法人のお客様ラインアレイスピーカー

ラインアレイスピーカー『SLS-1A』

ラインアレイスピーカー
『SLS-1A』開発者インタビュー

第2回コンパクトサイズとフレキシブルな設置性

多彩な視聴環境へ
柔軟に導入できる
コンパクトなボディと
フレキシブルな設置性
ソニーが新たに開発した業務用パワードラインアレイスピーカー『SLS-1A』。その誕生の裏側に全3回にわたって迫る開発者インタビューの第2回目となる今回は、コンパクトサイズのボディとフレキシブルな設置性、高い接続性・拡張性を実現するためのさまざまな工夫や苦労について開発メンバーに聞きました。

たくさんの人に高音質を届ける
コンパクトサイズを目指して

今回、SLS-1Aのモジュールのサイズをコンパクトにした理由を教えてください。

佐々木:他社製のラインアレイスピーカーは長さが1mくらいある大きなものが主流であり、それだと広い空間での使用に限られてしまいます。SLS-1Aは、それほど音量を必要としない一般家庭や小さめの会議室などにも対応しつつ、複数台連結すれば大きな施設でも使用できるようにしています。つまり、より幅広いお客様に使っていただきたいという思いから、今回のコンパクトサイズを採用しています。
コンパクトサイズと高音圧を両立

コンパクトサイズと高音圧を両立したボディ

最大音圧レベル105dB、80Hzの低域とコンパクトサイズを両立できた要因は何でしょうか。

碓井:まずメカ設計の観点でいうと、私たちが目指したコンパクトさを実現するには、基板とスピーカーという要素や各デバイスを効率よく配置する必要がありました。特に基板のサイズが支配的で、電気担当者と何度も議論を重ね、1mm単位で調整するなどの試行錯誤を繰り返した結果、高い音響性能を持ちつつ最大限コンパクトなボディを実現できるベストなレイアウトにたどり着くことができました。

:その検討を行うにあたり、電気部品の形状情報を持つデータベース、回路基板設計用と機構設計用のCADシステムを連携させることで、電気とメカの部品の占有体積も計算に入れながら、目指した音響特性の実現に必要な音響容積、バスレフダクトの奥行きと開口形状を確保しています。

システム開発用ボードと製品に実装された基板

システム開発用ボード(奥)と製品に実装された基板(前)

佐々木:私はFPGA(Field-Programmable Gate Array)の開発を含めたシステム設計をわりと大きい開発ボード上で進めていたのですが、これをセットサイズのコンパクトな基板に収めることが非常に苦労しました。LANポートなどの外部端子やコネクタの位置や高さなどのメカ的な制限があるのに加えて、FPGA→DSP→DACのデジタル音声信号の流れも考慮しなければなりません。部品のレイアウトを細かく調整しながら何通りものパターンを試し、基板を高密度化するなどの対策を講じることで、なんとかその課題をクリアすることができました。

:また、アンプ、デジタル処理、電源の各回路基板を、アルミ筐体の長手方向を通貫する板厚1.0mmのビームフレームの両面にしっかりとネジ留めすることで、スピーカーの音圧の影響を受けにくい構造を実現しています。さらに、スピーカーユニットを充分な板厚(3.5mm)と補強リブで強化されたプラスチックのバッフル板を挟んでアルミニウムの箱に取り付けることで、個々のユニットのフレームの振動が適度にダンプされ、内部の電気回路に影響を及ぼしにくい構造としました。

8chアンプとDSP内蔵のコンパクトボディを実現したのにはどのような工夫がありましたか。

:電源基板とアンプ基板を内蔵し筐体をどんどんコンパクトにしていくと、構造的に必ず熱の問題が生じてしまいます。まず熱やEMC(Electro Magnetic Compatibility)を考えてシミュレーションを事前に行い、プラスチックで筐体を作るという選択肢は早い段階で排除していました。比較検討した結果、高剛性アルミ筐体を採用し最大限に有効活用することで熱のコントロールを実現しました。

放熱に優れた高剛性アルミニウム筐体

放熱に優れた高剛性アルミニウム筐体

Interview01

ソニー株式会社
HES事業本部 音響設計部門
碓井 正一(メカ(機構)設計)

碓井:各電気部品から出る熱をアルミのヒートシンクや板金シャーシにまず伝えて、最終的に熱が一極集中することなく均等にアルミ筐体へ伝わる構造にしています。たとえば、AC電源が入力されるセットが一番熱くなりますが、3台連結したときは左右と真ん中の3通りあり、さらに設置されたときの姿勢が上下左右の4通り存在しますので、計12通りのシミュレーションを行い最適化しています。

