コロナ禍のリモートワークを経て、働き方の選択肢は大きく広がった。企業は今、ハイブリッドワーク時代のオフィスの姿を模索している。そのヒントとなるオンラインセミナーがソニーマーケティング主催で開催され、2023年に本社を移転した森トラストの山内貴矢氏とオフィスデザインを手掛けるNSFエンゲージメントの高野昌幸氏が新時代のオフィスのコンセプトを示した。
森トラスト
総務人事部 総務グループ 主事
山内 貴矢 氏
2016年森トラスト入社。営業業務管理を経て、2019年から総務人事部総務グループに異動し、本社ファシリティマネジメント業務、本社移転プロジェクト業務に従事。移転後も「進化するオフィス」を実現すべく、業務を推進している。
オフィスビル開発、ホテル事業などを手掛ける大手不動産デベロッパーの森トラストは、2023年5月に本社を移転した。移転プロジェクトをリードした同社の山内貴矢氏が、新本社オフィスのコンセプトと働き方の変化を説明した。
コロナ禍による働き方の多様化により、森トラストではコミュニケーション不足や会社への愛着の希薄化、Web会議増加に応じたオフィスの音声・通信環境未整備といった問題を認識していた。本社移転プロジェクトは、これらの問題を解決すると同時に、これからのオフィスのあるべき姿を体現し、外部に発信することを目的とした。
「テレワークが当たり前になった時代でも、自然と訪れたくなり、社員一人ひとりが自分らしい働き方を実現できるオフィス環境を目指しました」(山内氏)
この目的に沿う形で、人の集まる「デスティネーション」(目的地)としてのオフィス。そして、時代や社会の変化とそれに伴う働き方のニーズに即応する「アジャイル」(可変的)なオフィスという2つの要素から成る、“DESTINATION × AGILE OFFICE”というコンセプトを定めた。
森トラストの新本社オフィスは、社員が出社したくなる「目的地」としてのデザインや機能を備えると同時に、
働き方に応じて空間を変化できる「可変性」をコンセプトにした。
目的地として出社したくなる場所を実現するために、①ENERGY:オフィス内に社員が互いの熱量を高めて増幅する場所、②SYNERGY:コミュニケーションを促進し共感や一体感を育む場所、③COZY:心身共に満たされ自分らしくいられる場所、という3つの要素をオフィスの設計に落とし込んだ。
加えて、アジャイルなオフィスを実現するため、フレキシブルにレイアウトが変更できるように工夫を施した。森トラストの中核事業であるホテルのロビーをイメージした空間デザインで、一部什器や植栽にはキャスターが付けられており、接客スペースからセミナー会場などへの改変を容易にしている。フロアの8割に可変性を持たせているという。
オフィス内の執務デスク数は全社員相当数を確保しながら、仕事の内容に合わせて座席を自由に移動できる。「従来のABW(アクティビティベースドワーキング)では、仕事の内容に合わせて働く場所を決めるため、部署のメンバーがバラバラに座ってしまい、コミュニケーションが取りづらい問題がありました。新しいオフィスでは部署が占有できる『BASE』というスペースを設け、座席選択の自由度と、チームでの集まりやすさを両立しています」(山内氏)。
会議デバイスはリアルの会議を前提として会議室の利用シーンを検証し、最適な機器を選定した。
「ディスプレイはソニーのブラビアを選びました。信頼できるメーカーであること、また会議室、応接室の大きさに合わせて設置できる豊富な画面サイズのラインアップがあることも重要でした。さらに譲れなかったのは、当社の会議では図面を画面に表示することが多いため、画面を拡大しても細部までしっかり読める性能があることが必須でした。ブラビアは、これらの条件をすべて満たしていました」(山内氏)
約3800m2の新オフィスには、約450人の社員が70~80%の出社率で出勤しており、社員アンケートでは、移転前と比べて移転後はコミュニケーション量が増えたと回答したユーザーが85%に上った。またWeb会議ツールについても、約7割がおおむね満足している。残りの約3割に対しては、操作に慣れていないことも影響していると考え、山内氏のチームではマニュアルのブラッシュアップを行った。山内氏は、今後も出社したい環境を提供することで、エンゲージメントや会社への愛着を高める取り組みを継続すると語った。
リアル回帰を前提とし、応接・会議室の利用シーンを検証しデバイスを選定
スムーズな会議を実現し、社員が出社したくなるような環境へ
応接室にはソニーのディスプレイ「ブラビア」を採用。
部屋の大きさに合わせられる画面サイズの豊富さ、図面の拡大に対応する機能があることなどが選定の決め手となった。
NSFエンゲージメント
チーフクリエイティブディレクター 兼
クリエイティブセンター センター長
高野 昌幸 氏
NTTファシリティーズとソニーピープルソリューションズの合弁会社「NSFエンゲージメント」のチーフクリエイティブディレクター。「本質を創る」をテーマに、ソニーグループをはじめとしたワークプレイス構築、街づくり、コーポレートデザインを手掛ける。
多くの企業のワークスタイル変革を支援し、オフィスデザインを手掛けてきた高野昌幸氏は、ハイブリッドワークは企業と従業員の双方にとって持続可能な働き方だと話す。「企業はエンゲージメント、人材確保、生産性向上、コスト削減などのメリットを享受できます。また従業員も、ワークライフバランスを取りながら、育児や介護などに対応できます」。
