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「GO」(2001年)、「ピンポン」(2002年)、「ゼブラーマン」(2004年)などのヒット映画の脚本家として知られ、2005年に「真夜中の弥次さん喜多さん」で監督デビューした宮藤官九郎監督の最新作「少年メリケンサック」(監督/脚本・宮藤官九郎、撮影監督・田中一成、出演・宮アあおい、佐藤浩市、木村祐一、田口トモロヲ、ほか)がクランクアップし、2009年2月14日に公開される予定です。
この話題の映画「少年メリケンサック」は、デジタルシネマカメラF35を使い全編24p/RGB 4:4:4で撮影されました。撮影監督である田中一成様に、デジタルシネマカメラF35を採用された狙いや実際にお使いになられての感想や評価、また今後の映画制作におけるF35の可能性などを伺いました。
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田中一成(たなか・かずしげ)撮影監督 プロフィール
撮影監督。日本映画撮影監督協会(J.S.C)会員。1954年生まれ。鳥取県出身。
横浜放送映画専門学校卒業後、田村正毅氏の助手を経て映画、テレビ、オリジナルビデオの撮影に携わる。1994年文化庁芸術家在外研修員としてアメリカ、オーストラリアに派遣。
主な作品に「極道恐怖大劇場牛頭GOZU」「ゼブラーマン」「仮面ライダーTHE FIRST」「着信アリFinal」「落語娘」などがあり、他にVシネマ多数。
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この映画は、パンクロックバンドをモチーフにした笑いあり涙ありのロードムービーと言えます。物語は、レコード会社に勤める主人公が新人発掘を命じられ、偶然Webサイトで見つけたパンクロックバンド<少年メリケンサック>を売り出そうとするところから始まります。主人公が彼らを訪ねたときに気付くのですが、実はWebサイトで見つけた映像は昔のもので、現在の彼らはすでに中年を迎えていました。仕方なく中年となったパンクロックバンドのメンバーを連れてツアーの旅に出るのですが、その中で、パンクの良さを感じたりだとか、破天荒な人々と触れあうことで主人公が成長していくという内容です。
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2009年2月14日 全国ロードショー 配給:東映©「少年メリケンサック 製作委員会」 |
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「少年メリケンサック」をデジタルシネマカメラF35で撮影中の田中一成撮影監督(写真・中央)と宮藤官九郎監督(写真・右)。 |
こうした内容ですから、必然的にバンドのライブシーンが多くなります。プロデューサーサイドからは、長時間の撮影ができ、しかも機動力に優れているということでデジタル撮影の要望があったのですが、それがソニーからデジタルシネマカメラF35が登場した時期とちょうど重なっていました。F35はダイナミックレンジが広く、35mmフィルムキャメラと同様の表現が可能だと聞いていましたので、デジタル撮影であればF35がいいということで推薦し、採用が決まりました。
F35を使用するのはもちろん初めてでしたが、キャメラテストを重ねる中で、手持ちにしてみたり、レンズを付け替えてみたりと、性能のほか、使い勝手などを確認し、手応えを十分に感じることができました。
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今回の作品は、全編を24p撮影し、できるだけ情報量を多く記録したいと思いRGB 4:4:4記録を採用しました。色域については、より広い色域を確保できるようS-Gamutモードを選んでいます。
ガンマ設定と撮影モードについては少々悩みましたが、今回は、自分にとっての扱いやすさからユーザーガンマを選び、CvpFileEditorでオリジナルのガンマカーブを作成して使用しました。撮影モードは、自分のスタイルに合わせてカスタムモードを選びましたが、ベースとキャメラがケーブルでつながれた不自由さの回避と最終的な仕上がりがフィルムプリントということもあり、ビデオエンジニアの立ち会いはお願いしていません。こういった撮影スタイルに合わせて各種のモードや設定が選べる柔軟性は、大きな魅力だと思います。
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「少年メリケンサック」の1シーン。 F35によりボケ味の付いた柔らかい映像に。 |
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F35が最も高い評価を受けた点が優れた色の再現性。様々な色が飛び交うライブハウスやクラブのシーン撮影などで威力を発揮しました。 |
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F35の大きな特長は、スーパー35mm相当の単板式CCDを搭載している点と、PLレンズマウントに対応した点です。今回の撮影で使用したツァイス社製のウルトラプライムなど、シネレンズがそのまま使え、35mmフィルムレンズと同様の被写界深度、つまりボケ味の付いた映像を撮ることができます。これにより、画面に硬さを感じることがなく、映画的な柔らかい質感で雰囲気のある映像を撮ることができました。
でも、衝撃的だったのは、発色や色の再現性の素晴らしさです。F35で撮影した素材を現像所のPabloを使用したプロジェクターで確認したとき、そのシャープな画調と色の鮮やかさは正直驚きました。作品中にかすかなブルーやイエローが交錯するクラブのシーンがあるのですが、そのブルーやイエローが出演者の顔に鮮やかにのっています。ある程度は予想しながら撮っているのですが、その予想をはるかに超える鮮やかさでした。
それと、ノイズです。フィルムにプリントしたとき、これまでよくあったノイズは一切感じませんでした。画質については、従来から格段に進歩していると思いました。
発色の良さや、優れた色の再現性、あるいはフィルムキャメラと同様の被写界深度を実現した点などを含めて、F35の画質は、デジタルシネマキャメラとしてパーフェクトな画質だと思います。今回の作品でF35を使ってみて、それを強く実感しました。
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ロードムービーなので車の内外からの撮影シーンが多く、HDCAM-SRレコーダーSRW-1をキャメラ一体化しても分離しても撮影が可能なF35の機動力は、高く評価されました。 |
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F35本体の形がこれまでのビデオキャメラとはまったく異なり、フィルムキャメラに近いスタイルだったのは印象的です。しかしながら、F35はフィルムキャメラとは異なり、セパレート運用が可能です。レコーダー部であるSRW-1をキャメラ本体と分離して運用することができるので、それだけコンパクトになり機動性のある撮影が可能になります。特に今回の作品は、ロードムービーということもあって車内を撮影することが多かったのですが、コンパクトなのでキャメラを車内に持ち込むことができ、非常に便利でした。
また、演出的に心情を表現したいときなどは、SR Motionを使ってスロー撮影を行いました。パンクロックバンド<少年メリケンサック>がライブハウスのステージに初めて登場するシーンがあるのですが、彼らの舞台へ向かう姿を数カット2倍のハイスピード撮影で積み重ね、独特の緊張感を表現できたと思います。宮藤監督は撮影後すぐにその映像をモニターで確認することができ、演出効果とSR Motionに満足されていたと思います。
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F35のPLマウント採用によって35mmフィルムキャメラのレンズが使えるようになり、それと付随して1インチのCCDの採用でレンズのボケ味に味が出てデジタル撮影の印象を大きく変えたように感じます。そしてこれまで以上に優れた映像が撮影できるようになることでしょう。今回は使用しませんでしたが、S-Logもかなり研究されたカーブだと思います。キャメラに内蔵されていますし、ポスプロで映像が自由にいじれるのは大変魅力的ですね。
F35は、映画やCMなど活躍の範囲を広げていくことは間違いないと思います。今後の動向に注目していきたいと思っています。
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