動物撮影の新時代
いっそう高性能になったAFで
写真と映像を楽しもう
写真家 井上浩輝 氏
写真家の井上浩輝氏にCP+2024セミナーにてお話しいただいた内容や、発表作品を一部抜粋してα Universe記事で特別にご紹介。作品を交えながら、動物を上手に撮るテクニックや動画制作の手法、野生動物撮影におすすめのカメラやレンズなどをご紹介します。
井上浩輝 / 写真家 1979年札幌市生まれ。北海道で風景写真の撮影をする中、次第にキタキツネを中心に動物がいる美しい風景を追いかけるようになり、2016年に米誌「National Geographic」の『TRAVEL PHOTOGRAPHER OF THE YEAR 2016』のネイチャー部門において、日本人初の1位を獲得。これまで発表してきた作品には、人間社会の自然への関わり方に対する疑問に端を発した「A Wild Fox Chase」、キタキツネの暮らしぶりを描いた「キタキツネのいるところ」などの作品群がある。写真は国内のみならず海外の広告などでも使用され、2019年には代表作「Fox Chace」のプリントが英国フィリップスのオークションにおいて27,500ボンドで競落されている。現在、写真に加えてTVCMなどの映像の撮影も手がけ、2022年からは早稲田大学基幹理工学部非常勤講師として教壇にも立っている。著書-写真集『follow me ふゆのきつね』日経ナショナルジオグラフィック(2017年)、エッセイ集『北国からの手紙 キタキツネが教えてくれたこと』アスコム(2018年)、絵本『はじめてのゆき』Benesse、2019年、写真集『Look at me! 動物たちと目が合う1/1000秒の世界』KADOKAWA(2020年)、写真集『Romantic Forest おとぎの森の動物たち』PIE International(2020年)など。 オフィシャルサイト https://hirokiinoue.com/ Facebook https://www.facebook.com/NorthernIslandColors/?fref=ts https://www.facebook.com/hirok1.inoue
動物撮影では動物の目線に高さを合わせて
高速シャッター、開放で撮るのが基本
今回は「動物撮影の新時代 いっそう高性能になったAFで写真と映像を楽しもう」ということで、昨年のCP+以降に撮影した作品をたくさんご紹介していきたいと思います。 去年のCP+が終わり、北海道に戻って僕が始めたのはキツネやリス探しです。雪解けから春の風景の中で生活するキツネやリスを探して撮影しました。
このエゾリスなんて、かわいいですよね。このような動物の撮影では、動物の目の高さで撮ることが大切です。実は、去年のCP+の後にYouTubeで撮影術などを紹介する「写真表現ゼミ」というコンテンツを始めました。そこでもしつこいくらい言っています。「目の高さで撮ってください」と。さらに、気をつけなければならないのがシャッター速度です。遅いと動物がブレて写ってしまうので、1/1250秒くらいで撮る、ということを覚えておいて欲しいと思います。 そして、せっかくなので開放で撮りましょう。上の写真もF2.8の開放で撮っていますが、これをF8で撮ってしまうと背景までしっかり写ってしまいます。開放で撮ると背景がぼけて、ピントを合わせた動物が浮き上がって見える、という効果がありますから、ぜひ開放で撮ってみてください。
コンパクトで機動性の高い「α6700」は
高い描写力や動画性能などうれしい機能が満載
夏が始まるころ、僕にとって感慨深い、うれしいカメラが発売されました。それが「α6700」です。僕は初代の「α6000」も使っていましたし、さらに言えば「α6000」の前身モデルでソニー初のミラーレス一眼「NEX-5」から使っています。だから進化を遂げて「α6000」になった時「なんて素晴らしいカメラなんだ」と思って使い倒しました。僕が初めて世に出した『冬のキツネ』という写真集でも、多くの作品を「α6000」で撮っています。 「α6700」は、そのα6000シリーズの最新モデル。やはり描写性能はさらに高くなったと感じます。そして何といっても、リアルタイム認識AFで瞳にしっかりピントが合うのがいい。さらにうれしかったのが進化した動画性能ですね。おかげで昔はまったく撮らなかった動画を積極的に撮るようになり、ここ3〜4年は動画が楽しくて毎日撮るほどになりました。コンパクトで機動力抜群ですし、前にダイヤルを付けたことでフルサイズのαシリーズと同じような操作性になり、より使いやすくなったと思います。 このモデルは描写力が高いので、風景も満足度の高い写真を撮ることができます。
