法人のお客様ドローン Airpeak Airpeakブランドページ Airpeak S1開発者インタビュー⑤ 「Airpeak S1」はハードウェアだけじゃない クラウドサービスと自動飛行で実現する空撮新体験

Airpeak S1 開発者インタビュー 第5回 クラウドと自動飛行編

「Airpeak S1」はハードウェアだけじゃない
クラウドサービスと自動飛行で実現する空撮新体験

機体と送信機、モバイルアプリ「Airpeak Flight」に、クラウドサービス「Airpeak Plus」、Webアプリ「Airpeak Base」を組み合わせることで、これまでのドローンでは生み出せなかった新たな価値を創出した「Airpeak S1」。ドローンを使った映像制作のワークフローを改革する可能性を秘めた自動飛行機能とはどのようなものなのか? そのソフトウェア、クラウドサービス開発に携わったメンバーに聞きました。

01

クラウドサービスが
「Airpeak」に新たな価値を創出する

まずは「Airpeak S1」リリースと同時にクラウドサービス「Airpeak Plus」と、Webアプリ「Airpeak Base」を用意した意図を聞かせてください。

ソニーグループ株式会社
AIロボティクスビジネスグループ 商品サービス企画部
玉川 準一朗

玉川ドローンは多くのセンシングデバイスや送信機から操作指示が入力され、それをフライトコントローラーやビジョンセンシングプロセッサ、アプリケーションプロセッサで複雑な演算をしていることをこれまでのインタビューでご紹介してきましたが、それらの膨大な飛行データを飛行ログというかたちで保存しています。それらをお客様のワークフローのなかでしっかりと活用し、新たな価値を提供していきたいというのがAirpeakの基本コンセプトです。そして、それは機体だけでは実現できません。そこで今回、「Airpeak S1」の発売と同時に、飛行ログを含むお客様のアカウントに紐づいた様々な情報を蓄積し、活用するためのクラウドサービス「Airpeak Plus」と、そのクラウドと紐づき、飛行ログの閲覧やミッションの編集を行うWebアプリ「Airpeak Base」を用意しました。

こうしたコンセプトはどういったところから着想されたのでしょうか?

玉川Airpeakを開発しているAIロボティクスビジネスグループは、エンターテインメントロボットのaiboを作っている部署でもあります。そして、aiboでは当初からクラウドとの連携をユーザー体験の核として打ち出し、好評を博しています。この技術は我々の組織としての強みであり、Airpeakも開発の初期からクラウドを核としたサービス提供を検討しました。

この点において、他社と比べた際のアドバンテージ、ソニーらしさはどんなところにあるとお考えですか?

ソニーグループ株式会社
AIロボティクスビジネスグループ ソフトウェア設計部
百々路 裕二郎

百々路機体から送信機、モバイルアプリ、Webアプリ、クラウドサービスまでを一気通貫で開発できるメーカーはそうそうないだろうと考えています。システム全体を自社開発したことで実現した機能として、映像制作のお客様に対して、取得した飛行ログをもとに、全く同じように飛行させる「再現飛行」をご提案しています。機体を飛行させてできた飛行ログを、モバイルアプリ経由でWebアプリにアップロードし、ミッションに変換して編集し、それを再びモバイルアプリに戻して飛行を再現させるといった一連の流れをシームレスに行えるようになりました。このソニー独自のユニークな機能については、後ほど詳しくお話させてください。

玉川なお、Airpeakを利用するには、お客様と機材、サービスを紐付けるアカウントが必要になるのですが、これについても「Airpeak S1」がメインターゲットとしている映像制作現場のお客様の実情に合わせた設計を行っています。

実情に合わせた設計とは?

