『Xperia 5 IV』開発者インタビュー Part 1
【カメラ・バッテリー・デザイン編】
目指したのは「ポートレート最強」
『Xperia 5 IV』の新設計トリプルカメラ
「Xperia」の最新モデル『Xperia 5 IV』は、高性能を誇るフラッグシップスマートフォン『Xperia 1 IV』のエッセンスを取り込んだプレミアムラインアップです。中でもデジタル一眼カメラ「α」の技術とノウハウが詰め込まれたトリプルレンズカメラは、こだわりの写真を撮影したい上級者だけでなく、手軽に最高の一枚を撮りたい入門者にも最適。ここでは『Xperia 5 IV』のカメラ機能のクオリティとそこに込めた思いを、開発に携わったエンジニアから聞きました。
折原:我々は『Xperia 5 IV』をXperiaラインアップの中でプレミアムモデルと位置付けています。プレミアムモデルと言うと、初夏に発売されたフラッグシップモデル『Xperia 1 IV』をイメージするお客さまも多いと思うのですが、『Xperia 5 IV』はそれよりもメインストリーム寄りの製品です。『Xperia 1 IV』がとことん高性能を目指した製品とするのならば、『Xperia 5 IV』は、性能にも価格にも妥協したくないという方のためのコストパフォーマンスに優れた選択肢と言えるでしょう。
なお、この価格帯には他社からも非常に強力な製品が多数投入されているのですが、『Xperia 5 IV』では、カメラやAV機能など、ソニーならではの技術とノウハウを盛り込むことで差異化を図っています。
折原:スマートフォンにハイスペックを求める傾向の強い10代、20代を中心としたユーザーに使っていただきたいと考えています。これからお話しする『Xperia 5 IV』の高性能はそうした方々にこそ喜んでいただけるはずです。また、華美を抑えた自然体なカラーラインアップは30〜40代のユーザーにも受け入れていただけるのではないかと考えています。
折原:まず最初にお伝えしておきたいのが、Xperiaのカメラがシリーズ全体として、ソニーのデジタル一眼カメラ「α(アルファ)」の撮影体験を目指しているということ。昨今のスマートフォンのカメラでは「コンピュテーショナルフォト」と呼ばれる、条件を変えて連写した複数の写真を合成して1枚の見栄えの良い画像に仕上げるやり方が主流になりつつありますが、Xperiaでは、そうした手法も採り入れつつ、より自然な色味など、実際に目で見た光景を忠実に再現することにこだわっています。
その上で、今回『Xperia 5 IV』で強く意識したのが、人物写真をいかに美しく、魅力的に撮影できるかということ。一言で言うと「ポートレート最強」を目指しました。
折原:まずは見た目の特徴にもなっているトリプルカメラの進化について説明します。今回、大きな変化としては先代モデル『Xperia 5 III』に搭載していた、70mm・105mmの可変式望遠レンズを改め、60mmの単焦点レンズとしました。ポートレート最強を目指すにあたり、この焦点距離のレンズがほしいと考えたからです。
『Xperia 5 IV』のトリプルカメラ
折原:そうなんです。なお、残りのカメラについては『Xperia 5 III』と同じく、超広角16mm、広角24mmになっています。そして、3つのカメラの全てに120fpsの高速読み出しセンサーを採用。これによって、従来モデルは広角24mmのカメラだけでしか使えなかった「リアルタイム瞳AF」などのα由来の撮影機能を全ての画角で使えるようにしています。
松本:高速読み出しとは、「センサーからデータを読み出し始めてから読み出し終わるまでの時間差が少ない」ということなので、その時間差が大きいことによって動被写体が歪んで写ってしまうローリングシャッター歪みが軽減でき、動く被写体をそのままのかたちで撮影することができます。また、読み出しが早く、周期も短いということはその分早く・短いスパンで被写体の認識やAF(オートフォーカス)などの演算が可能ということでもありますから、予想がつかない動きをするお子さんやペットなどの撮影にも有効です。
また、その美点を活かす機能としてリアルタイム瞳AFが全てのカメラで利用できるようになりました。さらに今回から『Xperia 1 IV』で好評な「リアルタイムトラッキング」にも対応しています。これは撮りたい被写体をタップするだけで、自動的にフォーカスを合わせ続けるというもの。『Xperia 1 IV』では3D iToFセンサーという被写体までの距離を瞬時に測定する専用センサーによって実現していたのですが、『Xperia 5 IV』ではこれを高速読み出しセンサーから得た画像データで行うようにしています。
