― 『NW-ZX707』の高音質をより魅力に感じたのは、どういったテイストの楽曲でしたか?
大橋:シンプルなアレンジの曲はもちろんですが、楽器が複雑な構成でアンサンブルする曲でも、奥行きが出るぶん、空間そのものの気持ち良さが感じられました。とくに生楽器の響きが素晴らしかったですね。ボーカルもその場で歌っているようですし、楽器もその場で弾いている、吹いている感じがすごくしました。
― 生演奏の臨場感を再現できているということですね。
大橋:はい。逆に電子音楽の場合も、想像以上に求める音がちゃんと鳴っていて感心しました。電子音楽は、生楽器に慣れた耳には違和感を覚える方もいらっしゃるかと思うのですが、このセットだと、すごく気持ち良く電子音楽が聴けますね。
佐藤:そのお言葉は、とても嬉しいです。『NW-ZX707』のような音楽プレーヤーは、ジャズやクラシック向けだと思われがちですが、我々がめざしているのは、すべての音楽ジャンルを心地よく鳴らすことです。生楽器、アコースティックサウンドを得意としつつも、打ち込みのテクノサウンドなど、全てのジャンルの音楽のポテンシャルを存分に引き出し、楽しく聴いていただけるものになっていると自負しています。
大橋:分かります。楽しく聴いてもらえるのが、僕ら作り手にとっても一番嬉しいことですからね。『NW-ZX707』は、すべてのジャンルで、ちゃんとその特性が活きる鳴り方をしているプレーヤーだと思いました。ところで、こうした奥行き感は『NW-ZX707』の力はもちろん、今回の試聴に使ったヘッドホン『MDR-Z1R』やキンバーケーブル『MUC-B20SB1』の力にもよるものでもあるんじゃないですか?
佐藤:おっしゃる通りです。『NW-ZX707』だからこそ出せる音の奥行きがあり、そこに『MDR-Z1R』を使用することで、さらなる奥行きを感じていただけたのだと思います。同じ楽曲でも、例えばあまり音質にこだわっていないスマートフォンとワイヤレスヘッドホンの組み合わせでは、音が左右の耳を繋いだ円柱状の真ん中で聴こえる感覚になってしまうこともあるようですが、『NW-ZX707』と『MDR-Z1R』の組み合わせなら、相乗効果で一回り、二回り大きな広がりを得られます。
大橋:そうなんですね!
佐藤:さらに細かいことですが、『NW-ZX707』では、昨年春に発売された、フラグシップモデル『NW-WM1ZM2』および『NW-WM1AM2』のために新開発した「金入り高音質はんだ」を使っており、それによって、音の広がりが前後の奥行き感だけでなく上下の高さ感が格段に増していることもお伝えしておきたいです。
大橋:はんだで音が変わるというのは、とても理解できます。やはり使う材質や部品による変化は大きいものなのですか?
佐藤:はい。はんだだけでなく、『NW-ZX707』はアルミの塊を細密に削り出していくシャーシ作りにも、専用コンデンサーの採択にも試行錯誤を繰り返しており、音質の良さとして十二分に発揮されていると思います。
大橋:やはりそうなのですね。この製品はハイの抜け方がいつもと違って感じられ、それが印象的でした。すっきり、シャッキリとしていて、嫌なところが抑えられている印象があり、とても好ましく感じます。
― ご自身の楽曲で、そうした『NW-ZX707』ならではの特性を感じられる楽曲をいくつか教えていただけますか?
大橋:まずは、2021年のアルバム『NEW WORLD』に収録されている「月の真ん中で」という曲を聴いてみていただきたいですね。曲自体はもちろん、僕のプレイもミックスも全部ひっくるめてとても気に入っている曲なのですが、それを今回、もう1段階アップした感じで聴けたのがすごく嬉しかったです。シンプルな曲なのですが、他の楽曲よりも音の広がりも作れていて、自分が思い描いた音像感が上手く表現できていることを、より良い状態で改めて確認できました。
逆に、最初にお話しした、“実はこう聴こえる曲になっていたのか”という発見があったのが、「angle」という曲です。
― デビュー15周年を迎えた大橋さんが、昨年リリースした『ohashiTrio best Too』に収録された、ジャジーなグルーヴとファンキーさが魅力の1曲ですね。バンドの演奏風景をフィーチャーしたミュージックビデオも話題でした。
大橋:僕も自分で“やってやったぞ!”と思えたお気に入りの曲なんですけど、『NW-ZX707』で聴いてみたら、思っていたより音量が稼げていなくて。もしかしたら、マスタリングの段階で音を潰されすぎてしまったのかもしれない……なんて思ってしまいました。その原因は今となっては分からないのですが、この『NW-ZX707』をモニターしながらミックスしていたら、違った結果になったかも知れないですね。とくに低音については、そう感じます。
― 低音は大橋さんの音楽にとって、とても大事な要素なのですね。
大橋:そうですね。ベースやドラムのキックはもちろん、僕の声も結構低音寄りなので、気持ちいい低音はなるべく残したいんです。そのため、マイクをなるべく近づけて声のローの部分を録れるようにするなどしています。そこをカットしてしまうと、僕の歌の雰囲気を出せなくなってしまいますから。
― それほど低音にはこだわっている、と。
大橋:はい。自分以外の方にミックスをお任せした時、ごくまれにガツッとローを削られて曲が上がってくることがあるのですが、そういう時は、ローをあえて復活させるようお願いし、やり直してもらっています。本音を言えば、歌や演奏だけでなくミキシングも含めて、すべて自分でやりたいというくらいで……(苦笑)。そんな時、『NW-ZX707』が手元にあれば、より解像度の高い音で制作ができるので、相当作りやすくなりそうだと思いました。
佐藤:そういった制作者視点からの評価は、とても興味深いですね。
大橋:音楽の制作環境は、僕がデビューしてからの15年間で大きく変化しています。昔は最後の仕上げは外のスタジオでやることが普通でした。でも最近はレコーディングからミキシングまで、自宅で完結できる制作環境が整うようになり、実際、僕もそうしています。なのでなおさら、『NW-ZX707』のような原音に忠実な音楽プレーヤーがあればと感じます。それぞれの楽器の音色や音像に関しても、より深く追求できますからね。