映像作家 貫井勇志の語る
オートHDR
ここで少し私の苦労話をしましょう。私はソニーさんの別の企画で、世界遺産を撮るα CLOCK(アルファクロック)企画を担当させていただいています。この企画は世界遺産の1日の表情を1日12回の時間帯に分けて撮影するというもので、同じ場所でアングルを固定して撮影します。1枚1枚に違う表情が求められるわけですが、同じ場所で動きませんから、表情として変化の起こる要素は光の当たり方とか空の模様だけになります。特に日中の場合は空がどんな表情をつくるかで世界遺産の表情も変わってきますから、空の表情をとらえるということが実に重要です。
私はいつもこの部分でかなり苦労していました。肉眼で見れば確かに見えている雲の表情が、写真で見ると飛んでしまってることが多いからです。そのため、本来1日で終わる12枚の写真撮影に、3日以上、長いときでは1週間以上もかかっていました。
こんな時、ハイライト部のディティールを再現してくれるオートHDR機能が使えるとなると、私としても仕事の守備範囲、選択肢がとても広がります。これまでの撮影上の苦労のいくつかは解消できるのではないでしょうか。
また、私は暗い写真が好きなので、そういう意味で暗いところのディティールがぎりぎり残せるというのも嬉しい限りです。
実は、こういった機能は私が待ち望んできたものでもあり、やっとそういう時代が来たかという感じです。 もちろん、どんな時にオートHDRを使えばいいかといったことは、今後私なりに発見していく必要はあります。 「こんなシーンだったらHDRで撮りたい」というのが今後たくさん出てくるでしょうから、とても楽しみなことです。
今回、私はソニーさんのα CLOCK(アルファクロック)企画でグランドキャニオンを撮ることになっていましたので、そのついでにオートHDRの試し撮りをしてきました。今回たまたま私のアシスタントをやってくれたのはアメリカで映画関係の仕事をしている人だったのですが、私が撮ったものをモニター上でパッパッと切り替えて見せたら、それだけでかなり驚いていました。
「なんでこれ、こんなに雲が出てるんですか!?」
「だからHDRだからですよ(笑)」
「どうやって撮るの?」
「ん?このボタン押すだけ」
という具合です。
オートHDRの魅力はボタン一つでオートで撮れるということ。
マニュアルのために試行錯誤するといったこともなく、誰でも撮れるものなのです。
オートHDRは1回のシャッターボタンによって露出の異なる2枚の画像を連続撮影し、カメラ内で自動合成します。 ハイライト部のディティールが再現されているアンダー画像データと、シャドウ部のディティールが再現されているオーバー画像データを合成することによって、白とびや黒つぶれのない肉眼映像に近い映像が再現されます。
暗い | 明るい |