次世代移動通信システム「5G」。2020年の実用化に向け、さまざまな研究や実証実験が続いています。前編に引き続き、ソニー株式会社執行役員 次世代技術連携担当の島田啓一郎が語ります。
「例えば監視カメラのネットワークが広がり、都市丸ごと広域監視できるようになったり、防災や減災のために役立つことでしょう。自立走行モビリティで街づくりや交通が大きく変わっていく可能性もあります。モビリティや広域監視の環境が整備されれば、高齢者や子どもの移動もしやすくなることでしょう。もともと5Gは都市向きではありますが、地方創生での活用も進みます。政府や財界としても、格差解消にこうしたテクノロジーを使うことで、社会課題解決と産業の活性化をはかっていくことができるでしょう。イメージセンサーをはじめ、移動体の分野など、私たちが頑張らなければならないことはたくさんあります」
「イメージセンサーはソニーがもっとも注力しているものの一つです。用途に応じていろんなものがあり、ソニーでは年間十数億個を作っています。イメージセンサーという『機械の目』が働くことにより、新しい価値創造がなされていきます。今、5Gにおいて中国や韓国は自動運転やVR(バーチャルリアリティ)に注力していますが、日本の技術的な強みは、『入力』と『出力』にあるのではないでしょうか。『入力』に対する強みはカメラ、つまりセンサーです。5Gの時代は、今以上にセンサーとしてのカメラ需要が増していくと思われます。『出力』に対する強みはロボットのアクチュエータですね。日本の多くのメーカーは、この領域で世界に先駆けた技術をたくさんもっています。このロボットにも『機械の目』という意味でのセンサーが必要になりますので、こういった用途でもソニーのセンサーは貢献できると思っています」
「5Gの高信頼、超低遅延といった特性が活かされる分野ですね。通信と人工知能が発達していけば、座っていれば目的地まで行けるようになるでしょう。これだけいろんなモノやサービスが出てきている世の中は、産業側から見ると、常に人の時間を取り合ってきたわけです。自動運転が可能になることで、運転する人の目と手が空く。人の時間が新しく生まれるとしたら、これは大変な市場なわけです。なかなか生まれないものですからね。耳はもともと空いていたので、運転中もラジオや音楽を楽しんでいました。これからはご飯を食べてもらうという答えもあります。ソニーとしては、ゲームをしたり、映像を観たり、カラオケを楽しんでもらったり、とにかく映像と音楽で何かできないかと思っています。仕事も勉強も、移動体でいろんなことができるようになりますね。自動車メーカーさんと競合するのではなくて、一緒に新しいサービスを生んでいければと思っています。じきに、『チョコを食べたい』とつぶやけばひゅーっとKIOSKが飛んで来るようになるかもしれません(笑)」
「イノベーションの元になるテクノロジーを頑張っている業界と、実際にそのサービスを使う農業や食品、医療などの業界が一緒にやっていくことが大事ですよね。どんなにテクノロジーを頑張ってもそれだけで交通状況や食品チェーンが変わるわけではない。ここは産業を横断して協力ができるかどうかで、5Gがものになるかどうか決まると言われています。プロモーションしている人も『クロスオーバーコラボレーション』とずっと表現しています。通信業界ではバーティカルという言い方もしますね。ソニーはエレクトロニクスやネットワーク・モバイル分野では通信の側でもあり、エンタテインメントでは利用側でもあります。ですからソニーは、内部にバーティカル産業を抱えている会社と言ってもいい訳です」
「5Gにより、人と人、人と機械の間の距離が縮まって、さまざまな制約は緩和されていきます。今ソニーとしては新しい戦略を作ろうとしています。今までは、よかれと思って作って、どうだ!というのが多かったかもしれない(笑)。でもそこは、違うぞと深く思わなければいけません。かといって教えてもらって作っても、すでにお客様がわかっているもの以上はできてこないんです。だから一緒に試しながらやりたいんですね。共に成長できる未来のお客様と、これから繋がらなければならないと思っています」
5Gは、これから重要な社会インフラとして発展していきます。そして、IoT、AI、自動運転などの将来技術との組み合わせで新たな付加価値の創造が期待されています。変化の大きい時代に、いろんな産業を横断して関わること。技術ばかりを先走らせるのではなく、いかに人に近づいていけるか。人々のライフスタイルを変え、ゆとりある生活の中に新しい感動を生み出していけるか。それがソニーに求められている次なるテーマかもしれません。
ソニー株式会社/執行役員 R&Dセンター 次世代技術連携担当
1981年ソニー株式会社に入社、ビデオカメラなどの組み込みソフトウェア開発や超小型化技術開発を担当。1996〜2003年ノートパソコン事業を統括、2006〜2012年技術開発本部長、2007年より業務執行役員SVP、2009〜2012年研究開発担当役員。内閣府や総務省などの会合構成員を歴任。2016年より京都大学経営管理大学院特命教授。