玉川たとえば企業でドローンを購入して運用される場合、オペレーターが複数名いらっしゃったり、一人で複数のドローンを管理するという状況が想定できます。そこでまず我々は、複数のアカウントで1台の「Airpeak S1」を使用できるようにしました。機体を飛行させる際にはお客様が作成したアカウントを使用していただきます。その上で、それぞれの機体に蓄積される飛行ログに関しては、使用したアカウントしか閲覧できないようにしています。いつどこでどのように飛ばしたのかの履歴はお客様の貴重な情報ですから。ですので、ドローンを貸し借りしたり、将来的に他の方に譲渡した場合でも、そうした情報が外部に流出するといったことはありません。

ただし、その一方で、機体の安全管理に関わるログについてはアカウントを問わず共有されるようにしました。その機体が何時間、何回飛行したのかといった使用履歴は飛行の安全性にも関わる重要な指標ですので、車でいうところのオドメーターのように使用できるよう、特定のアカウントに紐付けず、機体にアクセスした全てのアカウントで確認できるようにしています。

こうした仕組みを作るに際し、どんな苦労があったのかも聞かせてください。

百々路Airpeakが使われる現場は必ずしもインターネットに繋げられる環境ではないため、オフライン環境でもきちんと使える仕組みをどのように構築するかに苦労しました。クラウドとの連携によって価値を生み出すことは大切ですが、インターネットに繋がる前提で作り込んでしまうとオフライン環境で全く使い物にならなくなってしまいます。そこで、重要な機能についてはモバイルアプリ単独でも使えるようにしつつ、インターネットに繋がる環境ではもっと便利になるような差異化要素も付け加えるかたちで作り込んで行きました。最終的には、オンライン、オフラインにバランス良く機能を配置し、それぞれが得意とする要素を盛り込んでいくことで、お客様のワークフローに貢献できるものになったと考えています。

02

映像制作現場のユーザーが
使いやすいUI/UXを追求した

ではここからはAirpeakのサービスについて、もう少し深掘りした話を聞かせてください。まずはクラウドサービス「Airpeak Plus」、Webアプリ「Airpeak Base」の概要からお願いします。

玉川「Airpeak Plus」は、機体、送信機、そしてモバイルアプリから得られる飛行履歴や操作履歴、各種設定などといった大量の飛行ログをアカウントに紐付けて蓄積できるクラウドサービスです。加入いただくことで単にデータをストレージできるだけではなく、「ジオフェンス」機能やデータのインポート・エクスポートなど、Airpeakをより便利に活用いただくことができます。

そうして蓄積した飛行ログとお客様のインターフェースとなるのが「Airpeak Base」です。「Airpeak Base」には大きく3つの機能があります。1つ目が、機体、送信機、そしてバッテリーといった機材を管理する「デバイス」、2つ目がドローンの飛行プランを作成する「プロジェクト」、3つ目が過去の飛行ログを閲覧する「ログブック」です。

これらのサービスはどのように使われるものなのでしょうか?

玉川お客様のワークフローは、プリフライト(飛行前)、フライト(飛行中)、ポストフライト(飛行後)の3つのステップに分けられるのですが、「Airpeak Base」はそのうち、プリフライト、ポストフライトの作業を担うものだと位置付けています。

なお、「Airpeak」というブランド名は「空(Air)」の「頂き(Peak)」からの造語ですが、「Airpeak Base」という名称には、お客様が空の頂きに向けて飛び立つためのベースキャンプ(Base Camp)であるという想いを込めています。登山においても、事前の準備や登頂するだけでなく、ベースキャンプに帰ってくるということが重要ですよね。

これら、Airpeakのサービスを開発するにあたって、どのようなこだわりが盛り込まれたのかについてお聞かせください。

石井最もこだわったのはUI/UXの部分です。「Airpeak Base」のメインの機能であるミッション(飛行ルートやカメラの挙動など、ドローンを自動で飛行させるためのプラン)作成では、Webブラウザ上の地図に飛行ルートを入力していくというUIを採用しているのですが、 UI/UXの専門家と共同で、プロトタイプのアプリで実際の使用感を確かめながら、何度もアップデートを繰り返して開発しました。

そのこだわりについてもう少し具体的に、詳しく教えてください。

石井「Airpeak S1」は映像制作向けのドローンですから、映像制作業界の方々が使いやすいよう、飛行ルート作成画面では、彼らが慣れ親しんでいる映像編集ソフトのようなUIを意識しました。

それはどういったものなのですか?