思い通りの設置を実現するために追求した
細部におよぶ飽くなきこだわり

横配置・縦配置でき、連結してもピッチ間隔が変わらない構造を実現したポイントを教えてください。

佐々木:第1回でも話が出ましたが、SLS-1Aを複数台連結し、あたかも1台のスピーカーとして扱えるよう、スピーカーユニットのピッチ間隔を均一にしています。

:スピーカーユニットを等しいピッチで並べると、音をフォーカスさせる精度が飛躍的に良くなります。逆に、連結したとき間に隙間があると不正確なフォーカスになってしまう。そこを碓井が頑張って等ピッチに並べてくれたおかげで、理想的なフォーカスを実現することができました。

碓井:スピーカーによってはサイドにバスレフ穴が開いていて、連結するとスピーカー同士の間に隙間ができてしまい、それが音の歪みになったり、きれいな波形ができにくくなるものもあります。SLS-1Aは2台、3台と繋げた時に、隣同士のスピーカーユニットも等間隔になるよう設計しました。また、スピーカーグリルも、複数台連結時に境界部に遮る要素をなくし、音が斜め方向にもきれいに抜けて広がっていく形状としています。

スピーカーの等間隔レイアウト

連結しても狭ピッチで等間隔に並ぶスピーカーレイアウト

取り付け用の金具にもさまざまなこだわりが詰まっているそうですね。

碓井:設置金具はSLS-1A専用に新規で一から設計し、連結して使用することを前提としてサイズや形状を最適化しました。横配置、縦配置時ともに製品の面積内に収まるほど小さいサイズとし、作業者が1人でも設置しやすいよう重さも抑えています。また、複数台連結時には付属のウォールマウントブラケット連結用金具を使用することで、1台を壁面に取り付けた後でも好きな方向に連結でき、隣同士のスピーカーが等間隔になる構造を採用。さらに、上下左右どの姿勢で設置しても1つの金具で対応できる形状にし、同梱の金具を必要最小限に抑えています。水平方向と垂直方向では重力のかかり方も異なりますので、同じ形状でどちらも対応できる金具をつくるのは簡単ではありませんでしたが、実現できて本当によかったです。

横配置にしても縦配置にしても1つで対応できる連結用設置金具

横配置にしても縦配置にしても1つで対応できる連結用設置金具

Interview02

ソニー株式会社
HES事業本部 音響設計部門
佐々木 伸治(システム設計)

配線にはどのようなこだわりがあるのでしょうか。

佐々木:何よりも、連結したときにケーブルがだらんと下に垂れ下がって見えたりするのは見栄えがよくないので、なるべくケーブルをセットの背面に隠して前方から見えないようにしています。また、1台目から2台目と3台目の電源を供給することが可能で、電源ケーブルの本数を減らす工夫をしています。さらに、Danteをデイジーチェーン対応にしたことで、LANケーブルを隣のセットに直に接続可能となり、短いケーブルでセットの後ろにまとめられるようにしたところもこだわったポイントです。
電源とLANケーブルのカスケード接続を可能にした配線

電源とLANケーブルのカスケード接続を可能にした配線

業務用としての高い接続性と
より幅広い用途にも対応できる拡張性

SLS-1AではDanteデジタルオーディオネットワークインターフェースに対応しているとのことですが、その背景について教えてください。

佐々木:Danteは大学設備やスタジオ、放送局などの業務用機器のインターフェースにおいてデファクトスタンダードといってもいいほど浸透しているフォーマットですので、SLS-1Aも幅広いシーンで使用してもらうためにDanteに対応しました。普通、機器を複数台連結したときにはデータの通信速度によって若干の音のズレが生じることがあるのですが、Danteの特長の1つに「時刻同期」があるので、Danteを介して連結した機器を完全に同期させて動かすことができます。複数のSLS-1Aをカスケード接続して1つのスピーカーとして使用するためにも、Danteへの対応は欠かせませんでした。

Dante対応製品に接続できる入出力端子

Dante対応製品に接続できる入出力端子

「Dante 8ch入力モード」とはどのようなものですか。

佐々木:基本的にSLS-1AはAnalog/Danteの1ch信号を入力して設置する空間に応じた音場を内蔵DSPで実現するモードで使用されることを想定しています。一方、Dante 8ch入力モードも用意しており、ユーザーがPCで信号処理を自在に設定して、1台のスピーカーでマルチチャンネルの音を出すことができます。1台で8chの出力に対応した商品というのは珍しいのではないかと思います。

