2015年度に登場したハイレゾ対応のヘッドホン、h.earシリーズはオーバーヘッド型やインナーイヤー型、ノイズキャンセリング機能搭載モデルやワイヤレスヘッドホンなど多彩なバリエーションを展開して好評を博したが、今回は5モデルが同時に発表され、いわば第2世代への進化といえる。どのように変わったのか、開発者に伺った。
――好評だったh.earシリーズが各タイプ共にモデルチェンジということで、いわば第2世代といえるかと思いますが、改めてシリーズのコンセプトを教えて下さい。
井出
時代を振り返るとウォークマンの登場により、ヘッドホンというものが広く知られるようになりましたが、ユーザーのヘッドホンに対する価値観は三段階で変わってきていると考えています。最初は屋外で音楽が聴けるということに価値がありました。やがて、外で音楽が聴けることが当たり前となり、次の段階ではヘッドホンが高音質であることに価値が見いだされていきます。ただし、この時点では音質にこだわるオーディオ好きや、いわゆるマニアと呼ばれる方々が楽しむものだったと思います。そして近年、スマートフォンの普及やポータブルプレイヤーが増えたことで、特に若者たちにとっては音楽を外へ持ち出すことがもはや生活の一部となり、さらに安くても音がよい製品も増えたことでヘッドホンは、時計や眼鏡と同じようにファッションアイテムのひとつとするような立ち位置を確立しつつあります。つまり、ヘッドホンが自己表現の手段になる時代となったのです。
そこで、私たちは、聴くという意味のHear、耳という意味でのEarをドットでつなげ、ソニーとしてのプレミアムヘッドホンをユーザーにわかりやすく印象的に伝えたいという考えから「h.ear」というブランドを立ち上げました。
ソニーでは、ヘッドホンに求められる大切なものを音質はもちろんのこと、装着性、デザインとあわせて3つの柱としていますが、h.earシリーズでは特に音質とデザインに主軸を置いて開発してきました。その考えは、第2世代となる今回の製品でも変わっていません。ファッショントレンドのミディアムトーンカラーも取り入れ、ミレニアル世代の女性まで想定ユーザー層を広げています。
――前回のh.earシリーズでもビビッドなカラーが印象的でしたが、今回カラーバリエーションが刷新されたのはなぜでしょうか?
小坂 前回の製品では、「Colors in between」というコンセプトをもとに、中間色をねらった色味にしていました。 5色の中で、色によって彩度や明度を変えており、彩度の低い色はファッションになじむように、またビビッドな色はポイントカラーなるような色に仕上げ、色によって役割を変えていました。 今回は1世代目の「Colors in between」にさらに「medium tone」という新たな考え方を加えています。彩度と明度を抑えたミディアムトーンを採用し、より様々なファッションやライフスタイルに調和することを目指しました。またバリエーションとしては同じ5色展開ですが、5色とも前回とは違う新色です。
――このカラーバリエーションや色味を実現する上で、h.earシリーズの5タイプのヘッドホン、そして同時に発売するウォークマンA40シリーズとも同じカラーバリエーションになっていますが、そこでも苦労があったとお聞きしました。
小坂 前回モデルと同様に、今回もプロダクト全体を単色でまとめており、すべてのパーツが同色に見えるように作りこんでいます。
プロダクトやパーツによってアルミニウムや様々な樹脂素材を使っていますので、5色展開となると膨大な種類になります。
違う素材で色や質感を合わせこんでいくのは、デザインも機構設計も非常に苦労をしました。
――h.ear on 2 Mini Wireless(WH-H800)は前回にはなかったタイプの製品ですが、なぜ追加されたのでしょうか?
