロを試していただき、「寄れる」「切り取れる」というマクロ撮影の楽しさを知ってほしいです。 そして物足りなくなったら、2倍のテレコンバーターも買ってください。するとマクロレンズと同じレベルの作品が撮れるようになります。仮にマクロ撮影に興味を覚えなかったとしても、そのまま軽量な望遠ズームレンズとして使ってもらえれば良いですしね。
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