東京大学医学部附属病院 石沢 武彰 先生
東京大学医学部附属病院
肝胆膵、人工臓器・移植外科 講師
石沢 武彰(いしざわ たけあき)先生
千葉大学医学部卒業後、東京大学医学部附属病院に入局。
大学病院勤務などを経て、腹腔鏡手術の習得と蛍光ナビゲーション手術の開発のために、パリの医療施設Institut Mutualiste Montsourisに留学。
がん研有明病院を経て2018年より現職。医学博士。
蛍光イメージングガイド下手術における世界的トップランナー・石沢先生にNUCLeUSの Color and Structure Enhancement (CAS) 機能を評価していただきました。
IP(Internet Protocol)ネットワークを通じ、手術室、集中治療室(ICU)を含む病院内の医療映像データを一元的に管理・活用する次世代型医療映像システム。ソフトウェアベースのプラットフォームにより、多種多様な医療現場のニーズに応じて柔軟に機能を組み合わせることができ、将来の変化にも対応可能な拡張性を備えています。映像による手術サポート、リアルタイム配信による院内双方向コミュニケーション、映像を活用した医療教育など、医療現場のワークフロー効率化を実現します。
NUCLeUSの機能のひとつ。画像処理アプリケーションにより、映像の色と構造が強調され視認性を高めることができます。色と構造の強調度合いはパラメータを用いて段階的に調節できるため、対象物に合わせて強調表示を行うことができ、状態の把握に役立ちます。
※CASは、臨床上の効能・効果を保証するものではありません。
手術では保護すべき血管や神経が組織に埋没しているため、慎重に周囲の組織から切り離す必要があります。CASの色調と輪郭強調が組み合わさった映像は、組織に埋没する血管や神経の識別が非常に良くなったという印象です。組織の奥行き感も認識しやすいですね。例えば肝臓がん摘出手術の場合、肝臓の奥まで切り進めると内視鏡では奥行き感を感じ取るのが難しいのですが、CASによって組織の奥行き感が際立ち、3D映像のような立体感を感じました。
HDの内視鏡映像でも識別能の向上を実感することができ、場面によっては「まるで4Kか?」と錯覚することもあるかもしれません。組織による質感の違いが明瞭になり、血管や神経を丁寧に保護していく操作がしやすくなると思います。手術室の内視鏡や顕微鏡など映像機器が4Kという施設がまだまだ少ない中、HD映像が4K並みに明瞭になれば、手術のやりやすさはもちろん、病院側にとっても費用対効果が大きいのではないでしょうか。
HDの肝臓の内視鏡映像
現在、映像を見るモニター側や撮影する内視鏡、顕微鏡側でも各メーカーが画像処理の技術を競い合っています。効果に効果を重ねるのではなく、CASのように、メーカーや機器のグレードによらず、アウトプット側で一律の処理ができれば、ユーザーにとっては助かりますね。
CASの効果をかけた画面が明瞭かつ自然で遅延も感じないため、常時効果をかけたままで執刀医は手術に集中できると思います。
※蛍光ガイド手術:患者に蛍光物質を投与し、手術中、癌や血管、リンパ節を光らせ、肉眼では見えない構造や機能を可視化する蛍光イメージング技術を活用した手術。
蛍光ガイド手術の役割のひとつは、表層では見えない構造を可視化することですが、境目がぼけてしまうのが課題でした。課題克服のため、CASの強調パラメータを通常より高めてもよいと感じました。もし若干映像があらくなったとしても、胆管や肝臓の構造が正確に識別できることが重要だからです。具体的には、腹腔鏡胆嚢摘出術における肝外胆管の解剖、特に副肝管の描出や、肝切除で肝門板を走行する胆管を描出する際に、CASの能力が発揮されるのではないかと思いました。
例えばカメラ側でも、露出を上げることで映像を明るくすることはできます。しかし、ハレーションを起こしてしまってかえって見えにくくなることもあります。CASは画像処理なので映像が破綻することはなかったですね。CASはタッチパネルで簡単にパラメータを上げていくことができるので、手術に合わせた識別効果が得られます。蛍光ガイド手術にとっても有望な機能だと思いました。
腹腔鏡下胆嚢摘出術において描出された、Rouvier溝を走行し総肝管に直接合流する後区域肝管(蛍光胆道造影時)
昨今、非常にわずらわしいのは、手術室の中には映像のインプットもアウトプットもたくさんあって、機器の操作や接続が非常に複雑化していることです。我々は医療が専門ですから、機器に精通している人員が現場にほとんどおらず、SDIもDVIもわからない。モニターに映像が出ない、などというクレームはしょっちゅうです。
ですから、すべての機器にIPコンバーターが付いて、最初に配線さえちゃんとしておけば、よく分からずとも壁のタッチパネルを操作して、あとはシステムが処理して思った通りの映像が出るとなれば非常にやりやすいですね。
また、病院では現在手術室の有効活用が強く求められています。患者さんが手術室に入ってから出るまでにかかる時間を5分でも短くしようと現場は工夫を重ねていますので、セットアップの時間を効率化するのはとても大事です。NUCLeUSによって、セットアップ時間が短縮されれば、手術室の有効活用にも大きなメリットになりますし、我々医療現場の労働環境改善にもつながると思います。
将来の機能拡張と他システムとの連携の強化ですね。今後10年ぐらいは使い続けられる仕様が求められると思います。その際、病院内の最新の各医療機器やシステムとシームレスに繋がり、連携していくことは必要不可欠ではないでしょうか。
また、将来のデータ通信の進化にともなって、NUCLeUSを用いて高画質な医療映像や情報を遠隔地と院内とで繋ぐのも有効だと思いました。離れた場所にいる熟練の医師がネットワークを通してリアルタイムに現場の医師に助言するなど、教育面でも医師の労働環境改善にも非常に重要ですね。
NUCLeUSを活用して、院内の別の部屋から手術の様子を見たり、手術映像を共有することができれば感染対策にも良いし、高い教育効果が期待できると思います。