設計から製造まで
一丸となって臨んだ
「Airpeak S1」のものづくり
多くの人を驚かせたソニー初の空撮用ドローン「Airpeak S1」のかたち。この形状がどのようにして生み出されていったのか、そしてそれをどのように量産していったのか。その実現には設計、デザインから製造の現場までが、お互いの領域を超えて協力していく必要があったと言います。
今回の開発者インタビューは、前半をソニ―グループ株式会社の設計・デザイン部門(所在地:東京都)にて、後半を量産化を実現したソニーグローバルマニュファクチャリング&オペレーションズ株式会社の生産設計部門(所在地:静岡県)で実施。それぞれのご担当者にお話を伺いました。
佐藤まず、一口に「ドローン」と言っても、FPV(First Person View)ドローンのようなものから、シネマ向けのハイエンドモデルまで、たくさんの種類があります。今回、我々が参入したのは、一般的には中型クラスに位置付けられるグレードのもの。ソニーにはフルサイズミラーレス一眼カメラα™ (Alpha™)がありますから、それをジンバルに搭載して、全方位を自在に撮影できるものを作ろうという方針がありました。
石津デザイナーとしては、今回、ソニー初のドローンということで、まだ姿形もないところから製品の姿をイメージしていくためのサポート、そこから浮き彫りになっていく設計的課題を汲み取りつつ形状に落とし込んでいくこと、目標としている性能を発揮できるようなデザインを作っていくというところが課題でした。
また、ソニーがドローンを作るというのはかなり話題性もありますから、ソニーらしさをしっかりドローンに打ち出していくことも目指しています。その上で初号機として、今後の発展のコアになるものを構築したいと考え、機体、送信機をデザインしています。
佐藤私が「Airpeak S1」の開発に参加したのは、プロジェクトが始まって1年ほどたったころ。実はその時点でプロトタイプのようなものができあがっていました。今とはかなり形状の異なるものです。ところが実際にテストしてみると、形状的に振動の影響が大きかったり、重量が重すぎて飛行時間が取れないなど、さまざまな問題が浮き彫りになってきました。
佐藤いえ。結局、そのプロトタイプは破棄することになりました。当時の設計をどう改善しても我々が目指すところにはたどり着けなさそうだと考えたためです。そこで改めて、どういう形状のものが相応しいかをゼロベースで再検討し、結論としては、要素を中央に球状に固めていくかたちが適切だろうというところに行き着きました。そうした方が、旋回したり姿勢を変えた時の影響が小さくなり、滑らかな飛行を実現することで目指す飛行性能に近づけるだろうということですね。その決定をしたのが発売の約2年前。「Airpeak S1」の開発は、実質的にそこからリスタートしたということになります。
石津実はそのタイミングでデザインの方向性も大きく変わっています。それまではボディ全体をカウルで覆うなど、ややコンシューマー的な視点でのかっこよさみたいなものを採り入れたいと考えていたのですが、「Airpeak S1」が投入される市場は見た目よりも、突き詰めた飛行性能が求められる世界。「一体感のある美しくダイナミックなデザイン」にするのではなく、とにかく「1gでも軽く」したい、それが“正”の世界なんです。そこで以降は、そうした無骨さを逆にかっこいいと思えるようなデザインにしようと考え、エンジニアと1つひとつのパーツの形状を吟味し、ドローンとしての本質を研ぎ澄ませるという方向にシフトしていきました。
なお、我々はこの方針を「A peak of Integrity 〜 機能を追求することで浮かび上がる本質」と定義し、プロダクト、UI/UX、コミュニケーション、3つのデザイン領域に通底するコンセプトとしています。
石津大きなところではバッテリーの位置ですね。当初は電池を下に抱えるように持たせる構造を考えていたのですが、それだと重心が下がりすぎて旋回時に振られてしまうから本体の一番上に置いてくれ、と。さすがにそのまま置くとあまりに格好が悪いので、最低限のカウルで覆わせてもらいました。ただ、こうすることで防滴性が高まりますし、カウル部分にGPS/GNSSのアンテナや上方赤外線測距センサーを配置することができたので、決して無駄な装飾にはなっていません。
佐藤元の下に抱える構造だとバッテリーを取り外す際に持ちにくく、誤って落としてしまうリスクがあったので、それを軽減したい意図もありました。
石津ちなみにGNSSアンテナと上方赤外線測距センサーの基板と配線は、2つのバッテリーパックを並べた所にできる隙間に配置しています。バッテリー内部のセルをミニマム覆った形が機体デザインとの調和を図っているんです。
