働き方が変わったことでコミュニケーションが希薄化し、オフィスに求められるものは大きく変化している。オフィスに訪れる人が「多様なつながり」を感じるためには何が必要なのか? ソニーマーケティング主催で開催されたオンラインセミナーでは、オフィスの空間デザインに力を入れているイトーキの永峯承受氏と、映像や音響を活用したオフィスの価値を提供するソニーマーケティングの大野良明氏がオフィスづくりのヒントを提案した。
イトーキはオフィス家具メーカーとして広く知られているが、オフィス家具だけにとどまらず、空間やその先の働き方まで提案を行っている。
イトーキ
ワークスタイルデザイン統括部
ワークスタイルデザインラボ
デザイナー
永峯 承受 氏
2018年イトーキに入社。これまでのデザイン領域を拡張し、この先の働き方やオフィスの在り方をリサーチ・思案する組織「ワークスタイルデザインラボ」に所属し、デザイナーとしてオフィスの空間設計を主に担当する。
具体的には、ワークスタイルのコンサルティングから空間設計、施工後の働き方調査まで、7つの専門性を持った部門が企業のオフィス移転や改修を提案。そのデザイン部門の活動の中心として発足したのが、「ワークスタイルデザインラボ」である。このラボに所属する永峯承受氏が自社の取り組みを紹介した。
近年、オフィスの形は大きく変化しており、空間の質が求められるようになっている。永峯氏は多くの企業経営者や総務担当者と話をする中で、オフィスにおける「多様なつながり」の実現が難しいと感じる企業が増えていると言う。
「リモートワークやフレックス制度の普及により、従業員がオフィスに出社する必然性が薄れ、物理的な距離が生まれた結果、コミュニケーションが不足するようになりました。また、オープンフロアを導入したものの集中できずにパフォーマンスが低下したり、逆に個室を増やしたことでコミュニケーションが希薄化してしまうケースもあります」
さらに、Web会議ツールや社内チャットの発達によって利便性は向上したものの、リアルな対話が減り、社内のつながりが希薄化するという新たな課題も浮上している。
イトーキではこれまでも、時代ごとに最適な働き方を試行錯誤し、オフィス改革を提案してきた。2018年頃から、画一的な島型オフィスではなく、働き方に合わせて最適な場所を自己裁量で選ぶ「アクティビティ・ベースド・ワーキング(ABW)」を推進。そしてここ数年は、人材獲得競争が、オフィス改革のテーマになっていると永峯氏は言う。
「オフィス改革の重要テーマは、自由に働ける空間でエンゲージメントを高め、人材を獲得することにシフトしています。そこで当社は、オフィス空間に『居心地』というキーワードを取り入れ、生産性を高める機能性だけでなくモチベーションを高める空間の質を追求しています」
オフィスの役割は単なる働く場所から、ワーカーのエンゲージメントを高める「行きたくなる場所」へと変遷を遂げている。
この考え方の1つの答えを体現した空間としてイトーキが提示するのが、東京本社に構築したライブオフィス「ITOKI DESIGN HOUSE(デザインハウス)」である。永峯氏は、2024年10月にリニューアルオープンした本社11階のオフィススペースを例に、多様なつながり方を生むための「ヒント」を説明した。
その1つが「活動に寄り添うモニター・サイネージ」の導入だ。スタジアムと呼ばれるオープンなミーティングルームでは、ソニー製の98インチ大型ディスプレイを設置。デスクはディスプレイから遠ざかるにつれて高さが上がるように設計されており、リモート参加の人にも全体が見渡せるようデザインしている。
AIカメラによって発言者を自動追尾し、プレゼンターと着席の参加者は別のカメラで撮影して自動で切り替えるため、カメラを意識せずに議論に集中できると永峯氏は説明する。
「この空間は、主にお客様を招いてのプレゼンやセミナー、勉強会など多用途に活用しています。中の様子が見えることで、学びを発信する仕組みも取り入れています。また別の会議室では、壁のディスプレイに対して半円形のテーブルを配置し、会議の参加者全員が個別にカメラに向き合う形で着席できるような工夫も行っています。リモートの人も会議室の中の全体の様子が分かりやすく、臨場感を感じられます」
さらに、オープンエリアに設けたディスプレイでは、通常は環境映像を流して居心地を演出し、来客時には説明画像を表示することもできる。「適材適所のディスプレイやカメラ、マイクの配置によって、オープンな場所から会議室まで、それぞれの場所でリアルとリモートの垣根なくつながることができるオフィスを構築しています」(永峯氏)。
最後に永峯氏は、「オフィスは単なる働く場所でなく、社員同士や組織とのつながりを深めるための価値を生む場所に変化しています。そのためにも、空間デザインの工夫などでオフィスに足を運びたくなる理由をつくることが重要です」と語った。
「多様なつながりを作ることが難しい」という問題に対して、イトーキ本社のライブオフィスは、
会議や打ち合わせ、プレゼンといった目的に応じて最適なモニターやカメラを設置し、デジタルとオフラインをシームレスにつなぐ環境を実現している。
ソニーマーケティング
B2Bプロダクツ&ソリューション本部
ソリューション企画部
ロケーションバリュー企画室
ソリューションプランナー
大野 良明 氏
空間の体験価値を高めることで、お客様の課題解決をサポートする「ロケーションバリュープランニング」のソリューションプランナー。エンタープライズ、メディカルのセールス&マーケティングを経て現職。
続いて、ソニーマーケティングのソリューションプランナーである大野良明氏が講演した。大野氏が所属しているロケーションバリュー企画室は、モノだけでなく映像や音響などを組み合わせた体験を企画し、感動を届けることを提供価値としている。「ソニーのテクノロジー、クリエイティブ、コンテンツを掛け合わせたクリエイティブソリューションを提供し、お客様のチャレンジや課題解決をサポートしています」(大野氏)。
