contents1 光学式手ブレ補正機能
「ブレ対策」:ソニーの出方は?
今から1年ほど前、「2005年秋までに手ブレに万全の対応をしたコンパクトカメラを製品化する。やるなら手ブレ補正ユニットだけでも、高感度化だけでもない、その両方を搭載して“ダブルで安心”の商品をつくる。もちろんソニーのアイディアや技術で達成する。」という構想の下、開発はスタートした。
手ブレ対策」は薄型のレンズユニットと新開発のLSIで

光学式手ブレ補正で主要な役割を果たしたエンジニアは、ソフトウェア技術部門(カメラ動作を制御する回路を担当)の高岡 俊史とオプト技術部門(光学系を担当する)の安井 智仁である。安井はブレをキャンセルする時に物理的に動くレンズが搭載されている「鏡筒」部分を担当、高岡は手ブレを感知し→信号処理し→鏡筒を動かす指令を出す一連の処理を行う大規模集積回路(LSI)の開発を担当した。

LSI
高岡 俊史「薄型機用の手ブレ防止回路は、以前からLSIのアーキテクチャー(構成・仕組み)を考え続けていました。ですから『薄型のTシリーズに、1年後に手ブレ補正機能を搭載せよ』という指示が出た時には、直ぐに開発に取り組めました。」と高岡は言う。
レンズユニットは、ゼロからの模索
安井 智仁T9の開発開始に伴い、鏡筒部分の新規設計がスタート。鏡筒を担当する安井はサイバーショットTシリーズの特徴である「折り曲げ式レンズ」で光学式手ブレ補正を実現するために必要となる様々な条件(光学補正の角度は何度が最適か、どのぐらいの揺れに対応すれば良いか、そのためにどのぐらいの電流を流せばよいか等)の洗い出しを始めた。「すでに光学式手ブレ補正をやっている会社もいくつかありますが、この分野では業界で合意された“標準スペック”のようなものはなく、各社が独自の方式で対応しているという有様でした。よって、T9用の鏡筒開発でもゼロから模索しなければならないことが多かったですね」(安井)
薄型化の秘策は?
高岡のLSIと安井の鏡筒が互いに連動して機能することで、光学式手ブレは威力を発揮する。毎週一回の定例ミーティングとその他の臨時ミーティングで、情報交換とディスカッションを繰り返し、手ブレ補正ユニットの開発は進んでいった。二人が乗り越えた最大の課題は、薄型を特徴とするTシリーズ(T9の厚さは20.6mm。レンズカバーを除くと16.8mm)に手ブレ補正ユニットをおさめることだった。そのために、安井高岡は、手ブレ補正の際にレンズを動かす小型の駆動装置「アクチュエータ」の部分をいかにスリムに作り上げるかに知恵を絞った。
手ブレを感知する「ジャイロセンサー」。T9はこれを2つ搭載して縦方向(ピッチ方向)と横方向(ヨー方向)のブレを検知、そのブレを補正するための演算処理をLSIで行い、コマンド(指示)を鏡筒に伝えてレンズをシフトする。T9の鏡筒には、全部で11枚ものレンズが使用されているが、手ブレ補正に使われるのはそのうちの1枚。この1枚を、「アクチュエータ」によってすばやく動かして手ブレをキャンセルする。
「アクチュエータ」には、コイルとマグネット(磁石)が1対使用されており、磁界、電流、力の関係を示した「フレミングの法則」によって駆動させる。マグネットは、アクチュエータの駆動だけでなく、レンズの位置そのものを認識するセンサーとしても兼用されている。駆動用と位置検出用のマグネットを兼用すると小型化・薄型化が可能になるが、一方で誤検出のリスクもあった。安井は、マグネットから出る磁界を微妙にコントロールすると誤検出を防げることを発見して早速これをテスト、有効性があることを確認すると実行に移した。
完成度を高めたのは、やはり粘りと根気
安井 智仁  高岡 俊史ゼロから手探りで完成度を高めてきた光学手ブレ補正ユニットだが、少しでも高い性能を求めて追い込みは続く。高岡、安井およびグループのメンバーたちは、月曜日から金曜日にソフトをブラッシュアップし、土・日に改善版ソフトを搭載したサンプル機でありとあらゆるシーンや撮影状況を試す“フィールドテスト”を繰り返した。翌月曜にその出来を確認して問題点を抽出し、さらにソフトをブラッシュアップしてまた次の週末にフィールドテスト…。測定器で性能を測ることもできるが、手ブレのパターンは実に多様だ。人によって癖も様々なので、いろいろな人に手ブレのテストをしてもらった。こうした努力によって、光学手ブレ補正は完成度を高めて行ったのである。
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