石井これまでの一般的なドローン向けミッション飛行作成画面では、 基本的に点と点を直線で結ぶようなかたちでしか飛行ルートを設定することができませんでした。それに対して「Airpeak Base」では、より滑らかな飛行を実現すべく、飛行ルートをベジェ曲線(ある2点間を結ぶなめらかな曲線を描くための手法のひとつ)で描けるようにしています。

タイムライン表示もベジェ曲線も映像編集ソフトでは一般的なもの。これなら、初めて使うという人でも心理的障壁が低くなりますし、すぐに使いこなせそうですね。

ソニーグループ株式会社
AIロボティクスビジネスグループ クラウドサービス開発部
石井 勇樹

石井飛行ルートの設定に関しては、ジンバルに取り付けられたカメラの向きを直観的にコントロールできるよう、カメラターゲットという機能も用意しました。これは、あらかじめ地図上に、 カメラターゲットという点を配置しておくことで、飛行ルート上を飛ぶ「Airpeak S1」に搭載されたカメラが自動的にその方向を向いて撮影し続けるというものです。

玉川なお、こうして作りあげた飛行ルートの設定を、外部の環境で利用できるデータ形式にエクスポートすることも可能です。たとえばそれを他社の3D地図ツールに読み込むことで、「Airpeak S1」が実際にどのように飛行し、どういった映像を撮影するのかをより直観的な3D映像で確認することができます。

こうした機能の開発についてどんな苦労があったのかも聞かせてください。

石井先ほど、玉川からAirpeakのオンライン連携において「My aibo」の影響があったという話がありました。実は私はその開発に携わっていたのですが、Web版「My aibo」がaibo側から得た情報を閲覧するためのビューアー機能が中心のWebアプリだったのに対し、「Airpeak Base」は飛行ルートを作って機体側に送る編集機能を中心としたWebアプリだったため、開発当初はその違いに苦労しました。特に、ミッションやジオフェンスの作成では、地図上に飛行ルートや領域を作成しますが、複数の領域が重なった場合の表現や領域の形状を判断してエラー表示するなど、それらのUI表現を実現するのは大変でしたね。

ただ、実際に「Airpeak Base」を使われているお客様から、ベジェ曲線を使った滑らかな飛行ルート作成などが非常に好評と聞いており、苦労した甲斐はあったなと喜んでいます。

03

それまで使われていなかった自動飛行を
"使える”ものへ

続いて、「Airpeak Base」のメイン機能とされている自動飛行について聞かせてください。

玉川ここまで、「Airpeak Base」で飛行プランを作り込んでいく部分のこだわりをいろいろお話させていただいたのですが、実際に映像制作現場でドローンを操縦するオペレーターの皆さんにヒアリングさせていただいたところ、実は、ほとんどのお客様がマニュアルで操作しており、自動で飛ばすような機能は使っていないことが分かりました。

従来の点と点を結ぶような飛行ルート設定では求める映像は撮影できませんし、撮影現場で監督からのリクエストにその場で対応したり、その都度、動きが異なる人間などを撮影する場合、あらかじめ撮影計画なんて立てられないんですよね。

なるほど。

玉川ただその一方で、自動飛行に対する潜在的なニーズが確実にあるということもわかってきました。現場では、さっき飛んだルートよりも少し高く飛んでほしい、もう一度撮り直したいから全く同じように飛んでほしいといった要望がよくあるそうなのですが、ドローンをマニュアルで全く同じように飛ばすのってとても難しいんですよ。ものすごい集中力が求められるので、あっと言う間に疲弊してしまうそうです。

そこでAirpeakでは、映像制作現場のオペレーターに使ってもらえる自動飛行を実現し、その負担を軽減してもらうことを目指して開発を始めました。それによって、オペレーターによりクリエイティブなところに集中していただきたい、と。

使ってもらえていないのであれば、使える機能を作ればいいということですね。

玉川その通りです。そこでまず用意したのが、「Airpeak Base」上でベジエ曲線によって飛行ルートをつくる「ミッション飛行」機能です。さらに前回の飛行ログをミッションに変換して、全く同じ飛行と撮影を再現する「再現飛行」機能をミッション飛行機能の一つとして持たせました。再現飛行のためのミッションはもちろん編集可能ですから、この部分だけさっきよりも高く飛ぶといった変更も容易です。また、ミッション飛行中にスティックを操作して微調整をかけたり、あるいは飛行ルートはそのままに、カメラ部分だけを操作するといったこともできるようにしています。

それは便利そうですね!