ソニーマーケティングはメーカーの側面だけでなく、自社製品と他社製品を組み合わせてソリューションを提供するシステムインテグレーターとしての顔や、そこに空間演出やコンテンツを交えたクリエイティブを価値として提供している。同社はオフィスにとどまらず再開発の複合施設、スタジアム・アリーナなどさまざまなロケーションに企画提案を行い、実績を積み重ねてきた。
大野氏のチームが行うアプローチの特徴は、ワンストップの企画提案だという。顧客へのインタビューに始まり、課題の確認、リサーチ、コンセプト提案、体験・空間の設計、施工、サポートや継続提案までプロジェクトに並走する。
「とくに、お客様が『何のために、どのような思いで』プロジェクトを進めたいと思っているのかを時間をかけて丁寧にコミュニケーションし、理解することを重視しています。その思いに対してコンセプトを定め、納得し共感していただける体験を実現する企画提案を意識しています」
次に大野氏は、オフィス空間の企画を進めるアプローチとして、横軸に「コミュニケーション」、縦軸に「ロケーション」「エリア」を配置したチャートでオフィスを4分類し、それぞれの象限ごとに最適なソリューションを検討する方法を示した。
社内か社外かを横軸に、執務エリアの中か外かを縦軸に配置して、ロケーションとコミュニケーションの最適解を探る。
この区分けでは、執務エリア外のエントランスを「社外とのコミュニケーションを取る場所」、執務エリア外の共創スペースを「社内とのコミュニケーションを取る場所」として定義した。
「執務エリア外では、訪れた人の第一印象を重視し、Welcome感やメッセージ性のあるコンテンツ、その演出にふさわしい空間設計と、体験を支える映像・音響製品を配置します。そうすることで、よい印象的な体験を提供することが可能になります」(大野氏)
また、社内の人に向けたコミュニケーションの生産価値を上げるためには、人の動きをセンシングして、知的生産性を高めることを含む「DX」「空間設計」「知的生産の共有」などがキーワードとなる。それぞれに対して、オフィスのデータ分析、オフィス什器、映像・音響設計という組み合わせがソリューションになる。
大野氏は、「誰とどこでコミュニケーションをとるかにより、改善の対象先となるロケーションが決まります。お客様の課題を分析しコンセプトを設定したうえで、最適なシステム、ハードウェアを選定します。その結果から、抱えている課題を解決するソリューションとして付加価値を提供していきます」と話す。
具体的には、大型LEDビジョンはエントランスや受付だけでなく、プレゼンテーションを行うようなコミュニケーションエリアなどにも適しており、中小型のLEDやディスプレイは会議室などのミーティングエリアのほか、リフレッシュエリアなどでも活用の機会が多いという。
最後に、大野氏は「もし、オフィスにおける社内・社外の接点や空間づくりなどでお悩みを持つお客様がいらっしゃいましたら、ぜひソニーマーケティングにご相談ください」と語った。
ソニーマーケティングは、オフィスのロケーションに合わせた最適なディスプレイ、
カメラ、マイク・スピーカー、コンテンツの組み合わせを企画・設計できる。
講演の後には視聴者からの質問が寄せられ、日経BP総合研究所の菊池隆裕氏の進行で両講演者がそれに答えた。
「漠然とした課題しか持っていなくても両社に相談してもよいか」という質問に対しては、イトーキ、ソニーマーケティングのどちらも歓迎だと話した。まずは課題をヒアリングして、それぞれの得意分野を生かした提案ができると答えた。
「組織間のコミュニケーションをどうやって促進するか」という質問に対しては、永峯氏は「世代間のコミュニケーションが取りづらい問題はあると思いますので、例えば、あえて目的を定めない緩やかなエリアを設け、デスクの配置や照明などで心理的なハードルを下げる工夫も有効です」と答えた。
日経BP
総合研究所 イノベーションICTラボ
上席研究員
菊池 隆裕 氏
1990年日経BP入社。記者として通信、ネット分野を担当。2002~04年米国シリコンバレー支局長。新規事業、イノベーター育成プログラムにも数多く携わる。現在「日経BPガバメントテクノロジー」他の編集長も兼任する。
また、「オフィス空間のリニューアルに当たり、どこから課題を抽出すればいいか」の問いに、大野氏は「どこから手を付ければいいか悩まれているお客様は非常に多いので、まずはフラットに相談していただければ、話しているうちに課題が見えてきます」と答えた。永峯氏も「当社の営業と話していただければ、空間の問題なのか、それとも風土の問題かなど、課題が浮かび上がってきてアドバイスができると思います」と説明した。
最後の質問で、「オフィス内の人流を活性化させて偶発的な出会いを促進する方法は?」、という問いには、永峯氏はイトーキのオフィスフロアではABWによる働き方を推進するため、フロアの中心から遠ざかるほど集中できるエリアにしていたり、オープンな会議ができるエリアなどを設けて、活動によって場所を選べる働き方にすることがポイントだと説明した。人の動きを可視化するためにセンサーやカメラの利用も有効だという。
菊池氏は講演のまとめとして、「2人の話を聞いて、オフィス空間は什器やディスプレイなどハードウェアだけの問題ではないと実感できました。多様なつながりが持てる空間づくりを考えている企業は、両社に相談していただくのがいいと感じました」と語った。
「日経クロストレンドSpecial」2025年2月28日に公開
掲載された広告から抜粋したものです。禁無断転載©日経BP