さらに進化したHDR映像制作ワークフロー“SR Live for HDR”

2018年7月掲載

ソニーは、スポーツ中継や音楽ライブなどのライブ映像制作領域において、高画質な映像を効率的に制作するソリューション“SR Live for HDR”を推進しています。カメラ性能を最大限に生かすシンプルなシステム構成で、4K HDR / HD SDR の映像を同時に制作することが可能です。HDR制作に欠かせないソリューションとして、国内外での制作事例・採用実績が増えています。

SR Live for HDR ワークフローの特長

 ソニーのカメラシステムからは、4K HDR / HD SDRをそれぞれ出力できるため、HDRとSDRを独立した制作システムでオペレートすることも可能ですが、そうした場合、システム機材の増加・オペレーターの増員が避けられません。そこで、「シンプルなシステム構成で、かつオペレーターの増員や負担をなるべく最小限にする」ために、ソニーはHDRライブ制作手法として”SR Live for HDR”ワークフローを提案します。システム設計の考え方として以下の2点が挙げられます。

  • プロダクションフォーマットは4K HDRとし、最終段で必要なフォーマットへ変換する
  • 撮影時のVEオペレーション用には、HD SDR出力を使用すること

これまでのソニーの提案は、4K HDRの本線信号は「S-Log3 BT.2020」をメインフォーマットとし、最終段において、HDRプロダクションコンバーターユニット『HDRC-4000』を活用し、目的に応じてHLG(Hybrid Log Gamma)方式やPQ(Perceptual Quantization)方式にリアルタイム変換するワークフローです。HDRC-4000の「AIR Matching 機能」によって、「S-Log3 [EOTF:S-Log3(Live HDR)]」で調整した見た目を、HLGやPQ方式に変換しても同一の見た目を保つことができます。このワークフローは、4K S-Log3信号の収録が可能となるため、ライブ制作だけでなく、収録後のポストプロダクションによるコンテンツのグレーディングや再利用を想定した場合に適しています。

HLG End to End 制作ワークフロー

一方、2018年12月1日開始の4K/8K 衛星放送ではHDR放送も行われ、ここではHLG方式が採用されます。HLG放送を主目的としたライブ制作を行う場合、カメラ出力からOn AirまでをHLG一気通貫で行い、よりシンプルかつ変換プロセスを極小化したいというニーズも多くありました。
そこで、ソニーのカメラシステムは、撮影段階からHLG End to End 制作を可能とする「HLG_Live」出力モードを搭載し、「S-Log3」の他に、「HLG_BT.2100(旧名称TEST-H)」、「HLG_Live」のHDR 信号が選択可能となりました。
「HLG_BT.2100」、「HLG_Live」共に2016 年7 月にITU(国際電気通信連合)で策定されたITU-R BT.2100の規格に準じたHLG信号です。
「HLG_BT.2100」は、「S-Log3[ EOTF:S-Log3(Live HDR)]」と比較すると、同じIRIS 値の場合、モニターで掛るOOTFの違いにより、1stop程度暗く表現され、色味にも違いが現れます。この信号を本線として使用する場合、S-Log3 制作と比較して、IRISは1絞り分開放となり、カメラの持つダイナミックレンジ1,300%を十分に活かすことができなくなります。
一方の「HLG_Live」は、AIR Matching 機能を使わずに、S-Log3(Live HDR)と同等の映像になるように調整(Seasoning)されたHLG信号です。システムカメラから直接この信号を出力させることで、撮影段階からHLGでのEnd to End制作ワークフローを構築できます。本ワークフローは、4K HLG放送とHD地上波放送を主目的とした制作に適しています。
さらに、HLG方式の特性として、SDRモニターで監視した場合にも、違和感ないルックで表現ができる後方互換性があります。この特性を活かし、スタジオや中継車のモニターウォール・スローオペレーション用モニターなどのSDRモニターを採用せざるを得ない箇所においても、監視・オペレーションができます。
ソニーのSR Live for HDRワークフローは、S-Log3をベースとした従来の制作ワークフロー、HLG_LiveモードによるHLG End to End制作ワークフローの2パターンにより、お客様の制作意図に適切なワークフローを提供します。

マスターセットアップユニットによる  マルチコントロールワークフロー

ソニーのHDR対応カメラシステムは、HDR/SDR信号の同時出力が可能です。この時、「SDR Gain調整機能」によって、HDR/SDR各経路に適切なゲイン差(SDR 側に対して0 〜 -15dBのマイナスゲイン適用)を設定可能です。
この技術により、VE の方はHDのマスターモニター・波形モニターを活用し、培われた撮影技術を活かした画作りができます。限られたダイナミックレンジでSDR映像を最適化することで、同時生成されるHDR映像もSDRの画作りに連動して、自動的に最適化できます。ここで、SR Live for HDRワークフローのシステム概念図を以下に示します。

本ワークフローにおいて、HD SDRの本線信号は、システム最終段のHDRC-4000 により、4K HDR本線信号から変換し生成します。したがって、図3の通り、複数のカメラシステム・HDRC-4000で設定されるSDR Gain調整値は、全て同一の値に固定し、撮影中は動かさないという運用となります。
HDRC-4000は、マスターセットアップユニット(MSU)によって、カメラシステムと同様のオペレーションで、機器の設定・映像調整が可能です。HDRC-4000は変換Ch.が2つありますが、MSUからは各Ch.をそれぞれ1つのカメラとして扱うことができます。
『MSU-1000 / 1500』の新バージョンVer.3.20では、図3のように、システム内で使用する複数台のカメラ・HDRC-4000の制御システムをLANで構築することで、SDR GainをはじめとしたHDR関連の設定パラメーターを連動制御できる「HDR Simul Setting機能」を搭載しました。本機能の特長は、以下の2点です。

  • MSU上で選択されたカメラシステム(またはコンバーター)を親とし、MSU上でグループ化された他のカメラ・コンバーターに、HDR 関連の設定パラメーターをコピーできる
  • MSU上でグループ化した複数台のカメラ・コンバーターに、HDR関連のパラメーターの連動制御が可能

これにより、各機器の設定時間を格段に短縮し、さらに、ヒューマンエラーによるSDR GainなどのHDR関連パラメーターの設定漏れを防止できます。

ソニーは、SR Live for HDRワークフローを発表して以降、国内外のお客様とさまざまな制作トライアルを実施し、ワークフローを成長・進化させてきました。今回ご紹介した新たな機能も、まさしくその中で生まれた一つです。
ソニーは、今後もHDRライブ制作環境をより一層充実したものにできるよう努力します。

2/3 型イメージセンサー搭載4K 対応XDCAMメモリーカムコーダー『PXW-Z450』もSR Liveに対応


PXW-Z450は2017年12月にリリースされたVer.3.0より、HDR 収録が可能となりました。カメラシステムと同様、S-Log3 BT.2020に加え、「HLG_Live」の撮影モードも選択できます。また、4K HDRとHD SDRを一枚のSxSカードに同時収録する機能も搭載し、収録されるHD SDRには、SDR Gain調整値を設定できます。さらに、ビューファインダーやLCDモニターの画像をHLGで最適なコントラストで表示する「HLGディスプレイアシスト機能」も搭載、ワンマンオペレートでのHDR撮影を強力にサポートします。