玉川なお、後者に関してはドローン撮影の省人化・低コスト化にも貢献します。これまでは複雑な撮影をする場合、操縦する人と撮影する人の2人態勢でドローンを操作していたのですが、Airpeakのミッション飛行を使えば、1度目の飛行でルートを確定させ、2度目の飛行で撮影するというやり方ができますから、2人分の作業を1人でこなせるようになるんですよ。

04

ただ同じように飛んだのでは、
再現飛行は実現できない

このミッション飛行機能 、技術的にはどんな難しさがあるのでしょうか?

小林マニュアル操作と全く同じルートをモバイルアプリに送信して飛行ルートを設定すること自体はさほど難しいことではありません。しかし、例えば再現飛行でログから作成したミッション飛行では、1度目と同じ飛行環境であるとは限りません。風の強さが全く同じということはまずありませんし、ルート上に障害物ができてしまったりということもあり得ます。

そこで、このミッション飛行機能では、我々AIロボティクスビジネスグループで培ってきた、自律移動ロボットの技術とノウハウを活かして、飛行条件が異なる環境下でもドローンが自律的に飛行をコントロールし、前回と同じルートをたどるようにしているほか、ルート上に障害物があった場合に手前で減速・停止する仕組みを作りあげました。

具体的にどんなことをやっているのかを教えてください。

ソニーグループ株式会社
AIロボティクスビジネスグループ ソフトウェア設計部
小林 大

小林aiboのような自律移動ロボットは、「認識」→「状況理解」→「行動計画」→「行動制御」という4象限のブロックを超高速に繰り返して移動を行います。もちろんAirpeakも同様で、内蔵されたさまざまなセンサーや、フライトコントローラー 、ビジョンセンシングプロセッサ、アプリケーションプロセッサをフル活用して、自律移動を実現しています。

その4つのブロックではどんなことをやっているのですか?

小林まず「認識」ブロックでは内蔵された各種センサーを使って周囲の情報を集めてきます。続く「状況理解」のブロックでは得た情報を元に、自分の周囲に何があるか、風で機体がどれくらい押されているかなどを把握し、それが1秒後、2秒後にどうなっているのかを推測します。それを踏まえた上で、あらかじめ入力されているミッションや、送信機からの命令なども踏まえて次にどう動くのかを検討するのが「行動計画」、そして「行動制御」で実際にそのように動かします。

こういった、単純な即応処理の層の上に、高度で時間がかかる「思考」の層を重ねていく手法をロボット工学ではサブサンプションアーキテクチャと呼びます。人間の行動が脊髄反射から大脳による思考まで階層的に構成されているのと似ていますね。

「Airpeak S1」では、ノウハウがあるとは言え、この仕組みをゼロから作りあげたのですか?

小林いいえ。「Airpeak S1」の自動飛行機能は、aiboの制御にも使われているソニーグループのR&Dセンターが開発した、ロボットソフトウェア開発プラットフォームの一部と、同じくaiboで使われているROS(Robot Operating System)というオープンソースソフトウェアを活用することで実現しています。実際、「Airpeak S1」の障害物回避機能は、aiboの障害物回避歩行のいわば3D版とでも言うべきもの。そのため、新規開発にも関わらず、短期間で高性能なものを作りあげることができました。

なお、自動飛行機能の開発に際してはコンピューターを使ったシミュレーターシステムを構築し、多用しています。実際の製品に乗るのと同じプログラムを使って仮想の「Airpeak S1」を制御し、さまざまなテストを繰り返しました。完成するまで、何千回、何万回と墜落させましたね。現実で再現が難しい極めてレアな条件下のバグなどはシミュレーターでなければ見つけられなかったと思います。

すると実機は壊さずに済んだのですね?

小林いや、実機もほんの少しだけ壊しています……。ただ、その結果、お客様の「Airpeak S1」が飛行制御のバグで壊れてしまうようなケースを大きく低減できたと考えることにしています。

この仕組みを作りあげていく上で難しかったのはどんなところですか?

