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AF精度の高い秒間120コマの連続撮影で視覚表現の可能性を切り拓く
「α9 III」

映像作家 鈴木佑介 氏

α Universe editorial team

オンラインで実施された「CP+2021」のセミナーで「α1」の有効約5010万画素・秒間30コマ連写の性能を駆使して「静止画から動画をつくる」というテクニックを教えてくれた映像作家の鈴木佑介さん。今回は「α9 III」の秒間120コマ連写を使って映像を制作。制作時の話を中心にカメラの性能や、静止画から動画をつくるようになった経緯や意義、ワークフローについても語ってもらった。

鈴木 佑介/映像作家 神奈川県逗子市生まれのフリーランス20年目の映像作家。コマーシャル撮影スタジオ勤務がキャリアのスタート。現在は「人を描く」ことを専門に Web媒体を中心に広告・プロモーション映像などを企画から納品までワンストップで手がける。執筆業のほか、講師・映像コンサルタントとしても活動。最近ではスタジオポートレートを中心にスチル撮影業も始める。玄公社より「映像制作モダンベーシック教本」「カラーグレーディング・トレーニングBasic」「カラーグレーディング・トレーニングAdvanced」 が発売中。 Blackmagic design 認定 DaVinci Resolve18 トレーナー RODE / NANLITE 日本公式アンバサダー

好奇心から始まった連写を使った映像制作。
通常の動画とは質感が違うように感じる

――なぜ、連写した静止画を使って映像作品をつくろうと思ったのですか? 「連続写真を繋げて映像をつくったらどうなるだろう」という興味から始まった感じですね。初代「α9」の秒間20コマの連写で映像作品をつくってみたらとても楽しくて、秒間30コマなら完全に動画がつくれるだろうと「α1」でも連写を使った映像作品をつくりました。そして「α9 III」です。これは最高約120コマ/秒の連写で撮れますから、やりたくなるんですよ。「α9 III」を使ってみたいと思ったのも、正直、この連写機能を使って映像をつくりたいと思ったからです。ですから、連写からの映像制作は、僕の好奇心から始まって趣味でつくり始めたものになります。実際、「α9 III」では静止画しか撮っていないくらいです。

――通常の動画と連続写真でつくった動画の一番の違いは? あくまで個人的な感覚になりますが、スローモーションで通常の動画を撮ったものとは質感が違うように感じます。シャッタースピードが速いので画像自体は止まっているのに、連続再生してもパラパラ感があまりないんですよね。120コマの連続写真を繋げたものはとても滑らかで、S&Q(スローアンドクイックモーション)で撮るよりも、僕自身は気持ちのいい質感に思えました。気のせいかもしれませんが、感覚的な部分は作品をつくる上ではとても大事なことだと思いますから。

――この連写作品をはじめ、最近は静止画も撮影もしているそうですが、映像作家である鈴木さんが静止画を始めたのはなぜですか? きっかけは2つあります。一つは、写真と動画はボーダレスになると思ったからです。最近は動画を始めるスチールカメラマンも多いですが、その逆バージョンということですね。ボーダレスになるなら、静止画のことも知っておくべきだと思って勉強を始めました。もう一つはライティングです。今までは定常光のみで撮影していましたが、ストロボを使うとどうなるだろう、と思っていたので。カメラの性能がアップしたことで定常光でも静止画を撮ることはできますが、ストロボのことを理解していれば同じ現場で静止画と動画の両方を撮影しなければならない時も効率よく作業ができると思いました。

今は1つのカメラで写真と動画、両方が撮れるようになりましたが、どちらも美しく撮ろうと思うと最低限の切り換えが必要です。動画も写真もお互いに定常光ベースのほうがいいことが増えてきているように思うので、例えば僕が現場で動画を撮って、後から写真を撮るカメラマンが来た場合、一からライティングをつくり直すよりも動画のライトをベースにして必要なものを加えていくほうが効率的だし、同じトーンで撮ることもできる。動画と静止画、両方のことを知っておくといろいろな意味で強いと思ったので、静止画についても勉強し始めた、という感じですね。知っていれば「写真いけますか?」と言われても「いいっすよ」と迷いなく引き受けることができますからね。

