ポータブルオーディオプレーヤーの先駆けとして40年以上に渡る長い歴史を誇る「ウォークマン」。その歴史と技術の結晶とも言えるフラッグシップモデル「WM1シリーズ」を、ソニーミュージックの音楽を支え続けてきたレコーディング&マスタリングエンジニア・鈴木浩二がインプレッション。ジャズ、クラシックの歴史的名盤を試聴し、その高音質がかき立てる“よろこび”を語り尽くす―
ジャズの不朽の名盤・偉大な音楽遺産を未来へとつなぐあなたの人生を変える名作たち
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クラシック音楽の世界遺産100枚、新技術の高品質CD「極HiFiCD」を採用
体験した
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Profile
鈴木浩二 Suzuki Kouji
1985年にソニーミュージック入社。以降、ソニー・ミュージックスタジオ所属エンジニアとして活躍。レコーディングエンジニアとして約10年のキャリアを積んだ後、マスタリングエンジニアとしてのキャリアもスタートさせ、現在はホール録音やミュージカル、ジャズ等のレコーディングからマスタリングまでマルチに行う。「表現者の想いを感じとる」ことを大切にし、アーティストとのコミュニケーションの中で伝えたい感情を瞬時に理解し、イメージ通りのサウンドを作り上げることに定評がある。
最前線のエンジニアが
こだわり続けてきた
「音」を
忠実に再現する
ウォークマン WM1シリーズ
まずは鈴木さんが、普段どういったお仕事をされているのかを聞かせてください。
鈴木:肩書きとしては「レコーディング&マスタリングエンジニア」となっていますが、本来、レコーディングとマスタリングは全く別の仕事です。簡単に言うと、スタジオなどでの演奏を録音するのが「レコーディング」で、録音した音源をCDやテレビ放送、インターネット配信など、それぞれのフォーマットに合わせた、最終的な音作りを行うのが「マスタリング」となります。
この仕事をするためにはどんな能力が求められるのでしょうか? やはり良い音を聴き分けられる「良い耳」や「音楽知識」などでしょうか?
鈴木:もちろんそうした能力は必要なのですが、それよりも、ミュージシャンやディレクターとのコミュニケーションの中で、その作品が何を表現したいのかを理解し、出力する能力が大切ですね。
「コミュニケーション」ですか?
鈴木:そうです。ただし、それは単に「言葉」だけで交わされるものではありません。スタジオ内での空気感などを敏感に読み取って即座に対応できるような、音楽を通じて意志を疎通する能力が求められます。
鈴木さんが、さまざまな大物アーティストから信頼を寄せられる理由はまさにそこにあるのでしょうね。ちなみに鈴木さんはこれまでどういった音楽に携わってきたのですか?
鈴木:ソニーミュージックが幅広い音楽を取り扱っていることもあり、入社以来約40年間、本当にさまざまなジャンルを経験させてもらいました。歌謡曲やクラシック、ジャズはもちろん、音楽ライブや舞台、歌舞伎の録音など、本当にいろいろな作品に携わりましたね。面白いものでは虫の声や街の雑踏といった環境音の録音なんてものもありました。その中でも私はアコースティック楽器の録音が大好きで、最近ではクラシックやジャズを中心にやらせていただくようになっています。
さて、今回、そんな音のプロフェッショナルである鈴木さんにウォークマンのフラッグシップであるWM1シリーズの2モデル(『NW-WM1ZM2』および『NW-WM1AM2』)を試聴していただきました。まずは率直な感想を聞かせていただけますか?
鈴木:もう本当に驚きでした。試聴してすぐ「なんだこの良い音は!?」って(笑)。ヘッドホンで聴いているにもかかわらず、高級オーディオ機器をスピーカーで聴いているような感覚に陥ってしまいました。環境が整ったオーディオルームで聴いているような心地よさがありますね。なお、私は職業柄どうしても音作りに意識が行ってしまうのですが、WM1シリーズは「音楽が伝わる」音作りをしているなと感心しています。
「音楽が伝わる」とはどういう意味ですか?