石津それ以外ですと、本体から飛び出している前後のステレオカメラやFPVジンバルカメラの配置決定も大変でした。原則を言えば、これらも他の要素と同様、本体中央部に寄せなければならないのですが、それだとカメラの画角にプロペラが被ってしまうんです。ですので、少し外に出してやらないといけません。位置関係をミリ単位で調整、試行錯誤し、現在の配置に決まりました。
佐藤実際にはさらにジンバルに吊られたカメラの画角にも入らないようにせねばなりませんから、この調整には本当に苦労しましたね。また、結果として外部に大きくせり出すことになったステレオカメラなどをしっかり支えるアームも、強度を保ちつつ少しでも細く、軽くするためにさまざまな工夫を施しています。具体的には橋などに使われているトラス構造などをイメージして3本の細い棒で支えられるようにしました。
石津少しでも軽くするためにマグネシウムや樹脂、カーボンなど、適材適所でさまざまな素材を組み合わせていくというのも、他の製品ではなかなかできない面白い取り組みでした。軽量化を突き詰めていく中で出てくる本質感のようなものがあるんですよね。一見複雑に見えるけど、品位を感じられる、みたいな。
石津全ての場所がそうだと言いたいのですが(笑)、そうですね……ランディングギアの2本のパイプをT字状に繋げるパーツも地味にこだわりました。普通にやるとホームセンターにあるジョイントパーツみたいになってしまって、手作り感が出てしまうんです。そこで接合部分にフランジを付けることで強度を高めつつ、品位感も出せたんじゃないかなって思っています。
佐藤そのフランジを少し斜めに傾けているのもポイントです。こうすることで、普通にフランジを付けるよりもさらに強度を高め、着陸時の衝撃をしっかりと受け止められるようになるんですよ。実は当初、この部分は強度を高めるためにアルミ素材を利用していたのですが、グラム単位で重量を落としていきたいという中で樹脂にすることになり、それでも強度を保つためにこうした工夫をしています。
佐藤いえ、実は強度的にはあえて、アルミで作った場合よりも落としています。というのもここが強すぎると、何らかのトラブルで「Airpeak S1」が落下した時にランディングギアの根本のくびれの部分にダメージが行ってしまい、最悪、内部のアクチュエータのブロックごとダメになってしまう恐れがあるためです。
佐藤この部分は着脱交換が容易なので、総合的に考えてそのような判断をしました。なお、ランディングギアの脚にはそれ以外にもいろいろな工夫があって……たとえば、この脚の細さにはかなりこだわりましたね。これも他の工夫と同様、全体的な重量を少しでも軽くするためだったり、左右のステレオカメラのセンシングの邪魔をしないようにするためなのですが、それ以外にも、飛行時に極力小さなトルクで持ち上げられるようにすることで、アクチュエータを小型にしたいという狙いがありました。
さらに、大きなジンバルとカメラを吊した状態でもしっかり立てる長い足を搭載しつつ、搬送時には飛行機などにも積み込みやすいサイズになるよう、分割・着脱できるような構造にしています。
石津あと、本当に細かい話になってしまうんですが、プロペラ基部に内蔵されているフライトステータスLED周りもかなり作り込んでいます。このLEDは飛行中でもきちんと色が見えるように輝度が高くなければいけません。そのためにはLEDを覆うカバーを透明か、乳白色にするのがベストなのですが、「Airpeak S1」の黒いボディでここだけ白いのは違和感がありますし、透明にすると基板が丸見えになってしまってみっともないですよね。そこで今回は、透明なLEDカバーの内側に刻み込むパターンを徹底的に作り込み、輝度を落とさず、内部を見えにくくしています。
佐藤私たちはドローン市場に後発で入っていくので、すでにドローンを活用されているお客さまにも手に取っていただけるよう、既存のものからいたずらに乖離しないようにしようということをまず意識しました。できるだけシンプルに作っていこう、と。
ただ、その一方で、できるだけ操作性などの使い勝手、持ち心地にはこだわりたいところもありました。あとはスマートフォン、タブレットどちらを装着してもストレスなく使えることも意識しています。
石津デザイナーとしてもシンプルに汎用性のあるものにすることを心がけています。今後、ドローンが空撮だけではなく他の用途にも広がっていくこと、空撮にしてもいろいろな用途があるので、どのようなケースでもドローンパイロットがきちんと操縦しやすい基本を押さえた、万人の手に合うようなデザインを追求しました。
