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東京・新橋演舞場の2007年正月公演として上演された「朧の森に棲む鬼」が、CineAltaカメラとHDCAM-SRレコーダー各15式という大きな規模で全編HD 24p収録されました。(監督:江戸洋史、撮影監督:小笠原正明)
株式会社イーオシバイ プロデューサー金沢尚信様と、VEとして参加された株式会社IMAGICA 撮影部ビデオエンジニア青木伸二様に、舞台収録の目的、そしてHDCAM-SR採用の狙いと成果などを伺いました。
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「朧(おぼろ)の森に棲む鬼」
(脚本:中島かずき、演出:いのうえひでのり、主演:市川染五郎、舞台製作:松竹株式会社)
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公演ポスター |
劇団☆新感線と歌舞伎役者市川染五郎さんのコラボレーション公演シリーズ第5弾であり、2007年正月公演として東京・新橋演舞場で、2007年2月には大阪・大阪松竹座で上演されました。
シェイクスピアの「リチャード三世」をベースに、より人間の内面を掘り下げた作品となっている点が特長で、それまでの4作品をさらに発展させたような演劇空間を創り出しています。主演の市川染五郎さんも、ニヒルなヒーロー役から一転して、文字通り悪の限りを尽くす徹底した悪役に挑戦していることでも大きな話題となりました。
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これまでも、舞台作品の映像化に取り組んできました。2003年の「阿修羅城の瞳」は、劇団☆新感線と市川染五郎さんとのコラボレーション作品で、この時はDVDとしてご提供しました。
ですが、演劇の魅力は、ひとつの場所に大勢が集まって一緒に鑑賞するという点にあると思います。そこで2004年の「髑髏城の七人-アカドクロ-」の時に、HDCAMを使ってHD 24p収録してデジタルマスターを作成し、サーバーから送出してDLPプロジェクターで上映するという、まさにデジタルシネマの手法を使って映画館で上映しました。その後、「髑髏城の七人-アオドクロ-」(2004年)、「SHIROH」(2005年)も同様の方法で制作し、全国主要都市の映画館で上映してきました。おかげさまで大変に好評で、舞台を観たことがない方からも今度はぜひ舞台を観にいきたい、との声をいただきました。演劇ファンの裾野を広げることができているのではないかと思います。
今回収録した「朧の森に棲む鬼」の舞台も、映画館での上映を目指しています。舞台を記録するとか、舞台を観た人が回想するためのものではなく、舞台の魅力を余すところなく映像化し、舞台を実際に観ていない方も映画館の大きなスクリーンで楽しんでもらえる、一つのエンターテインメント作品を目指して制作を進めています。
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15式のCineAltaカメラ(HDC-F950)を使って2幕3時間の舞台をすべてHD 24pで撮影。 |
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中継車に搭載された15式のHDCAM-SRレコーダー(SRW-5500/5000)で収録。 |
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今回の舞台収録の特長は、HDCAM-SR収録であることに加えてCineAltaカメラ15式を使い、HDCAM-SRレコーダー15式に収録するという規模の大きさにあります。この規模での舞台収録は、おそらく初めてのことだと思います。
まず、HDCAM-SRで収録した狙いの一つは、映画館での上映を見込み、映像データレート約440Mbpsという最上位のHDフォーマットHDCAM-SRを使うことで、コンテンツとして一層のクオリティーアップを目指したからです。また、劇場自体の暗さもありますが、劇中の暗部が多くなるほど撮影するには厳しい環境となります。もちろん、舞台の照明やセットといった条件や、演出、役者の動きは撮影に合わせて変えることは許されません。特に今回の「朧の森に棲む鬼」では、衣装やセットで黒が重要な役割を果たしているだけに、HDCAM-SRの高解像度を有効に使いたいと考えていました。
そして、これほどの大きな規模で収録を行った理由としては、1回の公演ですべてを収録する必要があったことに加え、フルサイズ、ブロックショット、アップなどを組合わせることで、舞台特有の立体感や臨場感・立ち回りの動きを確実に収録するためです。
合計15式のCineAltaカメラで撮影した映像は、それぞれのカメラに接続された中継車内のHDCAM-SRレコーダーにパラで収録しています。中継車では編集用のアタリ版を作成するためスイッチングによる収録も並行して行いました。オフライン編集のEDL作成は15式にパラで収録した素材を使って行い、その後、ノンリニア編集機でカラーコレクションを行ってデジタルマスターを作成します。音声は60chのマルチ録音し、最終的にMAで5.1chサラウンドに仕上げていく予定です。HDコンテンツ制作において、現在考えられる最高のテクノロジーを結集することでクオリティーの高い、魅力的なコンテンツに仕上げたいと考えています。
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今回の収録にあたっては、舞台をそのまま映像に記録することを大前提としました。従ってカメラゲインは+3dB、アイリスはほぼ一定で、シーンによって大きく変えたりせず撮影しました。これらに手を加えることで映像的におもしろい表現が可能にはなりますが、舞台上での演出表現が損なわれてしまう危険性があると判断したからです。
こうした条件下で有効に機能したのがCineAltaカメラのユーザーガンマ機能です。映画制作などで培ったノウハウと経験から、今回の舞台収録に向いたガンマを選び、15式のCineAltaカメラすべてを同じガンマ設定で撮影しました。HDCAM-SRの高解像度と相まって、舞台の魅力をそのまま映像として記録する上で、大きく寄与してくれたと思っています。
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舞台より
(写真提供:株式会社イーオシバイ様) |
シネマ用プロジェクターで全編プレビューチェックしましたが、期待通りのハイクオリティーな映像であると実感しています。黒の部分にノイズが出るといったこともなく、黒自体もクッキリと締まり、階調表現も滑らかです。また、暗部の再現性も申し分なく、舞台の演出やセット、衣装の色がよく再現されています。今回の作品には、水をかなり激しく使った演出もあります。水自体が撮影の難しい対象ですが、照明が当たっている部分だけでなく、照明の当たらない部分でもHDCAM-SRでは鮮明に映し出されています。同様に、収録が難しい立ち回りの激しい動きも、きれいに撮影することができました。このままつないで映画館のスクリーンに映しても十分に鑑賞でき、楽しめるクオリティーだと感じています。
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CineAltaとHDCAMでスタートした“ゲキ×シネ”という新しいジャンルは、HDCAM-SRの登場でさらに大きな可能性を得たと感じています。今後、このジャンルのコンテンツ制作に大いに貢献してくれると期待しています。
また、舞台作品以外の別のジャンルでも、映画館での上映を目的とするコンテンツ制作を刺激してくれるのではないでしょうか。現状では、映画館での上映を諦めているコンテンツは少なくないと思います。CineAltaとHDCAM-SRに加え、デジタルシネマの手法は、そうした分野にも光を当ててくれるのではないかと思います。そして、CineAltaカメラとして新たにラインアップされた、デジタルシネマカメラF23にも大いに期待しています。
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