前浜(“α77”商品設計サブリーダー)
“α77”“α65”では、“α55”で採用したトランスルーセントミラー・テクノロジーを基本的に引き継いでいます。今回は、制御系、メカなど含めカメラ全体のパフォーマンスをさらに向上させることで、一層の高速化を実現しました。
内田(商品企画担当)
イメージャーも進化させ、それを処理するBIONZも新たに開発しています“α77”“α65”は、2430万画素という高画質のイメージャーを搭載していますが、これだけの高画質でありながら“α77”で約12コマ/秒の連写も可能という高速化を実現したことに大きな意義があります。単純に計算すると、画素数が“α55”の1620万画素から2430万画素ですから約1.5倍、速度が連写可能枚数“α55”の約10コマ/秒から約12コマ/秒ですから約1.2倍。これを掛け合わせると、“α77”は“α55”に比べて、約1.8倍の情報量を高速で処理することができるシステムになっているわけです。
原田(カメラ制御担当)
この高速化を実現したのは、各デバイスの性能が向上して、時間が短縮されたというのが大きなところです。2430万画素という高画質でありながら読み出し時間の短いイメージャー、フォーカルプレーンシャッターの巻き上げ時間や絞りユニットの駆動時間の短縮など、個々のデバイスのパフォーマンスが著しく向上していることが一番大きなポイントです。
前浜
約12コマ/秒は、他のカメラにない圧倒的な性能を、ということで設定した目標で、これをまず達成しようというのが出発点でした。実は、開発当初から社内では、約10コマ/秒ができたのだからもう充分なんじゃないか、という指摘もありました。でも実際撮ってみると、一瞬のシーン、例えば動物とか子供とか、激しく動いたり、表情が変わったりする被写体を撮影するには、1秒間に12枚撮れるとそれだけいい写真が撮れる確率が上がっていきます。ユーザーが撮りたい動きの速い被写体をしっかり捉えられる性能を、一層向上させたいという強い思いを、開発・設計の皆で共有して、各担当にがんばってもらいました。
約12コマ/秒というのは、一枚あたりに使える時間は約83ミリ秒です。その限られた83ミリ秒をAFが使うのかメカが使うのか、測距の演算に使うか・・・いずれにしても使える時間はとても限られています。
原田
その仕事は本当にシビアでしたね。最初に約12コマ/秒と聞いたときは正直言って「うそだろ?」と思いました(笑)。各デバイスが使う時間だけ並べていっても、ギリギリ入るか入らないかというところです。制御での処理時間の余裕はないというのがわかってきて、当初は仕事を進めながら「これ本当にいけるのかな」って疑心暗鬼でした。その後は、各制御での処理時間の配分であったりとか、どこに何を入れるというのを、制御担当だけではなく、商品設計も機構設計も皆で一緒になって、本当に1ミリ秒、2ミリ秒( 1ミリ秒は1/1000秒)の奪い合いです。時間をうまく重ねたり、ズラしたり、そういう調節をして。削るところは1ミリ秒とかのレベルじゃなくて、もっと下の0.5ミリ秒とかそういうレベルで縮めていって、詰めてつめて・・・やっとできた、というところですね。
岸田(メカユニット担当)
1コマ当たり83ミリ秒の実現ということで、メカの面から少し詳しくご説明します。ミラーボックスには、シャッターを巻き上げるチャージ機構と、絞りを調整する絞り機構、それとオートフォーカス用のAF機構、その3つの駆動系が入っています。今回、進化のポイントとしては2つ。連写速度とレリーズタイムラグの短縮化があります。連写に関しましては、シャッターチャージ機構が大きく貢献しています。“α77”なら約12コマ/秒、“α65”であれば約10コマ/秒を達成するための重要な要素として貢献しています。