佐藤本体がそうであったよう、ドローンの送信機に関しても初めての挑戦ですから、まずはプロのドローンパイロットがどういった送信機を求めているのかを知るところから始めました。
佐藤まずはグリップですね。当然、ユーザーの手の大きさは人それぞれですし持ち方も違います。一般的な左右から抱えるように持って親指でスティックを操作するレギュラー持ちの人もいれば、スティックを親指と人差し指で摘まむように操作するユーロスタイルと呼ばれる持ち方をする人もいます。この際、どこに力が入っていて、どこが脱力しているのかを見極めないと良いかたちにはできないということは当初からわかっていました。そこで国内はもちろん、海外の方々も含め、多くのドローンパイロットの皆さまにインタビューさせていただいたり、実際に操作しているところを見せてもらい、そうした手の使い方を探っていきました。
佐藤たくさんの方からお話をお伺いしたのですが、共通していたのは皆さま、とても繊細な操作をするので「力まずに持ちたい」ということでした。特にビデオグラファーの方々はスティックを本当にじわあああっっと動かすんですよね。ですので、送信機をしっかり固定しつつ、スティックを操作する指はフリーに動かしたいという要望を多くいただきました。そこでこの送信機では、中指から小指までの3本指でしっかり送信機を固定できるグリップ形状を追求しています。
ちなみに送信機のスティック部分については、ラジコン業界などで大きな実績を築いているフタバ(双葉電子工業株式会社)さんのものを採用させていただいているのですが、同時に提供していただいた知見やアドバイスも送信機の設計に役立っています。
石津インタビューでは本当に多くの気付きがありましたね。たとえば送信機の横幅についてのお話がとても印象に残っています。ドローンの世界では伝統的な箱状の送信機が業界標準となっていた印象ですが、その横幅が当初考えていた以上に重要でした。横幅が狭すぎるとスティック操作が不安定になり、逆に広すぎると力が入らないんですね。ですので、本体は削りに削って作り込んで行ったのに対し、送信機は操作感のためにあえて大きくするということをやっています。
石津そうなんです。あと、細かなところでは角部の形状ですね。全体的に丸っこい形状なのですが、親指の付け根が触れる送信機両端部分にあえて直線的なエッジを残しています。こうすることで操作時に自然と送信機の水平面を把握することができ、スティック操作を安定して行えるようになるんです。
石津今回の送信機では、背面グリップ部の指がしっかり吸い付くようなエルゴノミクス的な考え方と、今お話しした、あえてそれをやりすぎない部分のバランスを取っていくというところにとても気を使いました。
これまで箱形の送信機を使ってきた方々にとって、エルゴノミクス的な形状はともすると拠り所のない、不安な形状だと思われがちなんです。そこをインタビューで事前に知ることができたのは本当に良かったですね。結果として、エルゴノミクスを活かした疲れにくい形状と、プロが使っても違和感のない形状を両立できたのではないかと考えています。
佐藤タブレットやスマートフォンを装着した時でも重量バランスが崩れないようにさまざまな工夫をしています。タブレットは最大で11型のものを装着できるのですが、これによって重心が奥に行きすぎてしまうと、どうしてもグリップ部分を強く握らなければならず、安定した操作がしにくくなってしまいます。
そこでこの送信機では、内部のレイアウトを工夫し、最も重いバッテリーを手前側に寄せた上で、電気設計のメンバーと相談して、バッテリーを2つに分割。それぞれ送信機を握るグリップのあたりに配置することで、重いタブレットを装着しても安定して持てるようにしました。
石津タブレット周りで言うと、アプリの操作系なども吟味して、送信機側となるべく考え方を揃えるようにしています。右側にはカメラ系の、左側には機体の操作系を集めるといった具合ですね。そういった細かい工夫を本当にたくさん盛り込んでいるんですよ。
赤尾おっしゃる通り、ドローンのように自由に移動する製品は、これまでのソニー製品にはほとんど存在しませんでした。しかも空を飛ぶということで、安全性も含めて、どういった製造工程が求められるのかを検討するところから始めています。
赤尾大きなところでは、本体のモーターベースとプロペラを繋ぐアームの接合部分を高精度に接着せねばならないところが難しかったですね。
垣内モーターベースとプロペラ基部はマグネシウムダイキャストで、パイプはCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics/炭素繊維強化プラスチック)で作られており、これをしっかりと接着せねばならないのですが、このつなぎ目の部分に段差がないのが大きな問題でした。
