― 本間さんには今回、『NW-WM1AM2』も体験いただきましたが、そちらはいかがでしたか?
本間:基本的な印象は変わりません。『NW-WM1AM2』も十二分にいい音を再現してくれています。ただ『NW-WM1ZM2』に比べると、ちょっとポップス寄りな音質かなと感じました。音圧が出てくる部分があるので、ビートがしっかり出せますね。なので、ダンスミュージック系の音楽などには、より向いているんじゃないかと思いました。
― 『NW-WM1ZM2』はいかがでしょう? ジャンルの向き不向きは感じられましたか?
本間:いえ、とても汎用性のあるサウンドですね。えてしてフラッグシップ機は、クラシックやジャズなどインストゥルメンタルな音楽のリスナーに向けられることが多いと感じていましたが、『NW-WM1ZM2』はそういう発想ではないところがいい。ボーカル曲も、とても滑らかに聴かせてくれます。ボーカルレコーディングも、時代を重ねて、使用するマイクを工夫したり、いろいろな音を重ねることで深みを出すようになりました。それを感じられるのが素晴らしいですね。ちなみに、そうした音作りは、近年のラッパーの発想でもあります。
― 音作りにも時代によって変化が生じているわけですね。
本間:音楽の本質に変わりはありませんが、マスタリングには流行りがあるんです。例えば90年代、80年代の“ソニー・マスタリング”と呼ばれるマスタリング方式が流行した時代は、ボーカルの「さ・し・す・せ・そ」の音が強く出る傾向にありました。海外のマスタリングにはない日本独自の流行ですね。それが以前は、耳にキツく聴こえましたが、それはリスナーの再生環境のせいでもありました。なので、今『NW-WM1ZM2』でそれらの楽曲を聴いてみてもそうした不満は全く感じません。ボーカルの存在感もハイレベルで非常にしっかりしています。
― クラシック、ジャズからいわゆる“歌モノ”のポップスまで、『NW-WM1ZM2』は全て網羅できている再生機であると。
本間:そうです、まさに汎用ですね。ボーカルがこれだけしっかりしていて、各楽器の存在もきちんと見えるのは、じつに素晴らしい。だからといって何かの音がマスキングされているわけでもない。あるべき音源が全て再現されているという意味では、本来の意味の“原音忠実再生”が実現していると考えていいのではないでしょうか。『NW-WM1ZM2』は、その最高音質バージョンですね。この2機種の違いは、どこから生まれてくるものですか?
― それについては、今回、『NW-WM1ZM2』および『NW-WM1AM2』の音質設計を担当したエンジニアの佐藤が同席していますので、彼から回答しますね。
佐藤:『NW-WM1ZM2』も『NW-WM1AM2』も、実はどちらも基板は同じです。大きな違いがあるとすれば、シャーシ、筐体の素材と内部のケーブルがキンバーケーブルか否かです。今日は、『NW-WM1ZM2』の内部構造が分かる試作モデルを持ってきたのでぜひご覧いただきたいのですが、内部のキンバーケーブルはわずかな長さではあるのですが、歴然と音が変わります。
本間:この太い編み込みが、音質にいい影響を与えているのですね。
佐藤:そうですね。そして筐体に関しても、『NW-WM1AM2』はアルミニウムですが、『NW-WM1ZM2』は純度99.99%の無酸素銅を採用しています。無酸素銅は削るだけでも大変な苦労があり、本来なら手間がかかるので量産には向かない素材なのですが、シャーシ内部の切り出し方からこだわって金メッキ加工をして量産にこぎつけました。内部も削った跡の美しさまで残したかったので、ショットブラスト加工でマスキングをしています。ただ製品を組み上げてしまうと、そのあたりは全て隠れてしまうので、開発者の自己満足というかこだわりになってしまうかも知れませんが……。
本間:いえ、その精神がもの作りにはとても大切なのだと思います。僕が音楽制作で、理想のいい音を目指しているのも、結局は作り手の自己満足です。そして、その自己満足が、手にする人に共有してもらえたら、ヒットが生まれる。作り手が理想を極限まで追い込んでいくことは、もの作りの入り口としては正しいと思います。『NW-WM1ZM2』のように、最高峰を目指して、本当にきめ細やかにミリ単位のこだわりを持って作られることに共感する人も多いでしょう。
佐藤:こだわりということですと、今回の2機種には、『NW-A100シリーズ』などにもあった、再生画面にアナログカセットデザインを表示させる機能も搭載しています。再生するフォーマットによって、カセットの種類も変わりますし、曲名を表示しているラベルのレタリングも、昔のインスタントレタリングを再現しています。
本間:うわっ、これは楽しいですね(笑)。僕も高校時代に初代ウォークマンユーザーでしたし、その後も愛用していました。懐かしさと同時に、カセットテープの再生機から始まったウォークマンの歴史を感じさせてくれるこだわりは、個人的にもうれしいです。