シャッターチャージの高速化では困難なことも多くありました。中級機に位置づけられた“α77”では、“α700”同様、最高1/8000秒という高性能シャッターを使うことになったので、シャッター幕を高速で動かすための強い駆動バネが必要になります。バネが強くなれば、そのバネを巻き上げるためのチャージャー駆動系の力量が必要になってきます。この問題解決のためにはチャージモータートルクを高める必要がありますが、単にトルクを高めればいいというだけでもなく、同時に「速度」を上げていかなければならないという命題があって、今回は、駆動系全体を一から見直しました。これは、モーターのパートナーさんとタッグを組んで開発し、結果的に、これまでと並び方や構成は似ているものの、中身はこれまでとまるきり違うものになっています。
シャッターチャージは、巻き上げてシャッターを切るという動作を、約12コマ/秒だったら83ミリ秒に1回、1秒間に12回繰り返します。この間、駆動系としてはずっと働いていて、ストップアンドゴーを繰り返すような動き方をしているんです。当然、制御の信号をもらってモーターを動かしますが、ずっと回っていればいいというものでもなくて、動いて、正しい位置で止まって、また動くということを繰り返さなくてはならないので、停止位置の制御が大事になってきます。1秒当りの連写コマ数が増えれば増えるほど、どんどん速いスピードで動くために停止位置もバラつきやすくなるんですね。そこをいかに決められた位置で止めてあげるかということです。シャッター幕は下から上に上がるんですけど、シャッター幕がチャージされて、これからシャッターをきるぞーって待機している時間があって、それも数ミリ秒という単位で時間も、位置も、正確じゃなきゃいけない。
こうした課題を解決する手はいろいろで、大切なのは、適したモーター選びからギアの調整、さらにシャッターの巻き上げのところまでをきちっと設計することなどです。いくら高性能なモーターを持ってきても、それだけではうまくいかないことが多いんです。
原田
スタートラインは、ギリギリ前にいてほしいんですね。スタートが一歩前なら、動く時間がその分だけ短くなります。メカ担当にはその部分を追い込んでいただきました。
岸田
それもやりすぎると一回分無駄なショットになってしまうため、行き過ぎも絶対に許されない。スタートラインの手前でピタッと止めて、しかもできるだけぎりぎりのところで待機させるということなんですよ。これはもう大変な要求でした。
原田
チキンレースみたいなものですね(笑)。制御担当としては、本当にあちこちに無理言って時間を縮めてもらったという、その一言に尽きます。あとは制御の処理がどこまで走りきれるかという部分の追い込み。読み出し時間やシャッターの巻き上げ時間などは物理的に時間がかかるので、その裏側で制御処理をいかに回していくかですね。いくつも並列で回して処理をかけて、どうしてもかかってしまう時間の中に隠してあげる。そういう作業です。パラレルでできるものはできるだけパラレルで動かしながら、なにをどこでやるかという組み合わせのトライ&エラーを繰り返しました。1コマ83ミリ秒を達成したときは、自分でも「あ・・・できちゃった!」と驚きがありましたね。
岸田
一方、レリーズラグの短縮に対しては、チャージ機構とはちょうど反対側に配置されている絞り機構が重要になります。絞りを調整する時間についてもグッと抑え込んで短くしてあげなきゃいけないのですが、これについても、まったく新しい設計で取り組みました。絞り機構についても、同様にモーター選定からギアの設計を行いましたが、やはり最も苦労した点は駆動系の停止位置制御でした。絞り機構の場合には、メカ負荷のバランスや制御方法によって、停止指令後もメカが物理的に揺れてしまいうことがありますので、それが収束する時間安定させるように、メカ的な精度を追い込んでいきました。部品個々や部品同士のガタツキみたいなものをどんどん追い込んで削減して、精度をあげることによって、最後に止まるまでの動きを短く安定させていくわけです。部品の材質も当然こだわりましたけど、どちらかというと構成しているギアの数を減らしたり、組み立て方法を変えたり、そういった工夫を重ねた部分が大きい。あと大変だったのは、この停止位置制御が色々な環境下でもちゃんと満足できないいといけないことです。そのために実験も数限りなく繰り返しました。絞り機構のところについては、制御の原田さんと一緒に突き詰めていって、最後の最後まで本当に大変だったですね(笑)。
原田