垣内このような形状を実現するにはCFRPのパイプにマグネシウムダイキャストの芯を差し込んで接着する必要があるのですが、その場合、どうしてもパイプ端面が露出してしまったり、接着剤がはみ出しやすくなってしまいます。
垣内その通りです。ただ、そうすると大きな段差ができてしまい、せっかくの美しいシルエットが損なわれてしまいます。そこで今回は、この構造を実現するため、どのように接着剤を塗布していくかというところから検討していきました。
垣内何度か試作して適切な塗布量を算出した上で、パイプの内側に接着剤を特殊な形状に塗っていくということをやっています。そのためには接着剤を塗布するロボットのニードルの高さや塗布していくスピードなどをきちんと調整しなければなりません。
またそうして接着剤を塗布したパイプ側に正しくモーターベース側に設けられた芯を挿入できるよう、治具(組み立て時などに部品の位置を正しく配置、誘導するための器具)を専用に開発し、挿入時の芯ずれによる接着剤はみ出しを防止しています。
赤尾そうなんです。塗り方や、塗る量などによって接着の強度が大きく変わってきます。また、接着剤が乾くときに、わずかに接着部分が動いてしまうため、「Airpeak S1」のような高い精度が求められる製品ではこのあたりも計算する必要がありました。
垣内今回使った接着剤は熱硬化接着剤と言いまして、炉に入れて加熱することで接着されるのですが、この際、温度が上がったところで、一度、接着剤が軟化するんですね。そこで接着剤がはみ出してしまわないように、マグネシウムダイキャスト部品のほうに接着剤を留める溝を追加して対策しています。
また、この際、熱でCFRPがわずかに変形するのですが、それでもしっかり4つのモーターが高精度に配置されるよう専用の養生治具を作って管理しています。
垣内今、お話ししたことに関して言えば、社内には接着剤のエキスパートと呼ばれる人がおり、その知見やアイデアを提供してもらっています。先ほど赤尾から、ソニーとしてこういった動き回る製品を作った例があまりないというお話をさせていただきましたが、とは言え、これまでにさまざまな製品を生産してきたノウハウはしっかりありますから、我々の持つ強みはしっかり活かされていると考えています。
赤尾接着剤以外の部分では治具の作り込みについても同様のことが言えます。ソニーには治具を専門に開発する部隊がおり、その存在も「Airpeak S1」の速やかな量産ライン立ち上げに貢献しています。
赤尾「Airpeak S1」には自由な飛行を実現するためにたくさんのセンサーが積まれているのですが、これを組み立てプロセスの中でどのように効率的にキャリブレーションしていくかに苦心しました。キャリブレーションの仕方自体は設計チームの方で考えるのですが、それをどう生産ラインに組み込んでいくのか、というところですね。
赤尾まず、最初の壁となったのが、東京・品川の設計チームが考え、実際に彼らの手元で作ったステレオカメラの調整設備と、それを静岡工場で再現したもので同じ測定結果にならなかったことですね。設計チームと設備チームの協力も得て詳細な違いを調査し同じ調整精度が得られるように環境を整えるのに苦労しました。また、別のセンサー調整では必要な調整設備が大規模すぎて、量産エリアでは天井の高さなどの問題から再現しきれない部分がありました。そこで、検査チャートを配置した最小限の大きさの調整用ブースを特別に設計し、工場の限られたスペースでも入力検査データを安定させ、正確なキャリブレーションを行なえるようにしました。
赤尾IMU(Inertial Measurement Unit/慣性計測装置)とよばれる動きを検知するセンサーのキャリブレーションについて過去のノウハウを駆使しています。ソニーではかつて、「Smart Tennis Sensor」というテニスラケットのグリップに装着してスイングチェックをするためのデバイスを販売していたことがあるのですが、ここに小さなIMUが使われていたんですね。実はその量産ライン立ち上げを担当していたのが私で(笑)、その時に作りあげた設備をベースに、「Airpeak S1」のIMUをより効率的にキャリブレーションするための設備を開発しています。
とは言え、その規模は全く異なりますし、搭載されているIMUの数も3つに増えていますから簡単なことではありません。特にこだわったのがFPVカメラ、フライトコントローラー、ビジョンセンシングプロセッサそれぞれに繋がるIMUを同時に調整すること。こうすることで、個体差や調整設備ごとの誤差を吸収することができます。
