自分にとっての新しい普通に
木村和平とデジタルとの関係性
写真家 木村和平 氏
淡い光と色合いが生み出す詩的なスナップ作品で人気の木村和平氏。カラーからモノクロスナップ、さらにはセットアップへと常に自身の表現領域を広げ続ける木村さんは「写真とは壮大な自己紹介のようなもの」と語る。そんな木村さんにとっての「デジタル」そしてαとの関係とは?
木村和平/写真家 1993年、福島県いわき市生まれ。ファッションや映画、広告の分野での活動と並行して、作品制作を続けている。第19回写真1_WALLで審査員奨励賞(姫野希美選)。主な個展に、「石と桃」(Roll、2023)、「あたらしい窓」(BOOK AND SONS、2020)、主な写真集に『袖幕』『灯台』(共にaptp)、『あたらしい窓』(赤々舎)など。 Instagram : https://www.instagram.com/kazuheikimura/
――いきなりですが、多くの人にとって木村さんと言えばフィルムのイメージがある気がします。デジタルを使い始めたのは何がきっかけだったのでしょうか。 そうですよね。フィルムで写真を始めたというのもあって何となくフィルムが自分に合ってるなと思っていました。でも、もともとデジタルに偏見があったわけじゃなくて。第三者からも「フィルムで撮る人」みたいなイメージがもうだいぶ定着してるけど、「フィルムが全て」みたいに思っていたタイプではない気がします。最近の制作環境では徐々にデジタルじゃないとできないことが見えてきて、その流れでα7シリーズも手に入れました。 まだ全体の2割ぐらいだと思うんですが、「石と桃」というシリーズではデジタルも使って作品を制作しています。それ以前は、あまり考えずに目の前にあるものを追いかけて撮るというスタイルだったんですが、「石と桃」は全部撮りたいイメージが先行してあって。コンテを描いたり、テキストを書いたりしてから撮り始めるので、フィルムの現像するまでわからない良さよりも、画を見ながら理想系に近づけていけるデジタルがあっている場合もある。そんな風に感じています。
ミニマルな構造と縦位置スナップとの関係
――今回見せていただいているαで撮ったシリーズは全て縦位置の写真ですね。 これはデジタルだから縦というわけではないんです。色々な影響があると思うんですけど、ここ5年ぐらい縦で撮る癖がついている気がします。例えばモノクロフィルムだけで撮った「灯台」はハーフカメラを使っていて、そもそもファインダーが縦だったこととか。あとはファッション誌をずっとやっていて雑誌の判型が縦なので、縦位置の写真を求められがちなのも体に染みついてるとか。多分その辺が影響している気がするんですけど。スナップが上手い人の写真は横位置の画面にいろんな情報が配置されてると思うんですが、もしかするとそれがちょっと苦手なのかも知れない。
――木村さんが写真を撮り始めた2013年や2014年頃はもうスマートフォンが当たり前の時代ですよね。スマートフォンだと背景の細かい情報まで見れないから、スマートフォン以前と以後のフォトグラファーでは写真に対する感覚が違う気がします。 それはあるかもしれないですね。上の世代の方とお話するときにその事を感じることもあります。もちろんそれは年齢に関係なく、人によって違うことだとは思うんですけど。どれぐらい情報を入れるか、あるいはどのぐらい削るかみたいなのは傾向としてある気がしますね。情報量が多すぎる写真が自分は好きじゃなくて、作品では削って削ってシンプルな構造にすることを重要視しています。それが縦位置での撮影に合っている。一方で、「石と桃」のシリーズのようにフレームの中の配置を自分で動かして撮れる作品は横でも撮影しています。情報を自分でコントロールした上でなら横でも撮れるし、かえって横の方が多いぐらいかもしれないです。
αを日常の一部にする
日々の記録の中から見えてきたデジタルの手触り
――今回お持ちいただいた写真についてもう少し教えてもらえますでしょうか? 家の中で撮られた写真も入っていました。 今の家に住んで1年ぐらいなんですが、住み始めてから家の改装を続けています。小さいことであれば、置物を家の棚にどういう向きで置くかとか、そういうことを考えるのが今楽しい時期なんです。ちょっとした配置の差が空間に与える印象の変化を敏感に感じていて、それが展示の構成に繋がっている気がしています。αを使って撮影している写真はそのDIYの改装と、物の配置の記録として撮ろうとスタートしたものです。 あとは家の中を記録したいっていう側面に加えて、単純にデジタルのトレーニングをしたいみたいな気持ちがある気がします。やっぱり仕事でもデジタルを使うことが増えている中で、デジタルを自分の中で“ふつう”にしていきたいという気持ちが出てきていて。それもあって家の中を撮ったりしている。練習って言うと語弊があるかもしれないですけど、デジタルをちゃんとやるためみたいなところもある気がしています。
例えばこの暗い写真。寝室にちょっとだけ光が入っている写真なんですけど、これって本当にちょっとでも雲でかげったりすると一瞬で消えちゃうものだからパパって撮らなきゃいけなくて。そのときに頭の中で露出を計算して撮っても、フィルムではこうは写らない場合も多くて。背景の暗いところに露出があってしまって光が飛んでしまったり、自分はこの暗さで撮りたかったのに…みたいなことがフィルムだと多い。もちろんプリント時に改善できることもありますが、デジタルカメラだと露出補正をしてそれを確かめながら撮れるのが大きい気がする。こういう写真は自分的には今の気持ちとして、デジタルの方が撮りたいものが撮れてるっていう感覚なんですよね。もちろん予期せぬ写りをするフィルムの良さもあるんですけど。
――日常の木村さんのルーティーンの中にどれだけαを入れられるかをやられている。 そうです、そうです。これまでは何となく普通に撮るのがフィルムカメラでしたけど、それが今はデジタルカメラを自分の中の普通にしていきたいと思っています。それは撮影行為よりも、撮った後の現像のことかをちょっと頑張らなきゃいけないというか。そんなに大規模な変化を求めてはいないですけど、やっぱりその辺もちゃんと習得したいなとは思っているんですね。あくまでもいまの自分は、デジタルはデジタルの色としてやりたい。
――お話をお聞きしていて、フィルムからデジタルへの移行というものを木村さんが真摯に時間をかけて向き合っているというのを感じました。 できる事なら今まで自分がフィルムでやってきた感覚をシームレスにデジタルに持ち込みたい、というのがあります。それはデジタルの写真をフィルム風にするという意味ではなくて、さっきも言ったけどデジタルで撮ることが普通になることとか、そういう意味でのシームレスな状態。デジタルはもうフィルムとは全く別物だからってバーンとデジタルを使うというよりかは、徐々に自分のものにしていく、慣れさせていきたいと思っています。 昔写真を始めた前半ぐらいは、もっとそのフィルムの奇跡みたいなものにすがって期待してたけど。どんどん技術がついてきて、なんか自分が撮りたいものでねじ伏せるじゃないけど、その奇跡に期待せずに現実的に写真を撮れるようになったのかもしれないですね。
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