最高約120コマ/秒の連写でも安心して使える
AF精度。演者の集中力を削がず撮影もスムーズに

――実際に秒間120コマの連写で撮影した率直な感想を聞かせてください。 連続撮影でもAFのピント面がズレずに安定していて、120コマ撮ってもほとんどNGがなかったくらいでした。一部、置きピンやMFで撮ったシーンもありますが、9割はAFで撮ることができたので、性能は素晴らしいと思いましたし、使っていて安心感しかなかったです。

ただ、秒間120コマの連写は約1.6秒しか撮ることができなので、本当に大変なのは演者さんです。1.6秒の中に必要な演技、要素を入れなければいけないので、芝居の間もつくれません。そんな集中力が必要な現場だからこそ、ピントを外す失敗がないことは重要でした。今回制作した「恋写」の3部作に出演してもらったモデルさんは過去にも「α9 III」の連写を使っての動画制作に一度協力してもらったことがあるので、1.6秒での芝居にも慣れてきていて、限られた時間の中で必要な所作を高速でできるようになっていました。最終的にはスロー映像になることも理解して、そのイメージでパっとやってもらえたので本当に助かりました。 正直、「そんなに苦労するならスローで動画を撮ればいいのでは?」と思われがちですが、人間、不自由になるとクリエイティブになるというか、工夫をするんですよね。1.6秒という制限によっていろいろな挑戦ができたのも楽しかったところです。さらに、「α9 III」は静止画なら有効約2460万画素なので解像度が6K分ぐらいありますし、元々は写真なのでワンシチュエーションを切り出すことがとても容易です。つまり「動画から切り出す」とは逆の考え方ですよね。動画では写真のシャッタースピードを入れられないので、1/100秒で止めることができない。でも写真を動画にしておけば切り出した時の静止画のクオリティで切り出せるのもいいところです。

シーンによって連写のコマ数を使い分け。
表現にこだわった「恋写」三部作

――今回制作した「恋写」3部作のテーマやコンセプトはありますか? 今回撮影した「恋写」は「晴ル」「波ル」「離ル」の3部作で、どれも同じ場所で桜をバックに撮影しています。3作ともにトンマナを揃えていて、「晴ル」は朝、「波ル」は昼、「離ル」は夕方と、時間帯による雰囲気の違いを見せるのもコンセプトのひとつです。撮影した時間帯が違うので、光の感じや陰の表現、色表現も時間帯を意識しました。3作を通してノスタルジックな雰囲気に仕上げていて、フォギーフィルターを薄く入れるなど、それぞれの作品で工夫しています。

「晴ル」のワンシーン。この作品はピンクを加えてハイライトでフワッとした感じに見せている
「波ル」のワンシーン。トップライトで強いコントラストで日中を表現
「離ル」のワンシーン。陰が濃くなり、タングステンを意識した色味に仕上げている

撮影当日は天気も安定して晴れていて、光がまわる場所で撮影したので、いい感じに時間帯による光の違いを表現できたと思います。

――全シーン、秒間120コマで撮影した画像を使っているのですか? 映像の速度を含めて「どう表現したいか」によって、連写のコマ数を120コマ、60コマ、30コマと使い分けて撮影しました。演出的に「ここは4倍のスローが欲しい」「このシーンはノーマルスピードがいい」といった感じですね。振り返る瞬間や表情が変わる時、情緒的に見せたいシーンなどはゆっくりとしたエモーショナルな表現がいいと思うんです。そこから読み取れるもので物語が広がっていくので、そういったシーンは120コマで撮影しました。歩いている後ろ姿など、動作の表現のみであれば60コマや30コマで撮っています。

歩いているなど動作を見せるだけのシーンは秒間30コマで撮影

あと、ドラマパートというか、一連の動作を見せたい時なども60コマで撮影しています。秒間120コマの連写では約1.6秒しか撮ることができませんが、60コマなら倍の約3.2秒も撮ることができますからね。演出をつけて少しでも長く撮りたいと思った時はコマ数を落として撮っています。ただ、120コマで撮影すると見えなかったものが見えてくるので、より具体的に見せたいシーンは120コマにしていました。