赤尾はい。そのため、1台の設備で同時に3つのIMUを調整できるアルゴリズムを新規に開発したほか、設計、生産技術、製造技術のメンバーが一丸となって対応することで、何とかこれを実現することができました。ちなみにこのメンバーには同じく複数のIMUを搭載したエンタテインメントロボットの「aibo」に携わったメンバーもおり、そのノウハウもしっかりと活用されています。
あと、これは本当に細かいことなのですが、IMUの調整は振動が大敵。近くを作業者が通っただけでその微妙な振動の影響を受けてしまいます。しかしIMU専用に強固な防振構造を備えた設備を作るのは現実的ではありません。そこで、今回は簡易的な防振構造と、振動検知時には調整を一時停止する仕組みを調整アルゴリズムに組み込み、設備費を抑制するということもやっています。
赤尾やはりコロナ禍の影響は大きかったですね。従来は試作時にも設計メンバーが製造現場まで足を運び立ち会い確認しながら完成度を高めていくというやり方をしていたのですが、今回はそれができませんでした。
そこでやむなくリモート会議などの仕組みを使って、リアルタイムに設計メンバーに課題をフィードバックするというやり方を採用しました。
赤尾慣れないやり方でしたから、当初はトラブルもあったのですが、それまでメールでやっていたような画像の確認をリアルタイムに行えるようになるなど、逆にスピード感が高まるようなこともあったのではないかと考えています。
佐藤「Airpeak S1」は、我々が手がける初めてのドローンですから、本当に長く、多くの試行錯誤がありました。メカ設計としてはデザインや生産など多くのメンバーの要望を聞きつつ、こちらからの要望も伝え、密にコミュニケーションしながら作りあげていったという思いがありますね。インタビューにご協力いただいたプロユーザーの皆さまや、このプロジェクトに関わっていただいたパートナーの皆さまにも本当に感謝しております。
その上で、今回の製品は空撮を意識したものとなっていますが、ドローンの用途は幅広く、測量や点検、捜索や災害支援、物流支援、レーシング、ホビーなどいろいろな使われ方が想定されています。
「Airpeak S1」はプロフェッショナルサポーターを募らせていただいているように、お客様からのフィードバックを得るために市場導入に至った経緯もあります。ですので、まだまだ改善点はあると思っていますし、いろいろなご意見をいただき、知見を増やせればと思います。
今後は、我々がどういったソリューションを提案していくのか、メカ設計としてもそういったところをきちんと意識して、他の商品の開発にもチャレンジしていければと考えています。
石津ソニーが持つAIロボティクスの技術を活かした新しい事業の立ち上げの商品ということで、その大きな期待に応えつつ、今後の製品開発の礎になるような、ソニーの歴史に新たな1ページを刻むつもりで挑みました。また業界としても決して簡単な市場ではないので我々の強みと信頼性をしっかりとお客様に伝えるためのブランドを確立していくことが重要と考えています。今後も一貫した強いデザインを通してその一翼を担っていきたいと思っています。
赤尾正直に言うと、当初はソニーとして初挑戦となる“空を飛ぶもの”の量産が本当にできるのだろうかとやや不安に思っていました。空を飛ぶからには完全に安全なものを生産しなければいけませんから、設計要求である高精度な組立・調整を実現しつつ、設備投資や組立/調整時間を抑えながらも安全(品質)を保証する生産プロセスを構築する必要があります。
そこで今回は試作で問題点をあぶりだしその対策を順次導入しながらも、品質保証の観点で破綻が起きていないかを常に確認することを強く意識して量産へ繋げていきました。その成果もあって、現在は順調に生産ができています。今後もより数多くの「Airpeak S1」を世の中へ送り出し、「国産ドローンといえばソニー」と言われるようになればと思っていますし、その立ち上げに参画できた事を誇りに思っています。
垣内私も赤尾同様、ソニー初のドローン開発に携われたことをとても光栄に思っています。また、同じく実際に量産が始まるまでは、本当に製造できるのかドキドキしていたところもあります(笑)。新型コロナ禍なども全く想定していなかったので、それをどのように乗り越えていったかも含め、私のキャリアの中でも特に印象深い製品になりましたね。今、お客さまのお手元に製品が届き、それがとても好評だと聞いて胸をなで下ろしています。本当に素晴らしい製品に仕上がりましたので、ぜひ、この「Airpeak S1」をより多くの皆さまに手に取っていただきたいと考えております。