小林機体の周囲で何が起こっているのかをセンサーで「認識」するのですが、逆光など周辺環境によってセンサーから得られる情報が必ずしも正しくないことがあります。そのため「状況理解」のブロックでは複数センサーから得られた情報をつき合わせて、情報の信頼性を審査し利用します。 信頼できない情報を送ってくるセンサーに関してはシステム的に切り離したり、リセットしたりということをやることもあります。いくつかのセンサー情報が信頼できないというのは屋内・屋外を縦横無尽に三次元的に移動するドローンでは特に顕著で、そこに難しさがありましたね。

その上で「Airpeak S1」は映像制作のためのドローンですから、正しい飛行ルートに乗せるための細かな挙動調整によってカメラが振られて映像が揺れてしまうようなことがあってはいけません。こまめに飛行を補正しつつ、がたつかない、スムーズなミッション飛行を実現するのも大変でした。 

『「Airpeak S1」は映像制作のためのドローン』というフレーズがここまで何度も出てきました。やはりそこが今回最も大切なところだったのですね。

小林はい。ソニーとしてそこには徹底的にこだわっています。ちなみに、今回の開発で私が学んだのは、ドローンの飛行に「エレガントさ」が求められているということ。ちょっとした切り返し時の挙動であったり、着陸時にランディングギアを開くときの機体減速であったり、そういうところの動きの安心感を大切にしているお客様が想像以上に多いということを強く感じました。正直に言うと、当初の私はカメラの揺れは気にしていましたが、見た目の安心感まではあまり重視していなかったのですが、メンバーの1人がものすごいこだわりをもって「Airpeak S1」の飛行を調整してくれました。結果として、「Airpeak S1」は、お客様に「品のある動きだね」と褒めていただけるような飛行を実現できていますので、ぜひ、そういったところもご覧いただければと思います。

05

現場のプロフェッショナルが
Airpeakの自動飛行機能を絶賛!

こうして作りあげた「Airpeak S1」の自動飛行機能ですが、実際に使われているお客様からはどういった声が届いていますか?

小林昨年、2021年6月に初お披露目させていただいた際に、「Airpeak S1」の売りのひとつとしてミッション飛行・再現飛行を紹介したところ、 ものすごく好意的な反応をいただくことができました。「まさにこういう機能が欲しかった!」と、想像していた以上の好反応でとても驚かされました。

やはり潜在的なニーズがあったということですね。

小林とは言え、その時はコンセプトをお伝えしただけですから、実際に試していただいたら期待外れだったということも起こり得ます。でも、その後に行った体験会などで実際にミッション飛行を試していただいたお客様からも好意的なコメントをいただくことができ、そこで初めて自信を持つことができました。

発売後の反応はいかがでしたか?

小林まさに先日、実際に再現飛行機能を使ったというお客様の声をいただきました。その撮影は、リアルタイムの一発勝負で失敗が許されないものだったそうなのですが、テストで飛ばした飛行ルートをもとにクライアントと細部を詰め、本番はその再現飛行で見事、撮影に成功したのだとか。我々が狙っているところにきちんと届いていることがわかり胸をなで下ろしました。うれしかったですね。

ただ、その一方で、これまでお客様が作りあげてきたワークフローを変えることの難しさも痛感しています。いままでマニュアル飛行で頑張ってきた部分を、すぐに置き換えるというのは簡単なことではありません。今後、さらに機能をブラッシュアップしつつ、まずはこの機能の良さを知っていただくところから力を入れていかねばと考えています。

今後、どんな機能のブラッシュアップを考えているのですか?

玉川いま、ひとつ仕込んでいるのが「ダイレクト再現飛行」というものです。現在の再現飛行機能は「Airpeak Base」を使わないと実現できないのですが、撮影場所によってはオンライン環境を用意できないということも起こり得ます。 そこで、「ダイレクト再現飛行」では、「Airpeak Base」を使わずとも、モバイルアプリ単独で直前の飛行ルートを再現できるようにしています。

小林あくまで簡易的なもので、「Airpeak Base」で可能なルートの編集などには対応していないのですが、現地のインターネット接続状況に応じて使い分けていただけるよう、そう遠くないうちに提案させていただく予定です。

06

ドローンを安全に飛ばすための
機能にも妥協なし

「Airpeak S1」は安全に飛ばすための「自動自律飛行」のほか、オンラインサービス連携による「安全管理」を実現しているというお話ですが、これはいったいどのようなものなのでしょうか?

