商品情報・ストアヘッドホン The Headphones Park 開発者インタビュー MDR-1A サウンドエンジニア&開発者 インタビュー

User's voice 深田 晃×MDR-1A 角田 直隆×MDR-1A

人類は3ケタの世界へ。
ついに100kHz。超高域再生への進化はとまらない。

取材:藤本 健

深田晃氏

深田晃氏 プロフィール
CBS/SONY(現Sony Music Entertainment)録音部チーフエンジニア、NHK番組制作技術部チーフエンジニアを歴任。
1997年に独自のサラウンド録音方法である「Fukada Tree」を発表し、サラウンド録音の第一人者として広く知られる。
現在はdream window inc.を設立し、エンジニア、ディレクターとして活動するほか、音響空間のデザイン、録音技術の研究や普及活動を行う。

医学的に見た人間の可聴領域が20Hz〜20kHzといわれる中、それを超える周波数帯域をカバーするハイレゾの楽曲が多くの人に受け入れられ、ハイレゾに対応する機材も続々と登場している。ソニーでも40kHzまでをカバーするハイレゾ対応ヘッドホンを数多くだしてきたが、そのさらに上を行く100kHzまでをカバーする3桁対応のヘッドホンMDR-1Aを開発・発売した。この「聴こえない音」を再生できるようにするのには、高度な技術力やノウハウが必要になってくるが、そこに注力することは本当に意味あることなのだろうか? そもそも聴こえない音までを含むハイレゾ作品に意味があるのか? これまで長年、数多くの音楽作品の制作に携わり、早くからハイレゾ・レコーディングに取り組むとともに、最近では384kHzでのレコーディングまで取り組んでいる、レコーディングエンジニアの深田晃氏に、ハイレゾ、そして3桁の表現力の意味について話を伺ってみた。

ハイレゾでレコーディングを追求し続けることで
伝わるリアルな空気感

100kHzとはどんな音か?

「オーケストラのコンサートの冒頭、指揮者が手を振り上げると、それまでざわざわしていた会場が静まり返り、すごく張り詰めた緊張感が漂います。会場にいると、鳥肌が立つ感覚を得られると思いますが、これを録音しても無音であり、CDで再生しても何の音もしないだけです。ところが、これを高いサンプリングレートでレコーディングし、ハイレゾで再生してみると、その雰囲気がリアルに感じられるようになるんです。これが空気感というものですね」と深田氏は話す。
CBS/SONY(現Sony Music Entertainment)の録音部チーフエンジニア、NHK放送技術制作技術センター番組制作技術部チーフエンジニアを歴任し、数々のCD制作やTV番組制作に関わってきた深田氏は、ハイレゾで広い周波数帯域を表現できることの意義を強く感じている。
ハイレゾというと、一般に高域での表現力が話題になることが多いが、深田氏は低い音も含め、さまざまな楽器の音の立ち上がりが明確になると話すのも気になるところだ。
「たとえばフルート、オーボエ、クラリネットといった管楽器の場合、とくに音の出始め、音の立ち上がりに音色の特徴が現れるため、最初の音をちゃんと捉えているかというのは重要なところなんです。ここに着目して聞いてみると44.1kHzよりも96kHz、192kHz、さらには384kHzとサンプリングレートを上げていくと、より正確に表現できるようになるんです。この現実を考えれば、可聴域以外だとしても、もっともっとサンプリングレートを上げることは効果があると思うんです」と深田氏。

理論的にも、実証実験でもハッキリと違いが出るハイレゾの威力

ヘッドホンMDR-1A

でも、20kHz以上は聴こえないはずなのに、なぜそこに違いが出てくるのだろうか? 深田氏自身もその疑問に立ち向かうべく実験を繰り返してきたという。
「ある音楽をレコーディングするのに20kHzまでレコーディングできるマイクと、20〜100kHzが録れる高域マイクを組み合わせて録音した上で、高域だけを再生してみたところ、何も聴こえませんでした。ところが両方を組み合わせて再生した後、高域をオフにすると、何か物足りない感じになるんですよ」(深田氏)。でも、どうしてそんなことになるのか不思議に思うが、深田氏によると高域と可聴帯域とが合わさることである種の低次倍音のようなものが生まれるためではないかと考えているようである。また、サンプリングレートが高い利点の一つとして波形の再現性ということも説明してくれた。
「たとえば、可聴域とされる20kHzの音を考えてみてください。これをCDのフォーマットである44.1kHzでサンプリングしたら、1波形を表現するのにたった2点しかとることができません。これを線で結んだら三角な波形の歪んだ音になってしまいます。もっと低い誰もが聴ける10kHzであっても44.1kHzのサンプリングでは4、5点しかとることができず、それを結んでもガタガタで、本来の波形からほど遠いものになってしまうわけです。そうなれば正しく音が表現できないのは当然ですよね」と理論的に説明してくれた。確かに人がハッキリと聴き取れる可聴域内の音色が歪んでいるとしたら、そこに違いがでるのは当然であり、まだまだサンプリングレートを上げていく意義はありそうだ。

