埼玉医科大学 篠田 啓 先生
埼玉医科大学
篠田 啓(しのだ けい)先生
1990年 慶應義塾大学卒業
1996年 杏林大学国内留学
2001年 Eberhard Karls Universität Tübingen(ドイツ)留学
2005年 国立病院機構東京医療センター眼科医長
2008年 大分大学医学部眼科准教授
2009年 帝京大学医学部眼科准教授
2013年 帝京大学医学部眼科教授
2016年-現在 埼玉医科大学医学部眼科教授
やはり、何と言ってもソニーのMCC-1000MDの特長は、驚異的な感度のよさです。前眼部を見るだけなら、手術室の蛍光灯の明るさだけでも、十分に見えました。
ひょっとすると、手術をやろうとすればできたかもしれない、それくらいの高感度でした。
※上記画像は、一時的に顕微鏡の光を消してMMC(抗悪性腫瘍剤マイトマイシンC)が浸漬するのを待っていた際の、他社カメラとSONY MCC-1000MDの画像を比較したもの
さすが、ソニーが開発したExmor R(積層型CMOSイメージセンサー)です。
感度がいいからといって、通常のカメラの様にノイズがのり、解像度が悪くなるということはなく、解像度も従来のカメラより高いと感じました。これも、Exmor Rの特長で、電気的にノイズが出ないように処理ができているからだそうです。暗いところが詳細に見えて、よかったです。
このカメラに出会うまで、我々は余り気にせず別のメーカーのカメラを録画用として顕微鏡に付けて使用していました。ところがある時、他の用途でこのソニーのカメラを顕微鏡につける機会があり、その映像をモニターで見た時、びっくりしました。「何て、鮮明で綺麗なんだろう。これこそ超映像。」と。「今まで、私はこんな映像を録画して学会発表をしていたのか。」と少し恥ずかしくなりました。その我々がそれまでに使用していたカメラは、ソニーのカメラと比較して、
① 暗く
② 輪郭が不鮮明で
③ 解像度が低く細部が分からない
上記の結果
④ 強膜など白い組織の切開創が見えない(下記画像の通り)
⑤ 水による反射などの影響で眼表面の構造が全く見えない
⑥ 膜組織と網膜の間隙の有無や、血管の状態が不鮮明
⑦ 硝子体や血液や膜組織などがカッターの先に吸い込まれるところがよく見えない
などと言った欠点があり、即座にこのカメラの購入を決断いたしました。
対象物をありのまま高感度でとらえ映像にすることを追及しているカメラであり、接触レンズ、広角観察システムレンズ(ResightやBIOM)、更にはさまざまな顕微鏡との組み合わせの時にどの相手でもそのパフォーマンスを最大限に引き出すことができる可能性を感じました。そこを基点として、より鮮やかな色合いや、輪郭を強調するなどの画像加工技術を加えて場面や術者に合わせたカスタマイズがしやすいと思います。ソニーのもつモニター側の画像加工技術も合わせると可能性がますます広がると思います。
高い感度と高い解像度を持ち合わせたこのカメラですが、これに加えこのカメラには、HDR*(High Dynamic Range)も搭載されていると聞き、見るのを楽しみにしていました。実際に見てみると、このHDRのお蔭で従来のカメラと比較して、色飛び(ハレーション)は十分に抑えられていました。暗いところは明るくし、眩しく明るいところは暗くするという、人間の眼に近いものを感じました。ただし、まだまだ人間の眼のように器用に、明暗の調整が追い付いていない場面もあり、まだ開発の余地があると感じました。
*ソニーのHDRの特長:従来の100倍もの明るさを捉えることで、従来表現できなかった暗い所、明るい所を、肉眼で見るのと近い陰影で映し出せようになった。
2Dの画像でも、手術映像をモニターに映し、若い医師、医学生、そして看護師が、教育用として活用するには、大学病院でも個人のクリニックでも重要なことです。そのためには、質の高い映像が不可欠です。明るく、解像度が高く、細かいところまで明瞭に分かるのは、学ぶものにとっても、教える方にとっても非常に意義のあることで、動画データは、美しく残したいものです。デジタル映像は数値に変換できるので、個人に特有の患者さんの生体データと言えます。近い将来、AIなどを用いた分析を通して診療に役立つ可能性があります。
高感度、HDR、深い被写界深度、画像加工技術はどれも3Dデジタル手術に求められる要素そのものです。このカメラはアイピース型の顕微鏡でのシステム向上に寄与することは間違いないのですが、3Dデジタル手術システムでこそ活躍してほしいと思います。試みとして、マウントや位置合わせ、反転技術、即座に画像を加工してモニター映像に還元する技術などを整備して3D映像システムの構築もお願いしたいと思います。
これだけの高感度と高解像度を生かすには、顕微鏡の光学系やモニターの性能も大きなポイントです。このカメラの登場でこれらの手術顕微鏡システムそのものが大きく発展する可能性を確信しました。妄想かもしれませんが、カメラが顕微鏡を変え、さらには不要にする時代が来るかもしれません。そして、手術の質、分析技術、教育システムの向上など、顕微鏡手術、ひいては外来での細隙灯顕微鏡での観察システムの進化、遠隔診療システムの実現など、診療そのものを革命的に向上させる可能性に期待が膨らみます。
眼科顕微鏡用として開発されたこのカメラは、ソニーの開発者、エンジニアが現場のニーズをつかみ、かつ熱意を持って取り組んで完成させたことが伝わる製品です。エンジニアと医療現場スタッフの密接なコミュニケーションこそがメディカルテクノロジーの発展の根幹であり、ソニーのエンジニアの信念と姿勢はその大きな推進力になると感じました。私が購入に至ったのは、ここに共感したことも大きいです。
ソニーは、カメラだけではなく、モニター側にも「A.I.M.E.(Advanced Image Multiple Enhancer:エイミー)」という眼科の手術に生かせる独自の画像強調機能を持っています。今後、ソニーとは、我々眼科医にとって、いいパートナーとして一緒に歩んで行きたいと思っています。
※本記事に記載されている製品は医療機器ではありません。