百々路まず自律飛行に関わる部分で言うと、昨今のドローンで標準機能となっている、バッテリー残量低下時や、機体と送信機の通信切れの際のRTH(Return to home:離陸地点まで自動的に機体が戻ってくる機能)については必須の機能として搭載しています。

その上で、飛行前あるいは飛行中に逐一機体内部の各種デバイスやシステムの状況を自己診断する機能も搭載しました。緊急性の高い異常を機体のLED、送信機のアラート音、Airpeak Flightでの通知で知らせるほか、エラー内容を「Airpeak Base」のデバイス管理やログブックで確認できるようにしています。

自己診断機能では具体的にどんなことをやっているのですか?

小林「Airpeak S1」では、起動直後からずっとフライトコントローラーやビジョンセンシングプロセッサなどの各モジュールがそれぞれ異常診断をしつづけます。そしてそれをアプリケーションプロセッサ上で集約し、統計的な判断も付与して、機体が現在どういう状態なのかを地上でも飛行中でも、常に、リアルタイムに把握し続けます。先にお話しした異常時のRTH発動などもこの延長線上で行っているため、単にバッテリーや電波の状況だけで判断するのと比べ、より精度の高いコントロールが可能です。

飛行前に問題が検出された場合はどうなるのでしょうか?

小林飛行の安定性を阻害するような危険性を検出した場合、飛行できないようにロックがかかります。しかし、Airpeakはプロのお客様が使うものですから、飛行ができないということはビジネスの機会損失に直結してしまいます。そこで、たとえばランディングギアのモーターの不調や、一部センシングデバイスの不調などに関しては、「Airpeak Flight」上のメッセージにて起こりうるリスクを説明し、ご納得いただいた上で、その機能をオフにして飛ばせるようにもしています。もちろん、操縦には充分にご注意頂くことが前提となりますが。

  

プロのツールとして、そういった仕様も必要だということですね。

石井また、もう1つオンラインサービスを利用した「安全管理」という側面では、生産工程や飛行ログよりも詳細な飛行データが記録されているデバイスログを元にしたカスタマーサポートとの連携も行っています。工場で生産された「Airpeak S1」は、自動的にハードウェアIDが我々のデータベースに登録され、購入したお客さまがアクティベーションする際に、ユーザーと機体の紐付けがセキュアに行える仕組みになっています。

そうすることでユーザー側にはどんなメリットがあるのでしょうか?

石井前出の飛行ログとは別に、デバイスログというかたちでより詳細な機体のログ情報を保存しています。カスタマーサポートとの連携では、お客様からのお問い合わせ時に、「Airpeak Flight」からこのデバイスログをアップロードしていただくことで、不具合の原因を解析し、より適切な修理対応などを行えるようになります。

そのほか、Airpeakならではの安全管理にまつわる機能がありましたら教えてください。

玉川Airpeakでは、安全な飛行を実現するために、3つの飛行制限機能を提供しています。1つ目は「ジオフェンス」。「Airpeak Base」での飛行ルート作成時に、地図上に飛行禁止領域を定義して、その飛行禁止領域内には入らないように機体を制御するというものです。2つ目の「ユーザー設定飛行空域」は、機体の離陸ポイントを中心とした半径と高度以上の領域へは入らないように飛行するというもの。そして3つ目はUTM(Unmanned Aerial System Traffic Management/ドローン運航管理システム)への対応。日本や米国の法律で定められている飛行制限エリアに誤って侵入してしまわないよう情報をユーザーに伝えたり、飛行を制御する機能です。

小林ミッション飛行時にはぜひ、ジオフェンスをご利用頂きたいですね。自動飛行はGNSSに頼っているところがあるので、ビルの谷間などで測位結果が突然大きな誤差を持ってしまうと、ビルなどに衝突してしまうリスクが大きく高まります。この際、ジオフェンスが設定されていると、 どこかに飛んでいってしまったり、何かに衝突したりといった事故を減らすことができます。ちなみに、先ほど百々路からRTHの説明をさせていただきましたが、「Airpeak S1」のRTHは飛行禁止領域を避けて帰還する仕様になっています。これはあまり他社製品にはない仕組みで、実はこれも、aiboが障害物を避けて歩くのと同じソフトウェアを使っているんですよ。

