ラインアレイスピーカー
『SLS-1A』開発者インタビュー
第3回アプリとの連携で広がる音響設計
わかりやすくシンプルな操作画面で多彩な
設定ができる
専用PCアプリケーション
まず、『Line-Array Speaker Manager』というアプリについて教えてください。
大嶋:SLS-1Aでの機器配置やビームコントロールなどのさまざまな設定や運用を、ネットワークを介して遠隔で操作できる無償の専用アプリケーションです。主に6つの機能で構成されており、まず1つ目の「Placement」は、スピーカーを複数台連結して1つのスピーカーとして使用する際、アプリ上でグループを作成し、上下左右といった配置などの設定を自在に行える機能です。また、「Routing」ではスピーカーへの入力ソースの切り替え、「Beam」ではどの位置にどのように音を届けるかという指向性の制御を行えます。特にBeam内の「Steering/Spread」では、数値を変更することで音が出る角度や届く範囲を簡単に設定することができます。「Placement」画面(左)と「Beam」内「Steering/Spread」設定画面(右)
(※画面はイメージです)
UI(操作画面)でこだわったのはどのようなところでしょうか。
大嶋:最も重視したのは、ひと目でわかりやすい一覧性です。設定を行う機器と現在の状態が画面上ですべて確認できるようにしています。当初はまとめて1画面で表示することを考えていましたが、6つの機能ごとにタブを分けることでスッキリ見やすくなりました。また、左のタブから順番に設定していけば実際の操作のフローに沿ってスムーズに設定が完了できるよう、ユーザーの利便性も追求しています。設定しようとしているSLS-1Aが今どのような状態か、常に画面で確認できるようにしているところもこだわったポイントです。ソニー株式会社
HES事業本部 HESソフトウェアセンター
大嶋 健太郎(Line-Array Speaker Manager UI設計)
「Export/Import機能」とはどのようなものですか。
大嶋:これは、ユーザーへのヒアリングを通して改めてニーズの高さが明確になった機能です。たとえば、3台のスピーカーを連結して使用しているとして、そのうち1台だけを交換する場合、入れ換えた新しいスピーカーを一から設定し直すのは手間ですよね。そんなときに、元々使用していた設定をエクスポートしておき、新しいものにインポートすれば、すぐに交換する前と同じように使用することができます。スピーカーを連結して使用することを前提とした、業務用ならではの機能といえます。最先端ソフトウェアへの対応が実現する
緻密な音場生成
SLS-1Aが対応した『EASE® Focus 3』と『FIRmaker® 3D』について解説をお願いします。
吉岡:『EASE® Focus 3』は、コンサート会場などに設置されるような大きなラインアレイスピーカーでも採用されているAFMG®社製の音響シミュレーションソフトです。部屋情報やオーディエンスエリアとスピーカーの配置を入力することで、均一な音圧分布のシミュレーションと指向性制御用のFIRデータ生成の計算処理ができます。今回、SLS-1Aも対応したことで、設置する空間に合わせて聞く人の位置を指定し、スピーカーの位置や角度によってどのように音を届けられるかを確認したりきめ細かく調整したりすることが可能となっています。
「EASE® Focus 3」の操作画面
(※画面はイメージです)
白川:元々コンサート会場などではスピーカーを縦にして設置することが多く、従来の『EASE® Focus』は『FIRmaker®』を用いた指向性制御は縦位置でしか対応していませんでした。しかしSLS-1Aを開発するにあたり、音を水平方向に広げて画面内定位を実現するには、横配置での指向性制御も欠かせません。そんななか、運も味方したのか、ちょうどタイミングよくAFMG®社が横配置にも対応した『FIRmaker® 3D』を開発していることを知り、私たちが目指している横配置での指向性制御を実現できるようになったときはうれしかったですね。
吉岡:また、SLS-1Aはスピーカーユニット同士の音の放射を低域から高域まで位相も含めて細かく制御できる「FIRフィルター」に対応しているという話が第1回でも出ましたが、AFMG®社の『EASE® Focus 3 / FIRmaker® 3D』で、音を視聴したいオーディエンスエリアに対して最適な指向性制御をより高い精度で自動的に算出することができます。
『EASE® Focus 3』ではトップビューとサイドビューにオーディエンスエリアを描き、「GLLデータ」というSLS-1A用スピーカーデータを配置します。この「GLLデータ」はWebから無償でダウンロードできますので、『EASE® Focus 3』とともにダウンロードして一度使ってみていただけるとSLS-1Aの使用法が広がっていくのではないかと思います。
ソニー株式会社
HES事業本部 音響設計部門
吉岡 宙士(音響設計)
他にはどのような機能がありますか。
吉岡:『EASE® Focus 3 / FIRmaker® 3D』からエクスポートした指向性制御データを、冒頭でご紹介した『Line-Array Speaker Manager』のアプリに取り込み、スピーカーに転送して詳細な音場設定を行うことができます。具体的には、『FIRmaker® 3D』が自動で算出した指向性制御に必要なFIRフィルター係数を、『Line-Array Speaker Manager』を介してSLS-1AのDSPモジュールに転送することで、実際の指向性の変更を実現します。アプリなしでもビーム設定が可能、
設置する
施設や使用スタイルに合わせて選べる3方式
背面に搭載したディップスイッチの用途について教えてください。
吉岡:SLS-1Aは複数台を連結して使用することが多いと思いますが、小さめの会議室などでは1台で使用することも考えられます。その場合、本体のディップスイッチを操作することで、その場で音を聞きながら6つのパターンに合わせた簡易的なビームコントロール設定が手間をかけずにPCレスで行えるようにしています。
そのほか、強調したいポイントや工夫した点について聞かせてください。
大嶋:最大6台まで連結でき、しかも上下左右に向きを変えても使用できるということで、さまざまなパターンを想定してUIを制作するところは大変でした。また、上記のディップスイッチでの操作から『Line-Array Speaker Manager』、『EASE® Focus 3』と、SLS-1Aはユーザーのタッチポイントが複数ありますので、それぞれの立ち位置を考慮しながらUX(ユーザーエクスペリエンス)のコンセプトを決めるところはむずかしくもあり、同時に面白さも感じながら取り組めました。
ソニー株式会社
HES事業本部 音響設計部門
白川 弘之(音響設計、EASE Focus用Plug-in開発)
最後に読者に向けてメッセージをお願いします。
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