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フィルムカメラの使い勝手と制作手法を取り入れつつ、デジタルならではの多彩な撮影・表現モードを搭載したデジタルシネマカメラF23は、CM撮影で高く評価されています。2008年に制作され、視聴者から好評を得た株式会社ブリヂストン様のPOTENZA「Speed Line」篇、ライオン株式会社様のソフラン「アロマキャンドル」篇もF23で撮影されたCM作品です。
この2つのCM作品の制作を担当された監督・撮影の高田弘隆様、ビデオエンジニアとして参加された有限会社スパイス三浦徹様に、今回のCMの制作コンセプトと撮影方法、F23についての評価などを伺いました。 |
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ブリヂストンの「Speed Line」篇は、高性能タイヤPOTENZAシリーズの新製品RE-11のCMです。このタイヤの最大の特長は、グリップの効いた走行性能を実現した点にあります。そこで、スピード感や爽快感、あるいは快適なステアリング、制動能力といった"走り"のシズル感を表現することをCM制作の基本コンセプトにしました。
この作品は、メインとなる"走り"の部分を、サーキットとほぼ同等のテストコースで撮影しました。通常、車のCM撮影では低速で撮って後処理でスピードを上げることが多いのですが、今回は実際に100km前後のスピードで疾走する車をあらゆる角度から撮影することで、"走り"のシズル感を表現しようという狙いです。当然、狙いのカットを収録するためには、カメラを回しっぱなしにしなければなりません。そこで、今回はフィルム撮影ではなく、HD撮影を採用することにしました。
これまでのPOTENZAシリーズのCMは、フィルムで撮ることが多かったと聞いていたので、HD撮影で同等のテイストやクオリティーが出せるのか、正直不安はありました。また、主役であるタイヤは黒で、しかも車体の下という暗部に装着されています。走行中のシーンであっても、この暗部のタイヤはきれいに撮らなければなりません。HD撮影でタイヤの解像度を上げるには、黒を締めて撮影すればよいのですが、そうすると今度はボディーのハイライトが白飛びしてしまいます。この黒潰れと白飛びという難問を解決してくれたのが、F23とHDCAM-SRフォーマットを組み合わせた撮影でした。
F23を3台使い、全編を通してS-Logを採用して、30pで撮影しました。ロケ現場では、カメラカーに搭載したクレーンにF23を設置し、SRW-1や9型モニターを車内に置いてモニタリングしながらF23を遠隔操作しました。2日間の撮影で、収録は合計6時間ほどです。タイヤの黒や溝を含めた再現については、現場でかなり追い込んで撮りました。撮影前にタイヤの黒や溝がクッキリと見えるようなリファレンス(基準)トーンを予め作っておいて、収録は情報量が豊富なS-Logのノーマルで撮影しました。それを、後処理でリファレンスに限りなく近い状態にしています。
フィルムに匹敵する程の広いダイナミックレンジを持つS-Logを使うことで、暗部にあるタイヤの黒とボディーのハイライトをいずれも損なうことなく撮影でき、当初の狙いである“走り”のシズル感を具現化することができました。
POTENZA 「Speed Line」篇より |
(C)株式会社 ブリヂストン |
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暗部のディティールが表現されることで、タイヤの黒が潰れることなく、溝まで鮮明に映し出されています。 |
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情報量が豊富なS-Logを使うことで、タイヤの黒のディティールを出しつつ、ボディーのハイライトを両立させました。 |
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テストコースを疾走する車と三次元的な光のラインを合成処理することで、スピード感、爽快感といった"走り"のシズル感を表現。 |
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車体の下という暗部のタイヤをS-Logで高解像度に再現しています。 |
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一方、ライオンの「アロマキャンドル」篇は、柔軟剤ソフランのCMです。天然アロマオイルを配合しており、洗濯物に柔軟さとふくよかなアロマオイルの香りを残すのが魅力の商品です。CMでは、洗濯物をたたんでいる女性が、その柔らかさとアロマの香りでつい寝込んでしまい、夢の世界にトリップするという内容になっています。
この作品も、ブリヂストンの「Speed Line」篇と同様、S-Logを使って撮影しています。S-Logの豊富な情報量をイメージに近い画づくりに生かすだけでなく、撮影時と編集時に画を締めて硬めにすることで肌の美しさや瑞々しさを再現することもできました。また、全編をSR Motionを使ってハイスピード撮影することで、夢というファンタジックな映像世界を表現しました。ソフランという柔軟剤を使うことで生み出される柔らかさ、天然アロマオイルの香り感、それらが生み出す日常から夢の世界へのトリップ感覚がうまく表現できたと思っています。
SR Motionは、撮影した映像を現場ですぐにプレビューできますから、クライアントや広告代理店の確認もスムーズです。仕上がりに近い高精細な画像を見ながらコミュニケーションできるため、活気が出ますし、ジャッジが早くなる点も大きなメリットだと思います。
ソフラン 「アロマキャンドル」篇より |
(C)ライオン株式会社 |
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洗濯物から漂う天然アロマオイルの香りで夢の世界へトリップするファンタジックなシーンを全編SR Motionを使ってハイスピード撮影。 |
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夢見るシーンでは、部屋の中と水に浮かぶ多数のアロマキャンドルライト、そして夕暮れの海を合成して表現しています。 |
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ゆったりしたスローモーション映像が商品の柔らかさとアロマの香りを効果的に表現しています。 |
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S-Logは、絞り値や照明をうまく使うことで、肌の美しさ、瑞々しさの再現にも威力を発揮します。 |
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CineAltaの登場によって、CM制作でもHD撮影が幅広く運用されるようになってきましたが、F23の登場によって、一段とレベルアップしたと感じています。F23の魅力の1つは多彩な撮影・表現モードです。特にS-Logは、広いダイナミックレンジというネガフィルムの感光特性に近いラチチュードを実現しており、撮影現場でより豊富な情報を記録できます。情報量が多ければ、ポストプロダクション作業におけるカラーコレクションの自由度が広がりますし、その豊
富な情報量は絞り値に連動するので、撮影現場で絞りや照明をうまく使うことで、仕上がりのイメージに追い込むことも可能です。
どちらの作品も、HD編集機でリサイズやカラーコレクションなどを行い、最終的にダウンコンバートしてSD納品しています。ダウンコンバートした状態でも、F23撮影による高精細な画像、S-Logの広いダイナミックレンジや階調表現力の高さは、十分に生かされていると思います。
今回の2つのCMは、剛と柔、動と静といったように内容や表現が非常に対称的な映像表現を求めた作品です。F23とHDCAM-SRフォーマット使ってみて、幅広い映像表現が可能だということを、改めて実感しました。新たに登場したF35にも大いに期待したいと思います。 |
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