01

Airpeakはこれからもさらに高く、
さらに広い世界へ飛んでいく

Airpeakの今後の進化の予定を聞かせてください。

百々路Airpeakのソフトウェア、オンラインサービスのアップデートを通じて、自律飛行の進化、オンラインサービス連携を継続的に提供していきます。「Airpeak S1」を発売したから進化が終わり、ではなく、aiboがそうであったように、お客様からのご要望や問題点のご指摘などを受けて、機能や体験を積極的に改善していくつもりです。

また、もう1つ大きな取り組みとして、「Airpeak S1」を映像制作以外の業界、具体的には測量や点検といった用途で使っていただくための対応も加速させていきます。

映像制作以外の用途に対応するための機能も追加していくということですね?

百々路はい。「Airpeak S1」では冒頭でお話ししたように、ベジェ曲線を使った滑らかな飛行ルートや柔軟なカメラワークを設定できることが大きな特長になっています。このミッション飛行の飛び方は実は測量などの産業用途のお客様と親和性も高そうであることが対話や実証実験などからわかりつつあるのですが、測量や点検でドローンを使う際には、従来の点と点を結ぶウェイポイント方式での自動飛行が前提でツールなどが組まれています。ほかにも映像制作とは異なる使い方をされている部分が多いので、それらをきちんと研究し、産業界のお客様、あるいはそれ以外のお客様にも幅広く「Airpeak S1」を使っていただけるようにしていく方向の開発も進めています。

社会インフラとしての活用範囲の広がり

そのほかに、いまお話しいただける今後のアップデート予定はありますか?

百々路今年、2022年6月の航空法改正後に日本国内でドローンを飛行させるために必要となる「リモートID」への対応を予定しています。こちらはファームウェアアップデートで既存のお客様にも提供いたします。

これからの機能向上、活躍分野拡大に期待しています。では最後に読者の皆さまに向けて、それぞれの担当分野からのメッセージをお願いします。

玉川「Airpeak Base」は、今、映像制作でドローンをお使いのお客様のワークフローに合わせて作ったというよりは、より快適に撮影できるようにしたい、より現場の負担を軽くしたいという、新しい使い方の提案へのチャレンジに重きを置いて開発に臨みました。そしてこの部分は、「Airpeak S1」が発売された後もどんどん進化させていきます。映像制作以外の分野に対しても、我々らしい、ワークフローを変えていくようなアプローチをしていきたいと考えておりますので、楽しみにしていてください!

百々路ソニーが作るということで多くの方々から注目していただいておりますが、ドローン業界において、ソニーはあくまでチャレンジャー。今後、皆さまが今お使いのドローンからAirpeakに乗り換えていただくということをやっていかねばなりません。そのためにも、お客様の声に真摯に耳を傾け、継続的なアップデートをしていきたいと考えています。まずは一度「Airpeak S1」に触れていただきたいですね。そして感じたことをぜひフィードバックしていただければ! よろしくお願いいたします。

小林苦労して作り込んだ自動飛行機能が、映像制作現場のクリエイターの皆さまにとても好評だと聞き、まずはうれしく思っています。10年くらい前に「イノベーション」という言葉が世界的に流行りましたが、それを提唱した経済学者、ヨーゼフ・シュンペーターはそれを「新結合」という言葉で表現しました。まさにこの「Airpeak S1」もドローンと我々のロボティクス技術が新結合して生まれたもの。空撮とロボティクスが出会うことでこんなことができるようになるのかと驚いていただけたのではないでしょうか? そして同時に我々もお客様から思いもよらない使い方を見せていただき感動しています。ぜひ、これからもたくさんの使い方をご報告いただければ幸いです。楽しみにしています。

石井3人が言うように、Airpeakは今後もどんどん進化をしていきます。正直、発売までは経験のない技術領域のものをかたちにすることで精一杯の部分もあったのですが、今後はより品質を高め、映像クリエイターだけなく、幅広く多くの皆さまに満足していただけるような機能開発を継続的に行っていくつもりです。特に私が担当した「Airpeak Base」「Airpeak Plus」は、積極的な更新がしやすい部分でもありますので、これからの機能向上にご期待ください。

ドローン Airpeak S1 ARS-S1 商品情報ドローン Airpeak S1 ARS-S1 商品情報
プロフェッショナルサポーター募集