鈴木:私は現場で常に、アーティストがその作品に込めている思いや伝えたいことが何なのかを考えながら、ここはもう少し繊細に、ここはもっとダイナミックにというふうに音作りを行っています。WM1シリーズは、そうした細かなこだわりを丁寧に再現してくれているのです。
また、今回は同じ楽曲をCD音質からハイレゾ音質まで、さまざまな音源で試聴したのですが、それぞれの違いがよく分かったのも面白かったですね。
その違いについてもう少し詳しく教えてください。
鈴木:ハイレゾはやはり空気感が違いますね。また、同じハイレゾでもFLACの96kHz/24bitとDSDでは音の傾向が違っていて、DSDはよく言われるようにアナログっぽい質感を強く感じることができました。ただ、特に驚かされたのがCD音質の音源です。数字だけで比較するとハイレゾには及ばないはずなのですが、ものすごくパワー感があって、むしろこれが好きという人も多いのではないでしょうか。
ここからは、鈴木浩二による、より詳細な音質インプレッションをお届け。
鈴木がこよなく愛するジャズとクラシックの歴史的名盤をWM1シリーズがどのように表現するのか、
音源となるCDシリーズ制作を担当したディレクター原賀豪も交え、
音のプロフェッショナルたちの厳しい耳でその音質を評価します。
ジャズ120年史を一望する
『We Want Jazz』で
今、甦るモダン・ジャズの
興奮
ジャズの魅力をウォークマンはどのように表現するのか? ここではモダン・ジャズ不朽の名盤104タイトルを最新の高品質CD技術で復刻する新シリーズ『We Want Jazz』を音源に※、数々の伝説的プレイをシリーズ制作統括として携わった原賀豪(ソニー・ミュージックレーベルズ)も交え、その聴きどころをたっぷりと紹介します。
※PCでロスレス形式にリッピングしたデータを本体内蔵メモリーに記録して試聴。
- We Want Jazz
- およそ120年にも渡る歴史のあるジャズ。『We Want Jazz』は、ソニーミュージックのもつ数多くの名盤を体系的・継続的にリリースしていく新たなシリーズです。ジャズの帝王マイルス・デイビスの米コロンビアにおける全アルバム(55タイトル)を第1期として2023年11月22日にリリース。12月20日にはモダン・ジャズの名盤49タイトルを第2期としてリリース予定です。CD盤は全て、高品質CDとして確固たる評価を得ているBlu-spec CD2仕様を採用し、全てのCDプレーヤーでより原音に忠実な再生を可能にしました。
WM1シリーズで体感する、
モダン・ジャズの生々しさ
WM1シリーズがモダン・ジャズの名盤をどのように表現するのかをお聞きする前に、鈴木さんとジャズとの関わりについて聞かせてください。
鈴木:若い頃にトランペットを吹いていたことがあり、ジャズの中でも特にビッグバンドが好きで、金管楽器のジャズの録音が一番ワクワクするみたいなところがありました。レコーディングエンジニアとしても、ジャズシンガーのケイコ・リーさん、ジャズギターの渡辺香津美さんやフリューゲルホルン奏者、ボーカルのTOKUさん、最近ではギタリストの吉田次郎さん、ピアニストのクリヤ・マコトさんらとお仕事をさせていただいています。また、マスタリングエンジニアとしてはマイルス・デイビスなど何百タイトルもの旧譜を担当させていただきました。
ジャズのレコーディングの醍醐味はどんなところにあるのでしょうか?
鈴木:ジャズの演奏は即興がメインとなるので、当然ながらレコーディング時に全く先が読めません。そうした中でもアーティストがより良いパフォーマンスを発揮できる環境作りが大切で、演奏中のアーティストのヘッドホンに返す音のバランスや質感を緻密にコントロールして気持ちよく演奏できるようにしていく必要があります。
ベースのテンポが一番グルーヴしているなと感じたらその音を強調するとか、ドラムのリズムをちゃんと伝えてあげるとか、ソロならそのエネルギーをしっかり感じられるようにするとか、そういうところが腕の見せ所です。大変ではありますが、アーティストに「おかげで良い演奏ができたよ」と喜ばれると疲れも吹き飛びますね(笑)。
エンジニア観点で、ジャズのレコーディングの特徴について教えてください。
鈴木:ジャズは歴史的に楽器にマイクを近づけて、よりビビッドな音を録るのが一般的ですね。ピアノだとハンマーが弦を叩く音を録るとか、サックスでもホーンの近くで音を拾うような、ダイレクトな存在感を感じさせる音を良しとする文化があります。
今回、『We Want Jazz』の楽曲をWM1シリーズで試聴していただきましたが、ウォークマンで聴くジャズのサウンドはいかがでしたか?
