ファッション専門店の販売や広告宣伝をへて、フリーランスのファッションディレクターに。ファッション雑誌の編集、コラム執筆、商品企画や広告などを手がける。WEBマガジン"OPENERS"を運営するNANAYOU LIMITEDのエグゼクティブディレクターの顔も持つ。
すごく音がいいですね。驚きました。見かけはこれだけ小さいのに、ちょっと予想を超える音質ですね。このフォルムも、音楽の世界に入り込んだ聴き方ができるものになっていると思います。技術の進化のすごさを痛感させられました。とにかく全ての音域で、音が自然に響いてきている印象です。
僕は今年58歳になりますが、1979年にウォークマンが出たときの衝撃を思い出しました。当時はどんどん日本製品のクオリティが上がって、電化製品やクルマを中心に、メイド・イン・ジャパンの製品が世界を席巻していた時代です。ソニーのウォークマンは、あの頃を象徴するエポックメイキングな商品のひとつと言っていいと思います。
その年の秋、出たばかりのウォークマンを持ってニューヨークにいきました。ウォークマンで音楽を聴く僕を見て、あちらの人がちょっと試させてくれよと言ってくるわけです。聞かせてあげたら、「オー!グッド・サウンド、これはものすごい発明だ!」と興奮しているわけです。音楽は加山雄三だったんですけれども。若大将は偉大ですね(笑)。
その衝撃とはなんだったのか。それはフォルムや性能も含めて、全てがわれわれの予想を超えたものになっていて、新たなライフスタイルを示しているということです。このXBA-40のサイズと本格的な音質についての驚きには、その性能自体への驚きと、このフォルムと性能がわれわれの新たな価値観を予見していることへの驚きがあると思う。
それまでの固定概念を打ち破るような革新的なアイテムが、一気にライフスタイルを変えることが時折あります。ウォークマンであれば、人々の音楽を聴くスタイルを変え、音楽は外で聴くものということになった。もしかしたら僕らの世代は、初めて音楽を屋外に持ち出した世代と言えるかもしれない。同時にウォークマンは、音楽をよりパーソナルに楽しむことの可能性をつくりだした。
そして今では人々は、音楽をネットワーク経由でパソコンから聞き、スマートフォンで聞き、さらにそれを皆で共有したりもする。音楽と個人の関係が、より自由になったと言えるかもしれませんね。時代が変われば技術も変わるし、それに応じてライフスタイルも変わる。今は、誰もが全く妥協のない音質で、音楽をリアルかつパーソナル、そして自由に楽しむようになってきている。これだけの小ささと高音質を両立させたこのXBA-40の登場も、音楽をめぐる新たなモードのあらわれと言っていいと思います。18-19世紀フランスのモラリスト、ジョゼフ・ジュベールは言っています。「新しいモードを追いかけず、古いモードにしがみつくのは虚栄心のあらわれである」。その時代にはその時代なりの文化のありかたがあるわけです。
このXBA-40のたたずまいを見て感じるのは、ソニーの商品だな、日本の製品だな、ということですね。ファッションディレクターという職業上、僕はスーツを長年見続けてきています。仕立てのいいスーツ、いい職人がいい素材を使ってきちんと作ったスーツはひと目でわかる。中身のよさは、必ず外見に現れます。逆に言えば、カタチに惹かれるものにはもともと内容が詰まっている。このヘッドホンを手に取ってみるだけで、この中にすごい技術が込められていると感じさせるものがある。このフォルムの独特さも、高級感も、その性能ゆえのことでもあるわけでしょう。これはソニー、ひいては日本のものづくりが伝統的に得意としてきたことだと思うんですね。新しさと歴史、そしてクラフツマンシップが感じられる。その点において、とてもソニーらしいヘッドホンだなと思いました。多くの人に手に取ってみてもらいたいと思いますね。