「ROOTS 日本の原景 撮影記」No.11
西静岡の巨石群
写真家 小澤忠恭 氏
小澤忠恭/写真家 1951年、岐阜県郡上八幡生まれ。1972年、日本大学芸術学部映画学科中退。1981年、小学館月刊写楽「僕のイスタンブル」「ブエノスアイレスの風」でデビュー。人物写真を、集英社すばる「作家の貌」連載などで、アイドル写真を、学研MOMOCO「MOMOCO写真館」連載などで旅の写真を、JTB 旧「旅」などで発表。他にも女優写真集、アイドル写真、料理写真と多方面で活躍。最近では、ライフワークとして4X5で日本の滝を撮り続け、現在200本を超える。小学館「週刊ポスト」では「日本の重心をめぐる」を連載中。ミノルタ時代からのαファンで、現在はα7R IV、α7R III、α99を愛用している。フェイスブックで写真の話を書いています。https://www.facebook.com/chukyo.ozawaまた、新しくエッセイ集「写真すること」が発売になっている。https://chukyo-ozawa.booth.pm
日本全国に、巨石信仰はある。山頂や、急な斜面の上など、思いもかけないところに巨大な石があると、古代から人々はそれを不思議がり、神の降りる所、神の依代(よりしろ)と見て手を合わせてきた。これは日本に限らず世界各地にも見られるようだ。静岡県、藤枝市から掛川、浜名湖の北岸にかけての山中に、古代からの「磐座(いわくら=神の場所)」とされてきた巨石群が点在している。信仰の対象としての巨石は全国にたくさんあるが、この静岡西部山中の特徴は、巨石は各地点に一つではなく、それぞれたくさんの巨石が立ち並んでいることだ。静岡県は、他県の人には海に面した国のイメージが強いかもしれないが、北部の山は深く、険しく、不思議な空気に満ちたところも多い。今回は、藤枝市北部、「石谷山びく石」、掛川市のやはり山中「阿波々神社の磐座」。浜松市引佐の「天白磐座」を訪ねる。今回は特に、アルファレンズ、FE 14mm F1.8 GMを多用するつもりだ。
藤枝・石谷山びく石
藤枝市内から瀬戸川沿いに北へ、山中に分け入り、石谷山を目指す。途中振り返るとこの地方らしい、急斜面の茶畑と、そのはるか下に小さな町が見える。その向こうの山々。曇天で遠景が霞んで、浮世を離れて、遠い所に来た思いがする。
巨大な「びく石」は山頂を少し下った所にある。茶摘みや釣りに使う、ビクに形が似ているのでこの名で呼ばれるようだ。その昔、ダイダラボッチのような巨人が、西の国で穴を掘って琵琶湖を作り、その土を運んで東に富士山を作った。その時こぼれ落ちたのがこの石だという壮大な昔話がある。この辺りには、他にも鬼や天狗の伝説があって藤枝の不思議な場所と言われている。
掛川・阿波々神社の磐座
雨がそぼ降っている。阿波々神社は掛川市と島田市の市境近く、粟ヶ岳山頂にある奈良時代創建の古社だ。その境内というか、山頂下に原生林の斜面があり、その中に巨石が林立する磐座と呼ばれる古代からの聖地がある。
阿波々神社の磐座は、広い範囲の急斜面に多数の巨岩が積み重なっていて、その中には古代の祭祀跡や、また、割れ目の穴が地獄まで続いているという岩がある。しかし雨で足元悪く、とても全てを見て歩くことは難しい。しかし、その不思議な空間に身を置いてみれば、ここでも日本人の原景を感じることができる。
引佐・天白磐座
天白磐座(てんぱくいわくら)は浜松市、浜名湖の北東岸、引佐(いなさ)の、神宮寺川が大きく蛇行する所にある。ここには渭伊神社という古い社があるが、その裏山の薬師山の山腹に巨岩がいくつも並んでいるのだ。ここでは古墳時代から祭祀が行われ、当時の土器などが発掘されている。神宮寺川の河畔から山頂に至るまでを何段階かに分け、それを地上から天上への道に見立てて、山頂の二つの大きな岩の間を抜けると、天につながると言われている。雨上がりの、全て濡れた中、巨岩たちは蠢いている。ある岩は、木立をかき分けて這い出して来ているように見えた。また、ある岩は、背に積もった落ち葉を振り落としながら、ザワザワと立ち去って行くように見えた。
今回は、静岡西部のパワースポット言われる、三箇所を訪ねた。藤枝市在住の民俗学者、八木洋行氏に案内をいただいた。感謝したい。主に使ったレンズはFE 14mm F1.8 GM。このレンズは超ワイドであるが、ナチュラルな描写で非常に使いやすい。G Masterなので文句ないシャープさなのだが、どこか柔らかさのある絵を出すので、写真に情が出る。小澤の主力レンズの一つだ。
小澤忠恭さんが審査員を務める「ソニーNEX&Aマウントで撮るフォトコンテスト」開催中ソニーポイント50,000円分がもらえる大賞をはじめ、豪華な賞をご用意しておりますので、ぜひご応募ください。名機で撮影された皆様の作品をお待ちしております。
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