鈴木:『We Want Jazz』第1期を飾るマイルス・デイビスは個人的にも関わりの深いアーティストで、1996年に50タイトル以上をリマスタリングしたり、ニューヨークにあるオリジナルマスターを使って、名エンジニアとして知られるマーク・ワイルダーと一緒にマスタリングしたり、かなり強い思い入れがあります。そして、WM1シリーズで聴く『We Want Jazz』の楽曲は、そんな私から見ても、マイルスの音を生々しく再現していると感じられるものになっています。
例えば『カインド・オブ・ブルー+1(ステレオ&モノラルW収録)』に収録されている「ソー・ホワット」はCDになる前の大元のマスターも米国で聴いたことがあるのですが、そこに込められた思いをしっかりと再現できていましたね。
原賀:「ソー・ホワット」はマイルスの演奏ももちろん素晴らしいのですが、例えばコルトレーンのテナーサックスソロも本当に良くて。先ほど、鈴木さんがダイレクトに録ることがジャズのレコーディングの基本とおっしゃっていましたが、本当にそこにコルトレーンがいて演奏しているかのように感じられるんですよね。キーをタップする音とか、楽音以外の音も演奏の一部として心地よく聴こえるところに興奮しました。
鈴木:まさにそういう部分が、レコーディングエンジニアがアーティストの思いや現場の空気感を再現するためにこだわっている部分ですね。
原賀:あと、『サンジェルマンのジャズ・メッセンジャーズ(vol1-3)』も、ライブ盤ならではの臨場感が本当に素晴らしい。現地の雰囲気をしっかりと感じられて、目を瞑って聴いていると、自分が1950年代の「クラブ・サンジェルマン」にいるんじゃないかと錯覚してしまうほどでしたね。
「モーニン」を一緒に謳っている観客の女性の声なんかも本当に緻密に聴こえてきて、個人的にはライブ盤の再生こそ、フラッグシップモデルたるWM1シリーズの本懐ではないかと思っています。
そのほか、WM1シリーズが音源の良さを引き出せているなと感じられた楽曲がありましたら教えてください。
鈴木:「テイク・ファイヴ」などを収録したジャズ界屈指のベスト・セラー・アルバムとして知られる『タイムアウト』はマスターの音が凄まじく良かったのですが、WM1シリーズではそれをよく表現できていたと思います。音の、楽器の輪郭、サックスであるとか、ピアノであるとか、その出音のエッジがはっきりとクリアに感じられました。すごく巧みにレコーディングされていて、エンジニアの狙いがひしひしと伝わってきます。
あとは『スケッチ・オブ・スペイン+3(ステレオ&モノラルW収録)』かな。このアルバムはいろんな楽器の演奏が出てくるのですが、それぞれの音の粒立ちと表現がちゃんと伝わってくるところを聞いていていただきたいですね。もちろん、それ以外の楽曲も全ておすすめです。WM1シリーズの見事な音を通して、ジャズ奏者たちの思いを受け取ってあげてください。
ウォークマンで
お気に入りのジャズに
深く没入してほしい
最後にここまで読んでくださった読者の皆さんにメッセージをお願いします。
鈴木:今回、WM1シリーズでたくさんのジャズ音源を試聴させていただきましたが、かつて自分が何度も聴いた音源がまるで違って聴こえることにとても感動しました。
同様に、かつて皆さんが若い頃にレコードがすり切れるまで聴いたような楽曲も驚くほど新鮮に感じられるはずです。
目を閉じて、WM1シリーズで『We Want Jazz』の楽曲を聴いていると、原賀さんも興奮交じりにお話ししていましたが、本当にジャズ・クラブにいるかのような気分になってきます。気がつくとソファーを大きくリクライニングさせており、ちょっとシングルモルトが飲みたいな、なんて気分に(笑)。この没入体験を、ぜひ皆さんにも味わっていただきたいですね。
Inside WALKMAN
WM1シリーズのCD音質が良い理由は?
