― 丸谷さんにとって、曲作りのどのような部分に魅力ややりがいを感じますか?
丸谷:僕の場合、自分が表現したいものを具現化できるツールが、音楽しかないんですよね。いろんな人の手が加わっているとは言え、自分の頭で発想したものがかたちになって、聴き手の耳に届く。そして、聴いてくれた人や楽曲を歌ってくれるアーティストさんに影響を与えられることに、この仕事の魅力とやりがいを感じます。
― どのように曲を作り上げていくのでしょうか?
丸谷:「次に作る曲はこういう人たちが聴いて、こういう風に思ってもらえるようなものにしよう」という最終地点があり、そこに向かっていくのが僕の作曲スタイルです。だから、曲の構想を練るところから始めます。「リズムはこうだな」とか「ギターのリフから入るのがいいな」など、何か取っ掛かりが一つあれば、あとはゴールを意識しながら連想していけるんです。アイデアが“降ってくる”というよりは、構想を先に練ることで“降らせている”んですね、きっと。
― 誰かに影響を与えるための音楽を作り上げるためには、音へのこだわりも欠かせないと思います。お仕事で使用している音響機器を選ぶ際の基準やこだわりについて教えてください。
丸谷:まずは、「製作者の意図をそのまま届けてくれるかどうか」ですね。少し概念的な話になりますが、楽曲を提供したアーティストさんの魅力をより忠実に、広く深く世間に届けるのが僕の仕事なので、それを過不足なくアウトプットしてくれるものが望ましいと考えています。だから、普段仕事で使用する機器には、フラットで誇張していない音や最低限の解像度を求めています。自分のリファレンス用の曲をかけて、帯域バランスや高音の出方などをチェックして、求める音が実現されているかを判断しています。
― 具体的にどのような部分に注目して機器を比較されますか?
丸谷:「下ハモが聴こえるか」が一つの基準かもしれません。たとえば、アカペラがメインのLittle Glee Monsterの楽曲の場合、僕は全部が主線と考えて作っています。彼女たちの声だけでレンジを広く使う上、ハモリの数も多く、追いコーラスまでハモるので音の入り込む隙間があまりないんです。だから、楽器の音が声を邪魔しないように、音をあまり入れずに調節しています。それでも、低音の下ハモが一番聴こえにくくなるので、そういう部分がパッと聞こえる機器を選ぶようにしています。ウォークマンなどの音楽再生機器でも下ハモが聴こえると解像度が良いんだなと思えますね。
― 楽曲の作り手だからこそ気付ける基準があるのですね。
丸谷:そうですね。それから、作曲時に自分の判断ミスを防ぐために「信用できる音か」ということも、機器選びの基準として大切にしています。曲作りの過程では、ベースの音をシンセで立ち上げたり、ドラムのキック音をサンプルから持ってきたりと、小さな作業でもそれぞれにとても重要な判断が必要なんです。常に音の最終形をイメージしきっているわけではありませんが、「これかな、これかな」と自分の求める音に近づける過程で、間違った音色を選びたくない。たとえば、スピーカーから鳴っている音が本来のキック音とかけ離れ過ぎていると、判断を誤ってしまう。こういうキックの音ならインスピレーションが湧くはずなのに、違う音を選んでしまったら最終的に楽曲全体が破綻をきたしてしまいます。そうした細かな判断を正確に行える、それが”信用できる音”です。