上の作品を見ても、とてもきれいに描写されていますよね。センサーサイズはAPS-Cですが、これだけの描写力があれば気にすることはありませんし、むしろコストパフォーマンスよくいい写真を撮ることができて楽しい、と思えるカメラだと思います。 僕は基本的にRAW現像で暗い部分を持ち上げていますが、これができるからソニーのセンサーは楽しいんですよ。人間の目で見た時と同じように、日陰も黒潰れせずに表現してくれるし、明るいところも白く飛んでいない。ダイナミックレンジが広く、暗い部分も明るい部分もデータがしっかり残っているのがソニーのセンサーの魅力です。
野生動物の撮影では望遠レンズが欠かせませんが、「α6700」で動物の撮影をするなら、APS-C専用レンズ「E 70-350mm F4.5-6.3 G OSS」もおすすめです。下のタンチョウはこの組み合わせで撮影しましたが、写りがとてもいいですよね。
しかも、とてもリーズナブル。望遠レンズは高価なものも多いですから、まずは手が届く買いやすいレンズを買って経験を積んでステップアップするのもいいでしょう。でもこれだけの描写力があれば十分に満足できると思いますよ。
体、頭、瞳と検出する部分を絞っていく
リアルタイム認識AFをわかりやすく解説
ここからはリアルタイム認識AFを使うと、どんな感じでピントを合わせていくのか、ということをお話したいと思います。 まずは被写体である動物の体を探してくれます。その後、頭を検出して、その中に瞳があれば瞳を追いかけていく、という流れです。そう説明したところで「実際はどうやって見えるのか知りたい」という人もいるでしょうから、僕のファインダー画面を録画したものがありますので、そちらをご覧ください。(※動画の一部スクリーンショット抜粋)
雪景色の中にキツネが出てきますが、瞳にきちんとピントが合いましたよね。そして追いかけてくれる。振り返って目が見えなくなったら、頭、体とピントの位置と範囲が変わっていきます。鳥類のタンチョウも同様です。体から認識して目がはっきりと見えたら瞳にピントが合う。フクロウも振り返って目が見えたら瞳にピントを合わせて追いかけてくれる。このほか、モモンガやラッコにも対応しました。ご覧の通り、ピントフレームの動きが忙しないくらいのスピードで認識してくれるわけです。 リアルタイム認識AFを使えば、例えば手前に葉っぱを入れても、葉っぱにピントが合うことなく被写体の体や頭、瞳にピントが合ってくれるのもうれしいところです。この機能は静止画だけでなく、動画撮影の時も非常に役に立っています。
お気に入りレンズの第二世代モデルに感動
テレコンを使っても圧巻の描写力を発揮
夏の盛り、ソニーから新しいレンズが発売されました。「FE 70-200mm F4 G OSS」の後継となる第2世代のモデル「FE 70-200mm F4 Macro G OSS II」です。初代モデルは僕が初めて買った白いレンズで、手に入れた時はとてもうれしかったことを覚えています。第二世代のレンズはマクロ機能も優れていて、僕自身、撮ることはないだろうと思っていた蝶も撮ってしまうほどでした。あまりに寄れるので、撮りたくなってしまうんですよね。そのくらいマクロの描写もいいレンズです。 さらにテレコンバーターとの相性もとてもいいんですよ。テレコンを付けていると感じないくらいで、特に1.4倍との相性が良くて「こんなに相性のいいレンズはあっただろうか」と思うほどでした。
2倍をつけて動物を撮る時は、気持ちシャッター速度を上げて撮影するのがおすすめですが、風景写真ではその実力を発揮してくれます。2倍のテレコンを付ければ最長で400mmになりますから、長玉の重いレンズは重くて扱いが大変、なるべく身軽なスタイルで撮影に出かけたい、という方は、ぜひテレコンバーターを活用してもらいたいと思います。 そしてもうひとつ、素敵なレンズが出ました。「FE 16-35mm F2.8 GM II」です。僕自身、とても気に入っていて今もボロボロの状態で使い続けている「FE 16-35mm F2.8 GM」の第2世代モデルです。AFがかなり速くなった印象ですし、描写もクリアで好印象。さらに、最短撮影距離が22cmですから前玉から10cmくらいまで近寄って撮れる。広角レンズで近寄って、ぼけ感を楽しめるのもこのレンズの魅力です。
トリミングしても描写力をキープできる
有効約6100万画素と高解像の「α7CR」