JPEGで撮影した画像を6K動画に変換すれば
驚くほどワークフローが楽になる

――静止画から動画をつくる際のワークフローについても教えてもらえますか? 現場では枚数をなるべく多く撮りたいですし、撮影枚数が多いと現像も大変なのでJPEGで撮影しています。編集するにあたり、写真のままでは重くてPCの動きも安定しないので、最初にタイムラインをつくってしまうんです。画像は約2400万画素でおよそ6Kなので、6Kのタイムラインをつくり、すべてを連番で1コマ1フレームに設定しておいて、JPEG画像をまとめて入れて6Kの動画にして書き出してしまいます。そうすると6Kの動画になるので、ワークフローは意外と簡単です。

編集中のPC画面。連写した画像を6K動画のタイムラインに入れ込む

動画ファイルを編集しているわけですから、「動画にしてしまう」ことだけやってしまえば、時間をかけずにコマ落ちのないきれいな映像で見ることができます。 今回の3部作はS-Cinetoneで撮影しています。個人的にはS-Cinetoneは扱いやすく感じていて、編集では全体的なトーンとして調整クリップを引いて、春なのでピンクっぽい空にしてハイライトでフワッとするような演出にしているだけ。撮った段階でほぼ色はできているんです。

編集中のPC画面。S-Cinetoneで撮っているので編集時の色調整は最低限で済む

S-Cinetoneはどこを適正露出にするかによってコントラスト比が変わってくるので、少しオーバー気味にするとハイライト側が飛んでローコントラストになり、適正ではシネマティックでやや青みがかったトーンになり、人肌は赤っぽくなります。ですから僕は、色温度を4500、5000といった感じで低めに設定しています。後で上げることもありますが、こうしておくと編集作業も楽になります。慣れもあると思いますが、作業時間はあまりかからなかったです。

――なかでもこだわりのシーンやお気に入りのシーンはありますか? 全部きれいなので、全部好き(笑)。強いて挙げるなら、「恋写 -晴ル-」の髪がなびくシーンでしょうか。

桜の下を走りながら振り向くシーンは跳ねるような長い髪が印象的

このシーンは髪の毛の最後の扱いだけで4、5回撮っています。そのくらい髪の動きにこだわりました。HS(ハイスピード)は動きが早いもののほうがきれいに見えますし、人間が目で見た時に気付かなかったものが見えるのが魅力ですから、そういう意味でもこのシーンは素敵だと思います。

よりドラマティックに表現できるアスペクト比を
選び高性能ズームレンズ3本で撮影

――この3部作はアスペクト比3:2で撮影していますが、なぜこの比率にしたのですか? 正直、既存の映像に飽きているところもあるのかもしれません。3:2は昔の4:3に近い画角で、正方形に近いから案外切りやすいんですよね。いつもの16:9では上下の情報を切ってしまうので、この独特な抜け感というか奥行き感というのはどうしても表現できない。でも3:2ならレンズの良いところをきちんと使えている感じがして、自然で見やすく、より奥行きを感じる映像になります。僕はこのほうがドラマティックだと思ったので、この画角を選びました。

――今回の撮影で使用したレンズも教えてもらえますか?

最近の僕のお気に入りであるズームレンズの“大三元”、「FE 16-35mm F2.8 GM II」「FE 24-70mm F2.8 GM II」「FE 70-200mm F2.8 GM OSS II」の3本です。ズームレンズを使う利点は、焦点距離を変えてもキャラクターを揃えられるところです。写真は1枚勝負なのでどんなレンズを使ってもいいと思いますが、シーケンスで並べて1本の動画にすると、レンズのキャラクターの違いが気になることもあります。シネレンズを使えばそんなことも起こらないでしょうが、シネレンズでこの撮影は絶対にできません。「α9 III」の連写はAFあっての賜物ですからね。そう考えると高性能のズームレンズはとても便利なのです。

――なかでも頻繁に使ったレンズはありますか? メインに使ったのは「FE 70-200mm F2.8 GM OSS II」で、「FE 16-35mm F2.8 GM II」はポイントで使った感じですね。実は撮影時は桜が二分咲きくらいだったので、70-200mmの圧縮効果にはかなり助けられました。おかげでたくさん咲いているように見せることができたと思います。

広角の16-35mmは周囲の余計なものまで写し込んでしまうので、決めどころで使いました。逆光耐性に強く、ハレーションがきれいに出るので直射光を入れて撮ることも多かったです。こういった難しい撮影ができると「やはりG Masterだな」とレンズの性能の良さを改めて実感します。

