映像作家 貫井勇志の語る
オートHDR
実際にオートHDRで撮ったグランドキャニオンの写真を見ていただきましょう。この写真はマニュアルで撮影したものではなく、ボタン一つで自動で撮ったものです。まずは、普通に撮った写真とオートHDRで撮った写真、そしてアンダーで撮った写真を比較してもらいましょう。
被写体が被写体ですから、どの写真もそれなりに魅力的なものだと思います。しかしながら、私が現地で自分の肉眼で観たイメージに最も近いものは、実はオートHDRで撮ったものなのです。
風景を撮られるのが好きな方ならご経験があるかと思いますが、自分が肉眼で観た映像と後から写真で上がってきた映像では、イメージがかなり違うということがありますよね。オートHDRはそんなギャップを埋めてくれる機能と言ってよいでしょう。
私自身もどんな機能かはだいたい知っていましたが、しかし、いざ撮影してみるとボタン一つでこれができてしまうというのは、ちょっと笑ってしまいます。なぜならば、映画やCMの世界ではこの一見簡単な映像を再現するために、これまで大変な労力とお金をかけてきているわけですから。
「空を撮りたかったに」「山を撮りたかったのに」…どうして、この写りなの? ということはよくある話です。先ほどお話ししたように、通常の撮影では白とび、黒つぶれがあり、自分が本当に残したい映像を残せなかったりするものです。その点、オートHDRではこういったことはほとんど起きないと言っていいでしょう。肉眼映像と近い映像を残せます。ボタン一つで再現されたそれらの映像をもっと見ていただきましょう。
次にロケで訪れたカナダのリド運河の撮影では、α CLOCK(アルファクロック)企画において、初めてα550での定点撮影に挑みました。いつも使っているα900ではないので多少の不安がありましたが、行ってみると随分α550のオートHDR機能に助けられました。
撮影場所を決める場合、いつもは各時間帯の太陽の角度、雲の流れる方向を重視してきめています。そこを間違えてしまうと、お昼頃から午後3時頃まで、空が非常に白っぽく写ってしまう可能性が高くなり失敗しやすいのです。ところがカナダでは、カメラを設置できる場所が非常に限られており、選択の余地がありませんでした。案の定午後2時や3時に、白っぽくまぶしい空が出現しました。もちろんこれでは空の表情が面白くありません。α CLOCKは定点撮影することで、被写体となる世界遺産の様々な表情を撮影する事が目的ですから、白いだけの空が何時間も続くのはとても具合が悪いのです。
しかし、今回HDR機能を駆使することでその逆境を乗り越えられました。白っぽく見えている空にもディティールを持たせることができ、半逆光で陰になった建物も黒つぶれすることなく再現することができたのです。
これらの写真はα CLOCK(アルファクロック)にも掲載されていますので、ぜひご覧ください。
夏の強い日差しが傾き、木陰に涼しさが戻ってきた雰囲気を狙いました。通常のオート撮影では、陰の部分が黒くなり過ぎて涼しい雰囲気が出せません。そこでHDR機能を使い、画面内の重さを取り除きました。見た目に近づけるというよりは、雰囲気作りにHDRを使用した例です。
夕暮れのリド運河を手持ち撮影しています。奥に見える水面を白く飛ばさずに写すには、露出をかなりアンダーにしなくてはなりませんが、HDR機能を使うことで、見た目に近いコントラストとなりました。「思い出のよみがえりやすい」写真に仕上がっています。
日没直後は、意外とコントラストがあるものです。淡い色合いを残す空の感じを損なわずに写したい場合、暗い緑や陽の当たらなくなった物陰は黒くつぶれてしまいがちです。しかし、HDR機能を活用することで、その両方の良さを活かすことができます。