WM1Z/WM1A Project Member’s Voice 目指したのは、アーティストの想いまで伝わってくる高音質
ZXシリーズを超える、ウォークマンの新たなフラッグシップとして誕生した「WM1シリーズ」。理想のポータブルオーディオを追求し、制約のない環境で一から作り上げた開発メンバーに、フルデジタルアンプへの強い想いやチャレンジングな筐体設計の内幕、そしてエンジニアとしての細部にわたるこだわりを聞いた。
「S-Master HX」を一新。微小音を忠実に再現する、唯一無二の心臓部
佐藤 朝明[プロジェクトリーダー]
今回の大きな目玉は、「S-Master HX」を一新したことです。ソニーが自前でウォークマン専用の半導体(CXD3778GF)を開発したこの新しいフルデジタルアンプの存在が、ZXシリーズから大幅にジャンプアップできた最大の要因と言えます。具体的にはバランス出力が実現し、DSDネイティブ再生(*)は最大11.2MHzまで、リニアPCM再生も最大384kHz/32bitまで対応できるようになりました。
* バランス接続時のみ
佐藤 朝明[プロジェクトリーダー]
我々は、フルデジタルアンプ「S-Master」でないと聴こえない音が存在すると思っています。そして、ポータブルオーディオをここまでハイレベルな音質のフルデジタルアンプで作れるメーカーは、おそらくソニーだけだと自負しています。
「S-Master」は、負帰還を使っていない無帰還アンプであることが大きな特徴で、この方式により音源に入っている非常にかすかな音も、他の音に埋もれることなく忠実に再現することができるのです。要するに、音源に入っているアーティストが伝えたい音を……それがどんなに小さな音でも忠実に再現できる性能が最も重要だと捉えているので、我々はフルデジタルアンプにこだわっています。たまに、「ウォークマンがデジタルアンプを採用しているのはコストダウンや省電力のためなのでは?」と言われることがあるんですが、それは誤解で、ウォークマンのフルデジタルアンプは、我々がウォークマンで目指す音質のために試行錯誤を繰り返して開発しているデバイスです。
もしコストを考慮していたら汎用のアンプデバイスを使っています(笑)。
佐藤 朝明[プロジェクトリーダー]
ハイエンドなポータブルオーディオの世界では、「デュアルDAC」がバランス出力のキーワードになっていると思うんです。ではなぜデュアルDACが必要かというと、普通はアナログアンプを使っているのでDACを2つ載せて、それぞれを物理的かつ電気的に離した回路設計を行わないと、LチャンネルとRチャンネルのクロストーク(左右の信号の混信)が発生してしまうからなのです。
その点、フルデジタルアンプでのバランス出力というのは全く混ざりようがない仕様なので、強気な発言をさせてもらえれば、アナログアンプを使っているデュアルDACの世界観とは次元が違うと考えています。
佐藤 浩朗[音質設計]
DACとアナログアンプを用いた回路だと、基板上にLチャンネルとRチャンネルの回路やアナログ信号が隣り合わせに配置される状況が少なからず存在してしまうと思います。それに対して、フルデジタルアンプの「S-Master」ならヘッドホン出力直前までデジタル信号のままなので、クロストークの発生を極限まで低減できるというわけです。
佐藤 朝明[プロジェクトリーダー]
そうですね。今回は半導体レベルから作り直しているので、その半導体の内部構造の進化によって出力を上げることに成功しました。最終的にアンバランス出力で60mW+60mW(16Ω)、バランス出力では250mW+250mW(16Ω)の高出力を実現したので、バランス接続をしてもらえればインピーダンスの高いヘッドホンも単独でドライブできるようになりました。
佐藤 朝明[プロジェクトリーダー]