今回、シャッターボタンが押されてから、実際に写真を撮り始めるまでの時間「レリーズタイムラグ」については、目標が50ミリ秒に設定されました。これも商品設計からこのぐらいにしたいっていう要望が来たのですが、これについても最初は「無茶言わないでくれよ」というのが正直な感想でした(笑)。
“α77”と“α65”では、「電子先幕シャッター」を使うことになったので、露光する前の段階でシャッターを動かすことがなくなりました。そのため、レリーズタイムラグの残りを支配するのは主に絞りの駆動時間だけです。ここを縮めれば本当にものすごく短くできる。しかし絞り駆動には、精度を出すためにもある程度の時間はとらなくてはいけない。それをどうやって短くするかという過程にいろいろありました。最初は、駆動するときは思い切り、車でいえばフルアクセル・フルブレーキみたいな作りをやろうとしたんですけど、攻めすぎちゃって、精度が出ないという問題に直面して、そこらへんを制御的に変えて合わせ込んで、これならいけるっていう答えがやっと出ました。“α700”でも65ミリ/秒という数字を達成していますが、同じ中級機として、今回はとりわけ電子先幕になったのだったら、私たちとしてもシャッターを押した瞬間に切れるような感覚、狙ったタイミングで撮れると驚いていただけるようなカメラを絶対に作りたかった。
原田
「電子先幕シャッター」は、今回新たに採用したシステムです。通常のフォーカルプレーンシャッターには、先幕、後幕と呼ばれている2枚の幕がありますが、電子先幕シャッターでは、メカとしての先幕を使わずに、イメージャー上でリセット信号を先に走らせて、そのあとにメカの後幕が追いかけていく形になります。
内田
初期設定は電子先幕のほうになっています。メカ先幕も搭載していて、そちらを使う選択もできます。
原田
電子先幕シャッターの開発では、課題もいくつかありました。メカの動きというのは、一台一台個性があったりするので、そこをどうやって制御的に合わせるか、電子先幕をどうやってメカに近づけるかということが、まず大きなポイントでした。これは、単純に動きを合わせるということでもありません。例えばレンズの状態にも関係していて、個々のレンズ毎にどのような動かし方が最適かということが違うのです。各レンズの情報を集めて、テータを取って、測定した結果との関係性から、こうすれば行けそうだというところが見えてくる。制御的にはそういう課題をクリアしていく必要がありました。
今回は、実際にメカの動きを知るために、シャッターの動きをモニターできる仕組みをつけています。その情報から、今シャッターがこういうふうに動いているという情報と、レンズの情報、その他の情報も含めて、シャッターの動きとイメージャー上の電子先幕の動きを合わせるような形にして、安定的な露光状態が実現しています。カメラのなかで、シャッターを切るたびに瞬時にモニターして情報を収集し、調整しているわけです。
前浜
電子先幕シャッター自体は他のカメラでの前例はあるものの、αの場合は少し背景が違います。それは、トランスルーセントミラーと電子ビューファインダーを採用したαでは、ライブビューがサブ機能ではなくメイン機能であるということです。はね上げ式のミラーがなく、ライブビューで被写体を捉えているそのままを撮影できる状態にある。それならばレリーズタイムラグを短縮してより高速化を実現したい。必然的に、すぐに撮影できる電子先幕シャッターの位置づけが非常に大きくなります。
内田
また、追尾フォーカスという新機能があります。トランスルーセントミラー・テクノロジーの特長のひとつとして、常にライブビューできるので、画面の中にどういう物体がいるかを常時分析し、どこに何がいるか、被写体がどう動いているのかを把握することができます。その技術とAFを組み合わせることによって、ユーザーが撮りたいと指定した物体にピントをずっと合わせ続けることができるという技術が、この追尾フォーカスです。従来は基本的にはカメラがその都度ピントを合わせる対象を考えピントを合わせるのですが、この追尾フォーカスでは、従来の基準では他のものにピントをあわせに行こうとするような場面でも、ユーザーが最初に指定したものを追い続けます。さらに、基本的にAFは測距点のところでしか効かないんですけど、たとえ被写体の動きが速く、フレームアウトしてAFのエリアから外れたとしても、ライブビューとしては物体の認識を続けていますので、常に追い続けて、またAF可能な領域に戻ってきたときに瞬時にフォーカスを合わせます。撮りたい被写体が動きの速い物体でも可能な限りフォーカスを合わせ続けるというのがこの追尾フォーカスです。
