5Gがもたらす変化とソニーの展望(前編)\

Chamber 22
2018.09.13

5Gがもたらす変化とソニーの展望(前編)

次世代移動通信システム「5G」。2020年の実用化に向け、さまざまな研究や実証実験が行われています。「5G」が実用化されることで、社会は一体どのように変化し、ビジネス分野においてどのような可能性が生まれていくのでしょうか。ソニー株式会社執行役員 次世代技術連携担当の島田啓一郎が、前後編にわたって5Gの世界、そして未来について語ります。

5Gがもたらす変化とソニーの展望(前編)\

■5Gの世界では、1人100台の情報端末とつながる?!

――年々各業界からの期待が高まっている5Gとは一体どのようなものなのでしょうか。

「現在使われている4Gの10倍から100倍の通信速度や大容量化、超低遅延および高信頼、多端末接続というのが5Gの特長です。つまり非常にたくさんの機械が瞬時につながるということ。みなさんにとって一番実感しやすいのは、スマホで動画などがサクサク視聴できるといったことでしょう。混雑した場所で、大容量の映像を送受信してもスマホが遅いなどと感じることが少なくなるでしょう」

――「ダウンロード」「アップロード」という概念を覆す速さになりそうですね。

「4Kや8K、VRの映像まで行き交う未来がそこまで来ています。今、人が使っているのはスマホ1台か2台だと思いますが、5Gの世界では人に意識して使われずにつながる機械がどんどんと増えていきます。IoT化することで、体内のセンサーが健康を見守ったり、自動車については自動運転をしたり、工場でロボットが動いたり、すべて無線でつなげていくと、合計で1兆個くらいになるんですね。一人につき100台くらいの情報端末とつながるイメージ、その圧倒的な数に対応できるのが5Gなのです。」

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■ビッグデータ、AI(人工知能)と組み合わせることで生まれる変化

――情報技術等が発展した1970年代からの第三次産業革命に続き、現在は第四次産業革命へと続く真っ只中にあります。ビッグデータ、そしてAIをコアとした技術革新は、いろいろなモノとコトの効率を高め、さまざまなサービスを生んでいますね。

「これから第四次産業革命を経ていくなかで、過去と同じように、まず人がする仕事に変化がでるでしょう。物を人力で運んでいた人が、車を運転して運ぶようになったのと同じように、知的な入力作業も自動化されていきます。かなりのオフィスワークは生まれ変わり、バックヤードの事務作業は、減らしてもよくなる。その分、お客様のおもてなしをする接客の時間が増やせますね。たとえば看護師も、現状ではデータ入力している時間が結構長いと思うのですが、本来は患者さんと接する時間を多くとったほうがいい。そういった点においても、徐々に解決されていくことでしょう」

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■5Gが変える教育現場とは?

――学校教育もこの時代の変化に対応するために変わっていくと言われていますね。5Gは教育現場にどのような影響を及ぼすのでしょうか。

「その場に行かなければ伝えられなかったことも、5Gだったらリアリティをそのままに引っ越せる。向こうまでは行けないんだけど、すぐそこに向こうが見えるようになる。スペシャリストが分身になって、いろんなところで教えたりもできるようになり、場所の制約はどんどんなくなるでしょう」

――インタラクティブという言葉もキーワードになっていますが、5Gによって双方向性がさらに加速しそうですね。

「授業でもインタラクティブなコミュニケーションが取り入れられていますが、双方向性のサクサク感、臨場感が変わります。大きな画面が必要な大教室の映像は、広帯域、低遅延性がマッチするのではないかと思っています。あとは課外活動の場面でも変化があるかもしれません。例えば、吹奏楽やオーケストラの練習でなかなか人が集まらないときも、5Gを通じて離れた場所でも音合わせができるようになるかもしれません」

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■5Gが働き方を変えていく

――スペシャリストは、どこにいても仕事ができる世の中に。バーチャルな会議室はもう実現可能になっています。次の革新が待たれるのは、どんなことでしょうか?

「物理的な仕事がどこまで遠隔でできるかですね。たとえば脳外科手術も、専用の顕微鏡でカメラ付きのものが開発されています。そのうち、5Gの超低遅延性を生かし遠隔でもできるようになり、遠くの患者さんを手術できるようになるかもしれないですね。5Gが変えていくのはそのあたりの世界ではないでしょうか。NTTドコモさんでは、診療所と病院を結び、患者の測定情報と医者同士の会議をまとめてつなぐ実験をしていました。またコマツさんでは、遠隔で建設機械を操作する実験も進んでいます。スマートホーム化も進み、テレワークもますます普及していくと思います。ITエンジニアが地方で農業をやるとか、そういう人も増えてくることでしょう」

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■5Gでエンタメはもっと楽しみ方が増えていく

――5Gが活用されれば、これまでとは違う見方でスポーツが楽しめそうです。

「スポーツでは、たくさんカメラを使うことで多視点、自由視点での視聴が可能になります。地面や選手自身にカメラをつけることは、もう技術的には可能になっていますね。自分の好きな選手を追える『推しの視点』というのもできるようになるかもしれません。ちなみに余談ですが、サッカーW杯では先のロシア大会から初めてVARが導入されました。これはソニーのゴールラインテクノロジーが使われているんですよ」

――W杯で言えばNHKさんが主催した8Kパブリックビューイングも話題になりました。

「これからは、パブリックビューイングも楽しみ方が変わると思います。ズームされた放送映像だけではなく、どーんと大きな画面で、スタジアムにいるかのように試合の全景を映し出しながら、観客個々のお気に入り選手の動きを追ったり、より臨場感のあるライブ体験が可能になるでしょう。NHKさんでは2018年12月から8K放送を開始します。8Kと5Gの組み合わせでは、『臨場感』が増し、リアルタイムで見たいところが見つけられるようになる『アクセス感』も増します。画面の向こう同士で意思疎通させて『参加感』も高まるでしょう。これはすべて5Gが前提ですが、5Gによって情報が送りやすくなり、魅力が伝わりやすくなると思われます。スマホやテレビ、映画館だけではなく、街角や商業施設などさまざまな場所で映像に囲まれる世の中がくるかもしれません」

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――観光需要も、5Gによって広がりそうな気がします。

「観光でよく言われているのは、VR(バーチャルリアリティ)での観光地の事前体験です。映像技術を使って、自分の周りが全部景色というVR空間を体験できたりする。5Gがあれば、さまざまな場所でそういった新しい旅行体験が可能になるのではないでしょうか。例えば、首都高を走っている車の中から見える景色をリアルタイムなハワイの景色にしたり(笑)。今年、沖縄のリゾートゴルフ場で自動運転の車を走らせるサービスをしたのですが、イメージは『走るスマホ』です。中も外も映像が流れていて、谷川の音を流したり、実際の景色に動物を合成したり。どんな映像を流すかは使う人次第です。家でも映画館でもない映像を楽しむ場所がどんどん増えていくといいと思っています」

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5Gは間違いなく、これからの社会を変えていく力をもっています。目に見える形で人々を楽しませるだけでなく、教育、働き方などさまざまな分野で人と社会の価値観を変化させていくことでしょう。その大きな可能性に気付かされたところで、後編は、ソニーとしてどんな貢献をしていけるかについて、より詳しくお話を伺います。

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