より多くの人が自然な音だと実感できる24bitの世界

梶原由景氏

このようにハイサンプリングによる、音の正確さを訴える一方で、実はより実感できるのが16bitか24bitかの違いであると深田氏は指摘する。
「ハイレゾというと、どうしても高域特性の話が中心になりがちですが、CDの16bitに対して24bitになることの意義は非常に大きいですね。CDが登場した当初はレコーディングにおいて16bitを使うことすら難しく、実質的には12bit程度でのレコーディングとなっていたため、ダイナミックレンジが狭かったのです。ところが技術の進化によって16bitがフルに使えるようになり、さらに24bitと8bit増えることで、音の大きさを256倍細かく捉えることが可能になるわけです。当然、より自然な音に近づくことができますね」(深田氏)
最近は多くのレコーディングスタジオで24bit/96kHzでのレコーディングが一般化してきているが、深田氏は32bit/384kHzでのレコーディングなどにチャレンジしており、どこまで、生の音をありのままに録音し、再現できるかに力を注いでいるのだ。

ヘッドホンが3桁の周波数を再生できることの意義

梶原由景氏

1990年代後半から96kHzのサラウンドサウンドや192kHzでのレコーディングに携わってきた深田氏にとっても、ヘッドホンが3桁の周波数、つまり100kHzに対応する性能を持ってくれることは大きな意義があるという。
「本来の音を、ありのままに表現するためには高域特性がいいのに越したことはありません。ソニーのヘッドホンが100kHzに対応してくれたというのは、とても歓迎すべきことです。ただし、音源とヘッドホンだけが100kHzに対応しても、途中のプレイヤーやアンプといったものが対応していないと、正しく再生できないので注意が必要です。」と深田氏はシステム全体での対応の重要性を指摘する。
さらに、MDR-1Aの音については聞いてみたところ
「高域は、本当に素直に出ていると思います。私の場合、仕事として細かい音を聴き分けたり、各音の定位を確認する上でも扱いやすいです。一般の方がリスニング用として使っても聴きやすく、高域まで素直に楽しめるヘッドホンだと思いますね」と語ってくれた。

開発者インタビュー
〜サウンドエンジニアの想いに応える、
正確な音と空気感再現への挑戦〜

角田 直隆氏

深田氏のような制作者側は、実際の音を、いかにして、ありのままに再現できるかということを求めている。そのためにはより広域を再生できる性能が必要となるわけだが、そうしたニーズに対して、ソニーはどう取り組んでいるのだろうか?

深田 晃氏

「この30年で音楽制作の手法はアナログテープからデジタルのマルチトラックへ、さらにはPCを使ったノンリニア編集、そして最新のハイレゾでのレコーディングへと進化してきました。それに伴い、音楽制作の自由度が高まり、音楽自体も大きく変わってきたと実感しています。私自身、ソニーで25年間ヘッドホンの開発に携わってきましたが、新しいヘッドホンを作るにあたっては、我々も音楽がどう聴こえるべきなのかを改めて勉強する必要があると感じ、ロンドン、ならびにニューヨークにあるソニーミュージックならびに協力会社のマスタリングスタジオで現代の音作りを勉強したところからスタートしているのです」と語るのはMDR-1Aの開発を担当したV&S事業部 サウンド開発部 ヘッドホン音響技術担当部長の角田直隆氏だ。
そのロンドンやニューヨークでの勉強をはじめ、現代のマスタリング現場でキーワードになっているのが「空気感」だったという。
「空気感を伝えるということをヘッドホン性能に置き換えて考えると超低域から超高域までフラットに表現できる性能と、微小音をどこまで聴こえるようにするかという高分解能の実現。MDR-1Aを開発するコンセプト自体は前モデルのMDR-1Rと変わらないのですが、ハイレゾ音源が当たり前になってきた今、さらに高い周波数まで表現能力が重要になってきたのが大きな違いでした」と角田氏は振り返る。
「聴こえない周波数だから関係ない、という声もありますが、20kHz以下の周波数の音でも正確な波形として表現するにはより高いサンプリングレートが必要となります。その実現のために、今回3桁という壁を乗り越えることができましたが、将来的にはまだまだ上げていくべきだと考えています」(角田氏)と目指している方向は深田氏の求めるものと合致しているようだ。

ヘッドホンMDR-1A

「一方で、ロンドンやニューヨークのマスタリングスタジオで特に指摘されたのは低域の正確性でした。低域が出せていないとアタックに遅れが生じてしまいます。たとえば最近のEDMなどは低域でのリズムの再現性が重要になるのですが、これが表現できなくなってしまうので、ビートレスポンスコントロールという仕組みを利用して、とにかく正確に出せることを心がけました」と角田氏はいう。
こうしたことからも分かるとおり、開発者側も目指している方向はまったく同じで、低域、高域ともに、どこまでフラットに再現できるようにするかと苦心しながら、開発してきたのだ。それを実現させるために、MDR-1Rでは振動板にLCP(液晶ポリマー)をフィルム状にしたものを使っていたが、MDR-1AではさらにLCPにアルミコートした素材を使っている。
「振動板はある程度の硬さがあって、軽くて、しかも内部損失が高いことが重要になります。内部損失が高い材料は固有の響きを持ちにくいという意味もあり、MDR-1Rの素材として最適でした」と角田氏は説明する。結果としてダイナミックレンジが広く、3桁という周波数特性を実現するとともに、歪みの少ないヘッドホンが完成。それは、急峻な音の立ち上がりや、微細な音の再現精度を高めることにつながり、ライブの臨場感やアーティストの空気感までをも伝えることができるのだ。
「聴こえない帯域をさらに強化した今回のヘッドホン、ぜひ多くの方に、正確な音とはどういうものなのか、空気感ってどんなものなのかを存分に味わってもらいたいですね」と角田氏は語っていた。

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商品情報

ステレオヘッドホン

MDR-1A

広帯域HDドライバーユニットが低域から100kHzの超高域までを再生。
耳を包み込むような快適な装着感のステレオヘッドホン

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