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デジタルシネマカメラF35で全編24p撮影された「天国はまだ遠く」(長澤雅彦監督作品)がクランクアップし、2008年秋の公開に向けて仕上げの作業に入っています。
監督の長澤雅彦様、株式会社東北新社クリエイツ 映画・ドラマ制作部 チーフプロデューサー 伴野 智様、株式会社サルーン シネマトグラファー 小林基己様、株式会社オムニバス・ジャパン 上席執行役員 デジタルプロダクション事業部 事業部次長 堀内 勉様に、F35採用の狙いや成果、映画制作での可能性などを伺いました。
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長澤雅彦(ながさわ・まさひこ)監督 プロフィール
1965年、秋田生まれ。岩井俊二監督「Love Letter」(‘95)、「PiCNiC」(‘96)でプロデューサーをつとめ、「はつ恋」(‘00、篠原哲雄監督)でオリジナル脚本を執筆、「ココニイルコト」(‘01)で長篇監督デビュー。同作でヨコハマ映画祭新人監督賞、毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞、第21回藤本賞新人賞を受賞。以後、「ソウル」(‘02)、「卒業」(‘02)、「13階段」(‘03)、「青空のゆくえ」(‘05)、「夜のピクニック」(‘06)などの話題作を手がける。
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今回の作品は、瀬尾まいこさんの小説「天国はまだ遠く」を映画化したものです。都会の生活に疲れ切って自殺を考えていた女性が、丹後半島・宮津の美しい自然や、そこで暮らす人との触れあいの中で心が癒されていくという物語です。
映画化にあたっては、この原作の舞台となった宮津で、原作と同じ季節に撮影したいと考えており、2007年11月にオールロケで約1ヶ月かけて撮影を行いました。今回の作品で重要なポイントと考えていたのが、主人公が癒されて生きるきっかけとなった宮津の美しい自然をいかに鮮明に撮るか、その場所の空気感をきちっと表現できるかということでした。
結果的に、撮影にF35を使うことで、その思いを叶えることができました。HDCAM-SRによるクオリティーの高い映像と、デジタルならではの様々な機能をフルに活用することで、宮津の自然の美しさはもちろんのこと、登場人物の心象風景などもイメージ通りの映像を撮ることができ、原作の魅力を表現することができたと思っています。
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F35の魅力は、35ミリのシネマレンズが使えることと被写界深度です。これまでの映画制作の中で、レンズは重要な表現手段として使われており、そのレンズをデジタルシネマカメラでもそのまま使える意義は非常に大きいと感じました。また、“ボケ味”の強さや美しさも大事な表現の手段であり、被写界深度の深さによってそれを表現できたのは、画作りにおいて有効でした。シネマカメラのような“ボケ味”の美しさや強さを表現しつつ、長時間の高解像度撮影ができ、しかも撮影現場で仕上がりに近い画で確認・判断ができるという点はHD撮影ならではのメリットだと思います。こういう画を撮っているんだというスタッフ共通の認識が出てくるので、モチベーションも上がり、いい結果に結びつきます。
もともとHD撮影やデジタル制作の可能性の大きさに注目していたのですが、今回の作品でF35を使ってみて、その思いをさらに強くしました。これまで、HD撮影に対する評価や関心は、フィルムと比較してどうとか、フィルムにいかに近づいたかといった観点が多かったですが、もはやHD撮影やデジタル制作は、フィルムとは全く違った特長・特性を持った新しいメディアという意識を持って映画制作に活用していくべきだと思っています。
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F35に搭載されているデジタルならではの多彩な撮影機能も、魅力としてあげることができます。今回の撮影では、現場で色や画を追い込んでいく撮影方法を選びましたが、後処理を前提として広いダイナミックレンジを実現したS-Logも魅力的で、擬似夜景の撮影時や合成が必要なシーンの撮影で使いました。後工程を考えると、現場で判断しきれない場合などでは威力を発揮すると思います。ローコントラストのトーンを生かしたいシーンなどでは、S-Logの画をそのまま使うこともできると思います。
また、登場人物の感情や心象風景を表現する際には、SR Motionが威力を発揮しました。ハイスピード撮影もそうですが、登場人物の心や感情が微妙に揺れ動いている様子を表現する時に、コマ落とし撮影が非常に有効でした。
F35やF23に搭載された撮影モードや自由度の高いガンマ設定、そしてSR Motionなどの撮影機能は、単に便利でおもしろいというだけでなく、クリエーターの創造性を刺激するものではないでしょうか。
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理想的な映画制作の方法論に、フィルムで撮影したものをDI(デジタルインターミディエイト)で一度デジタル化して処理を行い、その後にフィルムに起こすというものがあります。F35は中間を省略する形で、この理想的な方法論を可能にしてくれるカメラとも言えます。撮影段階からイメージに合った映像を追求することができ、さらに後処理のカラーコレクションなどを通して、色や画を微妙なレベルまで仕上げていくことができるからです。今回の作品もF35を使うことで、こうした理想型に近いワークフローを経て、最終的にフィルムに起こしています。そういった意味では、ほぼ意図した通りの映像・表現が保たれていたと思っています。
今後、上映などについてもデジタルのインフラがますます充実してくるものと思われます。そうなれば、入口の撮影から出口のスクリーンまで、一貫して高精細なHD映像で映画を完結させることも可能です。地上デジタル放送やブルーレイディスクの普及で、家でハイビジョン映像を楽しんでいる人が増加しています。そのような時代ですから、観客がきれいだと思う基準も変わってくると思われますし、ハイビジョンによる映画への抵抗がなく、むしろ歓迎されることもあるのでないでしょうか。
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