通信からサービス、家電メーカー、ファッションブランドまで幅広い業界にクライアントを持つクリエイティブ・コンサルティングファームLOWERCASE代表。元BEAMSクリエイティブディレクター。ガジェットや美食への造詣も深い。
(試聴して)あ、これはすごいな……。(しばらく試聴し、ヘッドホンを外して)なるほど。これは驚異的なクオリティですね。きちんと空気の鳴りが感じられるし、単純にめちゃくちゃ音がいい。ヘッドホンはたくさん持っていますが、これは今まで経験したことのない解像度ですね。びっくりしたな。レベルが違う。このくらいの音質で聴かせてくれるのであれば、「音そのもの」を楽しむためにこのMDR-1ABTを選ぶ、という選択肢が出てくるでしょうね。
というのは、ふつうのワイヤレスヘッドホンって高音質を求めて選ぶツールではなかった気がするんです。ワイヤレスの利点はヘッドホンをつけて自由に動くことができることであって、音のクオリティに期待することはなかったんじゃないかな? 僕自身も、走るときとか、夜中に映画を観るときとか、音質よりも、その使いやすさの部分を求めてワイヤレスヘッドホンを愛用していました。
でも、このMDR-1ABTは、これまで僕が出会ったワイヤレスヘッドホンの中で、初めて高音質を求めて選ぶことのできるワイヤレスヘッドホンと言えるかもしれませんね。見た目の印象も含めて、きちんと「音そのもの」を味わいたい、音と向かい合いたいと思わせる出来上がりになっていると思います。
(LDACについての説明を受けて ※注1)なるほど、Bluetoothの伝送方式自体も新しくなっているわけか……。確かに、解像度がさらに増しているのがわかる。これはこのヘッドホンが新しくケタ違いのコーデックに対応してることが大きいということなんですね。そうなると、やっぱりこのMDR-1ABT とLDACの真価が現れる使い方をしたいですよね。
デザインそのものもよく出来ていると思います。高級感があって、少し無骨で、この高音質にふさわしい。
品質のいい音で音楽を聴かせようという目標がしっかりと形に現れていて、バランスのとれた完成度だと思います。
特にこのタッチセンサーとスイッチの配置関係がいいですね。親指を支点にしてスピーディに曲選択、ボリューム調整がスマートにできるようになっている。(※注2)
NFCの接続も簡単だし、バッテリーもすごく保つわけでしょう?(※注3)
有線で使うこともできて、そうすると通常のMDR-1Aとして100kHzの再生ができるハイレゾ対応ヘッドホンとしても使える。すごくソニーっぽいというか、細かく行き届いていますよね(笑)。
もうひとつ、最近のソニーらしくて好感を持つのは、例えばデジカメでもそうだけど、とにかくスペックの高さと解像度の高さで勝負していて「味」に逃げていないことですね。これ、今はとても大事と思うんですよ。現在のレベルまでデジタルの技術が進んでしまうと、「味」は後からいくらでも調整することができる。そうなると、とにかく再現性の高い状態で対象を捉えて、そのデータを自分の好みに味つけしていったほうが早い。
そのことと少し関係しているのかな、今は下手にファッション性を求めてしまうとファッション性が下がってしまうと思うんですね。好きな音楽を高品質に聴きたいというシンプルなモチベーションをそのまま形にしたほうが説得力が感じられるんじゃないかな。その点、このMDR-1ABTはスペックの高さそのものがプロダクトとしての完成度を牽引している部分が感じられて、とてもまっとうなツールといえるんじゃないかと思いますね。日常的に愛用することになるんじゃないかと思います。