しかし、さまざまなメリットがある一方でハイブリッドワークにも課題は存在する。まず、経営者と従業員との間で、出社に対する考え方のギャップがあるという。「経営者はチームワークの低下やコミュニケーション不足による業務の進捗遅延を心配し、できれば出社してほしいと思っています。一方の従業員は、リモートでも生産性は維持できると認識し、常に柔軟な働き方を求めています」(高野氏)。
こうした課題を解決するために、オフィスの役割は変わらなければいけないと高野氏は言う。 まず出社の問題は、企業側が「出社をデザインする」ことが重要だという。
「従業員はリモートで十分に働けると考えているため、出社の目的やオフィスの役割を明確にする必要があります。従業員にとっての出社のメリットは、『人』と『働きやすさ』だと言えます。そして、そのメリットは出社の目的、オフィスの役割にもつながります。オフィスに来てチームのメンバーや他の従業員と刺激し合いながらアクティブに働くことで、関係性(エンゲージメント)が深まり、従業員同士の創発が生まれやすくなります。また、それは、従業員自身の自律・成長にもつながります。こうした創発を生み出すことが、オフィスの役割であり、出社の目的になります。同時に、チームごとに出社する曜日を定めるなど、組織的な出社を促す仕組みを設けることも重要です」(高野氏)
ハイブリッドワークでは、経営者と従業員の意識のギャップをはじめ、
チーム一体感の低下、場所を問わず働く従業員のマネジメントなど数多くの課題が存在する。
アイデアや意見を出し合い、刺激を受ける交流は、やはりオフィスにいないと難しいものである。また、専門性の高い業務も、設備が整ったオフィスのほうが成果を出しやすい。そうした観点でオフィスを作るべきだと高野氏は説明する。
高野氏は、ハイブリッドワークにおける重要なポイントとして会議を挙げる。
「現在、会議のほとんどはハイブリッド会議になっています。この場合、リモートで参加しているメンバーが、リアル参加者の表情や反応が分からず、孤立してしまうという課題が浮上しています。リモート参加者が孤立せずに積極的に発言するためには、AV機器によるサポートが重要だと思います」(高野氏)
オンラインの参加者の表情が分かるようなディスプレイや、会議全体の音声を拾うマイクがあれば、ハイブリッド会議でも一体感が生まれる。その空間を生み出すためにNSFエンゲージメントが実際に活用しているのが、ソニーのハイブリッドワークソリューションだ。
「例えば、会議室で発言している人を自動で追いかけてフレーミングするカメラや、音声をクリアに拾ってリモートのメンバーに届ける高性能マイク、逆に会議室のメンバーが、リモート参加者の意見を聞くためには、リモート参加者の顔を大きく映す大画面ディスプレイや、音声を会場全体にはっきり流すスピーカーなどが必要です。これらが、ハイブリッド会議の一体感を増すためには非常に重要な装備になると考えています」(高野氏)
さらに高野氏は、ハイブリッドワークを成功させるには、出社をデザインしたオフィス設計と制度の整備、企業文化変革や従業員の意識改革を同時に進めるべきだと語った。
リモート参加のメンバーを支援するデバイスの活用が、ハイブリッド会議のポイント。
天井から話者の声を拾うマイクや、パン・ズーム対応のオートフレーミングカメラなどを検討したい。
日経BP
総合研究所 イノベーションICTラボ
上席研究員
菊池 隆裕 氏
1990年日経BP入社。記者として通信、ネット分野を担当。2002~04年米国シリコンバレー支局長。新規事業、イノベーター育成プログラムにも数多く携わる。現在「日経BPガバメントテクノロジー」他の編集長も兼任する。
オンラインセミナーの最後には、日経BP総合研究所の菊池隆裕の進行で視聴者からの質疑応答が行われた。
『出社を促す取り組みとして有効なものは何か』という質問に対して、山内氏は「出社のきっかけになるイベントや、自宅にはない高性能なWi-Fi、大画面のディスプレイといった機能を点在させて、自由に使ってもらうことが大事です」と答えた。高野氏は、「出社すればチームのメンバーと働くことができるということが重要なので、出社日をそろえるルールを決めることが必要です。また、一緒に出社したい人の情報を事前に知ることも出社のきっかけになります」と答えた。
『オフィスにおけるコミュニケーション空間作りのポイント』についての質問に山内氏は、「オープンな環境とクローズドな打ち合わせの両方をすぐに用意できる、動かしやすい什器を設置することが重要です。ハードとソフトの両面を充実させるべきです」と答えた。
高野氏は、オープンな空間の柔軟性とともに、クローズドな会議室ではハイブリッド会議に対応した装備の確保、特に音環境の整備が重要だと言う。「やはり音が聞こえないと、リモート参加者は議論に参加できません。音の問題を軽視している企業がとても多く、ここはしっかり対策してほしいと思います」(高野氏)。
音響に関しては山内氏も「当社も実際のデモを体験して、音響を含めた会議システムの重要性を認識できました。一度見学することをお勧めします」と話した。
菊池氏は最後に、「オフィスは、企業が価値を生み出し、それをお客様に届けるベースとなる場所です。今回のオンラインセミナー全体を通じて、価値を生み出すためのチームワーク、コミュニケーションを、物理とサイバーの両方で円滑に回すことが、これからのオフィスの役割になると思います」とセミナーを総括した。
「日経クロストレンドSpecial」2025年1月14日に公開
掲載された広告から抜粋したものです。禁無断転載©日経BP