WM1シリーズはオーディオ回路を動作させるための水晶発振器を2系統搭載。デジタルオーディオで一般的な48kHzに加え、CD音源再生に特化した44.1kHzのクロックに対応することで、CDからリッピングした44.1kHz/16bitのデータをよりクリアに再生。なお、水晶発振器は水晶片の電極を金蒸着で形成することで音の分離感と低音の質感の向上を実現。
単純に優劣を付けられるものではない、と。
鈴木:そうですね。今回、いろいろ試聴させていただいて、CD音源の再生以外の面でもこのパワー感が特に印象に残りました。良いスピーカーでもパワーのない(電源周りの弱い)アンプで鳴らすと力のない音になってしまうのですが、WM1シリーズはポータブル機にもかかわらず、すごく力のあるサウンドを奏でてくれます。これはよほど良い電源を乗せているんでしょうね。
WM1シリーズの電源へのこだわり
高音質を支える電源周りを徹底的に作り込んでいることもWM1シリーズのこだわり。バッテリーと基板を繋ぐケーブルにOFC(無酸素銅)を採用したほか、本機のためにチューニングされたFTCAP(高分子コンデンサー)や、大容量・高効率の脚付きコンデンサーを搭載。ポータブルプレーヤーで一般的な表面実装タイプのコンデンサーとは比べものにならない大きさのコンデンサーを搭載したことで力強いサウンド再生を実現。
『NW-WM1ZM2』と『NW-WM1AM2』の違いについてはどのように感じられましたか?
鈴木:最初は『NW-WM1ZM2』の方から試聴させていただきました。さすがは上位モデルというだけあって、音の空気感がしっかり出ていて、かつエッジ感もクリアに感じられる仕上がりになっています。クリアというと硬い感じに思われてしまうかもしれませんが、ソフトな部分はしっかりと柔らかく感じられており、極めて完成度の高い音楽プレーヤーだと感じました。
『NW-WM1ZM2』のアドバンテージは?
WM1シリーズ上位モデル『NW-WM1ZM2』だけのプレミアムが、純度99.99%の無酸素銅シャーシ(『NW-WM1AM2』はアルミシャーシ)。高密度でずしりと重いボディのおかげで、伸びのある高音、クリアで力強い低音の再生を実現。また、アンプとヘッドホンジャックを繋ぐ内部配線をKIMBER KABLE(R)社との協力によって開発された4芯編み構造のオーバーバンド用大口径ケーブルにすることで残響音や余韻の再現性をより一層高めることに成功。
鈴木:『NW-WM1AM2』の方は、厳密に言うと若干、広がり感の面で上位モデルに及ばないところはあるものの、上手にまとめられており、パワー感もしっかりあります。個々の楽器の力強さなどもしっかり楽しめました。交互に聴いていて、あれ、いまどっちを聴いていたんだっけと思ってしまうこともあったくらいで、劣った感じは全くしませんでしたね。優劣と言うより、キャラクターが違うと言った方が正しく、どちらもアーティストが伝えたいことがしっかりと伝わってくる音質に仕上がっているのではないでしょうか。
この試聴ではヘッドホンに、ソニー最高峰の技術を注ぎ込んだフラッグシップモデル『MDR-Z1R』を使っていただきました。ぜひ、その感想も聞かせてください。
鈴木:見た目はものすごく大きくて重そうなのですが、実際に装着してみると着け心地がすごく良くて、重さも全く感じないことに驚かされました。もちろん音の満足感も高く、特に空間表現力が素晴らしいですね。先ほども話しましたが、耳の中ではなく、まるでスピーカーのように少し離れたところから鳴っているように感じられ、音の繊細さやそれによって表現されるアーティストの思いなどを聴き取りやすくなっています。WM1シリーズのサウンドをしっかりと表現してくれる、素晴らしいヘッドホンだと思います。
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記事内の
ジャズ、クラシック音源を
体感しよう!