松本:はい。『Xperia 5 IV』では3D iToFセンサーの役割を全てAI処理に置き換えて、リアルタイムトラッキングを実現しています。実はAIで被写体までの距離を推定するという処理は『Xperia 1 IV』でも行っているのですが、あくまで静止画撮影時でのピント合わせの用途に留まっており、トラッキング用途では使用していませんでした。これに対し『Xperia 5 IV』ではこれまでも使用していた顔や物体を認識するAIに加えて被写体までの距離を推定するAIをさらに強化して、3D iToFセンサーなしでもリアルタイムトラッキングできるようにしているんですよ。
松本:もちろん3D iToFセンサーとAIでの距離推定は出力や性質に差分がありますので完全に同じ動作をするというわけではありませんが、弱点の克服しながら遠距離に強いという長所を伸ばせるよう設計・学習・評価を何度も繰り返し行い、AIや周辺アルゴリズムを徹底的に作り込むことによって、『Xperia 1 IV』に迫る精度を実現できたと考えています。専用センサーがないことでトラッキング性能がXperia 1 IVと比べて落ちているのではないかと懸念されるかもしれませんが実際に使っていただくとその懸念は払拭されると思います。
また、『Xperia 5 IV』ではこのリアルタイムトラッキングと、リアルタイム瞳AFが連携しますので、リアルタイム瞳AFでピントを合わせていた人物が後ろを向いてしまってもリアルタイムトラッキングでフォーカスし続けます。この機能自体は『Xperia 1 IV』でも実現済みなのですが、アルゴリズムをさらに進化させ、より精度が上がるようにアップデートしています。
折原:先代『Xperia 5 III』の広角カメラで実現した最高20コマ/秒のAF/AE追随高速連写(超広角カメラ、望遠カメラは最高10コマ/秒)が進化しています。全てのカメラで最高20コマ秒の高速連写が可能となり、さらに連写時でもHDRの効果を得られるようになりました。HDRとは露出を変えて撮影した複数の写真を合成して白とびや黒つぶれのない画像に仕上げるというものです。
全てのカメラで最高20コマ秒の高速連射が可能
折原:明暗差の大きなシーンでHDR連写できるのは思った以上に便利ですよ。たとえばこれまで木陰で遊ぶ子どもの姿を撮影する際、周囲の明るさに合わせると子どもの顔が影になってしまい、子どもの顔に合わせると周囲が白く飛んでしまうという問題がありましたが、HDRで撮れば子どもの顔も背景もきちんと描写することができます。『Xperia 5 IV』はその上で毎秒20コマの連写が可能なので、そこから最高の表情のものを1枚選ぶということができます。
松本:根本的なアルゴリズムは同じですが、αとXperiaのデバイスの差分を考慮したアルゴリズム変更やスマートフォンでの利用シーンに合わせたチューニングを行っています。スマートフォンでの写真撮影は身近な人物やペット、料理や花、小物などが多いので、そうした被写体を高精度に追尾できるよう改良と評価を繰り返しました。
松本:リアルタイム瞳AFやリアルタイムトラッキングのアルゴリズムなどといった技術やノウハウの提供に加え、それをスマートフォンで実現する際の課題の解決方法のディスカッションや検証などにもαのエンジニアが深く関わっています。実は昨年、αの開発チームは拠点を横浜に移転しているのですが、同じタイミングでXperiaのカメラ開発チームも横浜に移転しており、現在は同じフロアで開発を行っているんですよ。
松本:はい。以前から技術提供やディスカッション・評価などを一緒に行ってきていましたが、今は物理的な距離がものすごく近くなったことで、より交流が活発になりました。『Xperia 5 IV』のカメラ品質向上に間違いなく貢献していると思います。
折原:こうした連携もあって『Xperia 5 IV』には、見えるところから見えないところまで、本当に多くのα由来のテクノロジーが組み込まれているのですが、個人的に強く推したいのが専用カメラアプリ『Photography Pro』です。先代『Xperia 5 III』にも搭載されていたアプリなのですが、αの操作感を細かいところまで再現しており、すでにαを愛用されている方がすんなりと使いこなせるようにしています。撮影設定などをかなり細かくコントロールできるので、デジタル一眼カメラのようにこだわって撮りたいという人には喜んでいただけるのではないでしょうか。
専用カメラアプリ『Photography Pro』
折原:そうなんです。さらに、このアプリにはBASICモードという、一般的なスマートフォンのカメラアプリに近い、シンプルなUIで撮れるモードも用意されています。より気軽に撮影したいという方はそちらを選んでいただくこともできます。もちろん、BASICモードでも「リアルタイム瞳AF」や「リアルタイムトラッキング」などといった前述した機能はご利用いただけますし、背面で行われている高度な高画質化処理などは全く変わりません。