どういったシーンでの活用が考えられるのでしょうか。

佐々木:想定される用途としてはたとえば、DAW(Digital Audio Workstation)などの音楽作成アプリのモニタースピーカーとして、オーディオ制作を行う際にギターやピアノなどの音源をチャンネルごとに出力して1台のスピーカーで聞くことができます。また、オブジェクトオーディオのようにショールームなどで人が動くのに合わせてチャンネルごとにディレイをかけ、音も一緒に動いて聞こえるようにすることもできます。また、美術館などの音声ガイドで、チャンネルごとに異なる言語の音声を流す多言語対応にも活用できると思います。それ以外にもさまざまな使用用途が考えられるでしょうし、今後の拡張性も見据えた機能となっています。

ご自身がこだわったポイントや工夫した点について聞かせてください。

碓井:私はやはりスピーカーグリルですね。縁が少なく、音の抜けや広がりも考慮した開口率の高いグリルの設計が非常に難しかったです。手で触れても怪我をしないような加工も施していますし、設置する壁面の色に合わせてグリルにも色を塗れるよう、塗料との相性がいい素材を使用しています。

また、一般的にグリルを下にして固いところに置くと、すぐに傷が付いたり凹んだりすることがあります。そこで、梱包材を着けた状態のままでケーブルを挿したりセッティングが行えるようにすることで、グリルを傷めず作業もしやすいよう梱包材にも工夫を凝らしています。

梱包材にも工夫

佐々木:私が1番大変だったのは、Dante用のFPGAの開発です。元々は既存のICを使用する予定でしたが、SLS-1Aの仕様と合わないところがあることが分かり、途中でDante IPを内蔵するFPGAを新規で開発する方針に舵を切ることになりました。FPGAの開発をスタートして、仕様出しからプログラミング、評価用基板の設計、音出し確認まで約4カ月という短期間で開発を行いました。セットの全体日程を変更することなしに急にFPGA開発をすることになって、不安とプレッシャーでいっぱいでしたね。それもあって、実際に正常に動作して無事に音が出たときの感動は忘れられません。また、Danteを導入するにあたり、社内他部署のDante経験者にもいろいろ相談させていただきました。ここで、お礼を言いたいと思います。

Interview03

ソニー株式会社
HES事業本部 音響設計部門
灘 和夫(電気設計)

:それぞれに苦労したところは当然ありますが、電気設計の立場から言うと、実は非常にスムーズに進行できたプロジェクトでもあったんです。まず8つのスピーカーユニットを等間隔で、コンパクトな筐体の中に並べるという仕様を初期の段階で打ち出し、それを実現できるサイズを早いうちに決めてしまったんですね。佐々木が担当したシステム開発は大変なところですが、それ以外の電源やアンプ周りなどは開発段階から最終形になるよう先を見据えて先手先手で進めることができました。また、プラスチックではなくアルミニウムを筐体に採用すると早めに結論づけられたことも、プロジェクトが円滑に進んだ要因の1つです。そのアルミ筐体でうまく放熱できるよう、基板とビームフレームの間に厚い放熱シートを挟み込むなどのギミックを使いながら想定通りのシミュレーション結果が得られましたし、ECMの評価を試作品で行う際も特にクリティカルな問題が発生することもありませんでした。その都度しっかり正しい見立てと判断を行って設計を進められたことが、いい結果につながったんだと思います。

最後に読者に向けてメッセージをお願いします。

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碓井:業務用ということで、コンスーマー用以上に高い耐久性が求められるところはメカ設計として大きなやりがいを感じましたし、製品自体はもちろん、スピーカーグリルや取り付け金具も新規で開発するなど、いろいろなことにチャレンジできたプロジェクトでした。ぜひ実際にお手に取って触れてみてもらえたらと思います。
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佐々木:大画面ディスプレイや業務用用途で、環境に応じて適切な音場を作ることができるSLS-1Aに興味を持っていただきたいですし、もしどこかでお見掛けしたら、じっくり音を聞いていただきたいと思います。そして、その内部にはさまざまな新規開発の技術が詰まっていることを想像していただけたら嬉しいです。
message-nada
:私はこれまではレコードプレーヤーやAVレシーバー、単品コンポオーディオを担当してきましたが、スピーカーを筐体の中に入れるセットは初めての経験でしたので、関連する法規について調べたり、知らない世界を楽しむように取り組むことができました。この小さな筐体に私たちのさまざまな技術とこだわりが凝縮されていますので、ぜひ一度体験してみていただきたいですね。
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パワードラインアレイスピーカー

SLS-1A