Products
古典から最新話題作まで
『ベスト・クラシック100極』で紐解く
クラシックの歴史
クラシックの奥深さをウォークマンはどのように表現するのか? ここでは50年以上に渡ってその時代ごとの「ベスト」をセレクトし続けてきた“ベスクラ”の最新盤『ベスト・クラシック100極』をソースに※クラシック音楽の演奏史をWM1シリーズで再確認。シリーズ制作統括として携わった原賀豪(ソニーミュージック・レーベルズ)も交え、その聴きどころをじっくりと紹介します。
※PCでロスレス形式にリッピングしたデータを本体内蔵メモリーに記録して試聴。
- ベスト・クラシック100極
- 1972年にスタートし、CD時代に入ってからは4年に1度リニューアルしながら、クラシック不朽の名盤100枚をシリーズとして提供し続けてきた「ベスト・クラシック100(通称、ベスクラ)」。その最新盤シリーズとなるのが2020年に発売された『ベスト・クラシック100極』です。グレン・グールドらクラシック音楽の演奏史を彩ってきた大スターの名盤から、21世紀を担う旬のアーティストの最新作品まで、クラシック音楽の世界遺産と言うに相応しい名盤を厳選し、最先端の高品質CD技術「極HiFi CD」でお届けします。
WM1シリーズで
体感する、
コンサートホールの
臨場感
WM1シリーズでクラシック楽曲をどのように再現できるのかをお聞きする前に、鈴木さんがこれまでクラシック楽曲とどのように向き合ってきたのかをお話しいただけますか?
鈴木:実は私、子供の頃にホルンを吹いていて、以降もずっと管楽器をやっていて、コンサートにもよく連れて行ってもらっていました。それがクラシックとの出会いで、最初はオーケストラの醍醐味みたいなものに惹かれていたのですが、そこからヴァイオリンや木管楽器など、個々の楽器の魅力も分かるようになってきて、クラシックってすごいな、と。
何百年前の音楽を大切に受け継ぎつつ、演奏者が変わると違って聴こえてきたりするところがすごく面白いと思ったんですね。また、音的にもホールが違ったり、録音位置が変わったりするだけで全然音が違ってくるところに興味を持ちました。CDを聴きながら、これは響きが違うな、マイクの位置が近いな、遠いななんて思いながらこの業界に入って、いろいろな葛藤もありつつ、徐々にプロデューサーやアーティストが何を表現したいのかが分かるようになってきて、だんだん楽しくなってきたという状況です。
エンジニア観点で、クラシックのレコーディングの特徴について教えてください。
鈴木:クラシックはボーカルや特定の楽器にフォーカスして録音するのではなく、その空間を丸ごと録るという点が違っていますね。楽器一つ取ってみても、ピアノであれば上から出てくる音もあれば、下から出てくる音もあります。木管楽器であれば先端から出る音や、奏者の口元から出る音などがあります。クラシックのレコーディング時はそれら全てを楽器の音として録音する点がジャズなどのレコーディングとは異なります。
今回、『ベスト・クラシック100極』の楽曲をWM1シリーズで試聴していただきましたが、ウォークマンで聴くクラシックの音はいかがでしたか?