前浜
被写体が人の顔の場合は、どれだけ時間たっても指定した顔がフレーム内に戻ればまた追尾します。例えば、運動会で群衆のなかから自分の子供を見つけて追尾対象に指定してピントを合わせることができます。また、今回のカメラはあらかじめ自分子供を登録しておいて、一週間後の運動会の時に自分の子だとカメラが認識してくれる個人顔登録という機能もあります。これは“α77”と“α65”で同時に発表したEマウントの新製品NEX-7, NEX-5Nとともに初めて搭載したものです。
内田
常に位相差AFが働いているため、高速にピントを合わせることができるから、動きまわる物体にも高い精度の追随が実現しているわけです。
前浜
AFで言えば、“α77”では、センサーの数、とりわけクロスセンサーの数を増やしたということもトピックのひとつです。ピントの合う確率を上げたいということは開発の出発点からありました。クロスセンサーを11点、AFの範囲も拡張して合計19点のセンサーを配置しています。今までだと被写体を一度真ん中に持ってきてピント合わせをしてから構図を決めてシャッターを切る、という動作をしなくてはならなかったところを、構図を変えずにピントを合わせることを行いやすくなっています。
また、フォーカスエリアで「ワイド」と「ローカル」の中間に位置する「ゾーン」を用意しました。今までは大きなワイドか細かなローカルか、中央のスポットしかありませんでしたが、「ゾーン」は左、中央、右とラフに選べる機能です。例えばメインの被写体が左にあって、手前右には邪魔なものがあるシーンだと、「ワイド」だったら邪魔なものにピントがあってしまう。それを避けるためにスポットやローカルで合わせることの意識が必要でしたが、「ゾーン」ではピントは左に、と簡単に指定すれば済むようになります。
前浜
私は、1秒約12コマ、レリーズタイムラグ50ミリ秒という数値目標を各担当にお願いした側ですが、実は、本当にできるのかなという気持ちは私にもありました。そのような困難な課題をクリアして、見事に目標を達成してしまった各担当の皆さんには、本当に驚かされたし、感謝もしています。達成できてほんとうによかった。次はこの、体験したことのないような高速レスポンスを、ユーザのみなさんに思う存分楽しんでいただきたいと思っています。
内田
さらなる高速のレスポンスと連写を得ることで、被写体を、じっくり確認しながらシャッターボタンを押した瞬間に捕まえらえるようになりました。しかも連写で、本当にいい表情・瞬間を残せる。これらは全てトランスルーセントミラー・テクノロジーがあってこそ実現したことです。本当にいい、ソニーらしい中級機ができたと思っています。
原田
“α55”と同じトランスルーセントミラー・テクノロジーではありますが、電子シ先幕ャッターを使ったことで、撮影の感覚の違いがやっぱり出てきます。「小気味よく撮れる」という特長がすごく出ていると思うので、そこを十分楽しんでください。今までよりもシャッターを押したときのレスポンンスが速くなっているので、動いているものに対して撮りたいと思った瞬間にシャッターを押してしっかり撮れている驚きを、実感してほしいとい感じています。
岸田
弊社で行ったシャッター音評価では、「重厚」で「柔らかい」「落ち着きがあり心地よい」という高い評価で、好きな音としてのランクもトップクラスでした。全てのメカ音がぎゅっと凝縮され、それが1秒間に12回という高速でマグネシウム筐体に響く感じが、自分自身で使っていてわくわくします。それでいてピントはパシッと合っているのでスポーツシーンなどでは貴重な一枚を逃さず撮れるはずです。最高のショットは数打てばきっと当たります。撮ったあとで、お気に入りの一枚を探すのも楽しみの一つだと思います。