そして新しいカメラ「α7CR」も発売されました。フルサイズなのにコンパクトで、有効約6100万画素という高解像を実現しています。僕の場合は、高解像なのでトリミングができる、というところも魅力に感じます。撮影に出かける時はいろいろなレンズを持っていくと思いますが、「できるだけレンズを減らしたい」「できるだけ軽いカメラを使いたい」という人は「α7CR」とお気に入りのレンズを1本持っていけば大丈夫。後からトリミングできる、と割り切って撮るのも気楽でいいかもしれませんよ。 実際に僕もこのカメラで撮った画像をトリミングして仕上げた作品があります。かなりトリミングしても解像感は十分ですから、こういうスタイルも新しい撮り方として取り入れてもいいのではないかと思います。 「α7CR」は動物を撮っても最高です。「α7R V」とほぼ同じ性能ですから動物の瞳にきちんとピントが合います。「α7R V」からはエゾシカ、エゾリスの瞳にも完璧にピントが合うようになりましたし、当然、キツネも同様です。個人的には「キツネAF」と言ってもいいのではないかと思うくらい、瞳に完璧に合わせてくれます。
「Creators’ Cloud」はデータ保存だけでなく
手ブレ補正や音補正もできる便利なツール
僕は動物の写真を撮ったり、風景写真を撮ったりしていますが、その時に少しだけ動画も撮影しています。いい写真が撮れたな、と思ったらそこで動物の映像を撮り、周囲の風景の映像も撮っておいて、気に入ったシーンを後で音楽に合わせて並べていくんです。僕はこうして出来上がった動画作品を「シネマティック ネイチャー Vlog」なんて言っています。僕が春から追ってきたキツネの動画をお見せしたいと思いますので、まずはこちらをご覧ください。
この動画をつくる上で欠かせないソニーのサービスがあります。それが「Creators’ Cloud」です。「Creators’ Cloud」の中にはソニーのいろいろなアプリがありますが、その中でも僕が一番気に入っているのが「Master Cut」です。 僕は撮影したデータをUSBケーブルでPCに転送し、PCでデータ整理をしています。その中でバックアップをしておきたいと思う写真や映像を、このクラウドにどんどんアップロードできるわけです。そうすると自分の手元だけでなく、クラウドにもデータを残すことができ、データがなくなった、という悲劇を減らすことができます。 さらに便利なのが、クラウド上で映像の手ブレ補正をできること。撮影ファイルの中にレンズの情報も入っているので、ブレてしまった時の加速度情報を元に手ブレ補正をしてくれる、という原理です。簡単に言うと、画面の外側をトリミングして、内側の部分をうまく使うことでブレないようにしてくれる、という感じですね。
もちろん、カメラ内でも動画編集ソフトでも手ブレ補正はできますが、クラウド内で作業できるとPCに負荷がかからないのがいいんですよ。かなり強いサーバなので、補正する際の待ち時間も短くて済みます。 補正が済んだらクリップの出力、という作業をします。クリップの出力をするとクラウド上にも手ブレ補正された映像が残り、それが自動的に自分のPCにダウンロードされる、という素敵な仕様です。戻ってくるファイルは、高画素・高品質のままですから、その後のグレーディングにも十分に対応できると思います。 クラウド上では音も補正することができます。映像に含まれている人の声や風の音など、いろいろな音をAIが解析・分類してくれるので、例えば、風の音を消したい、と思ったら、分類された「風音」の項目を調整すれば消すことができるわけです。
このようにクラウド上でいろいろな作業ができ、より素敵な映像作品をつくることができるのはうれしいですね。
野生動物撮影におすすめの
カメラとレンズの組み合わせをご紹介
ソニーからはたくさんのカメラやレンズが発売されていますが、僕が野生動物撮影におすすめする組み合わせはこちらです。
まず「FE 300mm F2.8 GM OSS」。これは良かった。さらに1.4倍のテレコンバーターを持っていれば、ちょっと短いな、と思っても何とかなる。そこに「α1」や「α7R V」のような超高画素カメラを入れておく、という感じです。超高画素のカメラと超軽量の「FE 300mm F2.8 GM OSS」を使えば、歩いて遠い撮影場所まで行く時も、もうちょっと頑張る自分になれる。そんな組み合わせなのかなと思います。 そして、もうひとつはコストパフォーマンス最高の“ピカイチ”セット。
「α6700」と「E 70-350mm F4.5-6.3 G OSS」の組み合わせはかなりお買い得だと思いますので、今から動物撮影を始めてみたいという方は、ぜひ試してみてください。 今は、写真や映像を少しずつ撮りためていって、編集して動画作品として残す、というのも新しい楽しみ方だと思います。みなさんもぜひ、写真を撮ったら少しだけでも映像も撮影して「Master cut」を活用してみてください。きっと、撮る楽しみ、動画作品にする楽しみと、楽しいことをたくさん体感できると思います。本日はありがとうございました。
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