鈴木:まずは高名なピアニスト、グレン・グールド『バッハ:ゴールドベルク変奏曲(81年ステレオ録音)』を試してほしいですね。私自身、何度もさまざまなマスター音源を聴いてきた音源であるということで、これを最初に聴いてみました。冒頭の静かな空間、おそらくホールではなくスタジオだと思うのですが、そこでグールドが少し声も出しながら最初の曲を弾き始めたところの空気感にかなりグッと来ました。音が滲まないというか、このクリアな感じは44.1kHzのクロックを載せている効果なのかもしれません。
このとき少し不思議だったのが、スタジオでマスター音源を聴いたときよりも心地よく感じたこと。あれ、こんなに良い音だったっけと思ってしまったほどです(笑)。これはぜひ、皆さんにも聴いてみていただきたいですね。
原賀:このアルバムはピアノ1台で全て演奏されているので、他の楽器の音がない分ピアノの単独の音だけがはっきり聴こえて、そして演奏者の息遣いまで聞き取ることができます。グールドは歌いながら弾くことでも有名なピアニストですけれども、その歌声の細かなニュアンスまで聴こえてくるのをWM1シリーズで感じ取ってください。
そして私からのもう一つのおすすめがドイツ出身の名指揮者、ブルーノ・ワルターによる『ブラームス:交響曲第4番&ハイドン変奏曲』。これ、もう1億回くらい聴いているのではないかというお気に入りのアルバムなんですけども(笑)、WM1シリーズで聴いた時、今まで聴こえていなかった音まで聴こえてきた感覚があって、今さらながらものすごく大きな気付きを得られました。
具体的にはどんな音が聞こえてきたんですか?
原賀:第一楽章の最後、全ての楽器がフォルテで力強く音を鳴らしているところで、ティンパニが4発「ミ、シ、ミ、シ」と叩くところがあるのですが、そこでティンパニの胴体から出ている倍音みたいな音が聴こえたんですね。これはちょっと驚きでしたね。初めてこの楽曲を聴いたかのような新鮮な感動がありました。
鈴木:何度も聴いた音源がそれまでと違っているという感覚は確かにありますね。私も、今回、一通り『ベスト・クラシック100極』の楽曲を聴かせていただいたんですが、古い年代のアルバムも全く古さを感じさせずに楽しめることにびっくりしました。
そのほか、お二人からおすすめの作品がありましたらぜひ。
原賀:ヤッシャ・ハイフェッツの『メンデルスゾーン&チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲』もぜひ聴いてみていただきたいですね。いわゆる「メンチャイ」の決定盤なのですが、ハイフェッツのきびきびとした運動性がより際立ち、WM1シリーズでこれを聴いたらますますハイフェッツが好きになりますよというくらい良かったです。
今回、アーティストの表現したい何かを引き出すことが重要だという話を何度もしていますが、まさにハイフェッツが表現しようとしている美学みたいなものを感じ取ることができるはず。指板をタップしている音とか、弓を返すときの速度感までしっかり再現されているので、本当にハイフェッツがそこいるような、人格まで感じられるような演奏再現になっています。
鈴木:大御所ヴァイオリニストならではの堂々とした感じ、その演奏と息遣いを感じていただきたいですね。そして、これもまた少し古い音源なのですが、WM1シリーズで聴くと、そんなことを全く感じさせないフレッシュな音で楽しめます。
その音源の「古さ」というのはどういった理由で生まれるのでしょうか?
鈴木:マイクなど機材の古さというのももちろんあるのですが、その時代ごとに音楽の録り方が変わっているというのが大きいですね。昔はアナログレコードやラジオ放送向けに録音することが多かったので、マイクをなるべく近いところに置くようにしていたのですが、デジタル技術の進歩と共に、1990年ごろからは空間を丸ごと取り込むような録音の仕方が主流になってきています。そうした時代の変化みたいなものをフレッシュな音で楽しめるのもWM1シリーズのような高音質プレーヤーの醍醐味ではないでしょうか。
ウォークマンなら
自宅から、
あのコンサートホールに
行ける
最後にここまで読んでくださった読者の皆さんにメッセージをお願いします。
鈴木:今回、WM1シリーズを試聴させていただき、これまで私がこだわってきたことがより伝わるものになっていたことにとても感動し、驚かされました。現場で音楽を録音し、音作りを行っている者としてこれほどうれしいことはありません。マスター音源に限りなく近い体験が味わえると思いますので、ここまでのお話で興味を持っていただけた方に、ぜひお試しいただきたいですね。
クラシックのレコーディングはホールなど、演奏されている場所の空気感を再現することが大事だと言いました。その点、WM1シリーズと『ベスト・クラシック100極』の組み合わせなら、世界中の有名なコンサートホールの音を家にいながらにして感じることができます。行ったことのない、あるいはもう世の中に存在しないホールの音も楽しめるのです。その臨場感を皆さんにも体験してみてほしいですね。
Inside WALKMAN
WM1シリーズのCD音質が良い理由は?
