|
|
フジテレビ開局50周年記念ドラマ「黒部の太陽」が、2009年3月21日-22日の二夜連続で放送され、大変高い評価と支持を受けました。この作品は、マルチフォーマットポータブルカメラHDC-1500を使って全編29.97p撮影されており、作品中の合成シーンにはHDCAM-SRでのRGB 4:4:4収録、スローシーンにはSR Motionが使用されています。
このドラマ制作に、ビデオエンジニアとして参画された株式会社フジテレビジョン 技術局 制作技術センター 制作技術部 映像技術担当部長 佐藤光雄様に、HDC-1500採用の目的や、HDCAM-SRのRGB 4:4:4収録の成果などを伺いました。 |
|
原作:木本正次(「黒部の太陽」)、脚本:大森寿美男、演出:河毛俊作
制作:フジテレビジョンドラマ制作センター
【あらすじ】
日本が敗戦から立ち上がり復興を果たし、高度経済成長を目指した昭和30年代初頭、日本全国が慢性的な電力不足に悩んでいた。そこで関西電力は、黒部川上流域に日本一のアーチ型ダムを擁する黒部川第四発電所の建設を決意。未曾有の予算と規模のダム建設に取り組むことになる。さまざまな苦難の中でも、ダムサイト工事現場へ資材を運ぶための北アルプス山中を貫く大町トンネル掘削工事は、フォッサ・マグナ(大断層地帯)に沿っているため、どんな破砕帯が眠っているか、どんな困難が待ち受けているかわからない最大の難工事であった。ドラマは、この大町トンネル掘削工事を大きなテーマに捉え、工事に関わった多くの人々とその家族を、原作に忠実に、よりドラマチックに描いている。 |
|
|
|
|
|
今回のドラマは、昭和31年(1956年)にスタートした日本最大級のアーチ型水力発電ダム・黒部ダム建設の物語で、最大の難工事となった北アルプス山中を貫く大町トンネル掘削工事をクライマックスに描いています。工事関係者をはじめとする、昭和の男たちを描いたドラマと言えます。
撮影チームは、従来の単発ドラマ制作と同様にしました。風景については2カメ、スタジオやセットについては3カメのロケスタイルをとり、カメラはすべてHDC-1500です。撮影日数は、2008年7月から2009年1月までの約半年間。実景、オープンセット、スタジオ、そしてスタジオ敷地内に当時のトンネルを再現し撮影を行いました。通常の連続ドラマ(全13話)の半分、7話分ぐらいを撮影したことになります。
画や色については、事前のカメラテストの中で演出サイドの要望を聞きながら方向性を決め、撮影時と後処理の双方で具現化することにしました。基本的には、フィルムルックにすることと、重厚感を出すことを目的に、全編を29.97pで撮影しました。
|
|
|
|
|
コントロールとモニタリングはすべてベースで行われました。 |
|
標高2700mで本編の1シーンをHDC-1500で撮影するスタッフの皆さん |
|
|
|
|
|
|
|
|
昭和の街並みをCG合成するためにクロマキーパネルを使用した撮影カット。 |
|
今回のドラマは、時代背景が昭和30年代初頭であり、トンネル掘削工事がクライマックスになっていることなどから、企画当初から必然的にCG合成シーンがあることは分かっていました。昭和の街並みや風景は残っていませんし、実際と同じ長さのトンネルを掘ることもできません。CGを使ってちょっと描き添える程度ならYCbCr 4:2:2でも支障ないでしょうが、クロマキーによるCG合成となると拡大しながら描き込んでいくことになりますので、そうはいきません。そこで、RGB 4:4:4撮影が可能なHDC-1500を採用しました。
CG合成に携わる人なら誰もが知っている事実ですが、やはり情報量が豊富なRGB 4:4:4収録は、抜けの良さといったクオリティーの点でも、ストレスなく作業できるという効率の点でも圧倒的に有利です。そこで、クロマキーによる合成シーンの撮影では、RGB 4:4:4サンプリングによるHDCAM-SR収録にしました。
結果的に、この判断は間違いなかったと思います。オンエアをご覧になった方なら分かると思うのですが、主人公の建設事務所の周囲の街並み、あるいは関西電力本社の周囲の風景や走る自動車など、クロマキーパネルを使用するカットや、さらに北アルプスの山からトンネルの抗口にパンダウンするような大部分をペイントで描写するカットは、RGB 4:4:4撮影し、CG合成したカットです。
まったく違和感がなく、クオリティーの高いCG合成カットに仕上がったのは、制作に参加してくれた、映画「私は貝になりたい」(2008年・福澤克雄監督作品)のVFXチームやCG合成スタッフのスキルの高さがあってのことですが、やはりRGB 4:4:4収録の成果も大きかったと思います。もし、YCbCr 4:2:2収録で同じ作業をしたら、相当の苦難を強いられたであろうことは間違いないと思います。 |
|
|
|
ドラマのクライマックスとなる大町トンネル掘削工事シーンでもHDCAM-SRによるRGB 4:4:4収録を行っています。前述したように、スタジオの敷地に当時を再現した25mほどのトンネルを作って撮影したのですが、そこから先はすべてクロマキーによるCG合成カットです。破砕帯からの大出水シーンという水との闘いなどもあって、撮影が非常に難しいところでもありました。
通常、ロケスタイルのドラマ撮影では、ベースでカメラのコントロールとモニタリングが行えることが必須条件となります。今回、トライアルとしてCCUオペレーションを実現し、ベースでHDCAM-SRの画を監督・照明・VEなどのスタッフ全員でモニタリングしながら色や絞りを決めていきました。
その他、大出水で作業員が吹き飛ばされてしまうカットやトンネルから走り出すカットでは、SR MotionによるフルHD1080/60pを使ったハイスピード撮影も行っています。後処理でさらにスローにしていますが、本編と同一のカメラ使用しているので、色調などで違和感のないスロー映像に仕上がりました。
|
|
|
|
|
オープンセットに作られた約25mのトンネル。先に長く続く部分の合成用にクロマキーパネルが設置されています。 |
|
破砕帯からの大出水シーンでは、HD CCDブロックアダプターHKC-T1500を使ったクレーン撮影も。 |
|
|
|
|
撮影終了後のフローとしては、オフラインを終えてからCG合成をし、最終的にDI的な作業を行って仕上げました。色調の統一、見やすさ、陰影の強調などを考慮し、編集機やカラコレ、さらにガンマ調整ができるリニアシステムなどを駆使して、当初の狙い通り、重厚感と迫力のある表現ができたと思います。
作品としてのおもしろさに加えて、これまでのドラマにはなかった雰囲気・映像表現ができ、フジテレビ開局50周年記念ドラマにふさわしい作品になったのではないかと思います。視聴者を含め、内外からも高い評価を得ることができました。HDCAM-SRのRGB 4:4:4収録のクオリティーの高さ、豊富な情報量については、今回のドラマ制作でも再確認することができました。 |
|