現在、ポータブルオーディオ界ではヘッドホンジャックの仕様がバラバラになってしまっていて……実際に4種類ほどが乱立している状態です。近頃はΦ2.5mmという仕様が増えてきていますが、ソニーはポータブルヘッドホンアンプのPHA-3でΦ3.5mm×2を採用しています。そのΦ3.5mm×2のまま進めるのか他の方式を取り入れるのかについては、非常に重要なジャッジになるので社内の関係者で何度も議論を重ねました。
佐藤 朝明[プロジェクトリーダー]
ちょうどその時、JEITAが新しい規格をまとめているという情報が入っていたのと、あるパートナーさんが新規格に準拠したデバイスを開発中との話も聞いていたので、そのΦ4.4mmヘッドホンジャックの試作品をZX2に搭載して実際に聴いてみたのです。
そうしたら、ジャックとプラグの違いだけで音の透明度や伸びがここまで変わるのか!というほどの驚きの結果が出まして、その揺るぎない事実は大きな決め手になりましたね。加えて、業界標準化の動向に沿った方がお客さまの利便性にもつながるという点もふまえて、Φ4.4mmを採用する方向に話がまとまりました。
石崎 信之[メカ設計]
既存のバランス接続対応プラグに比べて機械強度に優れているとともに、断面積が十分取れるため抵抗値が低く抑えられます。細いタイプのプラグでたまに見受けられる、こじりが原因で差し込んだプラグの一部がジャックの中に残ってしまうような事故も防げますし、Φ3.5mm×2 と違ってL型プラグを作れるところもメリットですね。
佐藤 朝明[プロジェクトリーダー]
ひとつ重要なポイントなのですが、Φ4.4mmの新規格に準拠するだけでは、実は音質が良くなるわけではないという事をお伝えしておきたいです。さきほど少し触れましたが、今回我々が採用したヘッドホンジャックは日本ディックスというパートナーさんが開発した「Pentaconn」(*)という部品でして、規格そのものではなく、この特別なジャック自体が違いを生み出しているのです。
* “Pentaconn”は株式会社日本ディックスの登録商標です
佐藤 朝明[プロジェクトリーダー]
ひとつ裏話をしますと、我々がZXシリーズ導入以来検討してきたジャックに対する改善案を、この「Pentaconn」にいくつか反映してもらっているんです。
ですから最初の試作品のジャックとプラグにはまだそういった要望が反映されていなくて、実際にWM1シリーズの開発が進んでいく中で音質原理試作に搭載して試聴しながら、このジャック自身もどんどんレベルアップしてもらった感じです。
例えば、ジャックの端子に特殊銅合金を使ってもらったり、金メッキの下地メッキ用に非磁性体の材料を検討してもらうなど、日本ディックスさんに仕様違いで端子を数種類試作していただき、ソニーでも音の確認をしながら最終仕様を決めていきました。
佐藤 朝明[プロジェクトリーダー]
アンプからヘッドホン出力につながるオーディオ信号の経路では、全ての箇所について数mΩというレベルで低抵抗化の検討をしているのですが、このジャックの特徴である1端子2接点という仕様も、「より低抵抗で、より安定した接続を実現したい」という我々の要望にとてもマッチしています。
吉岡 克真[電気設計]
一般的なΦ3.5mm仕様の場合、プラグ側の3端子(L+/R+/GND)に対してジャック側にも1個ずつしか接点がないのが普通ですが、「Pentaconn」には各端子(L+/L-/R+/R-)に対して2個ずつ接点があります。ジャック側の接点がコの字型になっていて、その両側がプラグの各端子と当たるというわけです。
佐藤 朝明[プロジェクトリーダー]
2接点あるので、ジャックをこじったりしても片方が無事ならば接触不良にならずに済みますし、接触抵抗を低減することにもつながるので音質にも効いてきます。この構造は、通常のポータブルオーディオに使われるような小型化を意識したジャックにはみられない優れた特徴だと思います。
ウォークマンWM1シリーズ
NW-WM1Z / WM1A
「音」に込められた想いまで、耳元へ