WM1シリーズはオーディオ回路を動作させるための水晶発振器を2系統搭載。デジタルオーディオで一般的な48kHzに加え、CD音源再生に特化した44.1kHzのクロックに対応することで、CDからリッピングした44.1kHz/16bitのデータをよりクリアに再生。なお、水晶発振器は水晶片の電極を金蒸着で形成することで音の分離感と低音の質感の向上を実現。
単純に優劣を付けられるものではない、と。
鈴木:そうですね。今回、いろいろ試聴させていただいて、CD音源の再生以外の面でもこのパワー感が特に印象に残りました。良いスピーカーでもパワーのない(電源周りの弱い)アンプで鳴らすと力のない音になってしまうのですが、WM1シリーズはポータブル機にもかかわらず、すごく力のあるサウンドを奏でてくれます。これはよほど良い電源を乗せているんでしょうね。
WM1シリーズの電源へのこだわり
高音質を支える電源周りを徹底的に作り込んでいることもWM1シリーズのこだわり。バッテリーと基板を繋ぐケーブルにOFC(無酸素銅)を採用したほか、本機のためにチューニングされたFTCAP(高分子コンデンサー)や、大容量・高効率の脚付きコンデンサーを搭載。ポータブルプレーヤーで一般的な表面実装タイプのコンデンサーとは比べものにならない大きさのコンデンサーを搭載したことで力強いサウンド再生を実現。
『NW-WM1ZM2』と『NW-WM1AM2』の違いについてはどのように感じられましたか?
鈴木:最初は『NW-WM1ZM2』の方から試聴させていただきました。さすがは上位モデルというだけあって、音の空気感がしっかり出ていて、かつエッジ感もクリアに感じられる仕上がりになっています。クリアというと硬い感じに思われてしまうかもしれませんが、ソフトな部分はしっかりと柔らかく感じられており、極めて完成度の高い音楽プレーヤーだと感じました。
『NW-WM1ZM2』のアドバンテージは?
WM1シリーズ上位モデル『NW-WM1ZM2』だけのプレミアムが、純度99.99%の無酸素銅シャーシ(『NW-WM1AM2』はアルミシャーシ)。高密度でずしりと重いボディのおかげで、伸びのある高音、クリアで力強い低音の再生を実現。また、アンプとヘッドホンジャックを繋ぐ内部配線をKIMBER KABLE(R)社との協力によって開発された4芯編み構造のオーバーバンド用大口径ケーブルにすることで残響音や余韻の再現性をより一層高めることに成功。
鈴木:『NW-WM1AM2』の方は、厳密に言うと若干、広がり感の面で上位モデルに及ばないところはあるものの、上手にまとめられており、パワー感もしっかりあります。個々の楽器の力強さなどもしっかり楽しめました。交互に聴いていて、あれ、いまどっちを聴いていたんだっけと思ってしまうこともあったくらいで、劣った感じは全くしませんでしたね。優劣と言うより、キャラクターが違うと言った方が正しく、どちらもアーティストが伝えたいことがしっかりと伝わってくる音質に仕上がっているのではないでしょうか。
この試聴ではヘッドホンに、ソニー最高峰の技術を注ぎ込んだフラッグシップモデル『MDR-Z1R』を使っていただきました。ぜひ、その感想も聞かせてください。
鈴木:見た目はものすごく大きくて重そうなのですが、実際に装着してみると着け心地がすごく良くて、重さも全く感じないことに驚かされました。もちろん音の満足感も高く、特に空間表現力が素晴らしいですね。先ほども話しましたが、耳の中ではなく、まるでスピーカーのように少し離れたところから鳴っているように感じられ、音の繊細さやそれによって表現されるアーティストの思いなどを聴き取りやすくなっています。WM1シリーズのサウンドをしっかりと表現してくれる、素晴らしいヘッドホンだと思います。
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ジャズ、クラシック音源を
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