「FE 16-35mm F2.8 GM II」で撮影したワンシーン

ユーザーの声を反映したことが実感できる
扱いやすく疲れ知らずのより洗練されたボディ

――120コマ連写を撮り続けていると、バッテリーのスタミナや容量も気になるところですが、実際はいかがでしたか? 静止画の120コマ連写での映像制作は、動画を撮るよりバッテリーの消費が少ないです。以前、冬に雪のシーンで連写作品をつくったのですが、その時はバッテリー1本ではちょっと足りなかったくらいで、2本あれば余裕で1作品分を撮ることができました。現場にはバッテリーを8本用意していたので、「こんなに少なくて済むんだ」と衝撃を受けました。

容量は、1プロジェクトで160GBのCF express Type Aメモリーカード1枚だけで済みました。120コマ連写を何度も撮影すると容量はかなり必要と思ったのですが、桜3部作は1作品で75GB〜120GB程度だったので「意外と軽くおさまったな」という印象です。

――そのほか、「α9 III」で撮影してみて印象や感想があれば聞かせてください。 撮っていて疲れることがなく、純然に扱いやすいカメラだと思います。ユーザーからのリクエストを反映させてつくり上げた感じがしますよね。ボタンもはっきり大きくなって触りやすくなったというか、押した感覚が良くなった気がします。レンズとボディの隙間が広がってホールドしやすくなりましたし、解像度も扱いやすくてちょうどいい感じ。連写のコマ数も設定しておけば簡単に切り替えられるので、細かいところまで気が利いている感じがします。 下のシーンのように煽って撮る時は4軸マルチアングル液晶モニターが便利でしたね。軸がずれることなくしっかり水平をとれるので、安心して使うことができました。

以前、雪の中でも撮影しましたが、耐久性もまったく問題なし。どんな現場でもしっかり働いてくれる信頼性は折り紙付きです。

動画と静止画のハイブリッドな世界で
新たな表現法を見つけることができるカメラ

――今後、静止画からの動画を撮ってみたい被写体やシーンはありますか? このシリーズのスタートが「α9」の秒間20コマ連写でつくったノスタルジックな作品で、思い出を体現できて快感だったことをよく覚えています。そのノスタルジックな部分が軸となるので、今後も愁いを帯びた、どこか悲しさを感じるような作品になる気がしますね。

ですから、紅葉をテーマにしたり、歳を重ねた夫婦を撮ったりするのもいいかもしれません。そういったノスタルジーを拾う表現や、哀愁を感じる表現に制作意欲が湧くように思います。あとは自分にとって馴染みのある場所や思い出などを作品として残す、ということにも活用できると思います。どちらにしろ、完全に趣味でつくることになりそうです。

――仕事ではなかなか活用できないのでしょうか? 飲料などのシズル系は仕事でも使えるかもしれません。瞬間光でなければいけない条件のものが定常光で撮影でき、ワンカットだけを切り出してもきれいですから。動画と静止画同時に最高の瞬間を狙うことができ、レンズも豊富なラインアップから選ぶことができるのは仕事としても強みになると思います。飲料以外でも、アクション系で壁を突き破る瞬間、着地すると同時にガラスが割れる瞬間など、一発勝負でストロボでは不安なシーンは撮りやすいと思うので、仕事でも活用できる可能性はありそうです。

――「α9 III」はどのような被写体を撮る人に向いているカメラだと思いますか?

フォーカスをほぼ外すことなく最高約120コマ/秒の連写が撮れるカメラですから、当然、瞬間を捉えたいスポーツ撮影や野鳥撮影には有効です。ただ、これだけカメラ任せで撮れるようになってしまうと、表現という意味では少し難しくなってくるのかもしれません。最近は視覚表現自体も変わってきていて、映像や写真ではなく、新しいありかたが求められています。写真展でもインスタレーションで動画を使うなどハイブリッドでやっていく時に、120コマ連写を活用するのはひとつの手段です。連写で撮っておけば写真としても使えるし、さらに動画をつくると努力をすれば、一番きれいな世界線が見えてくるように思います。 どんな被写体を撮る人も、興味あったら「連続撮影した静止画から動画をつくる」ことを試してほしいです。そうすればスポーツも、動物も野鳥も、表現の仕方が変わってくる気がします。

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