折原:人物撮影という点では避けては通れないフロントカメラの画質を大きく向上させました。Xperia 5シリーズとしてフロントカメラに初めて1220万画素の大型センサーを搭載したことで、これまでと比べて明確に高解像度化、低ノイズ化しています。静止画自撮りはもちろん、4K HDR画質の動画撮影にも対応しているので、ビデオチャットはもちろん、SNS投稿用のセルフィー動画撮影などもこれまで以上の画質でお楽しみいただけます。
フロントカメラに1220万画素の大型センサーを搭載
折原:高速読み出しセンサーを3つのカメラ全てに搭載したことで、先代『Xperia 5 III』では広角レンズだけだった4K 120fpsでの撮影を全てのレンズで行えるようになりました。4K解像度の動画は必要な部分だけを切り取っても充分な解像度がありますし、120fpsで撮った映像は滑らかなスローモーション再生も可能です。素材としてとても使い勝手の良い状態で撮れるので、後で編集して使いたいという人にオススメです。
折原:我々は以前から、Xperiaでたくさんのコンテンツを最高の環境で楽しんでいただきたいと考え続けており、『Xperia 5 IV』では、先代『Xperia 5 III』と比べて500mAh大きな5,000mAhの大容量バッテリーを搭載しています。『Xperia 5 IV』は高輝度ディスプレイなど電力消費の多いパーツも多く使っているのですが、大容量バッテリー搭載によって、そのポテンシャルを最大限に引き出した状態でも長時間お使いいただけるようになりました。
折原:その通りです。なお、Xperiaは一度の充電でどれくらいバッテリーが持つかに加え、長期間の利用でどれくらいバッテリーの性能を維持できるかにもこだわっています。そのため、あえて容量一杯まで充電しないことでバッテリーの負荷を軽減する「いたわり充電」に対応。独自の充電最適化技術と合わせてバッテリーの劣化を抑え、3年間使っても80%の性能を維持できるようにしています。
いたわり充電に対応
折原:その上で、『Xperia 5 IV』では30分の充電で約50%までバッテリー残量を回復できる急速充電や、『Xperia 5 III』では非対応だったワイヤレス充電にも対応。ワイヤレス充電機能はQi規格のワイヤレス充電に対応したヘッドホンやスマートフォンなどへの「おすそわけ充電」も可能です。
ワイヤレス充電に対応
折原:これまでのXperia 5シリーズは側面が丸みを帯びたラウンド形状を採用していたのですが、『Xperia 5 IV』ではこれを一新し、より現代的なフラット形状に改めました。ただし、単純に側面をフラットにしてしまうと、ラウンド形状よりも手当たりが悪くなってしまうので、角の部分にわずかな丸みを与えるなど、スッキリとした見た目と握りやすさを両立させることにこだわっています。本体横幅を67mmに抑えているので、手の小さな方でも無理せず持つことができるはずです。
折原:今回、カラーバリエーションは定番の「ブラック」に加え、完全なホワイトよりも柔らかでナチュラルな印象を与えてくれる「エクリュホワイト」、先代『Xperia 5 III』の人気色をさらに進化させた「グリーン」の3色を用意しています。なお、先代モデル『Xperia 5 III』では色によって質感を変えるというトリッキーなことをやっていたのですが、『Xperia 5 IV』では背面ガラスのテクスチャーをシルキーなフロスト加工に統一しました。
「ブラック」「エクリュホワイト」「グリーン」の3色展開
折原:はい。Xperiaは今回お話ししたα以外にも、ウォークマンやヘッドホンなどのチームとも連携を図っており、デザイン面でもそうした繋がりを表現しています。写真から音楽、映像まで幅広く事業を展開しているソニーならではの世界観もお楽しみいただければと思います。
折原:フロスト加工のボディは指紋が目立たず清潔感があるため、まだ感染症に対して社会が敏感な中、多くの人に受け入れられる世の中の空気にフィットしたデザインになったのではないかと感じています。
松本:『Xperia 5 IV』のカメラ機能には、今回さまざまな機能が追加されました。この際気をつけたのが、そうした新機能をカメラが得意でない方にも使いこなせるようにしたこと。誰でも気軽に思い通りの写真が撮れるよう工夫していますので、カメラ上級者から入門者まで幅広い方々に楽しんでいただければと思います。
折原:今回『Xperia 5 IV』のカメラでは人物のポートレート撮影に注力しました。人の顔が本当に綺麗に撮影できますので、家族や友人など、自分の周りの大切な人との素敵な思い出を美しく残していただければ、これに勝る喜びはありません。ぜひたくさんの笑顔を『Xperia 5 IV』で撮影してみてください。また、バッテリー性能の点ではいわたり充電などによって長期間、安心して使っていただけるような工夫を施しています。飽きの来ないシンプルなデザインと合わせ、長く愛用していただければ幸いです。