松島
h.ear on 2 Wireless NC(WH-H900N)はオーバーヘッド型の耳覆いタイプのヘッドホンで、h.ear on Wireless NC(MDR-100ABN)の後継モデルとなります。一方、h.ear on 2 Mini Wireless (WH-H800)はコンパクトな耳載せタイプのヘッドホンです。
今回、女性など、頭のサイズが小さい方も含めて幅広くh.earを楽しんでいただくために、小型、軽量、スタイリッシュな耳乗せタイプのヘッドホンであるh.ear on 2 Mini Wireless(WH-H800)を開発することを決めました。そのために構造を徹底的に見直し、まずはヘッドバンドのサイズの検討から始めました。これまでにソニーが蓄積した過去のデータのみならず、実際に設計チームがヨーロッパやアメリカなど現地に赴き世界各国の人の頭の形状やサイズを計測したデータも活用して、サイズ違いのヘッドバンドを何種類も試作することで、最適なサイズを決定しました。
小坂 従来の耳覆い型ではハウジングが楕円形状ですが、h.ear on 2 Mini Wireless(WH-H800)の形状は、正円形状にしてコンパクトに見せ、よりアイコニックなデザインに仕上げました。スイーベル機構部分の厚みも、頭のカーブに沿うことを考慮して厚みを検討しています。「もっと薄くしてほしい!」というデザイン側の意向を伝えながら、設計チームと何度も検討をし、初期のプロトタイプではもっと厚みがあったのですが、0.1mmレベルで内部構造を検討していただき、試作品が徐々に小さくなっていきました。
松島 h.earシリーズ全体のデザインを守りながら、コンパクトさを追求するために、h.ear on 2 Mini Wireless(WH-H800)は新規構造を採用しています。 たとえば内部のケーブル径を最小にしたり、新規に薄型のドライバーユニットを開発するなど、全ての部品をひとつずつ見直しました。
――ハイレゾへの対応がテーマとなっているh.earシリーズですが、ワイヤレスでもハイレゾ相当の音質を実現した3製品について音作りのこだわりを教えて下さい。
井出 h.earシリーズはどのモデルも共通して、そのデザインやカラーから連想されるような音のメリハリや鮮やかさが感じられ、音楽をより楽しめるような音作りを目指しています。
h.ear on 2 Wireless NC(WH-H900N)、h.ear in 2 Wireless(WI-H700)は後継モデルでありドライバーユニットについては前世代のものと同等です。音の方向性は継承していますが、音楽トレンドをとらえながら、前世代よりもわずかに落ち着いた音質になるように調整しました。
h.ear on 2 Mini Wireless(WH-H800)はコンパクトなハウジングですが、音質を追求するため口径40mmのドライバーユニットを新規開発して搭載しました。薄型のハウジングに収めるため、これまでにないほどユニットの厚さを抑えています。そのため、振動板の形状もさらに薄くする必要がありました。一般的には薄い形状の振動板は柔らかくなるため高域再生には不利となりますが、シミュレーションを繰り返し、試作を行い振動板形状をブラッシュアップして、ハイレゾに必要な帯域を担保しながらこのサイズにまとめることができました。
これは例えですが、部屋にあったスピーカーのサイズは決まっていて、狭い部屋には大きなスピーカーは合わせにくいもの。ただし、うまくチューニングできれば出力が大きいため全体の再現力としては有利になります。その意味ではh.ear on 2 Mini Wireless(WH-H800)のサイズに40mmのドライバーユニットはチャレンジングな試みでしたが、音質は譲らないという思いから挑戦しました。調整は難航しましたが、それだけの価値はありました。
さらに、3モデルとも、圧縮音源のワイヤレスリスニングではヘッドホン側でアップスケーリングしてハイレゾ相当の高音質で聴けるDSEE HXを搭載しています。ワイヤレスリスニングは音質の劣化を気にする方も多くいると思いますが、h.earシリーズは、音源を選ばず、良い音で楽しめることも大きな特徴です。
また、3モデルとも付属のケーブルで有線接続でも音楽を楽しむことができますが、有線接続とワイヤレスリスニングとで極力違いが出ないような音の作りこみをしています。
音の違いがわからないレベルで音質を追い込んでいます。
――他にも各モデルの進化点があれば教えて下さい。
井出 h.ear on 2 Wireless NC(WH-H900N)は前モデルに引き続きノイズキャンセリング機能搭載であることも特徴ですが、新たにハウジングにタッチセンサーを内蔵しており、音楽操作はもちろん、MDR-1000Xでも好評だったハウジングに触るだけで外音を取り込める「クイックアテンションモード」を搭載しました。ヘッドホンを外さずにアナウンスなどを確認でき、非常に便利になったかと思います。
松島
h.ear in 2 Wireless(WI-H700)については、イヤホン部が小型化されたことで装着感が向上し、さらにケーブルの取り回しも変えています。前世代では、ネックバンドの先端からケーブルが出ていたのに対し、h.ear in 2 Wireless(WI-H700)では出し口を変更することで装着時にケーブルが気にならない設計になっています。また、耳から外しているときにも、マグネットクリップを使用してイヤホン部を簡単に固定することができます。
電話の着信時にネックバンドがバイブレーションする機能を追加しているので便利です。
またワイヤレスヘッドホンは3製品とも、新たにヘッドホン専用アプリ「Sony | Headphones Connect」に対応しています。細かい機能は製品によって違いますが、EQやサラウンド(VPT)機能をコントロールでき、好みに合わせた音質で楽しんでいただけます。
――こんな人にぜひ使ってもらいたい、というアピールポイントはありますか?
小坂 第2世代に進化し、従来の耳覆い型の後継となるh.ear on 2 Wireless NC(WH-H900N)に加え、コンパクトなh.ear on 2 Mini Wireless(WH-H800)が登場しました。こちらはサイズが小さめのオーバーヘッド型としても、従来製品に比べて軽く仕上がっています。いろいろなお客様に手にとっていただける機会が増えたかと思いますが、女性の方々もオーバーヘッド型ということにあまり抵抗を持たずにお試しいただければ嬉しいですね。