AMIY : 優劣はつけにくいでしょうけど・・・、いま、自分の中のプライオリティとしては、どの仕事が一番気に入っていますか? 別所 : 気に入ってる?というのは難しいですね(笑)。 AMIY : バランスがうまく保てているってことなんですね。 別所 : ただ自分の中でハッキリしていることは、一生役者であるということを辞める気はないということです。でも、よくいろんな事に手を出しているようには思われますね(笑)。例えば役者さんが急にお店を出したりすると、実業家として違う方向に軸足を移して行くように思われがちなんだけど、ボクの場合はそれらの仕事は演じることの為になるというのが常にあります。 AMIY : なるほどね。 別所 : そこで人に出会って、経験したり、感動したり、怒ったり泣いたりする感情の起伏は、いろんなボクの感性の引き出しに入っていくんです。 AMIY : 確かに普通に役者だけやっていたら、なかなかそんなチャンスはないですよね。 別所 : そうなんですよ。ボクも昔すごく忙しい頃にトレンディドラマを2本掛け持ちして、その間に映画を撮って、というようなことをやっている時に、ふっとこういう取材を受けたら、自分がフィクショナルな世界にしかいないという、突然恐怖感が出てきて・・・。いまの世の中に普通にある生臭い感覚というのを、いまの自分の年齢で受けているのかな?と思っていました。 AMIY : それっていくつくらいの時ですか? 別所 : 28〜33歳くらいの時ですね。ドキっとしました。ちょうどそのころ、映画祭を始めるキッカケになったアメリカに3ヶ月くらい行ったんです。そのときは、まだ映画祭を始めようとは思っていなかったんですけどね。 AMIY : そういう瞬間ってありますよね。自分を見直さなきゃいけないと思う瞬間が。 別所 : 永田町の中だけで何かやっている政治家みたいにね(笑)。芸能界の中だけにいて、チヤホヤされて分かったような気になっている自分と、忙しさでいい仕事をしていると勘違いしているということに気がついたことに、急に怖くなって。 AMIY : 私も写真家として同じような経験をしました。20代後半、もの凄く忙しくて一日何本も仕事を掛け持ちして、依頼されたものを撮影して、すごく充実はしているんだけど、「本当に撮りたい写真を撮っているのかな?」とふっと思うときがあって、子賢くなって何でも器用にこなしてしまっている自分に「これでいいの?私は何のために写真を撮っているの?」と、自問自答した時期がありました。 別所 : そういうのって絶対ありますよね。最初の頃に「お前はカメラ慣れした役者に絶対なったらダメだぞ。」と言われた時があって、撮影の現場やシステムを理解していくと、それは経験値としてカラダに入っていきますが、それをはみ出す力をなくすというか、型破っていく自分の感性というものがなくなってしまうと、何かを表現していく人間としてはダメなんだと思いましたね。 AMIY : でも、もともと実業家の資質があったんですよね。 別所 : いやいやいや(笑)実業っていうと変なんだけど(笑)。人生一度きりだから、やりたいことをやろうとは思っていますよ。 AMIY : そうですね。ところで、ここ・・・おしゃれでキレイなシアターですよね。 別所 : 階段のグラスアートはリッツ(ホテル)等も手がけたアーティストの作品なんですよ。ここは、僕が99年から主宰している短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル」を通じて、お客様の声も頂き、年間通して本格的にショートフィルムを見てもらえる場所があったらなぁ・・って思って作ったんです。いまも来年に向けて作品を募集していますが、膨大な作品が集まってきていますよ、既に1000本くらい。 AMIY : スゴイですね。ショートショートの作品は何分くらいのものなんですか? 別所 : ボクたちの映画祭は25分以内です。短いものだと、3分とか1分というのも世界から集まります。ただ短編映画自体はカンヌとかアカデミーとかは40分とか45分くらいの作品もあって、そのノールールみたいなところがいいところで、その作品が持つ体力とかストーリーテリングの力で8分だったり15分だったりしますね。ただボクたちの映画祭の規定は25分にしているんです。 AMIY : 別所さん自体は作らないのですか?(笑) 別所 : 作りたいですね、いつかは(笑)。映画ってやっぱり、演者として分かるんだけど、監督とかプロデュースって物凄い体力と精神力を要すると思うし、その中で自分を表現することとか、限られた時間で何かをまとめ上げていくというのは、とてつもない作業だと思います。本当に撮りたいテーマとか被写体とかが見えてこないと・・・職業監督になりたい訳ではないので。 AMIY : 撮ってみたいものが出てきたときに撮るってことですよね。 別所 : そうですね。やっぱり映画祭に関わって感じることは、映像作家というものは自分の中に見える手法とか考え方とかが反映できるなと思えないとできないんじゃないかなって気がします。アミさんも映画初監督大変だったでしょ。 AMIY : そうですね。いままでは写真家だったから感性とかいろんなものが一人で完結するじゃないですか。映画は数百人単位で人が関わっているので、いろんな人達のいろんな感性が入ってきて、映画監督って、それらを取りまとめる「現場監督」なんですよね。その中で、いかに自分らしさを表現できるか。いい勉強はさせてもらいましたね(笑)。面白かったです。 別所 : そうですね。結局何かモノを作るというのは、自分がやりたいことを人に理解してもらって同じ速度で走ってもらう仲間を作るとか、同じ速度で走ってくれなくても、ボクにできないことをやってくれるとか、そういう仲間作りをしないと実現していかないというのは、この映画祭をやっていても感じるし。 AMIY : なるほど、そうですね。役者も監督も、表現者ですからね。そういった意味では、一枚の写真も「表現する」という自己表現なので、楽しいですからこれから沢山撮ってくださいね。 別所 : 了解です。 |
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以前からの知人である別所さんですが、役者さんを軸に、いろんな事に体当たりしている姿は相変わらずバイタリティーに溢れ、生き生きしていて、あまり日本に居ないタイプの役者さんだと思います。 映画祭のプロデューサーでもある別所さんですが、青年実業家?と思いきや「全ては演じる事の為」と言い切る役者魂。そういえば、先日見た「ミス・サイゴン」でも、普段は好青年の別所さんが、面白いチンピラを演じていて、それが楽しそうでした。違う視点から世間を見ているからこそ自分のキャラと違う役が見えてくるのでしょうね。 で、そんな別所さんを、私の隣に居たご婦人達が「別所さん良いわね」って目がハートマークになって見ているのを横目で見て、「なるほど!確かに役者として人を楽しませるって事に繋がっている」と実感。何しろお忙しそうですが、たっぷり寝て、益々ピュアな好奇心に磨きをかけ周りを楽しませてくださいませ。 AMIY |
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